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86 実は……



 実は……私……



起きている…………


ルウに後ろから抱き締められて温かい魔力を流されながら


「今は眠って……目が覚めたら全て片付いているから」


と言われて目を閉じたけれど……眠れなかった……

この流れでこんなことってある?


ルウが私に魔力を流していたから眠らされるのかと思ったけれど……違ったの……!?


どうしよう……と思いながら起き上がるタイミングも失ってしまったままみんなの話が進んでいく。


ときどき薄目を開けて様子をみていると魔王様の姿がロゼッタに変わった……


思わず目を見開いて大きな声を出すところだった。


ロゼッタが……そうか……なんとなくそんな雰囲気はあったかもしれない……


いや、男性っぽいとかそういうことじゃなく何て言うか……なんとなくなのよ。


頭の中でロゼッタに言い訳しているといつの間にかみんなが金の首輪を私以外の人間に嵌めた……


たしか魔力を吸いとるものでは……?

王様も人間に嵌めても意味はない、と言っているし……


そんなことを思っていると王弟のニコラ様が部屋に入ってきて……グレンを兄上と呼んですごく親しそうにしている。


反対に王様には冷たいような……

そして、なんか軽い感じで国王がニコラ様に変わった……


いいの……? そんなにあっさりと……



一体何が起こっているのか……何年も前から計画していたことの最終場面を見ているような……


なんて、話しに入れないからついそれっぽいことを考えてしまう。


以前……みんなに聞いたことがある。


魔力でどんなことができるのか……

家事全般や空を飛んだりできるのは知っているけれど


「人の心を操ることもできたりするの?」


みんなはそんなこと考えたこともない、と驚いた顔をしていた。


「ハル、こちらを見て」


ルウが私の頬に手を添えて……試してみよう、とじっと私を見つめる……


至近距離で見つめられた私の顔はみるみる赤くなり……


「……できたかもしれない」


と嬉しそうに笑うルウをからかわないでよ、と押し返す。


「俺も試してみる!」


ライオスが私の前に立ち見つめてくる。

私もじっと見つめていると……ライオスの顔が赤くなっていく……


「私もできたかも……」


フフフッと笑うと


「なっ……ハルは魔力がないだろっ!」


とそっぽを向くライオスの後ろに不機嫌そうなルウとミアが見えた。


「魔族の力については魔族でも知らないことが多いかもしれない」


笑っていたアレスが少し考えてそう言う。


「人間のように国がないから珍しい力を持った魔族がいたとしてもわざわざ記録をとる者はいないからね」


なるほど……


「それなら……もしかしたら未来が見える力を持った魔族もいるかも……もしくはいたかもしれない?」


また驚いた顔をするみんな……そんなに……変なことを聞いてしまった……?


「ハルは面白いことを言うね……未来か……そうだね、もしかしたら……」


と何かを考えながらルウは呟いた……



今……そのときのことを思い出した。


そのときはまだ、私がこの世界に来たのはもしかしたら意味があるのかもしれない、と思っていた……


でも今は……やっぱりもしかしたらでしかないのだけれど……


魔族のことを少しずつでも知っていき思ったことがある。


ルウからも聞いていたけれど、魔族が子育てをするのは長くても十年だと。


「その後、子供はどうなるの?」


そう聞くと


「街か森に置き去りにするか……」


「売られるか」


「どこかに忘れていくか」


みんな何でもないことのようにそう言っていたけれど……

これではたぶん死んでしまう子供も多かったと思う。


そして魔族はゆっくりと減っていき……

ゆっくりと滅んでいく……


もし……そんな未来をみた魔族がいたとしたら……?


誰かに話したところで信じてもらえなかったり……

興味を持たれなかったりしてたった一人で……軌道修正を考えたかもしれない。


マカラシャが作られたのも、ルウがお城から逃げ出せたのも、集団では暮らさない魔族が集まったのも、魔族の国ができたのも……


膿を出しきり、今この場で人間の王が代わったのも……


もしかしたらマカラシャを外せる私がこの世界に来て……今、眠らずに起きてここにいることも……


全て意味のあることで……そう考えると最終場面というのも間違いじゃないのかもしれない。


これまでの全てのことがなければ魔族が協力して行動をする事はなかっただろうし国ができることも……


人間の王が魔族に友好的なニコラ様に代わらなければ魔族と人間の協力関係は築けないだろうから……


昔のことはわからないけれど、魔王城に一番最初に来た勇者三人が出会った魔族の話を思い出す。


小さい頃に魔族に助けられた彼らはニコラ様と同じく魔族に友好的で……


長い年月をかけてそういう風にこれからの土台を作ってくれた魔族がいたのかもしれない。


「僕達に王がいるとすれば彼女だ」


そう言われて驚いたけれども……ルウ達がそう思ってくれていることさえもこれからに繋がることのような気がする。


未来を見た魔族がマカラシャに関わっていたのかどうかはわからないけれど……


どうでもいいとは思わずに努力をしてくれたと信じたい……



ルウ達がされてきたことはとても残酷で……

ルウ達がしていることもとても残酷なことだけれど……


彼らに嵌められた金の首輪がどのようなものか、それを知った今でも私は……


起き上がり、ルウ達を止めようとは思わなかった。

その事を後悔するかもしれないとも思わなかった。


知ってしまったから……彼らがみんなにしたことを。

私がこの世界にくる何年も前からルウ達を……


正しい考え方ではないのかもしれないけれど……自業自得だと思う。


この先の辛い人生の中で……彼らが何を考えるのか……

この結果は自分達のこれまでの行いのせいだと思い至るのか……


それとも最後まで魔族のせいだと恨みながら死んでいくのか……


ルウ達の冷たい一面を目の前で見ても怖くはなかった。

アレスが先王を殺していたとしても。


私は……眠らされなくてよかったと思っている。

みんなと同じものを背負えるから……


みんなは私に知られないように全てを終わらせようとしているけれど、知ったとしても私は何も変わらない。


起き上がってすぐにでもそう伝えたかったけれど……


……やっぱり後で伝えよう……起き上がるタイミングをはかれない……


話がまとまり


「さぁ、ハルを連れて僕達の家へ帰ろう」


そう言いながらルウが私を抱き上げる。


みんなが帰るといってくれる場所が私と同じで嬉しい……


帰ったらご馳走を作ろう。

みんなで食卓を囲んでこれからのことを話して……


それから暖炉の前に敷いているラグの上でゴロゴロしながら作り置きしてあるお菓子を食べて……


ロゼッタとミアの髪をアレンジしたりして……それから……明日からはいつもの生活に戻ろう……


もしかしたら人間の国と魔族の国の交流が増えてくるかもしれないからこれまでの生活とは違ってくるかもしれないけれど……


森の家への帰り道、みんなはずっと無言で……何を考えているのかはわからなかった。


これからは、みんなが私にとってどれだけ大切かを積極的に伝えて行こう……


全てが終わった今、みんながどこへ行こうと、どこに住もうと帰って来られる場所があると知っておいて欲しい。


帰ってから、これからしたいことや伝えたいことをいろいろと考えていたのに……


心地よい浮遊感と……ルウの温かさにいつの間にか



今度こそ本当に私は眠ってしまっていた……


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