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64 獣臭



 王妃様はこれ以上魔族のことを聞き出せないと思ったのか席を立ち



「皆さんはゆっくりしていらしてね」


と言い部屋を出ていってしまった。


お茶会は終わり……ということでいいのかな……よくわからないから終わりなら終わりと言って欲しい。


座ったままお喋りを続けたり立ち話を始めたり皆さんバラバラに動き出した。


帰ってもいいかな……ドアの方を見るとドレスを選んでくれたメイドさんと目が合う。


「ハル様、お帰りになられますか?」


そっと聞いてきてくれる察しのいいメイドさん。

コクリと頷くと、ではこちらへ、とドアの方へ


「あら、狩人さんは山へお帰りになるのかしら?」


クスクスと笑うご令嬢方。


「あぁ、でも今は冬ですから……もしお困りでしたら私の馬のお世話係として働けるかお父様に聞いて差し上げますわ」


まぁ! お優しいこと! と口元に手を当てるご令嬢……


「でも獣の臭いが染み付いているから馬が怯えてしまうかもしれないわよ」


と、とうとう吹き出すご令嬢もいる。


貴族の馬のお世話か……そんな選択肢もあるとは。来年はお願いしてみてもいいかもしれない。


「もしかしたら来年」

「お話し中失礼いたします」


あ……メイドさんと同時に話してしまった……けれど私の声が小さかったからか私の方には誰も気付いていない。


「ハル様、バイドルフ侯爵家のご子息様がお待ちですよ」


バイ……ん? だれ?

ご令嬢方も静まり返る。


「な……何を言っているのかしら、貴女。嘘をつくにしても侯爵様のお名前を出すなんて重罪よっ」


ご令嬢がメイドさんを睨む。

メ、メイドさんが怒られてしまう……

侯爵家……侯爵家……知り合いに侯爵家の人……あ!

イーライが確か侯爵家って言っていた!


「イー」


「エイダン様とエリオット様ですよ。ハル様はお二人と親しいのでお名前の方がお聞き馴染みがありましたね」


失礼いたしました、と微笑むメイドさん……

あっぶない……間違えるところだった……


「親しいとはなんですの? 狩人が侯爵家の方と親しくなれるはすがありませんわ。貴女、不敬罪で罰してもらうわよ」


ダメダメッそれはダメ。


「申し訳ありませんが、お二人をお待たせしておりますので失礼いたします」


さぁハル様、行きましょう、とドアを開けるメイドさん。

するとご令嬢方も少し後からヒソヒソと何か話ながらついてくる。


本当かどうか確かめる気か……そして嘘ならすぐに……というところかな。


「……ハル様、出過ぎたことをしてしまい申し訳ありません……」


あまりの言い様に我慢ができませんでした……とメイドさんに小さな声で謝られた。


きっとメイドさんも貴族のご令嬢なのだと思う。

立ち居振舞いに品があるし王妃様のお茶会の招待客を任されているしお茶会の場にも控えていた。


後ろにぞろぞろとついてくるご令嬢方の態度をみると、きっと彼女達よりも低い爵位なのだろうけれど……


仕事は完璧にこなすし気遣いもできる……ここにいるご令嬢とはどこか違う……できるご令嬢だ。


「気にしないでください。私のために怒ってくださりありがとうございました」


私も小声でお返事をして微笑み合う。

そしてこのタイミングで


「あの……すみません、お手洗いに……」


行きたくなってしまう私……お茶会では話すこともあまりなくてお茶を飲むしかなかったから……


こちらですよ、と案内してくれるメイドさんに


「あらぁ、逃げるのかしら?」


トイレだよ……まさか一緒についてくる気じゃないよね……

メイドさんが間に入ると、な、なによ? と怯むご令嬢。


「皆様をお待たせする訳にはまいりませんので、他の者に馬車までご案内させますが……」


とメイドさんがいうと意地悪く笑うご令嬢方。


「結構よ。ここにいるから早く戻ってきなさい」


そうでございますか、ではハル様……と先へ進むメイドさん。

皆さんから少し離れると


「……あの方達を見ていると……ときどき恥ずかしくなります」


と、メイドさんがポツリと呟く。


「自分達が口にしている食べ物が食卓に並ぶまでにたくさんの方々が関わっているとを考えたこともないのでしょう」


きっと動物の命をいただいている自覚もないのですよ、と……


失礼かもしれないけれどこんな考え方をするご令嬢

もいるのか、と少し驚いてしまう。


「私もそんなに偉そうなことは言えませんが……狩りをしている方々に感謝をしていることは伝えられます」


美味しい山の恵みをありがとうございます、と……


あ、こちらです、とお手洗いに着いたので用を済ませてから再びメイドさんと歩き出す。


このコ……めちゃくちゃいいコじゃない?

とかすぐに言うとルウに怒られそうだけれども……


「あの……お名前を伺ってもいいですか?」


聞いてしまった……

メイドさんは少し驚いてから微笑み


「メリルと申します。ハル様、メリルとお呼びください」


と、何だか凄く好意的だ。

私のこともハルと呼んでくれるなら、と笑い合う。


皆さんのところに戻りながらメリルの話をを聞くとやっぱり貴族のご令嬢。

ブラン子爵家の次女らしい。


それから


「実はハル以外の方の準備が物凄く大変だったの。ハルは私が選んだものに文句も言わずに着替えてくれたし、控え目で使用人にも丁寧に接してくれるからとても羨ましがられたのよ」


と自慢気に教えてくれた。照れる。

……だから準備を終えてからの待ち時間が長かったのか……


ん? なんか向こうが騒がしい。


「お茶会が終わったことをバイドルフ侯爵様お二人に使用人がお伝えしたのでお迎えにきてくださったようですね」


ご令嬢に囲まれているエイダンとエリオット……申し訳ないけれど行きたくない。


「エイダン様、魔道具の研究のお仕事は大変ですよね。そろそろエイダン様をお支えする……その……伴侶をお考えになられては」


財力がある素敵な方との出会いがあれば働かなくても……と言っていたご令嬢の言葉にそれなら私も、とエイダンを囲む。


「侯爵家はエリオット様がお継ぎになるのですよね。私も婚約者はまだおりませんのでよろしければ今度お茶会やパーティーに誘っていただけると嬉しいですわ」


きっと私達が並んで歩く姿は注目の的ですわよ! と……凄い自信。


あ……エリオットが私に気付いて一瞬眉間にシワが寄る……

これは後で怒られるやつ……帰りたくない。


「やぁ、ハル! 待ったよ」


片手を上げて優しく微笑みわざと大きな声でエリオットが言うと皆さんがこちらを見る……エリオットめ……


失礼、とエイダンがご令嬢方に微笑みこちらへくる。

エイダンの後ろをついてくるエリオットの顔が怖い。


振り返ってメリルを見ると大分後ろに下がっているなぁ……


「ハル、茶会は楽しかった?」


と私の髪に触れるエイダン。

……この距離感はまずいのでは……エリオットはこんな時に限って邪魔をしてこない。


「エ、エイダン様、エリオット様、ご存知でしたか? この方、狩人ですのよ! 身体に獣臭さが染み付いていますわ」


ハンカチを鼻に当ててクスクスと笑うご令嬢。

そんなに? ミアにもバンバン清潔魔法をかけられるけれど私が臭いに鈍感なのか皆さんが敏感なのか……


思わず鼻に袖を近づけると嗅ぐなよ……とエリオットに手を取られる。今回は静電気が起きなかった……


エイダンの笑顔が分かりやすく作り物の笑顔に変わる。


「私はきつい香水の臭いよりもハルの纏う空気の方が好きだけれどね」


僕も、とエリオットも微笑む。


「ハル、疲れただろう? もう用はないから帰ろうか」


エイダンのその言葉に


「ちょっ、ちょっとお待ちください! どういうことですの? まるで同じ家に帰るような言い方ですけれど……」


そうなんです……


「あの、もしかして先ほどお話をしていた馬の世話係として、ではないかしら」


まぁ、そういうことでしたの、と勝手に話が纏まった。


「馬の世話係としての仕事振りが良ければ来年は私の家でもお願いしようかしら。エイダン様、彼女の仕事振りをお手紙で教えてくださいませんか?」


どうにかしてエイダンやエリオットと繋がりたい様子のご令嬢方……


勝手に話が進んでいくけれど大丈夫かな……

私、馬のお世話はしたことがない……ごめん、チラリとエイダンを見る。


「お話することはもうありませんね」


エイダンがご令嬢に向かいそう言い


「さぁハル、私達の家へ帰ろう」


と私の手を取る。

エイダンの家、ね。


「僕も帰る」


エリオットが反対側の私の手を取る……なんで?


背の高い二人に両手を繋がれると何だか子供になった気分。

チラッと後ろを振り向くと、こちらをものすごい目付きで睨んでくるご令嬢方となぜかガッツポーズのメリル……


そうだった、これでメリルが不敬罪で告発されることはない……よかった。


迎えに来てくれた二人の手を握るとエイダンは微笑み、エリオットは


「お前のせいで不快な思いをした」


さっさと帰るぞ、と眉間にシワを寄せる。



これは……しばらくネチネチ言われるやつ…………


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