47 パーティー
ある日、ルウが招待状を持って帰ってきた。
「招待状?」
うん、と頷くルウから招待状を受け取る。
「お城で……しかも仮装パーティー! 楽しそう!」
そうか、よかったと微笑むルウ。
よかった……?
「ルウと……みんなもパーティーに行くの?」
みんなどんな格好をするのかな……
「うん、ハルも一緒に行くんだよ」
え……!?
「私も?」
うん、
「お城に?」
うん、
「パーティーに?」
うん、
「どうして?」
首を傾げる私を見てクスクスと笑うルウ。
「みんな招待されているからだよ。魔族の国とあちらの国が友好関係を築けたお祝いだからね。城でパーティーと言っても今回は正装じゃなくてもいいし、街の人達も参加する気軽なものらしいよ」
へぇー……それじゃぁララ達も参加するのかな。
「あ……でも私、仮装っていっても何を着ていけば……」
「ハルの服は僕が用意するから大丈夫」
この世界の仮装がどんな感じなのかわからないからそれは有難いのだけれど……いいのかな、と考えていると任せて、とルウが言ってくれたからお任せすることにした。
「もしかして王様とか魔王様もいたりするのかな?」
フフッとルウが笑い
「城でやる国同士の親交を深める場だからね。来るんじゃないかな」
そうか……そうだよね。
「それなのに仮装パーティーなの?」
結構大切な場だと思うのだけれど……
「うん、魔族側の希望でね。僕達の王は恥ずかしがり屋みたいだ」
そうなんだ。
「それならもしかして会場で魔王様にご挨拶ができたりするのかな」
気が付くかはわからないけれど。
「そうかもね」
そう言って笑って私の頭を撫でるルウ。
森に住んでいるしもし魔王様に会ったらご挨拶くらいはできるといいな。
それからパーティーまでの間に私は何度もみんなにどんな格好をしていくのか聞いたけれども教えてはもらえなかった。
そしてパーティー当日、ルウにドレスを……衣装? を渡されてロゼッタの部屋でミアも一緒に着替えをした。
ロゼッタは夜空のように深い青色のドレス、ミアは深紅のバラのような赤いドレス。
「二人ともすっごく素敵!」
わぁわぁと騒ぐ私を少し頬を染めながらも鬱陶しそうに見るロゼッタとクルリと回って全身を私に見せてくれるミア。
うちの子達が美しすぎてっ!
キャーキャーと心のシャッターを切りまくっていると
「ハルも早く着替えなさいよ」
とロゼッタに言われてしまった。
ミアが私の服に手を掛けて脱がせようとする。
背中の編み上げのリボンを一人では結べないからここは素直に手伝ってもらおう。
ルウが用意してくれた服はレンガ色? おしゃれな感じに言うとガーネットブラウンに近い色なのかな。
ロゼッタとミアのドレスに比べるとカジュアルな感じでドレスというよりも綺麗目なワンピースだ。
二人に髪を結って欲しいと頼まれたからドレスの雰囲気に合うように結い上げる。
鏡を見て満足げに微笑んでから二人に下に行きましょう、と言われ階段を下りる。
リビングへ行くと黒のタキシードにマントを着けている後ろ姿が……後ろ姿なのに素敵なのがわかる。
振り返ると目元を隠す仮面を着けたルウが微笑む。
息をのむってこういうことか……
「ルウ……」
「ハル、とても似合っている。素敵だよ」
先に言われてしまった。
ルウが着けている仮面をよく見ると目の部分もメッシュのようになっていて……
「見えているの? それ……」
と思わず聞いてしまった。
「これ?」
と仮面を外して私の目に当てて見せる。
うっすらとは見えるけれど危なくないのかな。
「魔力を使うと着けていないときと同じように見えるんだよ」
なるほど、そういうことか。
ロゼッタとミアもそれぞれドレスに合った色の仮面を持っている。
「ハルの仮面も用意しているよ」
はい、と渡されたのは………………
ルウは先に城の様子を見てくるからハルは街の人達と一緒においで、と言って街に私を置いて行ってしまった。
他のみんなもバラバラで行くらしい……みんな一緒に行くと思っていたからちょっと寂しい。
でもみんなのドレスアップした姿を見たら……ただでさえ人前に出たがらないのにみんな纏まって行ったらかなり目立って騒ぎになってしまうよね……
街はお祭りのときのように賑わっていてお城のパーティーに行く人も行かない人もみんな仮装やドレスアップをしていた。
ファルとティファナは恋人と参加するし、ミリアは行きたくなったら行くと言っていた。
ララに一緒に行けるか聞いたら喜んで、と言ってくれたからララのパン屋に向かって歩く。
なんだかハロウィンみたい……
マントを着けたり手作りのティアラを頭に乗せていたりと可愛い感じの子供達や魔女や踊り子さんのようなちょっとセクシーな感じの女性達、騎士の格好やちょっとふざけたガイコツの絵を描いたフルフェイスのマスクを被った男性もいる。
お城からの招待ということで街からお城までの馬車が定期的に出ているみたい。
招待状を持っていない人でもお城の庭までは入れるようにしているらしくお菓子やご馳走が用意されているそうだ。
「ハル!」
お店の前でララが手を振っている。
クリーム色のワンピースに頭には花冠を乗せていてまるで妖精のお姫様みたいだ。
「ララ! すごく素敵!」
ララの元へ駆け寄ると
「ハルも素敵よ! でも……仮装はしないの?」
街へ来るまではためらっていたけれど……
ルウが用意してくれた頭から鼻までが隠れるハーフフェイスの仮面を着ける。
まぁ! とララの声が聞こえる。
「可愛い猫だわ!」
そう言って抱きつかれるとパンのいい匂いがしてお腹が空いてくる。
そう……ルウに渡されたのは猫のハーフフェイスの仮面。
みんなは目元だけの普通の仮面なのにどうして私だけ耳も付いているのかな、と思っていたけれど街に出たら猫の仮面でも違和感はなかった。
仮面を着けて馬車の乗り場まで二人でお喋りをしながら歩いていき、とまっている馬車に私達が乗るとちょうど席が埋まってお城へ向かい出発した。
いつもは遠くから見ているお城が段々と近づいてきてわかってはいたけれどやっぱり大きい。
お城の入り口に着くと招待状を持っていない人は庭へ案内され私達は招待状を渡してお城の中へ案内された。
「後でお庭にも行ってみたいわね」
ララとそんなことを話しながら案内をしてくれている男性の後をついていく。
「こちらです」
こちらに振り向きニコリと微笑みながら扉を開けてくれた。
ものすごく広いホール……体育館くらいはありそうなホールに仮装やドレスアップをしたたくさんの人達とたくさんの料理とお酒、それから生演奏の音楽が流れている。
ララと顔を見合わせてすごいね、と笑い合う。
とにかく人が多くて仮面を着けたりもしているから知り合いを見つけるのは大変かもしれない。
とりあえず何か飲もうか、と言いながらルウに外でのお酒は控えるように言われた事を思い出してアルコールの入っていない飲み物を手に取る。
ララはお酒が好きらしく迷いなくお酒のグラスを手に取る。
二人で乾杯をして飲んでいると玉座の前に王様と王妃様が立ち、どこからか注目をするようにとグラスを鳴らす音が聞こえてきた。
なんとなく玉座に近い方には貴族が、遠い方には街の人達に分かれているような気がする。
王様の言葉は後ろの方にいる私にはよく聞こえなかったけれども前の方から拍手が聞こえてきたからとりあえず私も手を叩いておく……
何て言っていたのかわからなかったけれど……
それからまた皆がお喋りやダンスや食事を始めるとララが知り合いを見つけたようで
「ハル、少し話してきてもいい?」
と知り合いなら仮装をしていてもなんとなくわかるみたい。
「もちろん、ゆっくり話してきて」
と送り出して、私はお城で出る美味しい料理をいただこうとテーブルへ向かう。
美味しいものをみんなのために家でも作れたらいいな……
そんなことを思いながら綺麗に並べられた料理を見ていると
「ハル?」
後ろから声をかけられた。
いつもと違う格好なのに後ろ姿で私だとわかるとは……一緒に暮らしている誰かかな、と思い振り返ると……
だれだろう……? うちのみんなではない……
目元だけの仮面だけれども全然誰かわからない……
でも全く知らないわけではなくて……
あまりピンときていない私を見て彼がマスクをずらすと
「あ…………」
確かに私の知っている人だった……