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天使のほほえみ  作者: L
13/72

光の目覚め

眩い白い光の向こう側へと駆け出したクリスティナが、辿り着いたところとは・・・・・。

 



 ・・・・・誰かの呼ぶ声がする。


 「.....様!.....嬢様!」


 ・・・・・誰だろう。


 「クリスティナお嬢様!!」



パチッ!



 目を開くと、なぜか目の前に誰かの顔がある。


 真っ黒な暗闇の中で、ずっと会いたいと願っていた人物、メアリーだ。

 メアリーが心配そうな顔をして、ずいっと私を覗いているではないか。


「どうして.....」

 

 私の頭の中は、疑問符でいっぱいだ。


「お部屋を何度かノックしたのですが、お返事がなかったため、失礼ながら入らせていただきました。そうしましたら、お嬢様が泣きながら眠られていたので、申し訳なかったのですが起こさせていただいたのです。大丈夫ですか?怖い夢でも見ていたのですか?」


 メアリーの言葉で、私は自分の頬に触れてみる。

 確かに、頬を涙が伝い濡れていた。


 怖い夢だったと言えればいいのだが、すべては現実だったと思うのだが。

 何も言えない私を見て、メアリーはさらに心配そうに問いかけてくる。


「もし、体調が優れないようでしたら、本日はお休みいたしますか?せっかくの入学式ですが.....」


「入学式?なんの?」


「お、お嬢様.....頭でも打ってしまわれましたか?本日はコフィア王立学園初等部の入学式ですよ。昨日は、あんなに楽しみにされていたではないですか」


「入学式!?」


 ガバッと勢いよく起きた私は、小走りで部屋にある姿見の前に行く。


『なっ!?なんということ.....』


 私は、姿見に映った自分の姿に唖然とした。

 なぜなら、どう見ても子供時代の自分の姿だからだ。


『私、死んだ時は17才だったわよね.....?』


 そう思いながら、部屋をグルっと見回してみる。

 

 見慣れた部屋だ。幼い柄のクッションや、幼い頃によく読んでいた本がテーブルの上に置いてあり、確かに私が使っていた部屋だ。


 その次にメアリーの姿を見て、また唖然としてしまった。


 よくよく見てみると、メアリーが若くなっている。

 私とメアリーは、歳の差が10才のはずだが、目の前のメアリーはまだ10代の少女だ。

 最期に会った時は、私が17才でメアリーが27才だったのに。


 私の突然の行動に、メアリーがオロオロしているので、だんだん申し訳なくなってきた。


「メアリー、ごめんなさいね。怖い夢を見て.....自分ではない他の人になってしまう夢を見てしまったから、少し混乱してしまっただけよ。大丈夫だから、入学式には行くわ。着替えるの手伝ってくれるかしら?」


「それならいいのですが.....。しかし、なんだかお嬢様の口調が急に大人びたような.....」


 ハッ⁉︎つい、いつもの口調になってしまったわ!

 私は6才なんだから、子供っぽくしなきゃなのね!!


「その.....夢に出てきた他の人っていうのが、貴婦人だったの!だから真似してみちゃった!えへへっ」


「そうだったのですね!もう、お嬢様。驚かせないでください!!」


 なんとか思いついた言い訳を、メアリーは信じてくれる。

 そうだった.....メアリーは、荒唐無稽な話だってなんだって信じてくれたんだもん。

 メアリーに嘘はつきたくないので、今後は話し方に気をつけようと心に誓う。


 

 メアリーに制服へ着替えるのを手伝ってもらいながら、私は考える。


『もしかしたら、こっちが夢かもしれないわよね?目が覚めたら、またあの暗闇に戻ってるかもしれない。それが、あと1時間かもしれないし1日かもしれない。哀れに思った天使様が、幸せだった頃の夢を見せてくれているのかもしれない。この頃は、お父様もお母様も帰りが遅い日が多くなっていたけど、比較的まだ幸せな時だったから。でも.・・・夢だったとしても、またメアリーに会えた。まだ会えていないけど、きっと公爵邸の皆もいる。だったら、この夢の中にいる間だけでも、私の願いを叶えなきゃ』


 よし!恩返し大作戦よ!!



「クリスティナお嬢様!なんて可愛いのでしょう!!!」


 なんだか聞いたことがある台詞だ。


「ありがとう!」


 ちゃんと感謝の気持ちを伝えねば。


「少し時間は早いですが、朝食をお召し上がりになりますか?」


 あっ、なんかこれは違う台詞だ。


「うん!そうしよっかな!」


 言葉遣いも順調。順調。

 とにかく、元気に返せばオッケーだよね!


 そして、1階の食堂へ向かうため階段を下りる。


『たしか前は、ここでセバスチャンに会った気がするけど、今回はいないのね。違う日だったかしら?』


 そんなことを思いながら食堂に足を踏み入れた瞬間、私は立ち止まって目を見開いてしまった。


 だって、目の前ににお父様とお母様が座っていたからだ。

 両親は食後のお茶を飲みながら、お父様は新聞、お母様は仕事の書類らしきものを読んでいる。


 この食卓に、両親が揃って座っている光景を見るのは何年ぶりだろう。

 私が死ぬ直前も、両親の顔は見れなかった。

 私が死んだ後も、両親はどうなったのか気になっていた。私のせいで、連帯責任を負わされて処刑されていないか、とか。


 もう二度と、会えないと思っていた両親が目の前にいる.....。


「お嬢様、おはようござ・・・お嬢様!?どうされましたか!?」


 私の存在に気づいた執事のセバスチャンが、慌てた声をあげる。

 セバスチャンの声で顔を上げた両親が、私に目を向けてギョっとした顔をしている。


「ティナ!」


 お母様が椅子から立ち上がり、こちらに近づいてくる。お母様が私の目線に合わせて屈み、私の右手を握ってくれた。


「ティナ、どうしたの!?なぜ泣いてるの?」


『あぁ.....お母様。また、そう呼んでくださるのですね』

 

 ティナ.....それは私の愛称だ。

 もっと幼い頃は、そう呼ばれていたけど、前は学園に入学する頃には既に呼ばれてはいなかった。



 お母様が握ってくれている手とは反対の手で、自分の頬を触ってみる。

 どうやら、また無自覚で泣いていたらしい。


 お父様も椅子から立ち上がり、オロオロしている。

 その姿を見て、少し可笑しくなってしまった。


「お父様、お母様、心配かけてごめんなさい。少し怖い夢を見ちゃって、お父様とお母様を見たら安心しちゃったみたい!」

 

 泣き笑いになりながら、そう答えた。


 お母様は、そのまま私の手を引いて席に座らせてくれる。


「あっ!お父様、お母様、おはようございます!」


「ぷっ。ティナ、おはよう。そして、入学おめでとう」

「ふふっ。おはよう。ティナ、すごく制服が似合ってるわよ。さすが、私の娘だわ」

「あ、あ、ありがとうございます」


 まさか両親から、そう返ってくるとは思わず、言われ慣れていない私は恥ずかしくてくすぐったい。きっと、顔は真っ赤になってることだろう。赤い顔を誤魔化すために、セバスチャンに声をかける。


「セバスチャンも、おはよう」

「お嬢様、おはようございます。とても、制服が似合っていらっしゃいますね」


 いつもの穏やかな笑みを浮かべ返してくれた。



 朝食を食べながら、チラチラと両親を盗み見る。

 

 お父様は、私と同じ黄緑がかった薄い金色の髪、瞳の色は薄い青色だ。

 金色の髪に青い瞳は、王族の血筋の特徴だ。公爵という爵位からしても、王族の方が臣下したり降嫁してきたことがあるのだろう。王族の直系になればなるほど、その色が濃いと言われている。だから我が家は直系ではないため薄いのだ。


 お母様は、赤い髪に私と同じエメラルドグリーンの瞳。同じエメラルドグリーンだけど、どちらかというとお母様のほうが瞳の色は薄い。


 両親は、はっきり言って美男美女だ。娘の私から見ても、贔屓目なしに。

 しかも今は、メアリー同様に両親も若くなっているから尚更だ。両親は学園の同級生でもあり19才で結婚して、20才で私が生まれているから、今の両親はまだ20代後半ということになる。

 17才の記憶がある私からしてみても、20代前半にも見えるくらい若々しく凛々しい雰囲気の両親である。


 食後のフルーツまで食べて果実水を飲んでいると、メアリーが呼びにきた。


「お嬢様、そろそろ馬車の準備が整うようです」

「じゃあ、そろそろ行かないとね。あっ!カバン忘れた!取ってくるね!」


 私は走って2階の自室に戻る。

 後ろからメアリーが追いかけてきた。


「お嬢様!カバンなら私が取りに行きますから!お嬢様〜!走らないでくださいませ〜!!」


 二人がバタバタと走る音を聞きながら、クリスティナの両親は笑っている。


「昔の君みたいだな」

「あらっ!それはグレイソンのほうでしょう!」


 両親が不敵に笑い合うが、先に素に戻ったのは母アリアナだ。


「それにしても.....ティナが泣いている姿には驚いてしまったわ。私たちの顔を見たら安心したなんて.....。顔を合わせることは減っていたけど、それほど寂しい想いをさせてしまっていたのね。あの子は我が儘を言わないから忘れていたけど、まだ6才の子供なんだもの。ねぇ、グレイソン。私たちも、ちゃんと話し合わないといけないのではないかしら?」


「うん、そうだね。俺も今、同じことを言おうと思っていたよ」


「まぁ!本当かしら⁉︎」


 アリアナは胡乱な目をグレイソンへ向ける。


「あははっ!やっぱり、俺らは気が合うってことだね」


 その視線を物ともせず、グレイソンは軽やかに笑っている。


 そんな2人のやり取りを、そばに控えているセバスチャンは安堵した顔で穏やかに眺めていた。


 このような両親のやり取りがあったことは、私が知る由はない.....。



 カバンを持って玄関を出ると、すでに大勢の使用人が外に待機していた。

 ここまでは前と同じだが、今回は両親の姿もあるではないか。内心で驚いていると、庭師のジャンが近づいてきた。


「お嬢様、ご入学おめでとうございます。あんなに小さかったお嬢様が、もう入学とは早いものですな。そんなお嬢様が、新しい世界へ不安なく飛び込めるように」


 そう言いながら、深く澄んだ青い星形の花を差し出してきた。


 この星形の花も、前にはなかったことだ。 


「これは.....」

「ボリジ、という花ですぞい」

「星形になってて、とっても可愛いわ!」


 すると、お母様が私の隣に来て、ボリジの花と私の顔を交互に見る。


「それなら、髪につけたらどう?」


 お母様の言葉が嬉しくてコクコク頷く。

 お母様がジャンからボリジの花を受け取り、私の髪に飾ってくれた。


「「「おぉ〜!!!」」」


 使用人一同が感嘆の声を上げる。なぜかお父様まで。


「ありがとう!お母様!」


 お母様はニッコリと微笑んで一つ頷く。そして、メアリーへと顔を向ける。


「ティナのこと、頼みましたよ」

「お任せくださいませ」


 メアリーが深々とお辞儀をした。


 前と同じようにメアリーと馬車に乗り、私は馬車の窓を開けた。


「いってきます!」

 

「「「いってらっしゃいませ!!!」」」


 私は窓から身を乗り出し、皆へ手を振る。

 お父様もお母様も使用人の皆が、私へ手を振ってくれている。お父様なんて両手振りだ。

 私は、皆の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


 これは本当に夢なのかもしれない。私の願望が夢になっているだけかもしれない。

 もし、そうだとしても。

 二度と会えないと思っていた人たちと会えて、お父様とお母様と少しの時間だったとしても一緒に過ごせて。あんなに優しい、楽しそうな両親を見たのはいつぶりだろうか。

 こんなに幸せな時を過ごせたのだから、あの暗闇に戻ったとしても怖い気がしなくなってくる。

 まだまだ恩返しができてないから、夢ならまだ覚めないでほしい。


 そう願いながら、馬車の窓から見える青空を眺めた。



 学園の正門前に到着し馬車から下りて、私は学園を見上げる。


 コフィア王立学園。

 数ヵ月前まで通っていた気がするが、とても遠い昔のように感じる。

 

 ここは、前の私にとって、なにもなかった場所。そして、恐怖の場所でもある。


 大きく深呼吸をして、髪に飾られているボリジの花に、そっと触れる。


 そして後ろを振り返り、

「メアリー、行ってくるね!」

「いってらっしゃいませ、お嬢様」


 メアリーへ元気に手を振って、再び前を向く。


『いざ!出陣!』


 私は、心の中で号令をかけて、まだ短い足を大きく一歩踏み出した。




ーーーーーボリジの花言葉、それは「勇気」

再び、コフィア王立学園へ通うこととなるクリスティナ。

どんな学園生活が待っているのか、両親との関係はどうなるのか。

また、リュドヴィックとの関係はどうなるか。


過去?の記憶をもつクリスティナが、悩みながら考えながら猛進していきます!

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