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39 エイダンの家



 家を建てた……



あれから一ヶ月も経っていないけれど……


あ、でもみんなのあの立派な家も一日もかからずに完成していたな。


みんなは魔力を使ったみたいだけれどエイダンは……というか大工さんが魔道具を使っているのかな。


「ハル?」


ハッ……


「あ、あの、突然お邪魔したらお家の方にご迷惑じゃ……」


「私は一人暮らしだから大丈夫だよ。確かハルも一人暮らしだったね」


へぇ……一人暮らしなんだ……私もそういうことになっているね……


「この間のお礼をさせて欲しい」


ね? と……


「お礼なんて……それに一人暮らしの男性の家に行くのは……」


エイダンも世間体とかね……


「それならば私がもう一度ハルの家に」


ちょっと待った、それはちょっと……またみんなが隠れてしまうしなんか不機嫌になる。


それにあの時は仕方がなかったとはいえ一人暮らしの女性の家に来ようとするのもどうかと……


「一人暮らしの家に女性が訪ねていったらご近所さんに誤解されて変な噂になったりしない?」


エイダンに好意を持っている人がいたら傷つけてしまうかもしれないし……


「私の家は街ではなく森の中にあるから心配はないよ」


そうだった……断る理由がこれしか思い浮かばない……どうしよう。


エイダンがクスクスと笑いもっと気軽に考えて、と言う。


うちに来られるのも困るし……一度行ったらエイダンの気も済むかな…………



「…………それで? 行くっていったの?」


ルウの眉間にシワが寄る。

うん……今日は友達の家に泊まる約束をしているからと言ってまた明日にしてもらったけれど……


連れていってもらわないといけないのに勝手に返事をしてごめんなさい。


「仕方がないね……この家に来られるのも嫌だし」


嫌ってはっきり言った。


「ハル、これを」


ルウが腕輪をつけてくれた。


「これは移動用の魔道具だよ」


エイダンの持っているものよりも数段いいものらしい。


「木の上の高さまで浮いてそのままこの家に帰って来ることができるから」


貴族でも持てるような物ではないから人には見られないように魔法もかけておくと言ってくれた。


つまり……高いのか……


「明日は僕も用事を済ませてくるからもしかしたら遅くなるかもしれない。帰りはこの魔道具を使って帰って来てね」


そう言って私の髪と頬に触れる。

うん、ありがとう……


手ぶらで行くのもなんだから、夜にパウンドケーキを焼いた。


たくさん作ってみんなにも明日のおやつにと言って渡してから、明日エイダンの家に持っていく手土産としてパウンドケーキとお茶の葉も何種類か包んで袋に入れておく。


それからルウはいつも通り私とお風呂に入り暖炉の前で髪を乾かす。


お茶を飲みながら街の様子をルウに話した。


「皆不安そうだった……」


ルウが私の髪に触れる。


「お城で何かあったのかな」


さぁ……と穏やかな表情のルウ。


「困るなぁ……」


街のお店……まだ少ないけれど何軒かは休業していた。

街へ行ってもいつものお店が閉まっていたら悲しい。


「困るの?」


私の髪に触れていたルウの手がピタリと止まる。

うん……


「肉と薬草が売れなくなったらお金が……」


ルウが首を傾げる。


「金がなくてもここでは困らないだろう?」


困るよ……


「ルウの……みんなの欲しいものを買ってあげられないし……私の好きなお店もあるし……」


その言葉にルウの左眉が上がる。


「そういえば、また自分の物を買わなかったね」


しまった……


「いい加減にしないと僕が店から盗んで来ることになるけれど……」


盗……!?


「買うっ、次は買ってくるから」


ルウが疑いの眼差しをむけてくる……


まぁ、その店もなくなったらハルが困るか……と小さな声で呟き何かを考えている様子のルウ。


「ルウ?」


ん? とこちらをみて


「そろそろ寝ようか」


と……寝室へいき一緒にベッドに入った。


この流れに慣れてきた自分が怖い……いいのかな……?


布団の中で一瞬考えるけれども、ルウの温かさでいつもすぐに眠ってしまう。



そして翌日。


エイダンが昼食を一緒に、と言っていたから少し早めにルウに街まで送ってもらった。


エイダンが街に迎えに来てくれると言っていたので待ち合わせ場所に向かう。


「ハル!」


エイダンが待っているっ……早めに来たつもりだけれど……


「エイダン、待たせちゃったかな」


街で用事があったから早くきていたのだよ、と


「ハル、来てくれてありがとう」


そんなに嬉しそうにされるとなんだか照れる。


「こちらこそ、お家に招待してくれてありがとう」


とお互い笑い合い、こっちだよ、とエイダンが自然に私の手を取る。


これは……エスコートというもので普通のことなのかな……遠慮したら変に思われるのかな……わからない。


街の外れまで歩くと少し待っていてと言われ、エイダンはどこかへ行ってしまった。


少しするとエイダンが馬を連れて戻ってきた。


馬……うん、元の世界にいる馬……うちのアオとはちょっと種類が違うけれど、私も知っている馬。


それよりも……


「馬に乗って行くの?」


まだ全然練習出来ていないのだけれど……


「大丈夫だよ。ちゃんと支えるから」


不安が顔に出てしまったみたい。

とりあえず馬の鼻先にそっと手を伸ばす。


ヨシヨシと撫でるとグイグイと近づいてきて可愛い。

この子の名前は?


「マクスだよ。賢い馬だ」


エイダンがマクスに跨がり手を差し出す。

お願いね、とマクスを撫でてからエイダンの手を取る。


エイダンの前に横乗りになると思いの外密着して焦る。

どこに掴まればいいの……


「エイダン、私あまり乗ったことがなくて……」


「大丈夫、最初はゆっくり進むから。私に掴まって」


行くよ、とゆっくりと進み出す。

エイダンの服を握りバランスを取る。


街の外れまでゆっくりと進んでくれたからだいぶ慣れてきた。


「マクスには魔道具を付けているから、ここからは徐々に速度を上げていくよ」


魔道具……首にかけているこれかな。

確かにこのペースでいくと時間がかかる。


エイダンの家が森のどこにあるのかはわからないけれどお昼には間に合わなくなりそう。


エイダンが私をしっかりと抱き寄せてスピードを上げていく。

魔道具を使っているからか思っていた程揺れなかった。


森の中に入るとあっという間に家が見えてきた。

一人暮らしにしては大きな家、うちとみんなの家の間くらいの大きさかな。


家の前に着くとエイダンが先にマクスから降りて私に手を差し出す。


私を降ろしてからマクスを馬屋に連れていき戻ってくると


「入って」


とドアを開けてくれた。

お邪魔します。


「わぁ……素敵……」


キッチンもあるけれど……


「エイダン、料理もするの?」


できない……と小さな声で……え?


「でも……これから出来るようになりたいから教えて欲しいのだが……」


もちろんいいよ! 一人暮らしなら料理は出来た方が楽しいかも。


「それならお昼ごはんを一緒に作ろうか」


うん、と嬉しそうに頷くエイダンが子供みたいで笑ってしまう。


お茶を飲んで一息ついてから家を案内してくれると言うので手土産を渡した。


エイダンがお茶とパウンドケーキを持ってきて一口食べるとすごく美味しい、と喜んでくれた。私も嬉しい。


それから家の中を案内してくれたのだけれども、みんなの家を見て回ったときも思ったけれど楽しい! 新しくて綺麗だし。


一階にはリビング、キッチン、トイレ、お風呂、応接室とお客さんが泊まれる寝室が二部屋あった。


二階は書斎と、あまり家で仕事をするつもりはないけれど一応執務室として使う予定だという広い部屋とエイダンの寝室とその隣にもう一部屋。


「こっちの部屋も寝室?」


家族が泊まりにきたとき用のとか?


「ここはハルの部屋だよ」


え?


「わ、私?」


エイダンが忘れたの? と首を傾げる。


「冬の間、うちに来ないかと話したはずだよ」


あ……魔道具での会話が途切れる前にそんなことを話していたような……


「……途中で切れちゃったから……ごめん」


考えていなかった……


「大丈夫だよ。ちゃんと部屋はあるからね」


いや……まだお世話になるとも言っていないけれど……


「あれ? 部屋の奥にもう一つドアがある」


あぁ、開けてみて、と言われて部屋に入りドアを開ける。


「隣の私の寝室に続いている」


…………


「へぇ……」


ダメじゃん……万が一泊まらせてもらうことになっても一階の部屋にしてもらおう。


「それから、よかったらこれに着替えて欲しい」


ワンピース? シンプルで好きな感じだけれど……


「ハルの着ている服、サイズが合っていないよね」


ここでも服のことを言われるのか……


「これから慣れない場所で料理をするのに危ないから」


ね? と……大丈夫、と言いたいところだけれど、何かあって迷惑をかけたら申し訳ないかな……


「この服はこの前のお礼の一つだからハルの物だよ」


と渡された。

ここは素直にありがとう、と言い受け取ることにした。


着替えたら下におりておいでと言い、エイダンはドアを閉めて行ってしまった。


なんか肌触りもよくて良さそうな生地……料理のときに着るのも勿体ないかも……


そんなことを考えながら着替えたワンピースは……



私の身体にピッタリだった……


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