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天使のほほえみ  作者: L
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プロローグ

今回が、人生初投稿です!マメな人間ではないので、ゆるゆる投稿ですが、生温かい目で読んでくだされば幸いです。

よろしくお願いします!!

私は、ただ誰かに愛されたかった―――


ただ誰かに必要とされたかった―――


ただ、それだけだったのに―――




 私は今、地下牢から断頭台へ向けて、ゆっくりゆっくり足を動かしている。


 私の両脇には兵がいて逃げれないように縄で手首をしっかり繋げられている。


 断頭台が設けられた王都の広場には、大勢の民が集まり、大罪人の処刑を今か今かと待ちわびている。


「国の裏切り者!」

「俺たちの金を返せ!!」

「裏切り者を早く殺せ!!!」


 そのような民たちの叫びが聞こえてくる。


 広場の中でも高い位置に設けられた断頭台に近づくにつれ、その声は大きくなる。


 この広場は、いつもは屋台などが立ち並び、民たちの憩いの場として活気に溢れている場所だ。


 それが今日は、怒り、憎しみといった負の感情の熱気に満ち溢れている。


 私は壇上に上がると、大勢の民の姿を見て圧倒されてしまい顔が俯く。


 これほどまでに私は恨まれているのか。



 私は過去を顧みる。


 民たちに恨まれることは何一つしていない。


 そう、何もしなかった。


 悪いこともしなければ、学園で虐げられている学生がいても見てるだけ。


 ただ、見てるだけだった。


 誰かに愛されたい、必要とされたいと願いながら、私は何もしなかった。



 そんな思考に陥っていると、広場の鐘が鳴り響いた。


 処刑の時間だと告げる音。


 それと同時に民たちも声を潜め、先ほどまでの喧騒は嘘のように広場は静寂に包まれる。


 法を司る大臣が檀上に上がり、民たちにも聞こえるように大きな声で私に告げる。



「クリスティナ・ロバート、あなたは王太子殿下の婚約者という立場を利用して隣国と通じ、我が国の軍事機密情報を流し国家転覆を企てた。また、王太子殿下の婚約者、ご自身の公爵家の権力を笠に着て民たちからも金品を搾取し私腹を肥やし、民の生活を困窮させた。それだけでは飽き足らず、王太子殿下のご友人であるサキュバーヌ・ベイカー男爵令嬢の暗殺未遂。国家転覆罪だけでも死刑に値し、その他の罪もあり大罪中の大罪である。なにか最期に言い残すことはあるか」



 私はそろそろと顔を上げて大臣へ顔を向ける。

最期に言い残すこと......心の中で言ってみる。



 『言ったところで誰も信じてくれない。誰にも私の言葉は届かない』



 そんな顔を大臣へ向けた後、大臣の後方を見る。


 後方には、この壇上に簡易的にあつらえた台の上に立派な席が設けられていた。こちらを見下ろす形となっている。

 

 その席に座る人物、このコフィア王国の第一王子にして王太子あり、私の婚約者だったリュドヴィック・コフィア王太子殿下と、その隣には殿下の腕にしがみつきブルブルと震え涙目で私を見ているサキュバーヌ・ベイカー男爵令嬢がいる。

 

 王と王妃はいない。


 おそらく、王太子殿下の元婚約者の刑執行のため見届け人として王族代表に選ばれてしまったのだろう。


 リュドヴィック殿下は心底冷めた目で私を見据え、さっさと終わらせろという雰囲気がひしひしと伝わってくる。

 

 そして、眼下の民たちを見る。


 誰もが避難の目を向けてくる中で、最前列の端のほうに胸の前で手を握り合わせ泣きそうな顔でこちらを見ている人物がいることに気づく。


 握り合わせている手は力を強く入れ過ぎているのか、小刻みに震えているではないか。端のほうではあるが、最前列のためよく見える。


「メアリー......」


 私は誰にも聞こえないほど微かな声で呟く。



 メアリーは私の専属侍女だった。


 幼い頃から私を見守ってくれた唯一の味方。


 冷めた両親の代わりに私に愛情を注いでくれた。


 何かあれば励まし勇気づけてくれた。私が何度も罪の濡れ衣を着た時も私を信じてくれた。



 『そんなところにいて大丈夫なの?もし、私の専属侍女だったことが知られたら皆に酷いことされない?』



 これから自分が処刑されるというのに、メアリーのことは心配してしまう。

 

 私が連行される前に、メアリーには専属侍女を辞してもらっていた。


 メアリーは断固拒否したが、私のそばにいるせいで世界で一番大好きな人にまで、無実の罪を被せる可能性があったから。


 辞してもらうことは、私の最初で最後の”命令”だった。

 


 『早く、早く遠くへ逃げて』そう願いながら、『あぁ......そうだったんだ』と、私は腑に落ちる。



 メアリーは見返りを求めずに、ただただ私を愛し私を信じてくれた。


 その優しい手に何度救われたことだろう。


 彼女がいたから、私は何もしない人間ではあったが、本当の悪人にはならずに済んだのだろう。


 私は周りに求めるばかりであった。


 愛されたい、必要とされたい、認められたい、優しくされたい。


 それを期待して頑張ったけど手に入らなくて、全て諦めて何もしなくなった。


 濡れ衣を着せられても否定さえせず何も言わなくなった。否定しても、どうせ信じてもらえなくて私のせいになると理解したから。


 それでも、求めるばかりではなく私から優しく接することができていたら......どうだっただろう。



 そう、メアリーのように。



 見返りを期待せず、純粋に私から愛を、優しさを与えることができていたら。


 自分から与えることもできないのに王太子妃、ひいては未来の国母なんて笑えてくる。


 このまま私が国母にならなくて、本当に良かった。

 

 私の最期の姿は決して綺麗なものではないけど、メアリーなら見守る覚悟なのだろう。


 そんなメアリーに私は感謝を伝えたことあったかしら。



・・・・・ないわね。



 誰かに心からの感謝を伝える余裕などなかったから。


 だけど、ここまで私が生きてこられたのはメアリーがいてくれたから。


 この世界に、本当の愛や優しさがあると気づかせたくれたのも、メアリーがいてくれたから。



 最初で最期の感謝の言葉。



「メアリー、ありがとう」



 今、私はちゃんと笑えてるだろうか。


 心からの感謝の言葉と笑顔は、メアリーに届いているだろうか。


 泣きそうだけど、必死で笑顔を作る。



「天使だ......」

「天使のほほえみだ......」



 静寂に包まれていたはずの広場は、にわかにざわめき出した。


 しかし、死を間近に控えた私は、今生での後悔や懺悔の気持ちでいっぱいで、周囲の声は私の耳には届かなかった。



「そ、そ、そ、それでは刑を執行する」


 なぜか、さきほどより威勢のない話し方をする大臣。


 両脇に控えていた兵により、断頭台の前まで連れて行かれ跪かされる。首を固定され頭は垂れたため、もう誰も見えない。



 ガシャン!と上部にある刃が動く音がする。


 私は目を閉じる。


 不思議と心は凪いでいた。



()使()()、もし生まれ変わりがあるのなら、今度こそメアリーのように優しい人間になります。困っている人には自ら手を差しのべられる人間に。今生の私をお許しください......』




「ま、待つんだ!!!!!」



 意識が黒く塗り替えられる瞬間、焦っている誰かが叫ぶ声が聞こえた・・・気がした。





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