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56 住み込み



 いろいろな考えが纏まらないままエイダンを見上げる。



魔王城で働かせてもらっているのにエイダンのところでも掛け持ちで働かせてもらうなんてことできるのかな……


エイダンとの話が進んでしまったから事後報告になってしまうけれどルウに相談してみないと。


「エイダン、あの……」


「陛下は何か勘違いをしているようだったよ」


同時に話し始めた私の声は聞こえなかったみたい。


「ハルが私の家でメイドとして働くと思っているようだった」


勘違いではないかな……私がそう言ったから。


「エイダンあのね、少しの間……冬の間だけ働かせてもらえないかな」


冬も森で過ごすと言ったら国王様が心配してくれて冬の間お城で働かないかと言ってくれたのだけれど……と話して


「お城で働くなんて自信がなくてとっさにエイダンのお家でお手伝いをすると言ってしまったの……勝手なことを言ってしまってごめんなさい……」


だから断わってくれても大丈夫だから……と。

エイダンはそういうことか……と少し考えて


「ハルがメイドをする必要はないのだけれど……」


チラリとこちらを見て


「その方が気兼ねなく過ごせるのならそうしてもらおうかな」


と私の表情をみて空気を読んだエイダンが少し眉を下げて微笑む。


「ただし、住み込みで私の家のハルの部屋を使うことが条件だよ」


通いにしてもらおうと思っていたのに……


「魔道具を使うとしても暗くなってからハルを一人で帰すわけにはいかないし」


紳士……


「一人暮らしなら住み込みでも問題はないよね」


自分で言ったことが首を絞めてくる……嘘は良くないということか……


「…………」


コクリ、と頷く……しかなかった。

ルウに話したらなんていうかなぁ……


「良かった。私は今夜から来てくれてもいいのだけれどどうする?」


今夜からはちょっと……


「……七日後からでもいいかな?」


いろいろと準備が……


「ハルは身一つで来てくれたらこちらで全て揃えておくけれど……」


そういうわけには……


「七日後からでお願いします。それからうちの様子を見に週に二日は家に帰りたいです」


週休二日をお願いするとわかった、とエイダンも頷いてくれた。


それから私は友達のところに戻ると言いエイダンと別れてララ達の元へ向かおうと思ったけれど……


……なんか疲れた……


自然と足は休憩室へ向かい……誰もいない部屋のソファーに座って頭を抱える。


どうしてこうなったんだっけ!?


ルウにはなんて言おう……

住み込みになったらみんなと過ごす時間も減ってしまうなぁ……


ここ最近は……みんな忙しそうだけれど……


とにかく……みんなにもちゃんと話さないと……

心配……かけちゃう……かな……


少しだけのつもりでソファーに寄りかかり目をつぶるとそのまま眠ってしまっていた。



「ハル」


小さな手で私の手を握り見上げるルウ。


「あれ!? ルウ、また子供になっちゃったの?」


ため息をつくルウ……


「また変なことをいって……」


あれ……? ルウは大人で私よりも背が高くなっていたはずなのに……


寝ぼけているの? とルウの目線に合わせてしゃがむ私の頬に小さな手で触れるルウ。


「熱がある……」


? 体調は別に悪くはないけれど……


「大変だ……ハルが死んじゃうっ……」


僕には治せないのに……と泣き出しちゃった……


「ルウ? 私は元気だよ」


そう言って笑うけれども首を振るルウ……


「ハル……ハル……いなくならないでっ……いやだっ……」


お願いだから……と私に抱きつくルウ……可愛すぎるっ

私もルウを抱き締めて頭を撫でながら背中を軽くトントンとたたく。


子供扱いするなと起こられるかと思ったけれども珍しくされるがままのルウ。


「大丈夫だよ、いなくなったりしないから……大丈夫」


そういうと安心したのか目を閉じて私に身を任せる。


「大丈夫……大丈夫……」


子供でも大人でもルウがもういいと言うまで側にいるつもりだから……



「……ハル、僕……もう限界なんだけれど……」


大丈夫だよ……


「う……ん、大丈夫……」


抱き締めたルウの頭を撫でる……


「ハル……本当にもう……」


……あれ……? ルウの声が低いような……

私まだ寝ぼけて……?


いやいや、ルウの頭を抱き締めているし目も開いて……いない!?


恐る恐る目を開けて抱き締めているルウを確認する……

子供……だよね?


「……ハル……」


私の胸に埋もれて少し苦しそうな……潤んだ瞳のルウと目が合った。


「ルウッ……なんっ……大人!?」


いや、それよりも


「ご、ごめんっ……苦しかったよね!?」


寝ぼけていたからかなり強く抱き締めていたかもしれない……


「ハルに抱き締められるのは好きだよ」


慌てて腕を緩めたけれど困ったように笑いそこに留まるルウ。


「ただ……」


クルリと私に背を向けて


「キッチンへ行っているね」


と、部屋から出ていってしまった。

……トイレとか水を飲みたかったりとか……我慢させてしまっていたのかも……ごめん。


あれ……? ここ……いつの間に……どうやって家に帰ってきたのか……思い出せない。


確かパーティーに参加して……いろいろあって疲れてソファーで寝てしまったんだ……

ルウが家まで連れて帰ってくれて朝まで一緒に寝ていたのか。


「ルウ……ありがとう。あの……ごめんね」


キッチンを覗き二人分のお茶をいれてくれているルウにそう声をかける。


「……誰でも出入りできる部屋のソファーで寝てしまっていたこと? それともエイダンの家で住込みで働くこと?」


全部知ってるーっ!


「ご……ごめんっ……」


もう全部ごめんっ


「ハル……ハルを責めるような言い方をして悪かった。彼らは少し強引なところがあるからね。ハルは悪くない」


ただ、休憩室のソファーでは寝ないでね、と微笑まれた……ごめんなさい。


椅子に座ってルウがいれてくれたお茶を二人で飲む。

ふぅ……と落ち着いたところで


「それで……ですね、みんなのお陰で魔王城で働かせてもらっているのだけれど……」


ルウが私を見つめる。


「冬の間だけなのだよね? それなら魔王城での仕事はしばらく休んでも……構わないよ」


え? てっきりクビになってしまうかと……

あともっと怒られるのかと……


「い……いいの?」


いい、とも良くない、とも言わずに


「……今回だけ……次はこんなことにならないようにする」


ルウのせいじゃないのに……



それから六日後、ルウがエイダンの家まで送ってくれた。


エイダンの家から少し離れたところでルウは姿を消してしまったけれど……やっぱり怒っているのかな……


みんなも……この話を伝えたときのことを思い出す。



「ハルらしいと言えば……ハルらしいかな」


どういうことかな……アレス


「ど、どうしてそ、そうなるの?」


レト……私も知りたい……


「マヌケすぎ」


いつもハッキリ言ってくれてありがとう……ライオス


「ハル……」


そんな目で見つめないで何か言ってグレン……


「……ほんっとにあんたはっ……」


どうしようもなかったんだよぅ……ロゼッタァ


「……大丈夫……」


ミア……ありが…………何が?


「とっ……とにかく! 毎週帰ってくるけれど、とりあえずおやつの作り置きをしておくからみんなで食べてね」


食事はみんなそれぞれ好きなものを好きなときに食べるらしい……食事はいつもみんな一緒だったのに……ごめん。


おやつでどうにかみんなの気持ちを誤魔化してからルウにエイダンの家へ送ってもらった。


ノックをするとすぐにエイダンが出迎えてくれた。

こんなに大きな家に本当に一人で住んでいるんだなぁ。


「ハル、今日からよろしくね」


どうぞ、と家に招き入れてくれた。


「今日からよろしくお願いします」


と改めて頭を下げる。


「堅苦しいのは無しにしてハルも自分の家のようにゆっくり過ごして欲しい」


そう言ってくれたけれども賃金が発生している以上仕事はきっちりしますよ。


「私も休みをもらったからしばらくは一緒に過ごせるよ」


そんな恋人みたいな言い方…………


「まぁ、休みといっても仕事を家に持ってきているから研究所に行かなくていいだけでなのだけれどね」


そう言って眉を下げて笑う……なるほど、在宅ワークか。


「なるべく邪魔にならないようにするね、それから入って欲しくない部屋とかがあれば教えておいて欲しいのだけれど……」


ん? と首を傾げて


「ハルの家でもあるのだからそんな部屋はないよ」


……エイダンって普段からこういう感じなのかな……

なんて言うか……話し相手に勘違いされそうな……


「ハル? とりあえず荷物を部屋へ運ぶよ」


と私が持ってきた鞄を持って二階へ向かうエイダン。

あれ……そういえば……


「隣は私の部屋だから何かあればすぐに呼んでくれて構わないからね」


そうだった……この部屋……ドア一枚でエイダンの部屋と繋がっているんだった……


「エイダン、私やっぱり一階の空いている部屋で……」


エイダンが微笑み近づいてきて私の髪に触れる。


「私が言った条件、忘れていないよね?」


…………はい



こうしてエイダンの家での生活がはじまった。



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