36 城 教会 街
エイダンを送り出して、ルウとみんなにちゃんと謝ろうと隣の家へ行こうとすると後ろから手を引かれた。
「どこへ行くの? ハル」
ルウいつの間に、と思いながら家に入るとみんなもいた。
「何してるの?」
みんなが家中を……
「綺麗にしているんだよ」
アレス……そんなに散らかってはいないけれど……
「へ、変な臭いがする」
えーっ……そう? レトは鼻がいいのかな。
「僕のクッション……」
グレンの……ではない、みんなのね。
「ったく、こんな広い森で会うってどんだけだよ」
エイダンのこと?
ライオス……それはしょうがなくない?
「チッ」
ロゼッタ……舌打ちした?
「…………」
ミア……無言でバンバン魔力を使っている……大丈夫かな。
「みんな……勝手なことをしてごめんなさい」
みんなに謝るとルウに後ろから抱き締められる。
「いいんだよ。ハルはハルの思った通りにしていい」
後始末は僕達がするから……って後始末……?
そんなに散らかしてもいないし汚してもいないのに大袈裟じゃない?
意外とみんな神経質……というか潔癖……でもなさそうなんだけどなぁ。
食事とか手作りのお菓子とか喜んで食べてくれるし。
「さて、家中綺麗になったね」
そう言ってみんなが集まって来ると何だか……
「何を笑っているのよ?」
ロゼッタに睨まれてしまった。
「ごめん、大きくなったみんながこっちの家に揃うと余計に家が小さく見えて何だかおかしくて」
くだらない、とロゼッタには鼻で笑われたけれど、まだ私にくっついているルウはそうだね、と耳元でクスクスと笑いながらギュッと抱き締めてくる。
苦しいしみんなはこの状態でも普通に話してくれているけれど、そろそろ離れて欲しい。
たぶん心配させてしまった反動だと思うから強くは言えないけれど。
外を見るとアオが見えた。
「よかった、アオも帰ってきた」
これでみんな揃ったね
「アオのことは心配していない」
ルウってば……
その日のお昼ご飯をみんなで一緒に食べて、食後のお茶を飲んでいるときにエイダンから無事に帰ることができたと連絡がきた。
魔石が三回震えたかと思ったら声が聞こえてきて驚いた。
「ハル、お礼をしたいからまた会いに行くよ」
穏やかなエイダンの声とは正反対のこちらの空気……ピリピリしている……
そんな空気の中、注目されながら話すのはなんだか緊張してしまうのだけれど……
「ち、近いうちに街へ行くから……」
チラリとみんなを見ると渋い顔……
大きくなったみんなの服も少ないし……
ルウがたくさん狩りをしてくれて売れるものがたくさんあるうちにお金にも替えておきたいし……
「そうなの? 街へ行くときは必ず私に連絡をして欲しい」
うちに来られるよりはいいのかな……と、またみんなの顔を見るとさっきよりも渋い顔……
うちもダメ街もダメ……どうしろと……
「そうだ、近々家を建てるつもりなのだが……その……冬の間私の家に来ないか? 職場の近くだから森の中に変わりはないのだけれど……街は近くなるしそれに」
…………切れた。
ルウが魔石に触れている。
「ルウ……切った?」
ん? と首を傾げるルウ。
「魔石が空になったみたいだ。こういう魔道具は魔力の消費が激しいからね」
ニコリと微笑むルウ。
そうなんだ……それなら仕方がないか。
「ま、街へ行くなら薬草もま、また増えてきたから分けておくね」
私も一緒に分けるよ、レト。
「魔石には後で魔力を込めておくから」
ルウはそう言ってくれるけれど……
「魔力の消費が激しい魔道具ってもしかして補充する魔力も多いのかな?」
みんなは平気だと言ってすごい魔法をたくさん使うけれど、魔力を使いすぎて小さくなった姿を見ているからこちらが不安になる。
「大丈夫だよ、無理のない程度にするから」
それならいいのだけれど……
「これは預かっておくね」
うん。そういえば……
「そういえば街には魔石に魔力を補充できる場所があるって聞いた気がする」
確か……ララに聞いたのだったかな。
最近の魔道具は魔石の取り外しができるものがほとんどらしいけれど長く使っている昔からある物は外せない。
この家にある魔道具もルウが新しくしてくれたお風呂以外は古いものだから魔石は外せない。
小さな物なら魔道具ごと持って行けるけれど、大きな物はどうするの? とララに聞いたことがあった。
お店には家庭用ではない大きな魔道具がいくつかあるという話の流れから疑問に思ったことをついそのままきいてしまったのだ。
「ハル……どれだけ街から離れて暮らしているのよ……、忘れちゃったの?」
と言われたときは焦った。
「小さな魔道具なら街の中に魔力を補充できるお店が数軒あるわ」
私達が普段の生活で使うようなものは補充する回数も多くなるから金額も高くはないし、まぁ気軽に行ける感じね、と。
持ち運びが出来ない上に魔石も外せない、昔からある魔道具はどうするか、
「この街の教会へは行ったことはある?」
フルフルと首をふる。
ルウに街へ連れてきてもらったときに上から見たけれど……
お城の次に大きな建物で敷居が高そうだった……
「教会にはかなりの量の魔力を溜められて魔石に補充できる魔道具があるの」
へぇ……
「お布施としてお金を納めると家まできてくれるのよ。まぁ、商売人が払えるくらいの金額だからそう負担でもないのだけれどね」
と、ララは笑っていた。
家庭用でも持ち運びが出来ない様なもの……例えばお風呂とかもその時街に出てきた教会の方にお布施を払って補充してもらうの。
家庭用のお風呂なら金額が少なくても補充してくれるらしい。頻繁に使うものだからかな。
うちにはルウ達がいるから……
そういえば……
「魔族って街にはいないの?」
みんなが顔を見合わせる。
「いるかもしれないね」
「いないだろ」
「い、いたりして」
「いたりいなかったり」
「見たことがないならいないんじゃないの」
「…………」
どっち……?
「ハル、魔族はあまり街へは寄り付かないかな」
やっぱり……そうなんだ。
「でも魔力の少ない魔族は街で人間と暮らしているよ」
ほとんど人間と変わらないからね、と。
それじゃぁ、魔族と人間は仲が悪いわけではないのかな。
「そういえば教会の魔道具に溜めている魔力はどうやって集めているの?」
街に魔族がいないのならどうやって……
「教会の魔力は城からきている。魔族が城で魔力を提供して、城から教会、教会から街へとまわっていくのだよ」
そんな流れがあるのか……
王都以外の街にも教会はあるからそちらには王都の教会から魔力がまわされるらしい。
そうして国中で魔道具が使えるようにしているのだとか。
「魔力を提供してくれている魔族に人間はどんなお返しをしているの?」
みんなが少し驚いたような顔をする。
え? だって子供の姿になるほど魔力を提供していたのだよね?
「まさか……何もないなんてことは……」
そんなこと……
「あぁ……もちろん礼はもらっているよ……」
? ルウの表情が少し暗くなったような……
「ハル、や、薬草の仕分けをし、しよう」
「肉とランプ用のオイルもまとめておけば明日には街へ行けるよ」
彼には会えないけれどね、とレトの後にアレスも続く……彼ってエイダンのこと?
「移動用の魔道具も知らなかったハルが昨日の今日で街にいたらおかしいだろう?」
ルウのいう通りそれもそうか……
ここから街まで歩いて行ったら……たどり着ける気がしない……
馬に乗って行ったとして……どれくらいかかるのかわからない。
一人で暮らしていることになっているし……
「それなら街へ行くのはもう少し先にするよ。もしエイダンに会ったりしたら何て言っていいかわからないからね」
近いうちに街へ行くとは行ったけれど、エイダンにはまた行くときに連絡をしよう。
みんなは、そう? どちらでもいいよと言ってくれた。
その日は久しぶりにみんなどこへも行かずに家で過ごした。