87 未来
全てが終わり、新しいこれからが始まる。
しばらくはみんな忙しそうで……
人間の貴族にはこの騒動に関係してか……亡くなってしまった人達が何人かいる。
その中にはエイダンとエリオットのご両親もいた……
あの時……魔王様はロゼッタだったし、エイダンもみんなに協力していたとわかったから……お菓子を持ってエイダンとエリオットの様子を見に行った。
エイダンは私が訪ねたことを喜んでくれたけれど……エリオットは少し元気がないような気がした。
「エリオット……なんて言ったらいいのか……」
エリオットが頭を抱える。
「あぁ……そうなんだよ……なぜなのかわからなくて……」
やっぱり落ち込んでいる……
「あの……ご両親のことは……」
そう言うと顔を上げて眉をひそめるエリオット。
「何を勘違いしている。言っておくが両親のことで悲しんだりはしていないぞ」
約束が果たされただけだ、と……約束?
家族の関係がどうだったのかはわからないけれど……
「あぁっ……これで兄上はいつでもうちに帰れるのに……」
あまり良くはなかったのかな……
「兄上は全然帰って来てはくれないっ」
なぜだっ……と……睨まれても……
ま……まさかそれで元気がなかったの!?
何て言うか……変わりがなくて安心したよ……
肩をポンポンすると……また睨まれた。
なんか……二人とも大丈夫そう。
騎士団長のイーライは、国王が代わってからも騎士団長としてお城で働いている。
国の改革と、いなくなった貴族の穴埋めで忙しいらしい。
アオのことはずっと黙っていてくれている。
改めてきちんとお礼を言いたいけれど、街で会えるのは少し先になりそう。
街は以前と変わらず……
突然国王が代わっていろいろな噂話が飛び交ったけれどそれもすぐに違う話題に変わり、いつも通り、とララが言っていた。
ファルとティファナも相変わらずお店にいくと喜んでくれるし、ミリアは、お友達もつれてきてねぇ、と言ってくれる。
みんなが街へ行くことはあまり無いけれど、私についてくるときは姿を消している。
ララ達に紹介できるのは少し先になりそう。
街には友達も増えてきたからいつか紹介できたらいいな。
私は相変わらず森の家と魔王城を行ったり来たり……ルウに連れていってもらっている。
「ルウ、お墓の場所を教えてもらってもいいかな?」
時間のあるときでいいのだけれど……
「墓? ……あぁ、この家の前の持ち主のか……」
そういえば案内すると言っていたね、と立ち上がるルウに、ちょっと待っていて、と言い庭に咲いている花を摘んでくる。
「ハルはどうしてあの石を気にするの?」
歩きながらルウが聞いてくる。
「たしかに……知らない人のお墓なんだけれど……」
あの家は
「あの家がなければ私は森の中で死んでいただろうし」
食料もあって冬も越せた。
「ちゃんとお礼が言いたくて」
そうか、ハルらしいねと微笑むルウ。
「ここだよ」
ルウが案内してくれた場所は本当に家から近かった。
「なんで今まで気づかなかったんだろう……」
目立つものでもないからね、とルウが言う。
お花を供えて……手を合わせると
「何してるの?」
と、ルウが不思議そうに聞いてくる。
これはね、とそこからはその説明から私が元いた世界の話しにまで発展した。
場所がわかったからその日から何度かお墓参りをしている。
そんなある日……
お花を摘んで一人でお墓に供えていると
「よぉ」
どこからか声が聞こえた。
キョロキョロと周りを見るけれど……誰もいない。
クスクスと笑いながら私の前に降り立ったのは……
ボロボロの服を着た……綺麗な顔をした魔族の男性……
初めて会う人だ……
私を見つめて微笑む彼……
なぜか私も彼から目が離せない……
「……いろいろと用意をしていたつもりだったが……すまなかったな」
この人……
いろいろと用意ってあの家のこと……?
生きるのに必要な物は全て揃っていたし……
特にあの木箱の中の食料は有り難かった……
「辛い思いもさせた……背負わせてしまったな」
……みんなのこと……?
「ありがとう……ハル」
と、少しだけ悲しそうな顔で微笑む。
彼は私の名前を……
「あの……私がこの森に来ることを……?」
あぁ、と頷き
「知っていた」
やっぱり……
「帰ることは……?」
金色の瞳が揺れる。
「できない……」
そっか……帰れないのか……はっきりわかってよかった……
そうわかると、思ってもいないほど涙が溢れてきた……
「好きなだけ泣いてくれ……」
誰もいないから……そう言って私の頬にそっと触れ胸をかしてくれた。
思い切り泣いたら少し気持ちの整理がついた気がする……
「安心しろ……ハルはこの世界で幸せになる」
まるで内緒話のようにそう囁く……
「嘘じゃないぞ、その黒髪が真っ白になるまでな」
じっと見つめる私に微笑んで
「あの七人も一緒だ……他にも……みんな笑っている」
そう……それは嬉しい。
「ありがとう」
そう言ってようやく微笑む私の頭を撫で
「それから、その考えはいいと思うぞ」
と人差し指を唇にあて嬉しそうに笑う彼。
うん、帰ったらみんなに話してみるね、
「また会えるよね?」
どうだろうな……、とお墓に視線を移す。
「……会えるかもな」
優しい風が吹き葉が揺れる……それから……
彼は私の前から姿を消した……
すごく穏やかな気分のまま家に帰り
「みんなに聞いて欲しいことがあるのだけれど……」
と、私が考えていたことを話す。
魔王城で親の手から離れた魔族の子供を育てていきたいと。
みんなの力も借りてしまうことになるし、人間にも協力してもらうことがあるかもしれないから……よく考えてみて欲しい、と伝えた。
みんなはどうしてそんなことをするのかわからないというような顔をしていたけれど段々と
「それなら森の中にいくつか街にある孤児院のようなものを建てて好きなところで過ごせるようにした方がいいかも」
僕が設計をする、とグレンが言ってくれて
「本当に小さい子達だけお城で育てて成長したら好きなところに出入り出きるようにした方がいいわね」
それくらいの方が子供とはいえ魔族にはちょうどいいわ、とロゼッタも教えてくれた。
「人間との交流も増えてくるだろうからいろいろと学べる時間があるといいかも」
と、徐々にみんなから意見が出てくるようになった。
でも、わざわざそんな子供を探したりすることはしないないからね、と言われてしまった。
けれども、私は知っている……そう言いながらもこの話しをした日から毎日、みんなが森の見回りをしてくれていることを……
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森の中に、子供達の笑い声が増えて……魔王城で働く魔族もすこしだけ増えた……
ルウがエイダンも魔王城で働くことになった、と言って連れてきたけれど……なぜか不機嫌……連れてきたのに……
そのうち仲良くなるかな……
エリオットも頻繁に魔王城に来てはエイダンにまとわりついている。あと私を睨んでいる……
そしてなぜか国王になったニコラ様もことあるごとに魔王城へやって来てはグレンにまとわりついている。
グレンが設計して建ててくれた孤児院……私達はみんなの家と呼んでいる。
そこでは魔族の子供達のお世話を人間がしている。
「人間に頼んだ方がいいと思う」
アレスがそう言うと
「ぼ、僕もそうお、思う」
とレトも賛成した。
「どうして?」
確かに人手は必要になってくると思うけれど……
みんなからそう言ってくれるなんて……意外だった……
「魔族に子育ては向かない」
ただ……
「ハルみたいに愛情を注いでくれる人に育てられたら……それも変わるかもしれない」
と……そんな……嬉しいことを言ってくれた。
「ありがとう……」
そう言って私も賛成するとグレンがニコラ様に話して募集がかかった。
応募してくれるなら貴族ではなくても街で暮らしている人でも歓迎するけれど、どちらにしろ大切な子供達を預けるから慎重に選ばなければならなかった。
応募してくれた人の中にはお城のお茶会でお世話になったメイドのメリルもいた。
「ここで働くことができて嬉しいわ。子供達は可愛いし、私が子供達から学ぶことも多くて……とにかく楽しいの!」
ときどき一緒にお茶を飲みながら楽しそうに話をしてくれるメリル。
「お城で働いていたときは……ハルも知っているわよね、あの通り貴族は膨れ上がった自尊心でくだらないことにこだわるから……」
国王が代わってからはそういうことは減ってきているみたい……というか
「そういえばお城に出入りする貴族の顔ぶれがだいぶかわった気がするわ」
と不思議そうに話すメリル。
「貴族も平民も、魔族も人間も関係なく、一緒に仕事もできるし友達にもなれるし家族にだってなれる」
子供達にもそんな風に思ってもらえるように接していくつもりよ、と。
「それにね、私、毎日求婚されるのよ。可愛い可愛い子供達からね」
まぁ……大人の男性からは一度もされたことはないけれどねぇ……、とため息をつきながら遠くを見つめるメリル……
メリル……それって初恋泥棒……
「まぁとにかく、今は仕事が楽しいわ」
と優しく微笑むメリルが眩しい。
そんな風に愛情たっぷりに育てられた魔族の子供達が成長をして家族を持ってまた子供が生まれて……
みんなの家、にくる子供達が減りそれぞれの家を建て家族で暮らすようになった頃……
「みんなの言う通りになったね」
ルウが微笑んで頷く。
「愛情を持って育てられた魔族は子供にも愛情を注ぐ……」
まさかこんなに変われるとは……少し驚いているよ、と微笑むルウ。
「ルウも一緒に子育てをしてくれた……」
子育ては長くて十年の世代だったのに……
「ハルの大切なものは僕も大切だから」
こういう言い方は変わらないけれど、ルウも子供達を愛しているし孫達も……
みんなは結局……育てられ方や育ち方は関係がなかったと思わせてくれるほど深い愛情を注いでくれた……
真っ白になった私達の髪が風に揺れる。
「ハル……ありがとう。僕は幸せだ」
私の方こそ……
「今世では足りないくらい……まだまだずっと一緒にいたい」
そう言って私を抱き締めるルウ。
「私も。すごく幸せだよ」
ありがとう……
そう言うと優しい風が吹いて私達の髪を撫で…………
(言った通りだろう?)
嬉しそうにそう言う声が聞こえたような気がした…………
ーー おわり ーー