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天使のほほえみ  作者: L
11/72

※リュドヴィック目線(王太子)2⃣

 俺は、コフィア王国の第一王子として生まれた。


 学園に入学する前から、帝王学やら剣術やら教え込まれた。未来の王として期待されるのは分かるが、まだ子供の俺にまで媚びを売ってこられるのには辟易していた。


 大人は俺の顔色ばかり伺い下手な世辞を浴びせてくるし、同じ年頃の子供も俺に売り込みをかけてくる。将来、俺の側近を狙っているのか、王妃の席を狙っているのか。

父親に教わったのか、母親に教わったのか知らないが、これまた擦り寄り方が気色悪い。


 褒め称えればいいってもんじゃない。


 こんな感じで育ってしまった俺は、相手が本心なのか本心ではないのか、目を見れば見抜く力がついてしまったらしい。為政者としてはいいかもしれないが、学園に入学したばかりの子供としては、かなり冷めていると思う。


 可能なことならば、身分を隠して学園生活を送りたかった。そうすれば、お互いに同じ土俵で接することができるから。


 だが、この髪の色と瞳の色ではムリだ。これは王族、もしくは王族との血縁者のみが持つ色だから諦めた。


 だけど、あの子は...。あの笑顔は本心からのものだった。

また、あの笑顔を俺に向けてくれるだろうか。


 しかし、あのロバート公爵の娘だったとは。

ロバート公爵は、よく父上に呼び出されて王宮に来ているが、あの子を連れてきたこと...ないよな?

他の貴族は、自分の子供を連れてきては俺と顔合わせをさせたがるのに。


 あんな隠し玉を持っていたとは。

ロバート公爵恐るべし。

さすが父上の親友である。


 こんなに冷めている俺も、学園で"友"と呼べる者ができればいいな、と密かに思っている。

周囲の貴族に冷めているだけで、国を、民を、己の力で守っていきたいのは本心だ。それを成し遂げるための"友"は必要だ。

できたら、父上とロバート公爵のような"友"を...。


 学園生活が始まり、昼食は学園の食堂で食べることになっている。

俺は、いつも同じ席で食べていた。入口から一番手前の一番左側だ。

なぜなら、王宮から至急の連絡を受ける時に伝令役が見つけやすいこと、小声で話さなければならない内容を他者に聞かれにくいこと、そして他の生徒に囲まれてしまった時にすぐ退室しやすいからだ。


 あの子も俺を見つけやすいだろう。俺からあの子の隣に行くことは出来ないから、あの子が隣に来ていっしょに昼食を食べてくれるのは嬉しい。あの子以外が俺の隣に座ろうものなら、俺は無言の圧力で引けさせた。

ここは、あの子の特等席なのだ。


 あの子は、俺の顔色を伺うでもなく、媚びるでもなく、他愛もない話ができて純粋に楽しい。

俺を、ただの一人の人間として見てくれているようで嬉しかった。

あの子が俺に笑ってくれるのが嬉しかったんだ。


 それだけではない。

あの子は、とても優秀だ。学年2位の成績をキープしていることからも、それは努力を怠っていない証拠だ。

学園の授業は数学や歴史の学問だけではない。

マナーやダンス、男子生徒なら剣術、女子生徒なら刺繍など、教養の範囲も多岐にわたる。

それらを総合的に評価されるのだ。


 どれだけ、あの子が凄いのか分かったことだろう。


 いつか俺も、あの子が刺繍したものをもらってみたいものだ...。


 あの子は、それほど優秀で家柄も問題ない。人間性も完璧だ。

将来、俺と共にこの国を背負う生涯の伴侶は、あの子しかいない。


 俺は13才の誕生日に、王太子へ立太子した。

そして、父上の国王、母上の王妃と、満場一致であの子が俺の婚約者に選ばれたのだった。




・・・・・どうしたことだろう。

あれほど、彼女を婚約者にと、将来の伴侶にと、望んでいたはずなのに。

彼女と婚約が決定した時は、空へ飛べそうなくらい嬉しかったのに。


 今の彼女と話していても、彼女が何を話しているのか分からない。言葉は耳に入ってくるのに、俺の頭も心も機能しないのだ。


 偶然、学園や王宮で彼女を見かけても、『あぁ、そういえばいたな』という感覚だけだった。


 高等部に上がると、彼女の両親が「お互いに愛人宅へ入り浸っている」という噂が広まった。

正直、興味がなかった。彼女の父親のロバート公爵は、相変わらず王宮でよく見かけるが、どこで誰と何をしてようが俺には関係ない。王族も貴族も政略結婚が当たり前なのだから、冷めた夫婦関係なんて珍しいものでもない。


 そう。俺も所詮は政略結婚なのだと、彼女との婚約関係を割り切っていた。


 

 大きな変化が訪れたのは、高等部に編入してきたサキュバーヌ・ベイカー男爵令嬢と出会ってからだ。


 サキュバーヌは、幼い頃から病気のために、長いこと療養していたそうだ。病気を克服し学園に編入してきたが、療養生活が長かったから友達もいないため、早く学園に馴染もうと奮闘していた。


 そんな姿が健気で、俺が傍にいればサキュバーヌの存在が早く学園内に広まるだろうと思い、手助けしたくなった。サキュバーヌは小柄なため、それも庇護欲を掻き立てられる。

さらに、小柄な印象とは逆に、艶やかな黒髪、漆黒の闇夜のような黒い瞳、小柄な身長からは想像できない女性らしい体つきのため、妖艶な雰囲気を醸し出している。

そのせいか、他の男子生徒がサキュバーヌに色目を使ってくるのも気に食わない。

俺は、常にサキュバーヌの傍にいるようになった。


 サキュバーヌは、王都の民たちとも積極的に交流していた。サキュバーヌ自身が病気で辛い経験をし、その気持ちが理解できるから、困っている民を助けたいのだという。

なんて、サキュバーヌは心が綺麗なんだ。


 それなのに、彼女はサキュバーヌを虐げているというではないか。

涙ながらに教えてくれた、サキュバーヌの姿が痛々しい。

嫉妬か?なんと醜い。


 しかも、彼女は否定も言い訳すらもしなくなった。

それが、ゆくゆくは王太子妃になる者がする所業か。


 しかし、どんなに彼女が醜悪か、どんなにサキュバーヌが素晴らしいか、父上と母上に説得しても、彼女と婚約破棄することも、サキュバーヌを新たな婚約者とすることも、父上はお許しにならない。

母上も、肯定も否定もせず沈黙を貫いている。


 

 そうして、高等部2年生の冬の終わり。

あの子が好きだと教えてくれた、ダフネの花が咲き始める頃。


 隣国への軍事機密漏洩、民からの違法な金品の搾取、サキュバーヌへの暗殺未遂。

彼女の様々な罪が明るみとなった。


 隣国と癒着し国家転覆を企み、民を苦しめ、そして刺客を雇いサキュバーヌまで襲わせようとするとは。

証拠は全て揃っている。

彼女には、すぐにでも消えてもらおう。




『全く身に覚えがございません』

サキュバーヌを虐げているのか問い詰めた時の彼女は、凛とした姿でそう答えた。

あの目は本心からのものだった。


『やった、やってない、どちらかで言うのであれば、やっておりません』

『やっていないものを説明することは出来ません。もし説明したとしたら、それが嘘の証言となってしまいます』

地下牢での尋問の報告書には、同じ言葉しか繰り返されていない。


「ハッ」

乾いた笑いが漏れる。


 無表情の彼女が、頭を過ぎる。

そして、幼いあの子の笑顔が脳裏を掠める...。



 あれ...おかしくないか?


 隣国が我が国を攻めてくるだと?精霊に愛されている隣国が?

彼女が民から搾取するだと?彼女の公爵領はとても栄えていて、そんなに贅沢したければ簡単にできるのに?王太子妃教育で多忙な彼女が、豪遊する時間などあるか?

サキュバーヌの暗殺未遂も刺客を雇ったというが、その刺客はなぜ捕まっていない?

サキュバーヌを虐げていることも、大勢の生徒が見たと証言しているが、大勢の生徒が見ている前で堂々とやるか?

あの聡明な彼女が?こんなに粗末で雑な考えを?

それほどまでに追い詰められていたと...?


 俺の思考がグルグルと駆け巡る。

いや、彼女がやるわけな......


『キーーーーーン』


 突如。

大きな耳鳴りがして、激しい頭痛に襲われる。

「...ッ、あぁ...はぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」


 駄目だ。違う。そんなことを考えるな。

サキュバーヌが嘘をついていることになってしまう。サキュバーヌを疑うことになってしまう。サキュバーヌの苦しみを一秒でも早く取り除きたいはずなのに。


 俺はもう、自分で自分のことが分からなくなっていた。



 そして、彼女の最期の日。


 彼女が最期に見せた姿。

彼女が最後に見せた光景。


 俺は、彼女から目が離せなかった。

もう、何が正しいのか分からない。


 刑執行を進行する大臣が『本当にこのまま続行していいのですか?』という視線を、チラチラと俺に送ってくる。


 父上も母上も、まだ()()()()()


 だから、全権は俺に委ねられている。


 俺が中止と言わなければ、大臣は続行するしかない。

『止めなければ』『中止させなければ』と思うのに、言葉を発することができない。


「ククっ、もう遅い」


 そんな誰かの低い声が頭に響いてくる。


 ガシャン!と、断頭台の上部にある刃が動く音がする。


 刃が落ちる瞬間、俺は手を伸ばしていた。


「ま、待つんだ!!!!!」




ーーーあの子が笑わなくなったのは、いつからだろう。

ーーー彼女が俺に最後に見せてくれた笑顔は、いつだっただろう。

ーーーあの子の...彼女の...名前を思い出せないのは何故だろう。


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