37 六人の部屋
今日は、それぞれの部屋を見せるからうちにおいで、とみんなが言ってくれたからお邪魔することにした。
最近は日中みんなが揃うことが少なくなっていたからなんだか嬉しい。
ルウは少しアオの様子を見てくる、と言い外へ。
何だかんだで気に掛けているみたい。
初めてみんなの家を案内されて以来、久しぶりに二階へ上がる。
あの時はまだ何もなかったけれど……
「ここが私の部屋だよ」
いつの間に集めたのかたくさん本があるアレスの部屋。
綺麗に本棚に並べられた本はアレスの性格を表しているよう。
「読みたい本があったら持っていくといいよ」
本棚を眺めていると後ろから声をかけられて振り向き……見上げる。
アレス……背が高くなったね。
私と目が合い微笑むアレスの色気が……
急に男性の部屋にきたということを意識させられてしまった……
本棚に向き直り気持ちを落ち着かせていると
「ハルには……この本がお勧めかな」
耳元でアレスの囁き声がして今度は振り向けない……
後ろから伸びてくるアレスの腕と本の背表紙をなぞる長い指がなんだか……
「ハル、今度一緒に本を読もうか」
背中に感じるアレスの体温と耳元に感じる囁き声……
ち……近くないかなっ……
「ハルッ……つ、次は僕のへ、部屋に行こう」
レトが私の服を遠慮がちに引っ張る。
ふぅ…………
アレスから本を受け取り、ありがとうと言いレトの後に続く。
レトの部屋は乾燥させた植物がたくさん……だけど、
「薬草? 見たことがないものもたくさんある」
私が首を傾げるとレトが微笑む。
「薬草は全部べ、別館に保管しているよ」
薬草の匂いとは違ういい香りがする。
「これ全部……花?」
うん、と少し恥ずかしそうに頷くレトは子供のときと変わらない表情で可愛い。
「素敵……」
小瓶に詰めていたり可愛く束ねてあったり、こういうの好きだなぁ。
「ハル、こ、これを……」
小瓶に入った不思議な色の綺麗な液体……
「これは?」
レトが小瓶の蓋を開けるとフワリとなんだか落ち着く香りが広がる……
「こ……これを風呂に数滴入れるといいよ」
なんか……
「……全身いい香りになるね」
雰囲気の変わったレトにそういうと……
「ハルはいつもいい香りがする」
微笑みながら私の髪に触れ耳にかけて……そう耳元で囁く…………レトさん!?
耳が熱いっ
赤くなった私の耳に指で触れてから頬に触れ、可愛い……って……レトさん!?
「おいっ」
ヒッ!
「俺の部屋に行くぞ」
驚かさないでよライオス……
「レト、ありがとう。大切に使うね」
小瓶を受け取りお礼を言う。
「うん。またあ、後でね」
いつものレト……なんだったの……
「ここが俺の部屋だ」
こっ……ここがっ! ライオスのっ……
「へぇー……」
「おいっなんだその反応は!」
だって……
「鳥かご……」
しかもいろんな大きさで空のものがいくつも……
「何で鳥かご?」
フフンッとどこか得意気なライオス。
「いいだろ? これ」
この形が好きなんだ、と。
まぁ、わからなくもない。
なんか可愛いしオシャレな感じもするけれど……多いな。
「鳥、好きなの?」
「? 鳥? 急になんだ? 別に好きじゃないぞ」
え? じゃぁ何で……?
「だからこの形だよ。気に入ったものを閉じ込めて眺めていられるだろ?」
ニコッ……じゃないっ
「な、何か閉じ込める気……?」
いや、と首をふるライオス……
え? どういうこと?
「ただ好きだから集めているだけだ」
そっかぁ……紛らわしい言い方ぁ……
「これ、やるよ」
渡されたのは白い小さな鳥かご。
中には小さな鉢に入った可愛いお花。
「わぁっ可愛い!」
しかも寒いのに花が咲いているなんて……冬の花なのかな。
「魔力で咲かせているんだ。一年中咲いているぞ」
へぇー凄い!
「ライオスもこんな繊細なことができるんだねぇ」
しみじみ……
「バカにしてるのか?」
ガシッと私の首に腕を回して絞めるライオス。
ライオスの筋肉が……筋……に……くっ、苦しいっ
バシバシと腕を叩くと
「悪い……」
と言って離してから
「それにしても何でこんなに違うんだろうな」
そう言って自分の腕と私の腕を不思議そうに比べるライオス。
性別からして違うからね……
「ハル」
部屋の入り口にグレンが立っている。
次はグレンの部屋ね。
グレンがアレスから借りた本とレトとライオスからもらったものを持ってくれてから歩き出す。
ライオスにお礼を言ってグレンについていく。
グレンはもの作りが好きみたい。
この家の設計もグレンがしたと言っていたし。
「ここ」
木の香りがする。
木で作った小さな動物が置いてあったり、竹で編んだような籠があったり、丸椅子があったり、それから動物となぜか私の絵が何枚か……すごく綺麗に描いてくれている。
なんだか懐かしい気持ちになる。
「優しい部屋だね」
グレンが首を傾げて私を見る。
「優しいのはハルだ」
真顔でそう言われると照れる。
そうかな……みんなの方が優しいと思う。
みんなに魔道具は必要ないのにこの家にはたくさんある。
私のために……魔力のない私が生活しやすいように考えて作ってくれたのだと思う。
「ハル、怖がらないでね」
そう言ってゆっくりと近づいてくるグレン。
怖がるわけがない。
みんなの小さい頃の姿も知っているし優しいことも知っている。
グレンが目の前に来て……近いから見上げることになる。
金色の瞳でジッと私を見つめて……いつも無表情なグレンが微笑んだような気がした。
「グレン、今……」
グレンにそっと抱き締められた。
グレンも大きくなったなぁ……
「安心する……」
そう呟いて少しだけ私を抱き締める腕に力が入る。
力を込めたら私が壊れると思っているのか恐る恐る私を抱き締めるグレンはやっぱり優しいのだと思う。
容赦なく私の首を締め上げたライオスに見習って欲しい。
まぁ……ライオスが優しいことも知っているけれど。
「ちょっと、私の部屋にも行くわよ」
グレンが私を抱き締めたままロゼッタを見る。
「なによ」
ため息をつきながら腕を緩めるグレン。
竹籠にアレスに借りた本とレトとライオスからもらったものをまとめて入れてくれた。
「ハル、これは下に持って行くね」
籠はあげるから、とグレンが言ってくれた。
なんて気が利く子……いや、紳士だ……
ありがとう、とお礼を言って一緒に部屋を出てドアの前で別れた。
ロゼッタ……リボンを使ってくれている。
「何笑っているのよ」
ここよ、とドアを開けるロゼッタ。
「ロゼッタ、レースが好きなの?」
卓上の小さな敷物……ドイリーと言ったかな、繊細なそれが何枚もある。
「別にっ、これは……ハルに……」
え? うつ向いて声もどんどん小さくなって行くからよく聞こえなかった。
「欲しいならあげるわ……」
ロゼッタは……たぶん素直に自分の気持ちを口にするのが苦手だ。
強めな言葉を発した後、いつも少し後悔しているような顔をしたりする。
そこがまた可愛いのだけれど。
「ありがとう、ロゼッタ。とても繊細で綺麗だね」
大切にするね、ありがとう、ともう一度言ってロゼッタをそっと抱き締める。
ロゼッタはこういうとき一瞬身体が強ばる。
「作るの大変だったんじゃない?」
抱き締めたまま話すとロゼッタの身体の力が抜ける。
「魔力を使ったからそうでもないわ……」
そっか……
「ミア……」
ロゼッタがミアに気が付いた。
ミアが微笑み頷く。
「次はミアの部屋ね」
ロゼッタが私の背中を押す。
ロゼッタにお礼を言ってミアに続く。
ミアもリボンを使ってくれている。
「ここ……」
ミアがドアを開けてくれる。
「…………何もないね」
うん、と頷くミア。
あれ? ちょっと待って一つだけ綺麗な箱がある。
木の箱に……硝子かな? カラフルで綺麗な硝子がたくさん散りばめられていて何かの模様になっているみたい。
「綺麗な箱だね、宝箱みたい」
そう言って笑うとミアが頷く。
「……ハルからもらったリボンを入れているの」
寝る時に外したらこの箱に入れておくのか。
箱が豪華すぎてなんだか申し訳ないわ……
ミアがその箱を手に取ると……一つだと思っていた箱は二つだった。
「その箱、二つで一つなんだね」
コクリと頷き片方を差し出して
「一つはハルの……」
くれるの?
「いいの?」
二つで一つの模様になるみたいだけれど……
「ハルに……持っていて欲しい」
いいのかな……嬉しい。
「ありがとう、ミア。私の宝物箱にするよ」
そう言うと、少しうつ向き頬を染めて微笑む可愛いミア。
ミアが私に抱きつきギュッとする。
ミアもロゼッタも私より身長が高いから、抱きつこうが抱きつかれようがなんだか私が子供になった気分。
「また一緒にお風呂に入ったり……夜更かしをしたりしたい……髪も結って欲しい……それから……」
それから? と見上げると頭を撫でられ後頭部に手を添えられて……ミアの顔が近づいてくる。
ミア? と首を傾げる。
「ハル」
ルウが立っている。
ミアもルウを見ている……無表情で……
「そろそろ下に行こう。みんな待っている」
あ、もうそんな時間か。
「今夜は何を作ろうかな」
ミアが私から離れる
「「ハルが作るものは全部美味しい」」
おぉ、ルウとミアがハモった。
こういうときってハモった二人が笑いあったりするんじゃないの?
二人とも無表情で見つめ……睨みあって……?
「二人ともいくよ」
そう言うと大人しく付いてくる二人。
仲が悪いわけではないのだよね……
こうしてみんなのお部屋を案内してもらって、この日は久しぶりにみんなの家で長い時間を一緒に過ごすことができた。