51 案内係
はりきって部屋を出たけれど……
歩き回る仕事って……
どの部屋も好きに見ていいと言っていたからなるべく覚えながら進んでいきたいけれど……
廊下は長いし部屋数も多い。
とりあえず、トイレとかキッチンを見に行こうかな。
廊下を進んでいくけれど……本当に誰にも会わない。
お城の中は明るくて柔らかい雰囲気だから怖くはないけれど少し不安になってくるなぁ。
「キッチンは一階かな」
思わず一人言も出てしまう。
「ニャー」
えっ!?
「猫?」
突然、猫が現れた……
「えーっ!! 可愛いっ」
可愛い可愛い黒猫さんを可愛い可愛いと言いながら撫で回す。
私が少し落ち着くと黒猫さんは振り返りながら歩き始める。
ついて行ったらいいのかな? と思いながら黒猫さんの後に続いて歩いていくと……
「キッチンだ……道案内してくれたの?」
なんて賢くて可愛い黒猫さんなんだ!
ありがとう、と撫でると黒猫さんはニャーと満足げに鳴き、消えてしまった。
どこかへ行ってしまったのではなく本当に目の前でフ
……と消えてしまった……
「そっか……魔道具から出てきた黒猫さんだったんだ……」
ルウがお城の中は広いけれど迷わないようになっていると言っていた。
「行きたい場所を言うと案内する者が出てくるから」
と。案内する者が出てくる? と思っていたけれどまさかあんなに可愛い案内係が来てくれるとは思わなかった。
キッチンも広くて綺麗で道具も一通り揃っているけれど、静まり返っていて使う人はまだいないみたい。
ルウ達は魔力でなんでもできてしまうからもしかしたら調理器具はないのでは……と思っていたけれどたぶん人間のお城と同じくらいちゃんと揃っている。
料理人を雇うのかな……魔王様の好きな食べ物ってなんだろう? 甘いものは好きかな?
私もここを使わせてもらえれば焼きたてのお菓子をお茶と一緒に持っていけるかな。
後でルウに聞いてみよう、そう考えながら一通りキッチンを見てまわり次は……
「トイレかな……」
そう呟くと……
「ピチチッ」
小鳥が肩に……小首を傾げながらこちらを見ている。
「うわぁ可愛いっ……」
勢いよくいくと逃げてしまいそうだからそっと指で触れると私の頬に頭をスリスリと……あぁ……可愛い……
この子のためなら何時間でもここに立っていられる……
と、思っていると小鳥は肩から飛び立ち私の周りを一周してからトイレまで案内をしてくれた。
小鳥が差し出した私の手にとまりピチチッと鳴き再び飛び立つと黒猫さんと同じようにフッ……と消えてしまった。
あぁ……もう少し一緒にいたかった……
本当にお城の中で迷うことはなさそうだ。
廊下の窓から外を見ながらそう思っていると、ふともしかしたら……と思った。
「魔王様……」
試しに呟いてみた。
「………………」
いまだに会ったことのない魔王様のところへ案内してくれるコがでてきてくれるかも、と思ったけれど出てきてはくれなかった……もしかしたら具体的な場所を言わないといけないのかな?
魔王様のお部屋、とか。
もう一度口を開きかけた瞬間、外で何かが動いた気がした。
窓の外を見てみると遠くからこちらへ向かってくる……
「アオ!?」
アオもお城に来ていたのか。
キッチンにあった外へ続くドアを開けて庭に出る。
アオが近づいてくるけれどもなんか……
「また大きくなった?」
手を伸ばすと顔をスリスリとしてくる甘え方は変わらない。
「立派になって偉いねぇ、可愛いねぇ」
と撫でると嬉しそうに私の身体に顔を押し付けてくるから踏ん張って受け止める。
寒いけれど天気はいいしせっかくだからアオと一緒に庭を散歩してみようか。
庭も綺麗に手入れはされているけれど人の気配はない。
私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれているアオに思わず話しかけてしまう。
「本当に誰もいないね、アオはこの辺りで誰かに会った?」
ブルルッと首をふるアオを見てもしかしたら言葉が通じているのかも、と思ってしまう。
「こんなに大きなお城で綺麗な庭もあるのに誰もいないなんてなんだか勿体ないね」
そう言いながらも魔族には魔族の暮らし方があるのだから彼らが快適に過ごせるのならそれでいいとも思う。
「今度ここでパーティーをやるらしいぞ」
アオが…………喋ったっ……
「ア、アア……アオアオッアオ……は、話せるの!?」
アオを見上げるとこちらを見つめている。
え? こっちの世界の馬って……話せるの?
「ブッ……クックック……ハルッ本気かっ」
ヒィーヒィーと苦しそうにお腹を抱えて笑っているライオスがアオの向こう側に見えた。
「………………」
私の顔を見ては笑い出すライオスが落ち着くのを待つ……
「ライオス、いつの間に……」
頃合いをみて話しかける。
また笑いだしそうだからすぐに聞いてみる。
「パーティーって? このお城でパーティーがあるの?」
私の質問に口元を手で隠しながら答えるライオス。
「あぁ、ここでやる。人間を招待してな」
この前はあちらのお城から招待を受けたから今度はこちらからということかな。
それにしてもライオスはあまり興味がなさそう……
「ライオスは嬉しくないの?」
魔族の国ができて人間の国と交流を持つこと……
「別に……どうでもいいかな。俺はあの家でハルのうまい飯が食えたら」
ニッと笑いながらこちらを見る。
「ご飯だけかっ」
なんとなくあまり深く聞くことが出来ない雰囲気に思わず突っ込んでしまう。
「おやつも」
おやつって……子供みたいな言い方に思わず笑ってしまう。
「ハルは……いいのか? 人間の街で人間と暮らさなくても……」
突然静かな声でそう聞かれたから少し驚いてライオスを見る。
自分で聞いておいて答えを聞くことを怖がっているような……いないような……
いつものふざけている感じとは違うライオスの様子になんとなくちゃんと答えないといけないような気がした。
「魔族とか人間とか……正直あまり考えたことはないかな」
元々魔族のいない世界で生きていたし、最初に会った魔族がルウ達だったからそう思えたのかもしれない。
もし、私がこの世界に来たときに文字が読めてあの家にある本を読んでいたら……
実際に会ったことがなくても魔族とはそういうもの、という先入観は持ってしまっていたかもしれない。
私は魔族のこともこの世界のこともまだあまりわかってはいないと思うから、魔族と人間の違いって魔力が有るか無いかと、子育てに関してのことくらいじゃないかと思っている……大きな違いではあるけれど。
本にはまるで魔族はみんなそうだというように、残酷で気まぐれな性格だと書いてあったけれど……そんなの魔族も人間も関係ないのではないかなと思う。
「ハルらしいな」
そう言って私の髪に触れるライオスの手は優しい。
「私はみんなが大切で……みんなと一緒にいられたら嬉しい」
いつかどこかへ行ってしまうかもしれないけど、それでもみんなが帰ってこられる場所でありたい。
最初に出会ったときはみんな子供の姿をしていたからそんな風に思ってしまうのかもしれない。
「そういえばここで開かれるパーティーには街の人達も参加できるの?」
いつかみんなが離れていってしまうかもと勝手に想像しただけで寂しさが込み上げてきたのを誤魔化しながら話を戻す。
「あぁ、人間の城でやったパーティーと同じような感じだな」
あの時は街から城へ馬車が出ていただろう? と。
私もララとその馬車でお城に向かったから覚えている。
「今回は馬車の代わりに移動用の魔道具を使う。馬車よりもでっかい箱に詰め込んで運ぶ感じだな」
言い方……
「まぁ、そんな回りくどいことをしなくてもドアとドアを繋げばいいんだが……」
そんなこともできるの!?
「あまり簡単に来られても面倒だしな」
今はまだ、と無邪気な笑顔を向けられたからつい微笑み返したけれど……そうなの?
「ハル」
フワリと背中が温かくなる。
「身体が冷えている。そろそろ中に戻ろう」
風邪を引いてしまうよ、と後ろから私を抱き締めて頬に触れるルウの手が温かい。
いつの間にか身体が冷えていたみたい。
温かいお茶をいれてくれると言うルウにお茶は私がいれるから他のみんなも呼んできて欲しいと頼む。
お茶とお菓子を用意している間にみんなが集まる。
みんなとおしゃべりをしながら温かいお茶を飲み身体も温まってきたところでふと思う。
お城に働きにきたのに……
森の家にいる時と同じじゃない? ……と