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72 街の噂



 イーライの家から森の家に帰った日の夜……



私は熱を出した。


体調は別に悪くはなかったから……慣れない場所でいろいろなことをいっぺんに知ってしまったからかもしれない。


熱を出した私を見てみんな大慌てだった。


そんなみんなが酷い目に……それなのにこんなに優しくて……胸が苦しくなる……


ポロポロと涙を溢す私をみて……


「ハルが死んじゃうっ、どうしよう!」


と慌てるみんな……

優しい……優しいなぁ……


「優しいのはハルだ……」


声に出していたのかグレンにそう言われた……前にもそう言ってくれたような……


微笑むと涙がまた溢れる。


「これを飲んで」


レトが薬を作ってきてくれた。

ありがとう、と微笑んだのに……ハル……、と不安そうな顔をするレト。


ルウの温かい魔力が流れてくる……

その温かさとルウの胸の音に安心して……私は眠りについた…………



それからは少し大変だった。


エイダンの家の仕事はもうしなくていいとか、しばらくは街にも行かないでとか、どこへいくにも誰かがついてきたりと……


冬の間の約束だから、とエイダンの家の仕事へは行くことができたけれど冬が終わる頃……


「ハル、もうここがハルの家なのだから帰らなくてもいいのだよ」


……今度はエイダンをなだめるのが大変だった。


「僕は別にそう思ってはいないが、兄上がこう言っているのだからそうすればいいだろう」


……あとエリオットも……


こちらにも冬の間だけの約束だから、また遊びにくるからとどうにか納得してもらおうと思ったら


「泊まりで遊びに来いよ」


と、意外なことにエリオットにそう約束させられて思わず笑ってしまった。



そんなこともあってイーライから聞いた話しをみんなには聞けないまま、春になっていた。


魔王城での仕事に戻ってしばらく経った頃


「売るものも増えてきたしそろそろ街へ持って行きたい」


そう言うと渋々……本当に渋々ルウが街へ連れていってくれた。


ふぅ…………


「久しぶりの街……そしてひとりっ!」


右、左、上、よしっ! 念のため下っ……よぉし。

といっても姿を消されてしまってはどうしようもないのだけれど約束をしたからね。


「近くにいるときはそう言ってね」


約束だよ、と。

みんな素直に頷いてくれた……うん……と……

目をそらしていた気もしないでもないけれど、頷いていた……信じよう。


「よぉ! ハル、久しぶりだな!」


相変わらず声の大きいファル。


「久しぶり、ファル。元気そうだね」


いつも通り肉を買い取ってもらうと


「そういえばハル、知っているか?」


と、ファルが最近の街の様子を……


「まぁ……この話しもどうなんだかなぁ……だが森に住んでいるハルも知っておいた方がいいだろう」


ずいぶんと歯切れが悪い……なんだろう……


「この国と魔族の国は一応友好国だから変な噂になると困るんだが……」


そう言うと少し迷いながらも話し始めた。


「魔族の国ができてからしばらく経つだろう? それなのに魔王様が一度も姿を現さないらしい」


そういえば私もお会いしたことはない……


「それでだ、魔王様の情報を持ってきた者や姿を見た者の情報に城から賞金が出ることになったんだよ」


どうやらお忍びでときどき街に出てきているらしい、と。


「そこからだよ、話が変な方向に流れてな、勇者が現れ始めたんだ」


ん? いきなり話が……何か聞き逃した?

しかも現れ始めたって……勇者って一人じゃないんだ……


「魔王城に乗り込んでやろうって奴らが森へ入って行くようになったんだ」


それで私も知っておいた方がいいと……


「誰が言い始めたんだか魔王の討伐に行くと言ってな……」


勇者が言いそうなことだね……


「こんなことになっているが情報提供の賞金は城から出るだろう?」


そうか……


「まるで城から魔王討伐の依頼が出ているように見える……」


そうなんだよ! と困ったような顔をするファル。


「まぁ、この状況を把握しているはずなのに黙ってるってことはそういっているようなもんなんだが……」


良くはないよなぁ……と頭を抱える。


「いい気はしないだろう、魔族もこんな話を聞いたら」


それは……自分達の王様が狙われているとなったら……


情報提供のはずが討伐依頼に……まぁたぶん魔王が出てくれば何でもいいのだろう。


「街も変に盛り上がっちまって年寄りまで冒険に行くと言って森に入るんだ」


止めるのも大変だぜ、と……

お年寄りまで……胸の奥の冒険心がくすぐられてしまうのか……


キャンプとか遊園地に行く感覚に近いのかもなぁ……


でも万が一勇者達に森で死なれでもしたら……それこそ濡れ衣をきせられて…………


まさか……そうなったらさすがに魔王も出てくるだろうと思って放置している……? と考えるのはさすがにアレかな……


「そんな訳だから気を付けろよ、こうなってくると森に入るやつらを待ち伏せして身ぐるみ剥ぐ輩も出てくるだろうからな」


……そしてそれも魔族のせいに……?

これは後でルウ達に伝えて誤解のないようにしておかないといけないかなぁ……


その後ティファナのお店で薬草を買い取ってもらったときも同じような話を聞いて


「くれぐれも気を付けてね、何かあったらすぐに言うのよ」


そろそろ街で暮らすことを考えてもいいのかもしれないわよ、と言ってくれた。


「ありがとう、また薬草を持ってくるね」


そう言って手を振ってティファナのお店を後にした。


さて、懐も暖まったことだし買い物をしよう。


今日はみんなへのプレゼントを買うつもり。

いつも私を助けてくれるからちょっとしたお返しだ。


向かった先は貴族も利用する通りにある、お茶会で一緒になった女性が働いているお店だ。


「いらっしゃいま……せ……」


お店のドアを開けると女性が笑顔で……それから少し気まずそうな顔をした。


「こんにちは、お久しぶりです」


こちらから話しかけるとお久しぶり……と返事をしてくれた。


「あの、髪飾りやリボンをいくつか見せてくれませんか」


今度こそミアとロゼッタに買って帰ろうと思った。

こちらにどうぞ、と私に椅子を進めてから商品をテーブルに並べてくれた。


そんなに種類はなかったけれどどれも素敵で迷ってしまう。


「あの……私……お城でのお茶会のときはごめんなさい」


……あと……最初に会ったときも……と、とても小さな声で……


「お茶会のときのご令嬢方と同じような態度をあなたに……」


……ずっと気にしてくれていたんだ……


「何も気にすることはないですよ、慣れない場だったし……実は緊張していて何を話したか覚えていないんです」


そう言って笑うと、ありがとうと言いようやく彼女も笑ってくれた。


「私はマリアンナよ、よろしくね」


お互い堅苦しい話し方は無しにしようということになって改めて自己紹介をした。


それから商品の説明をいろいろとしてくれたのだけれど……貴族も立ち寄るお店のものはやっぱり値段も高くなる。


けれどその分作りが凝っていたり繊細なデザインのものが多いから……たまにはいいよね。


刺繍が施されているリボンを手に取り二色選んで二本ずつお願いする。


お会計を済ませてお店を出ようとすると


「また遊びにきてくれると嬉しいわ、私がデザインを任された商品も見せたいし」


ハルがお茶会のときに私の夢を笑わなかったことが嬉しかったの、と微笑むマリアンナは初めて会ったときよりも表情が柔らかくなった気がする。


また来るね、とお店を後にして次はミリアの雑貨屋へ向かう。


「いらっしゃぁい、あ、ハルゥ」


ミリアも元気そう。


ミリアのお店ではロゼッタとミア以外のみんなにあげるものを選ぶ。


アレスには素敵なデザインの栞とブックカバー。

ときどきテーブルに本を置きっぱなしにするから汚れたりしないか気になっていた。


レトには薬を作るときに使う計り。

計りがなくてもわかるみたいだけれど、そういう作業が好きみたいでときどきキッチンから持っていっていることを知っている。


ライオスには……鳥かご……

ライオスの部屋にこれ以上鳥かごが増えてもいいものか、と迷ったけれど本当に鳥を入れるものではなく、インテリアとして使われるような小さくて可愛いものにした。


グレンには新しいペンとインク。

設計図とかは頭に入っていそうだけれど、ちょっとしたメモとか紙に書いて残しておきたい設計図もあるかもしれないから


ルウには……どうしよう……

いつもたくさんもらってばかりいるのに……



結局……ルウへの贈り物だけが思い付かなかった……


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