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 二人が弟を守ろうとするこの感じ……



エリオットに似ている……エリオットの方がわかりやすいけれど……


「いい加減面倒だからハッキリ聞くね、イーライのことが好きなの?」


雑っ…………引っかけとかもなく本当に直球で……

それだけこれまでが大変だったのかな……


「イーライ様は……いい方だと思います」


当然だ、というような顔をしている……


「ただ、恋愛感情があるかと言われると……無いです」


ジッと私を見てから二人で何か話している……


「イーライが初めて女性をうちに招待したのだよ。ハルに好意を抱いているのは間違いない」


お兄さん達が知らないだけで街には仲のいい女性が何人かいると思うけど……


そもそもイーライからは何も言われていないし……

どうしろと……


「イーライを傷つけるようなことだけはするなよ」


なるほど……


「マルクス様、ニコライ様、お二人がイーライ様を守ってこられたのはわかりました」


ただ……


「ただ、そのために傷ついた女性もいるのではないですか?」


二人が私から目をそらす……


さっきの感じだとイーライに近づいてきた女性をどちらかが口説いてなびいた途端に冷たくあしらってきたのかもしれない。


もしかしたら女性達のやり方も酷かったのかもしれないけれど……彼らのやり方だって……


まぁ、私が口を出すことでもないのかも。


「イーライ様に素敵なお相手が現れることを願っています」


エリオットみたいに分かりやすく噛みついてくる方が余程可愛げがある。


クルリと踵を返して何か言いたげな二人から離れる。


少し歩くとどこからかメイドさんが現れてイーライのいる部屋まで案内してくれた。


「ハル、お茶を入れなおした」


飲んでみて、と微笑むイーライにあの事を聞いてみようと思った。


「イーライ、アオのことを黙っていてくれてありがとう」


そう言うとイーライも真剣な表情になる。


「アオのことを報告したら討伐されるか捕らえて魔力を搾り取ると言っていたよね」


あぁ、と頷くイーライは騎士団長の顔をしていた。


「搾り取るってどういうこと?」


イーライが少しだけ首を傾げる。


「魔力を吸収する魔道具と魔力を溜めておく魔道具があるから……」


知っているだろう? と……


確かにお城には魔力を溜めておく魔道具があるときいている。ただ……問題は魔力の集め方だ。


とりあえず……頷いておこう……


「それを使うんだよ」


……知ったかぶりをしてしまったせいでそれしか聞けなかった……


「魔力を取られた魔獣はどうなるの?」


イーライが視線をそらす。


「……弱って死んでしまうだろう」


そ……そこまで……だから搾り取るという言い方をしたのか。


「ハル、なぜそんなことを聞くのだ」


なぜって……


「まさか魔族にもそんなことをしていないよね」


魔力がある分人間が魔族を捕らえることなんてできないと思う。

だから……魔力を提供しているというルウ達の言葉にも納得したのだ。


「最初に始めたのは魔族の方だ。魔族が人間に魔道具を与えた」


それから……


「魔族の子供も」


? 子供? なんで?


「ハル、この話しは一部の者しか知らない……ということになっている……」


少し迷いながら……


「だから……他言しないと約束をして欲しい」


アオのことを黙っていてくれているのだからもちろん頷くけれど……おかしな言い方だ……


「成長した魔族を人間が縛り付けておくことはできない、だから……」


とこれまでの人間と魔族の関係を聞かせてくれた。


「そんな……」


そんな酷いこと……


「国民はこの事に関して詳しくは知らないはずだが……」


最初の魔族が王族に持ちかけた話だから……と。


「ただ、貴族の協力も必要となり結局はそこの使用人達から断片的に漏れ伝わってしまったのだろう」


国民も薄々は気付いている……というかわかってはいるだろう……


「皆すでに魔道具が無くては生活ができなくなってしまっている。恩恵を受け続ける以上何も言えないし、実際に売られてきた魔族の子を見た者はいないから実感もないのだろう」


それこそ罪悪感すらないのだろう、と。


イーライは自分が話している内容もどこかの時点で変わってしまっているところがあるかもしれないが……大体の内容は合っているはずだと言っていた。


「実際、私もそうだった。どこか他人事のように考えていたのだ。彼らが城から逃げ出すまでは……」


彼らが逃げ出す……


「その……こ、子供は何人……」


何だか息苦しくなってきた……


「七人だよ……ハル、顔色が悪いぞ」


大丈夫か? と私を支えてくれるイーライ。


七人……そうなの? みんなが……

だから出会ったとき……だからあんなに人目を避けて……だから……


これまでのいろいろなことが繋がっていく……


「その子供達は……お城でどんな生活をしていたの?」


みんなが話してくれるまで待つつもりだったけれど……知らなければいけない気がする。


「それが……城でも一度も見たことがないからよくわからないのだ。部屋も食事も与えられていたはずだが……外出する自由はなかったと思う」


……閉じ込めていたということか。


それだけではないのかもしれない……


森で出会ったときのルウは痩せていて……全身アザだらけで……他にも……


森をさまよってできたようなものではない……まるで人に……


「ハル?」


イーライが心配そうに私をみて頬に触れる。


「……泣かないで……」


泣いて……いつの間にか涙が……

今すぐに帰ってルウを……みんなを抱きしめたい……


泣き止まない私をみてイーライはそれ以上何も言わずに落ち着くまで待っていてくれた。


「イーライ、魔力を吸い取る魔道具って……」


もう少し知らなければ……


「マカラシャ……だよ」


マカラシャ……出会ったときにルウが身に付けていたものは……


「金の……足輪……?」


私の問いかけに頷くイーライ。

あれが……


「マカラシャは一度嵌められると死ぬまで外れることはない」


どんな道具を使おうと、どんなに魔力を使おうと……


「だから……城にある魔道具に魔力が集まらなくなった時点で彼らはもう……」


って…………外したな……私……

どうしよう、言わない方がいいかな……たぶん。


アレって外せないものだったの? すっごく簡単に外せたけど……


でも……あぁ……だからあの時……

あの時のみんなの反応にも納得がいく。


一度にたくさんのことが繋がっていく反面疑問も増えていく。


ルウ達はなぜもっと遠くへいかないのか……

他にも国はあるだろうし森だってあると思う。


このタイミングで魔王が現れたというのも気になるし……


大人の姿だから気付かれていないのかもしれないけれど魔王が魔族の国を作ったからルウがあんなことのあったお城に……


違う……魔族の国ができたことでルウ達のような子供がいなくなるのか……


奪われるだけではなく正当な量を提供してそれに見合った対価も受け取る。


イーライは魔族が始めたことだと言っていたけれど終わらせるのも魔族ということなのか……


最初に始めた魔族がどうしてそんなことをしたのかはわからないけれど……本に書いてあるような魔族も本当にいるのかもしれない。


こうなることを予測して……? というのは考えすぎかもしれないけれど、すでに人間は魔道具無しでは生活ができなくなっている。


今は魔族の国と人間の国は表面上、友好関係を築いているように見えるけれど……以前は対等ではなかった。


これまでのバランスを崩したのはたぶん……私。


そうだったとしてもマカラシャという足輪を外したことに後悔はない。


もともととれていないバランスがようやく正常な位置でバランスをとり始めただけなのかもしれないし……


ただ……イーライも知らないルウ達の身に起きたこれ以上の真実を知ってしまったら私は……



ルウ達のすること全てに目をつぶってしまいそうで……怖い…………


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