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50 魔王城



 アレスとのダンスを終えてララと合流する。



「ハル、あの方と知り合いなの?」


二人が踊っている姿が素敵だったと言ってくれたけれど……私は曖昧に首を振り何か食べようとララを誘う。


「仮面で目元が隠れていたけれど素敵な方だったわね!」


たぶん街では見かけたことはないから貴族か……もしかしたら魔族の方かもしれないわね! と少し興奮気味に話すララもテーブルの料理に手をつけ始めるとすぐに話題は食べ物の話しに変わった。


それからファルとティファナにも会ってそれぞれの恋人とも挨拶をして街までの帰りの馬車も一緒に乗って帰った。


「ハル、帰りはどうするの? 今夜はうちに泊まっていく?」


ララがそう言ってくれたけれど


「これから友達と会うから大丈夫だよ、ありがとう」


そう言うとティファナが


「それなら今度、お泊まり会をしましょう」


それは楽しそう! 


「お? それは俺も参加できるのか?」


とふざけて話しに入ってきたファルを笑顔でかわし、また今度ね、と笑って手を振って皆とは別れた。



まだお城にいる人が多いからかいつもよりも静かな夜の街を歩いているとフワリと背中と首元が温かくなる。


「ルウ?」


うん、と耳元でルウの声がする。


「ハル、帰ろう」


うん、と頷くと人通りのないところで今度は身体がフワリと浮く。


「城は楽しかった?」


楽しかったよ


「友達にも会って知り合いも増えたし、ご馳走もたくさん食べた」


でも少しだけ寂しかった……


「会場でルウと会えなかったけれどどこにいたの?」


もしかして……


「もしかして魔王様と一緒だったの?」


魔王様に会えたという人の話しも聞いていない。

いいや、と首を振るルウ。


「でも、国王様とはお話をしていた……よね?」


玉座は遠かったし人も多くてよく見えなかったけれども……チラッとだけルウが国王様の側にいるのが見えたような気がした。


あのシルエットはたぶん……

少しだけ驚いたようにこちらを見るルウ。


「みんなお城で働いていたって言っていたし、もしかして魔王様とこの国の橋渡しみたいなことをしているのかなぁ……なんて……」


みんな頻繁に家を空けていたし……私の知らないところでもしかしたら両国のために動いていたのかもしれない。


「ハル……」


ルウが迷っている……


「なんとなくそう思っただけだから……無理に話さなくてもいいからね」


今まで私に言わなかったのには訳があるのかもしれないし……


「違うよ」


……違ったみたい。

え……なんかそんな感じの雰囲気はなんだったのか……


「いや、違わないかもしれないけれど……僕達はそんな大層なことはしていないよ」


クスクスと笑いながら私の頭を撫でるルウ。


「さぁ、家に着いたよ」


なんだか曖昧な答えだったけれどもなんとなくそこでこの話しは終わった。



それから数日後……


「積もったねぇ」


チラチラと降り始めた雪が降り続け、とうとう一面銀世界。


雪が周りの音を吸収して静けさが増す森も好きだけれど……

こうなると森で私ができることはかなり減ってしまう。


みんなは変わらず外に出たりしているけれど、私は閉じ籠ることが多くなる。


「少しの間、街で働いてみようかな……」


そう呟くとみんなが私を見る。本当にみんな綺麗な瞳だなぁ。


「なんで?」


ライオスが……心なしかみんなが睨んでくる……なんで!?


「働かせてもらえるかわからないけれど冬の間だけどこかで……」


そういえば……


「そういえばララが冬になるとお城で働いている人達も何人か帰省するから短期の募集がかかるかもって言っていたような……」


経験も無いし雇ってもらえるかわからないけれど……

貴族でもないから下働きで働かせてもらえたらお城の中は暖かかったしいい職場かもしれない。


「「「「だめだ」」」」


「「だめよ」」


全員反対……なぜ……


「でも……冬の間だけだし……あ、もし住み込みだったらご飯は何日分か作り置きしておくし無くなりそうになったらまた」


「ハ、ハルは……働きた、たいの?」


家に籠るのもいいけれど、春までにお金を少しでも貯められたらいろいろと買ってあげられるし……


「……うん」


「そ、それなら魔王城で働くのはど、どうかな」


え!? と私以外のみんなもレトを見る。


「魔王城……? なんてあるの?」


「う、うん。そ、その方がここからち、近いしできたばかりだから働いている人もまだす、少ないはずだよ」


そうなんだ……ってその前に


「うちの近くにお城があるの?」


いつの間に……全然気が付かなかった。


「近くと言っても歩いて行くのは大変だよ。行くときは僕が連れていく」


みんなは行ったことがあるのかな……というか


「もしかしてみんなが建てたの?」


それでいつもいなかったのかな……


「少し手伝ったかな……」


グレンが曖昧に答える。


「とにかく、こっちの城には僕が連れていくからね」


ルウ……


「まだ働けるかわからないし……面接とかどうするんだろう」


ルウ達の知り合いが働いているのかな。


「本当は外に出て欲しくないのだけれど……遠くへ行かれるよりはましかな」


ルウが困った子を見るような目でこちらを見る。


「ハルなら大丈夫だよ。すぐに働けるから」


魔族はそもそも集団で過ごすことがないからお城はあるけれど人は少ないらしい。


「僕もなるべく城で仕事をするしね」


やっぱりルウは両国のために働いているのか……

それにしても……


「どうして突然国を作ったのかな……」


なんとなく呟くと


「……安心できる場所が欲しかったから……かな」


ルウが優しく私の髪に触れてそう言う。

故郷みたいな? 


「確かに……ずっといられる場所や帰ってこられる家があるのって安心するし、それがあるから頑張れたりするものね」


たまたまでもそういう場所がこの森なのが嬉しい。

私にとってもここがそうだから。


魔王城には明日連れていってくれると言うルウ……


「明日? 先触れとか何か……しなくていいの?」


突然行ってもいいものなの?


「うん、僕と一緒だから大丈夫だよ」


そう……なの? 


「そっか……それなら明日、よろしくお願いします」


そう言うとうん、と微笑むルウ。



翌日、ルウがくれたワンピースに袖を通して髪を整える。


「行こうか」


ルウの言葉に頷くとフワリと身体が浮く。

少し高く浮くと見えた。


「本当にあったんだ……」


上から見ると家から近いような気もするけれど確かに歩いて行ったら大変そう。


「この辺りに街ができたりするのかな?」


国ができてお城があって……


「ハルは街があった方がいいのか?」


私の言葉をルウが拾う。


「人間の国と交流するなら宿屋とか食堂とかあった方がいいのかなって……」


でも魔族は集団では暮らさないんだった。


「森の奥までは皆来ないか」


定期的に国の間を行き来できるような魔道具があれば日帰りでも帰れるけれど、そんな魔道具があるのかどうか……


それにあったとしてもたくさん魔力を消費するようなものなら使って欲しくはない。


「この国はできたばかりだからね、これから国らしくなっていくのではないかな」


そっか……なんだか歴史的に貴重な場にいるような気がする。


「お城に着いたらどうすればいいのかな」


そう言っているうちに到着。


「僕に付いてきて」


と私の手を取るルウ。

職場で手を繋いで大丈夫なの? と心配したけれど本当に誰にも会わなかった。


それにしてもこのお城……


なんとなく魔王城っていう響きからカッコいい感じを想像していたけれど外から日の光も入ってきて床やカーテンも柔らかい色でまとめられていてすごく……私が好きな感じだ。


天井も高くてこんなに大きなお城なのに暖かいし。


「ここで待っていて」


案内された部屋に入るとルウはすぐ戻る、と言いどこかへ行ってしまった。


ここで面接とかするのかな。

ソファーにかけて待っていると、ルウがお茶とお菓子を持って戻ってきた。


ルウと一緒にお茶を飲んでしばらくお喋りをした後に


「ハル、まずは城の中を自由に歩いてみて、もし不便なことや改善した方がいい点があれば教えて欲しい」


それが今日の仕事だよ、って……


「? 私、ここで働かせてもらえるの?」


そうだよ、とルウは頷くけれど


「来たばかりの私がお城の中をあるきまわっても大丈夫なの?」


フフッ、と笑い大丈夫だよ、と私の頭を撫でる。


「制服はあるのかな?」


制服……そうか……と呟き


「ハルはどんなのがいい? 用意するから」


どんなのがって私が決めてもいいのかな……とりあえず


「この前お城でみたメイドさんが着ていた制服も素敵だったけれど……仕事内容によっては庭師みたいに動きやすいものがいいかな?」


そうか、わかった、と微笑み


「帰りは迎えにくるからゆっくりしていて」


そう言ってルウは部屋を出ていってしまった。

ゆっくりしていてって……働きにきたんだけどなぁ。


お茶を飲み干して立ち上がる。

よしっ! 初仕事だ!


お城を歩き回ってみよう。


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