53 魔王城でのパーティー
魔王城でのパーティー当日。
ルウ達は魔王様の代わりに王族や貴族を迎え入れたりして忙しそう。
私はミアとロゼッタと一緒に身支度を整える。
「二人とも素敵」
いつか二人にも大切な人ができてあの家を出て行ってしまう日がくるのかもしれない……
ドレス姿の二人をみて、ふとそんなことを思う。
それにしても……
「ロゼッタもミアも……リボンに合わせてドレスを選んだの?」
頷くミアとミアがそうしたから私も……とうつむいて視線を合わせてくれないロゼッタをみて思わず笑ってしまう。
「他にもたくさん色があったから今度一緒に選びにいこうね」
そう言うとロゼッタも顔を上げて小さく頷くとフイッと目をそらす。
私も着替えを手伝ってもらってからウサギの仮面を着けると二人も目元を隠す仮面をつける。
今回も口元は覆われていないから仮面を着けたままでも食事はできそう。
仮面は着けなくてもいいのだけれどせっかくの仮装パーティーだし用意してもらったからちゃんと着ける。
三人で会場へ向かうと早速知っている顔を見つけた。
近づいていくと向こうも気がついた。
「ハルゥ?」
うん、と頷き
「ミリア、こちらは……」
と振り返るけれど、ロゼッタもミアもいなくなっていた。
ミリアのお店に二人を連れていこうと思っていたから紹介したかったのに……
本当に人前には出たがらない……
「ミリアは誰かと一緒に来たの?」
ううん、と首を振るミリア。
「それなら一緒にいてもいいかな」
私も一人なんだ、と笑うといいよぉ、といつも通りまったり答えるミリア。
会場の中は様々な格好をしている人達で溢れている。
「ミリアは前に向こうのお城で開催されていたパーティーにはいかなかったの?」
そういえば見かけなかった。
「うん、行かなかったよぉ」
ほとんどの街の人達は滅多に入れないお城や豪華な食事が出るパーティーに参加できることにワクワクしていたようだったけれど……まぁ、参加は自由だからね。
「こっちには来て良かったぁ。見たことがない魔道具がたくさんあるしデザインも素敵ぃ」
と楽しそうに笑う。
私のようにまずは料理に目がいかないところが、さすがお店を開いているだけのことはある。
「ハルの家は近いのぉ?」
この森に住んでいるのでしょぉ? とキョロキョロと周りの魔道具を見ながら話す。
「ちょっと離れているかな」
ルウに連れてきてもらうとあっという間だけれど。
そうなんだぁ、と周りに夢中になりながら返事をするミリア。
「ミリア、飲み物を持ってくるから少し待っていてね」
魔道具に夢中なミリアにそう声をかけると、私お酒も飲めるよぉ、というから思わず笑ってしまった。
会場の中にはどんどん人が集まって来ているからララ達も到着しているのかも。
グラスを二つ持ってミリアの元へ戻りお酒を渡すとミリアはすぐにグラスを空にした。
「美味しいぃ、これは……どんな魔道具で作っているんだろうねぇ」
やっぱり魔道具。街では売っていないお酒なのか。
いつの間にお酒作りまで……
みんなあまり楽しみではなさそうだったけれど、このパーティーのためにたくさん準備をしてきたのだろうなぁ。
ミリアが他のお酒も飲んでみる、というから移動する。
これも美味しいこっちも美味しい、と次々とグラスを空けていくミリアにつられて私も飲んでしまう……私が飲んでいるのはアルコールが入っていないけれど。
そんなペースで飲んでいるとララがこちらに手を振りながらやってきた。
「ハル、ミリア!」
パーティーに出るなら言ってくれたら一緒に来たのに、とミリアの頬をつつきながらララが言う。
それからララがミリアをジッとみて頬に手を添える。
「二人とも飲み過ぎじゃない?」
私の方はアルコールは入っていないよ、と伝えると少しホッとしたような顔をして再びミリアに視線を戻す。
ミリアはお酒が強いみたいだけれど少し飲むペースが早かったみたい。
ララがお水を持って来てミリアに飲ませている間に私はやっぱり行きたくなってしまったお手洗いに行ってくると言いその場を後にした。
お手洗いを済ませて戻る前に少しだけ静かなところで休もうかと思い会場とは反対の方へ進み角を曲がろうとすると……
「ンッ……ア……ハァ……フフッここではダメよ」
女性の声……
「……ではその部屋へ入りましょう」
男性の声……
「パーティーはこれからなのよ。挨拶の前に髪も服も乱れてしまうわ」
これは……
「……ではしばらくしたらまたここで会いましょう」
「フフフッ……いいわよ」
絶対……いたしますよね!?
恋人か夫婦かな……仲がいいのは良いことだけれど帰ってからにして欲しい。
服を整える衣擦れの音の後に二人がこちらへ歩いてくる。
廊下は長いからこのまま会場に向かって歩いても私がいたことはバレるし走ったりしたら余計に気まずくなりそうだから……
急いで少しだけ戻って自然な感じで歩き出しすれ違う。
何も見ていないし聞いていないですよ、という感じで。
それなのに……
「あら……?」
すれ違う瞬間、女性が小さな声でそう言ったのが聞こえた。
女性は男性に先に行くように言うと私を呼び止めた。
「あなた……確か以前開いたパーティーでも見かけたわ」
仮面越しに女性を見るけれど知らない人……随分と派手に着飾っているから街の人ではなさそう……
「あの時は猫の仮面を着けていたわよね」
戸惑っている私を他所に話しかけ続ける。
「はい……」
そう答えるとニコリと微笑む女性。
「あなた、人間よね? あの時、魔族の男性とダンスをしていたわ。もしかしてあの方と知り合いなのかしら」
私が誰かも聞いてこないし女性も名乗らない……
貴族だから私に気を遣わせないため……と言うわけでもなさそうだし、そもそも私に興味がないのだろう。
あの時私と踊ったのは……アレスだ。
アレスに興味が……?
「……いいえ、突然ダンスを申し込まれただけなので……」
何となく嫌な感じがして嘘をついてしまった……
「そう、他の娘達と同じね」
フゥ……とため息をつく女性……
あの時、レトとライオスも何人かと踊っていた……
魔族と踊った女性全員に聞いたのだろうか……
「ダンスをしているときに何かお話をした? 例えば魔王様の事とか」
探るように私を見ている。
魔王様に興味があるのか……
「……特には……魔王様のお話は聞いていないです」
そう……と目を細める女性。
「ところであなた、私のことを知っているわよね?」
しっ……知らない……何なの? 有名人? まぁ……綺麗な人ではあるけれど……
「……申し訳ありません、この辺りに来てからまだ間もないので……」
まぁ、そうなの? といいながらも
「それにしてもこの国の王妃の顔くらいは知っておくべきね」
あら、そういえばこの辺りはもう魔族のものだったわね、と言いながら少し私に呆れた様子で話す……王妃!?
え!? それならさっきの男性は王様? そんな風には見えなかったけれど……
それに前のパーティーでルウと話していたのが王様だったはずだから……さっきの男性とは髪の色も全然違う……
う……浮気現場をみてしまったのかな? 面倒なことに……
それにしてもやけに落ち着いているような……
「王……妃様、ご無礼をお許しください。ほとんどを森の中で過ごしておりますので世間に疎いというかなんといいますか……」
チラリと私をみて
「森でねぇ。魔族や魔獣に会ったことはあるかしら」
いいえ、と首を振る。
「…………そう?」
なんか……怖いんですけど……
「まぁいいわ。もし魔族と知り合ったり魔王様のことを聞いたら私に教えなさい」
なんで?
「あの……なぜそんなに……」
何がしたいのだろう……
「魔王様と結婚するためよ」
あ、そうなん…………ん?……結婚っ!?
あれ? え? あまりにもさらっというものだから納得してしまうところだった。
王妃様って王様の……王様と結婚しているのでは……?
さっきも恋人っぽい人といたし……
もしかしてこの世界では当たり前のことなのかな……
わからない……
「この魔王城へ来て確信したわ、そうするべきだって」
あなたも女性ならわかるわよね? と微笑まれたけれど……
「ここは素晴らしいわ。魔道具はお城でも見たことのないものもあるし数も多い、潤沢な魔力があるからよ」
内装は少し地味だけれど私が変えていけばいいわよね、と。
え……え? ここに住むの? 話がどんどん進んでいくけれど……頭が追い付かない。
「……魔王様とはお会いしたことがあるのですか?」
前のパーティーでそういう話になったのかな……
「いいえ、お会いしたことはないわよ」
…………
だんだん何の話をしているのかわからなくなる……