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8 ファルの肉屋 ティファナの薬屋 ララのパン屋



 さっきの男性のこともあるし……お金がかかったらどうしよう。



そう不安に思っていると


「あら、お肉屋さん? この通りを真っ直ぐ行くと左に見えてくるわよ。お肉を売るならこの辺りで一番信用できるのはファルのお店ね。近いし看板も出ているからすぐにわかると思うわ」


あっさり親切に教えてくれた……よかった。

お礼を言うと


「お肉にいい値段がついたらまた来てね」


そう言って笑ってくれた。

教えてもらった通りに歩き出してふと気付く。


どうして私が肉を売りに行くとわかったのだろう……

ルウを見るけれど看板を見つけようとしてくれているのか真っ直ぐ前を見ている。


まぁいいか。


ルウがお肉屋さんを指差して教えてくれている。

お店の看板を見ると 「ファルの肉屋」 と書いてある。


ドアを開けて中へ入るといらっしゃい、とたくましい男性が声をかけてくれた。この人がファルさんかな。


カウンターへ行くと


「女の子の狩人か、珍しいな。俺はファルだ」


ニカッと笑い挨拶をしてくれたけれど……狩人って?

とりあえず私も挨拶を


「こんにちは、私はハルです」


ペコリと頭を下げる。


「ハル? ハルとファルって似てるなっ」


と笑い出すので本当だぁ、と私も笑う。

ルウが横から私の腕をつつく。


「あの、ファルさん、お肉を買い取って欲しいのですが」


「おう、見せてみな」


お願いします、と肉の入っている袋を出す。

ルウが作ってくれたこの袋は木箱と同じく入れたものが痛まないらしい。


うちのルウ……凄い。


「ハルはしばらく王都の近くで狩りをするのか?」


肉を見ながらファルさんが聞いてきた。

狩人ではないのだけれど……何て言えばいいのか……


私が考えているとファルさんがこちらを見る。


「いやな、肉の状態がこれだけよければまたうちに卸して欲しいと思ってな」


そうなんだ。


「仕留め方がいいんだな。若いのに腕がいい」


褒められた……狩人ではないけれど。


「あの……どうして私が狩人だと……」


さっきのパン屋のお姉さんもきっとそう思っていたんだ。だから……


「変なことを聞くな。そのローブだよ、狩人がよく着ている」


そうなんだ、あの家に住んでいた人は狩人だったのかな。


「まぁ、なんだ。買取り金にちょっと色をつけておくからよ、街に来るときに着る服でも買って帰りな」


だからまたいい肉を持ってきてくれよ、とウインクされた。


ちょっと上乗せした金額で買い取ってくれるみたいだけれど、お金のことはさっぱりだ。


ファルさんが出してきた金額を見てルウが頷く。

大丈夫ということか。


「ありがとうございます、ファルさん。またお肉を持って来ますね」


そう言うとよろしくな、とニカッと笑う。

お店を出る前に薬草の買取りをしているお店をきくとパン屋のお姉さんのようにわかりやすく教えてくれた。


「いい人でよかったね」


お店を出てから小さい声でルウに話しかけるけれども返事はない。


疲れたのかな。


「ルウ? どこかで休もうか」


そう聞くと大丈夫、と言い先に薬草を売れるお店に向かって歩いて行ってしまった。


魔力を使ってくれているから疲れているのかも……

薬草を売ったら早目に買い物を済ませて帰ろう。


ルウが指を指しているお店を見ると看板が出ていて「ティファナの薬屋」と書いてある。


お店に入ると薬草の独特な匂いがする。


「いらっしゃいませ」


女性の店員さん、ティファナさんかな。


「あら? 女の子の狩人ね、珍しいわ」


そう言って微笑み、


「こんにちは、ティファナよ」


自己紹介をしてくれた。


「こんにちは、ハルです」


狩人ではないです……


可愛い名前ね、よろしく、と私の頭を撫でるティファナさんは二十代……たぶん私と同じくらいの年齢じゃないかと思うのだけれど、背が私よりも十センチ程高い。


パン屋のお姉さんもティファナさんと同じくらいだったし、お肉屋のファルさんなんてだいぶ高かった。

街を歩いていても……


外国にきたみたい……違う……異世界にきたのだった……

平均身長が高いのかなぁ。

子供のルウとしか接していなかったから知らなかった。


「あの、薬草の買取りをお願いします」


それならこちらへどうぞ、とカウンターへ案内された。

薬草もルウが作ってくれた保存袋から取り出す。


持ってきた薬草を手に取りながらティファナさんがチラリとこちらを見る。


「ハルはここへ来る前はどこにいたの?」


こことは違う世界です……とは言えない。


「森の……」


森に家が……森しか知らない……


「雪が積もる前に狩りと薬草採取をしているのね」


はい……もうそんな感じで……


「かなり森の奥まで入ったみたいね。珍しいものもいくつかあるわ」


ティファナさんが私を見る。


「あのね、お金が必要なのはわかるけれど森の奥まで入るのはあまりお勧めできないわよ」


わかっていると思うけれど、と続ける。


「森の奥には魔獣がいるのだから気を付けないと」


魔獣……遭遇したことはないな……


「とはいえ、なかなか手に入らない薬草を持ってきてくれるのは助かるわ」


眉を下げて少し複雑そうな表情をするティファナさん。


「とにかく、ありがとう。しばらくこの辺りに留まるならまた来て欲しいわ。今回は珍しいものもあったからこれくらいでどうかしら」


用意してくれたお金を見せてくれる。

隣にいるルウが頷く。


「はい、ありがとうございます」


それからこれ、とティファナさんが何かを取り出す。


「これから寒くなるから、これを手に塗るといいわ」


おぉ、ハンドクリーム……有難い。


「このリボンもあげる。髪をまとめるときに使って」


と綺麗なリボンもくれた。


「あの……ありがとうございます。大切に使わせていただきますっ」


お金を受け取りもう一度お礼を言ってお店を後にするとルウに人通りのないところへ誘導された。


「金……お金の説明をしておく」


ありがとう、助かるよ……


説明を聞くと日本で使っていたお金と同じ感じだった。

紙幣と通貨の色や形、模様に慣れるだけでいいならどうにかなりそう。


「ありがとう、ルウ。買い物をして帰ろうか」


そう言うとコクリと頷く。


良さそうなお店に入りながら街を歩いてルウの物を揃えていく。

ルウはあまり選んではくれなかったからほとんど私が決めてしまった。 


最後にパン屋さんに寄る。


「いらっしゃい、あら、戻って来たわね」


「はい、教えてもらったファルさんのお店に行って、その後ティファナさんのお店にも行って来ました」


他にもいろいろ、と買い物袋を見せる。


「持ってきたものが売れたみたいね、よかったわ」


私はララよ、よろしくね、と名前を教えてくれた。


「ハルです。よろしくお願いします。ファルさんいい人でした。いいお店を教えてくれてありがとうございました」


お礼を言うとよかったわ、と微笑むララさん。


パンをたくさん買って帰ろう。

ルウにはたくさん美味しいものを食べさせたい。

ついでに私も美味しいものを食べたい。


ララさんのお勧めと……ルウはやっぱり選んでくれないから私がいくつか選んでお会計を済ませる。


「これ、おまけしておくわね」


と、イチゴのジャムを一瓶袋に入れてくれた。


「ありがとうございますっ」


嬉しい、ルウも好きかな……

チラリとルウを見るけれど……無……


「また来てたくさん買ってね」


フフフッと可愛らしく笑うララさんはきっと商売上手だ。


お礼を言ってお店を出てから小さい声で帰ろうか、とルウに言う。


「……ハルのものを買っていない」


……ルウのものを買いにきたからね……それに、


「もう持てないよ」


買い物をした袋をほら、と見せる。


「そんなの……僕が持つし」


実は買い物をしているときも人通りの少ないところでルウがいくつか持ってくれていた。


ルウが持って来ていた袋に買い物をしたものを入れて

いたのだけれど……そんなに入る? っていうくらい入る不思議な袋。全然一杯にならないし。


不自然に見えない程度にルウにも荷物を持ってもらっていたのだ。


「うん、ありがとう。でも今日はもう十分買ったから今度また街に連れて来てくれるかな」


そう言うとルウは……無表情……すみません、また街に連れてきて欲しいです……


「……わかった」


一言そう言って私が持っていた荷物をルウが手に取り全て袋に入れていく。


それから来たときと同じようにルウが何かを呟く。


「ぅわっ」


フワリと身体が中に浮く。


「森の家に向かう」


そう言って手を差し出すルウ。


「うん、帰ろう」



ルウの手を取ると高く高く飛んでから家のある方へ進んでいった。


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