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35 悪い癖



ーー エイダン ーー



 また……悪い癖が出てしまった。


夜中に研究所を抜け出して、森のかなり奥まできたところで魔道具の魔力切れに気がついた。


適当に鞄に入れた魔道具も役に立ちそうな物はない。


連絡用の魔道具も二つとも持ってきてしまった。

まぁ……私にはこれを持っていて欲しいような人はいないのだが。


とにかく自分の魔力でどうにかするしかない。


こんな時……人間でもなく魔族と言えるほどの魔力も持たない自分は何なのだろうか、と……早くこの半端な人生を終わらせてしまいたくなる。


ここで誰にも見つけられることもなく死ぬのもいいかもしれない。


木の根元に座り、そんなことを思う。


そう思いながらも横になり魔道具を抱えて魔力を魔石に流す。


魔力の安定していない魔族の子供は魔力を扱いやすくするめに言葉を口にするのだが、魔力の少ない私も同じようにした方が操作はしやすい。


大人の私がそうやって魔力を使うところを魔族に見られでもしたら……まぁ、馬鹿にされるくらいで相手にされないか……


こんな周りに誰もいないような場所でもそれを恥だと思っている私は身体を丸め声を小さくしてしまう。


私の魔力では少しずつしか溜まらない……これでは体力が持たない。


「あのっ……」


突然声が聞こえ肩にも触れられて驚いた。


魔族かと思ったが人間だった……

人間の女性がこんなところに? 魔族にからかわれているのか?


彼女は狩りをしていると言っていたが……確かに狩人の格好をしている。


お互い自己紹介をしてからここで何をしているのかと聞かれた……


曖昧に答えなければ……


時間はかかるが魔石に魔力を貯めることはできる。

魔石が空になったといえば使えるようになった時に変に思われる。


あまり詳しくは話さなかったが、私の話を聞いた彼女……ハルはうちに来ないかと言ってくれた。


それは有難い、安全な場所で魔力を補充することができる……だが、人が立ち入らない森の奥に家などあるのだろうか。


それに困っているとはいえ出会ったばかりの男を家に招くだろうか……


唐突にハルが弁当を持ってきているから食べよう、と広げ始める。


私にもサンドイッチをくれたが……それがとても美味しかった。

いつもの腹が満たされるなら何でもいいと適当に食べていた食事とは大違いだ。


食事の礼をいい、ハルに付いていき森を歩きながらやはり確かめなければと思う。


魔族が関わっているかもしれない。

ハルは狩りをする間の仮住まいだと言っていたが……


確かに狩人は流れ者が多いと聞く……それならばやはり誰かハルの他に人がいるのか。


「信じているからだよ……」


ハルから返ってきたのはこの一言だけ……

信じているとは……私を?


聞き返そうとすると家が見えてきた、とハルが指差す。

そちらを見ると確かに小さな家があった。


本当に一人なのか……それなのに私を泊めてくれると言う。

こちらが心配になるほど警戒心がない……悪い気はしないが複雑だ。


私にとって都合のよいことばかりで少し不安になったが、ハルが作ってくれた食事を一緒に食べていろいろと話をしているうちにその不安もどこかへいってしまった。


食事は優しい味がして……私が大切にされていると勘違いしてしまいそうだった。


こんな半端な私が……



私の祖母は……曾祖母が魔族と交わって生まれた子供だと聞いている。


曾祖母は美しく優しい人だったらしい。

そんな曾祖母がなぜ魔族と交わることになったのか……


正確には魔族の男に執着をされてしまったのだ。


一方的な愛情は、曾祖母の気持ちなど関係なく重く激しいものになっていった。


守ろうとした者達は容赦なく殺され、その怒りと欲望のまま男は曾祖母を犯した。


大切な人達を失い正気を失いかけていた曾祖母は、それでも無事に子供を生んでそれから……自害したと……聞いている。


魔族の男は身勝手にも悲しみに暮れていたが生まれてきた自分の子供には全く興味を示さなかったという。


その時に生まれた子供が私の祖母だ。


祖母はどこか人間離れをした美しい人だった。

魔力があったのかどうかはわからないが、おそらくひた隠して生きていたのだろう。


そして、祖母が人間と結婚をして生まれたのが私の父だ。


父は全く魔力を持たず、ようやく我が家の呪いが断ち切られたと喜んでいたところに生まれたのが私だ。


父は母に魔族と交わったのかと怒り、母は私を責め、そのうち父も私に辛く当たるようになった。


「もっと魔力があれば城に連れていくことが出きるのだがな」


幼い頃は父の言葉の意味がわからなかったがそのうちその意味もわかるようになった。


「お前程度の魔力では魔族の中では底辺なのだから隠して生きていきなさい」


どうせ役には立たないのだから、と


「幸い賢いのだから人間の中ではマシな生活を送れるのではないかしら」


そう私を見ることもなく話した母の言葉は正しかったのだろう。


やがて弟が生まれると皆の目はそちらへ向き私はまるでいない者のように扱われた。


それは普通の子供ならば寂しく思うことなのかもしれないけれど、私の気は楽になった。


学園を卒業する頃、貴族である両親に


「家のことは全て弟に継いでもらうから安心して家を出ていきなさい」


泣きながら嫌だと言えば可愛げもあったのかもしれないが私の気持ちは更に楽になり両親に感謝の言葉を伝えた。


今思うと、こういうところが魔族的で周りには不気味に思われていたのかもしれない。


そんなとき、城で働いているという男が私に声をかけてきた。


研究者として働かないか、と。


両親とはすでに話が付いていたのだろう。魔力の少ない私を人間として城に売ったのだ。


行くところもなかったし、これが両親の最後の愛情だと思い私は城で研究者として働くことにした。


マカラシャを見たとき、これほど完璧なものを一体どうやって作ったのかと夢中になった。


マカラシャがどう使われるかには全く興味がなく、マカラシャそのものに夢中になったのだ。


だからその複製品を極秘で作るようにと言われたときは喜んで引き受けた。


森の中に新しく研究所が建てられもう一人の研究者、メイソン様と長年彼の助手を努めている者達数名とそちらへ移り住んだ。


昔からあまり眠る事ができなかった私は更に眠らなくなり研究に没頭して……そしてマカラシャに近い物が完成した。


メイソン様は大喜びをしていたが私はまだまだ納得出来ていなかった。


そんなとき城から知らせがきた。


マカラシャを嵌めた魔族が全員いなくなったと。


馬鹿な……と思ったが周りの慌てようを見るとどうやら本当らしい。一体どうやって……


城には結界が張ってあるが魔力が多い者には簡単に破られ、少ない者は人間と同じように通れる。


マカラシャを着けた魔族しか城には入ったことがない、と思っている城の者達はこのことを知らない。


私は研究さえできれば他はどうでもいいのでわざわざ教えるつもりもない。


マカラシャを着けた状態では逃げ出すことは出来ないはずだ。彼らを連れ出した魔族がいるのだろう……


何のために……?


同情とは考えにくい……魔力を吸われ続け弱っている彼らが役に立つようなことが……?


考えてもわからない……


城から逃げたら……森へ入るだろう。

彼らを連れ出した魔族の目的はわからないが、もしかしたらマカラシャを嵌めた者が森で死んでいるかもしれない。


マカラシャを探しに行きたい。


城から知らせが来て数日はメイソン様に魔獣が足りないと事あるごとに口にするようにした。


実際足りないのだが、これで私が研究所からいなくなっても、騒ぎにはなるかもしれないが魔獣を探しにいったのだと思うだろう。


はやる気持ちを抑えて日中は普段通り仕事に励み、夜中に研究所を抜け出した。


そして…………ハルと出会った。


ハルの言葉も、料理も、小さな家も全てが優しくて心地がよかった。


ハルとの会話はただ楽しくて……早くマカラシャを探しに行きたいと思っていたことも忘れてしまうほどだった。


暖炉の前でハルのいれてくれたお茶を飲みながら、ハルが魔道具のことをあれこれと聞いてくる時間はこれまでにないほど穏やかな時間で……


いつの間にか私は眠ってしまっていた……


翌朝、目が覚めた時に一瞬どこなのかわからなかったことと、自分が眠っていたことに驚いた。


そして、ほとんど空になっていた魔道具に魔力が満たされていた……


周りに視線を走らせるが……昨日と変わりはない。

やはり魔族がいるのか……?

それとも本当に魔道具が壊れていただけなのか……


魔道具が使えるようになったと言うことは帰れるということ。

正直もう帰らなくてもいいかとも思ったが私を探しに騎士団まで動き出したら面倒だ。


ハルと朝食を取りながら魔道具が直ったことを伝えた。


ハルに一緒に来ないかと言おうかと思ったが、やはりなるべく街へは行って欲しくはない。


連絡用の魔道具をハルに渡すと無事に帰ったら連絡が欲しいと言う。

昨夜、暖炉の前でも感じた気持ちがまた沸き上がってくる。


首を傾げ不思議そうな顔をするハルを抱き締めたくなる。



ハルを……この森に……居心地のいいこの小さな家に閉じ込めて私だけの……


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