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80 みんなの優しさ



 「ハ、ハル……熱が下がってよ、よかった」



そう言ってはにかむレト。


「や、薬草には、く、詳しいし調合方法もわ、わかってはいたんだけれど実際にはあまり……や、やったことがなくて……ご、ごめんなさい」


どうして謝るの?

こんなに小さな手で慣れないことをしてくれた……


うつ向いて今にも泣き出しそうなレトの頬を両手で包む。


「レト、ありがとう」


そう言ってからそっと抱き締めた。

微かに震える小さな肩が愛おしい……


「あのね、私、熱が出ている間すごく不安だったの」


レトが小さく頷く。


「レトのお陰で私の不安が消えた。だからレトが不安なときや困っているときは私に助けさせて」


レトが私なんかよりも何でもできると知る前に言ったことだから……思い出すと恥ずかしいのだけれど……


それでも……レトはそんなことはわかっていたのに……


私にしがみついて声を殺して泣いていた……


その時はどうしてそんなに……と思っていたけれど……

ようやくわかった気がした……



「おいっ、……ハルッ」


ライオスは最初こんな感じだった……


「なんでハルはそんなに弱いんだ?」


私を見上げるライオスの目は……不安と不信感でいっぱいだった。


「失礼な、私はこれでもこの森で一年間一人で過ごしたんだよ。もちろん冬も一人でね」


フフン、と得意気に言ったのに全然信じていない様子だった。


「嘘つくなよ、あんな擦り傷で熱なんか出していたくせに」


それは……そうなんだけれど


「あの時は私が薬の作り方を間違えていたからだよ」


そう言っても納得していない様子だった。


「それだけじゃないだろ……」


と呟くライオスに、ん? と聞き返す。


「とにかくっ、ハルは外に出るなっ」


これはもしかして……


「私を守ろうとしてくれているの?」


聞いてからしまった、と思った。


「ちっ……ちがう! ハルが弱いからだっ」


怒っているのか照れているのか……


「ライオスが思っているよりも、私は強いかもしれないよ」


と頭を撫でようと手を伸ばすと避けられた。



そう……ロゼッタも最初はそうだった。


「っ……」


敵意と警戒心に満ちた目で私を見つめ……伸ばした手を避けられる。


やめて、とも触らないで、とも言わずにただ……


手を伸ばすと表情は固くなり身体が強ばり……

話しかけると不安と疑いの目を向け、二人は認めないと思うけれど……とても怖がっているように見えた。


「ハルはどうしてそうなの……」


一度、ロゼッタがポツリと呟いた言葉……

そうって? とクッキーの材料を混ぜながら聞き返したけれど、何でもないわっ……とそっぽを向かれてしまった。


そんな態度をとった後は、眉を下げて申し訳なさそうな……私の反応を伺っているような……そんな顔をする。


「何をしているの」


森を一人で散歩しているとどこからかロゼッタが珍しく一人で現れたことがあった。


「ロゼッタ、見て」


可愛い花が咲いている、


「……持って帰る?」


ロゼッタにそう聞かれてロゼッタとミアの部屋に飾るのもいいかも、と思ったけれど……


「ううん、来年もここに咲いているか一緒に見に来よう」


そう言うと


「勝手に決めないでよっ」


とそっぽを向くロゼッタの耳が赤くなっていた。


ロゼッタとライオスは少し似ている……


甘えるのが下手で……けれども側にいてくれて……

いろいろな言葉や態度で私を試す。


二人とも私にとって大切なんだと伝えるには言葉だけではだめだと思った。


けれども……こんなのは許せない……


許されていいはずがない……



「ハル……」


グレンは無口で……


「危ないよ」


けれども周りをよく見ていて……子供なのにお兄さんみたい……そんな印象だった。


「泡立てるアレがあれば便利だなぁ」


お菓子作りをしているときに何気なく言った一言……

グレン以外のみんなは魔力を使ってやってしまうけれどグレンだけは


「それはどんなもの?」


「どんな形?」


と聞いて作って持ってきてくれる。

器用で優しいグレン……


「怖がらないでね」


大人の……みんなが元の姿に戻って私が戸惑っていることも察してくれていたと思う。


「優しいのはハルだ」


グレンはそう言ってくれたけれど……そんな風に思ってくれるグレンの方がやっぱり優しいと思う。


「絵の先生になってください」


そうお願いすると


「いいよ、……ハルの描く絵も好きだけれど」


ライオスにさんざん笑われた後……


グレンの描く絵は精密で本当に写真のよう……そこまでは無理でも今よりはっ! ということでお願いした。


なかなか上達しない私にあきれたり怒ったりすることもなく付き合ってくれた。


「ごめんね」


と、さすがに申し訳なくなって謝ると


「僕は今まで……たくさんのことを諦めてきた」


ポツリとそう言って


「絵も僕達のことも諦めない……ハルが好きだ」


そう言って不意打ちで微笑むグレン。


グレンの言った言葉の意味がわかった今……


あの時のグレンの笑顔に……胸が締め付けられる……



「ハルは人間……ですよね?」


アレスは最初から落ち着いていて礼儀正しく私に接してくれていた。


そして私をよく観察していた。


指を切ってしまった……

熱を出して以来……ちょっとぶつけて痛がっただけで騒ぎ出すようになってしまったみんな……


血なんてみたら……


これくらいなら洗ってちょっと押さえておけばすぐに血は止まるから……


気付かれないように手を洗っていると


「ハル、指を切ったね」


アレス……


「見せてくれる?」


笑顔だけれど隠そうとしたことがバレているからか有無を言わせない感じ……


言い訳をしてもどうせ見せることになりそうだから素直に言うことを聞いておく。


「傷は浅いけれど……」


チラリと私を見る……アレスが何か呟くと指先がじんわりと温かくなる。


魔力を流してくれたみたい……ありがとう、と言うとまた私をじっと見つめてため息をつく。


「レトが作った薬を持ってくる」


それからも何度かみんなには内緒で傷の手当てをしてくれた。


「ハル、今日は一緒に本を読もう」


アレスはよく、こう誘ってくれる。

たぶん家の中で本を読んでいればケガをする事はないから……


ときどき元いた世界のことを思い出して懐かしさや、こっちの世界にはいない家族や友人を思い出して寂しさを感じているときも……いつの間にか側にいてくれた。


アレスは私をよく見てくれている……


いつも冷静で……どこか不安そうな目で……



「リボン……」


ミアが髪を結んで、とリボンを差し出す。


「ミアもロゼッタも綺麗な髪だね」


そう言うと


「綺麗だと思う?」


と変わらない表情で私を見上げる。


「うん、ミアもロゼッタもとっても可愛くて綺麗だよ」


そう言うとうつ向くミア。

ミア? 


「ハルが……」


ん?


「ハルがそう言うなら私もロゼッタも綺麗」


と嬉しそうに笑った。


ミアはよく私に抱きついてきていた。

私が撫でたり抱き締めたりすると嬉しそうに


「ハルの手……好き。私を綺麗にしてくれる」


私の手というよりも……


「二人とも元々綺麗だから」


そう言うと首をふって違うという。


「ハルが触れたところから綺麗になっていく」


う……ん? ミアはときどき難しい言い回しをする……と思っていたけれど……


今なら何となくわかる……ミアの言った言葉の意味……

私には特別な力なんてないのに……


嬉しそうに微笑むミアを思い出して……涙が溢れる……



「僕はずっとここにいる。ハルと一緒にいるよ」


ルウといると落ち着く……

私が大切に思っているものをルウも大切にしてくれる。


「ルウの大切なものはなに?」


私もルウが大切にしているものを大切にしたい。


「ハル」


そう言って優しい目で私を見つめるルウに胸が締め付けられる。


「そ……そうじゃなくて、宝物とか……ずっと大切にしている……何かあるでしょう?」


少し考える素振りを見せてから


「やっぱりハル」


そう言って笑うルウに抱き締められた。


「もっと僕を頼って」


ルウ達の魔力を使わせてもらうことがルウ達の負担にはならないとわかってからも、あまり頼みごとをしない私にときどきルウはそう言ってくれた。


ルウ達の負担になりたくなかった……ということもあるけれど本当は……


本当はみんなが出ていってしまった後、また一人の生活に戻ってしまったときのことも考えていた。


けれども結局私はルウに……優しいみんなに甘えていたんだ……


王様と王妃様が楽しそうに話すお城でのみんなの生活は……優しい気持ちを一欠片も残さないくらい悲惨で……酷いものだったのに……


そんな生活をここで八年間も……


今度は私が……


「あの……あのっ……」


王様と王妃様が笑いながらこちらを見る。

そんな二人に頭を下げてお願いをする。


「お願いします。みんなをここには戻さないでください」


王様と王妃様の話を遮ってしまったけれど気にしてはいられなかった。


「みんなとはミア達のことか? それはできないな」


そんな……


「でも、みんなが戻らなくてもルウ……ルカが魔力を提供すると約束をしたのですよね」


その見返りに森のある土地を渡したはず……


「それは魔力供給の話よね」


ウフフ、と王妃様が笑う。


「今回はね、私なのよ」


? ……なに……?


「魔王様が私を望んだのよ。だから魔族のガ……子供達はその見返り、ということね」


私の価値はもっとあると思うのだけれど、とため息をつく王妃様。


「私はミアが戻ってくればそれでいいからね。他の子達はマカラシャを嵌めてまたあの部屋を与えよう」


あの部屋……


「でも、複製品のマカラシャでしょう? 大丈夫なの?」


複製品……


「あぁ、エイダンが教えてくれた。これまでに作ったマカラシャを全て彼らに付ける」


両足首に両手首、それから首にも……と。


「首にも……傑作ねぇ! いよいよペットだわぁ!」


と笑い出す王妃様。



魔王様もエイダンも……どうして…………


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