74 三人の勇者
ある日、魔王城に勇者がやってきた。
ドンッ ドンッ ドンッ
力強くドアを叩く音……
ルウ達には一人の時に誰かきても出ないで欲しいと以前は言われていたけれど……
ドンッ ドンッ ドンッ
これから人がたくさん来るかもしれないし、ただでさえ魔王城には人が少ないのだからと説得をしてみたけれど……
ドンッ ドンッ ドンッ
それでもなるべく出ないでと……
でも……ここまで来るのに半日かかっているんだよね……
ドンッ ドンッ ドンッ
戻るのも半日か……
ドンッ ドンッ ドンッ
出てもいいかな……
一応持っておいて、とルウにもらった仮面を着ける。
ドンッ ドンッ ガチャ
「おっと……君は……魔族か?」
その仮面、と私の目を覗き込む男性と他にも二人。
「仮面を着けていても見えているのだろう?」
パーティーに参加した魔族がそんな仮面を着けていたと街で聞いたよ、と後ろの男性がそういう……
「ようこそ! 魔王城へ!! さぁ、冒険の始まりですよ!」
……と、某ランドや某スタジオを意識してやってみようと思ったけれど……
「いらっしゃいませ、ようこそ。どうぞお入りください」
ちょっと落ち着いた感じになってしまった……
なんの警戒心も持たずに魔王城に入ってくる三人の男性。
「俺達は……勇者です! 魔王に会いに? と……討伐だったか? いや、討伐じゃない……とにかく魔王に会わせろ! ……会わせて欲しいです!」
……まだ設定が定まっていないみたい……
笑いそうになるのを堪えながら三人を観察する。
武器らしい武器は……帯剣はしているけれど無闇に抜いたりはしないみたい。
街では会ったことがない人達だ。
「君はここで働いているのか?」
「こんな子供が?」
「……いや、子供か?」
……三人とも胸をみるんじゃない……
「成人はしていますのでご心配なく……」
やっぱりなー、と言いながら私の後についてくる三人。
緊張感も警戒心も無いな……
「それにしてもあんな魔道具初めて見たな。街から森の中まで一瞬だったよ」
あれで王都と俺達の街もつないでくれたら楽なのになぁ、と……よその街からきた人達だったのか。
街から森までは一瞬でも、違う街から来たのなら長旅だったんだろうな……
「こちらでお待ち下さい」
応接室に三人を案内してからお茶をいれにキッチンへ行く。
お茶をいれて戻り、応接室のドアをノックしようとしたら三人の話し声が聞こえてきた。
「俺達もとうとうここまで来たんだな」
「あぁ、魔王城だぜ! 本当にあったんだなぁ」
「ただ……何て言うか……思ってたより雰囲気がいいところだな」
わかる……私もそう思った……
思わず微笑んでしまう。
「王都はでかくて食べ物もうまいし賑やかで楽しいけどここは……なんか落ち着くな」
「まぁ俺達の街には劣るけどな」
そりゃそうだろう、と笑いあっている彼らは幼馴染みかな。
コン コン コン
応接室に入りお茶とお菓子を出すと三人ともありがとう、と言ってから手を着ける。
「! この菓子うまいぞっ」
と、あっという間にお菓子がなくなる。
ご馳走様でした、とお行儀のいい三人はたぶん私よりも年下だと思う。
「夕食の時間まで自由にお過ごしください」
と言うと驚いて
「夕食までって……というか泊まらせてもらえるのか?」
ここは森の奥だから夜に歩かせるわけにはいかない。
「はい、ごゆっくりおくつろぎください」
気分は旅館の女将だ。
「ゆっくりって……自由に出歩いていいのか?」
はい、と頷くと三人は顔を見合わせて嬉しそうに笑う。
せっかく王都とは別の街からきたんだものね、思わず私も微笑む。
ルウ達が魔王城の中は自由に歩き回らせても構わないと言ってくれていた。
「あそこに大切なものは置いてないからね」
ってルウは言っていたけれど……
……魔王様は? 魔王様のものとか……
やっぱりルウが魔王様なのかなぁ……?
「ありがとう、故郷の皆にもいい土産話ができるよ」
と屈託なく笑う三人は幼く見える。
もう魔王様のことは忘れているみたい。
しばらくすると私が廊下を歩いているときや夕食の準備でキッチンに立っているときに彼らの笑い声が聞こえてきたりして思わず私も微笑んでしまう。
夕食の前にお風呂に入りますか、と聞くと三人ともはい! と嬉しそうに返事をしてくれた。
そんな三人がテーブルにつき、料理を出しているときの会話が少し気になった。
「王都で会った勇者達はいい奴らだったな」
勇者達……ララ達が言っていたように集まってきているみたいだなぁ……
「あぁ、俺達よりも何日も前に街にいたのに先を譲ってくれたしな」
何日も街に滞在しているの?
……元々街に住んでいる人もいたのかもしれないけれどこれはもしかして……
「それに酒もおごってくれたし」
お酒……
「中には足をケガしたとか仲間が体調を崩してとかでなかなか出発できない勇者もいたのに……なんだか申し訳ないな」
いやいやいや……街で足をケガする勇者って……後少しのところで体調を崩す勇者って……
「その方々から帰ってきたらお酒でも飲みながら詳しい話を聞かせて欲しいと言われているのではないですか?」
思わず口を挟んでしまう。
「あぁ、そうなんだよ。皆俺達の話を楽しみに待っているよ」
なんっってお人好しっ……これではまるで……
「炭鉱のカナリヤ……」
様子見で先を譲ったのか……こんな何も知らない若者達に……
帰ったらお酒を飲ませて、安全かどうかとあわよくば魔王様の情報も盗むつもりなのかもしれない。
そうすれば魔王城まで来なくても彼らよりも先に魔王様の情報をお城に持っていけば賞金はもらえる。
まぁ……三人とも魔王様に会うという目的を忘れるくらい魔王城を楽しんでくれているけれど。
「ん? タンコウ? なんだ?」
いえ、と曖昧に微笑む。
せっかくだからたくさん楽しいお土産話を持って帰ってもらおう。
「たくさん召し上がってください。デザートもありますよ」
そういうととても喜んでくれた。
「どれもすごく美味しいよ。デザートも楽しみだ」
「ここは居心地が良すぎてずっといたくなるな」
「あぁ……でもやっぱり早く俺達の街に帰りたいな。ここでの話を両親や兄弟や皆に早くしたい」
もしかして故郷を離れたのは初めてなのかな。
「そうだな……早く帰りたいな」
そういえば、と一人が私に話しかける。
「ここには他の魔族はいないのか? 城の中や庭を歩かせてもらったが誰にも会わなかったぞ」
……他の魔族どころか魔族には会っていないんだなぁ……
「皆さんは怖くはないのですか?」
魔族のこと……
「怖いって……まぁ……本に書いてあるような魔族なら怖いかもしれないけれど……」
やっぱり……
「でも魔族にも人間と同じようにいろんな奴がいると思うんだ」
…………!
「俺達子供の頃、山の中に洞窟を見つけたんだ。そこを三人の秘密の場所にして遊んでいたんだけれど」
と、昔を思い出す三人。
「突然、天井が崩れてきて……どうにか三人とも外には出られたんだが皆ケガをして」
こいつのケガが特に酷くて三人とも大泣きだったんだ、と。
「あぁ、あの時は子供だったしたくさん血も出て怖かったな」
そう言いながら懐かしそうに笑う。
「しばらく泣いていると木の上から声がしたんだ」
うるせぇなぁ、と。
「目の前に現れたのは魔族の男だった。金色の目に服はボロボロなのに綺麗な顔をしていて」
魔族を近くで見るのはその時が初めてだったらしい。
「泣くな、そう言って彼は俺達のケガを魔法で治してくれたんだ」
それから彼は面倒そうに
「あのなぁ、あそこに生えている葉っぱは止血もできるしあの木の実は痛み止にもなる、ったく何で魔族の俺の方が詳しいんだよ」
と、顔には似合わない口の悪さで教えてくれたらしい。
「こういうところに来るならそれくらいの知識はつけとけ、子供だろうがな」
男はそういうと、口の悪さとは真逆の優しい笑顔で俺達の頭を撫でてくれた、と嬉しそうに話す三人。
「だから俺達は本に書いてあることが全てじゃないってわかっている」
でも……
「そのときは怖くてお礼も言えなかったし名前も聞けなかったな……魔族の国ができたならもしかしたらあのときの男性に会えるかも、と思ったが……」
まだ魔族の国はできたばかりだしな……と少し寂しそうに話す。
もしかしたら……彼らの他にもこういう経験をした人達がたくさんいるのかもしれない。
そういう人達がいろいろなところでそのことを話せば、彼らのような考え方をする人が増えて……
そうしなくてもこれから人間と魔族の交流が増えていくのだから、いい方向に変わっていくといいな……