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31 歌



 服を脱いでタオルを巻いて……



「ルウもタオルを巻いた?」


と一応確認してから振り返る。

思ったよりもたくましくて……意識せずにはいられないっ。


ルウもタオル一枚の私の姿を見て……見て……み、見ている……


「あまり見ないで……」


胸元とタオルの裾を押さえると、ごめん、と眉を下げて……けれどもどこか嬉しそうに微笑むルウ。


ルウが身体が清潔になる魔法を使って綺麗にしてくれたから……


ん……? 身体が清潔になる魔法を使って!? 


家族とお風呂に入ったことがないって……そもそもお風呂に入る必要がなかったとか……?


で、でも、ルウはお風呂が好きなのかもしれないし……


とにかく身体を綺麗にしてくれたから湯船に浸かることにした。


そして気付いてしまった。


浴槽は確かに大きくなっている……でもルウの身体も大きくなっているから結局くっつくことになるのでは!? って考えている間にルウはもうお湯の中。


「おいで」


と手を引かれてあっという間に抱き上げられてゆっくりとお湯に浸かり後ろから抱き込まれた。


この体勢のメリットは私からはルウが見えないこと。

デメリットは背中にルウの身体を……体温を感じてしまい落ち着かないこと。


自分を落ち着かせようと、しょうもない分析を始める。


ここはルウの裸は見えてしまうけれど向かい合って密着しないようにした方がいいのかもしれない。


移動しようと動こうとするとルウが手を私のお腹に回し阻止された。


お腹はちょっとアレだな……みんなと一緒のご飯が美味しくて最近ちょっと食べ過ぎているからアレなのよ……


「ハル、まだ入ったばかりなのだから。ちゃんと温まらないと」


いつもお風呂は長いだろう? って……


「ルウもお風呂は好き?」


「ハルと入る風呂は特にね」


そう……? ありがとう……


この体勢で落ち着いてしまったから諦めて……足が伸ばせるようになったお風呂でゆっくりさせてもらおう。


「そういえばルウ、子供の頃……? 子供の姿をしていたとき、時々歌を歌っていたよね?」


魔力を使うときかな、最近は歌わないね?


「歌? ……あぁ、歌ではないよ。魔力が不安定なときは呪文を唱えた方が魔力を扱いやすいんだよ」


歌じゃなかったんだ。


「特に決まった言葉があるわけではなくて、その時使いたい魔法をイメージして頭に浮かんだ言葉を発しているだけだから……そうか、ハルには歌に聞こえたのか」


クスクスとルウが笑うと私の首元に息が当たる。


「そっかぁ、歌じゃなかったんだ」


フフフッと私も笑う。

笑って身体の力が抜けると身構えていたことがバカらしく思えてくる。


「そういえば、街へ行ったときに初めて騎士団の人達を見かけたけれど何かあったのかな」


初めて街へ連れていってもらったときは見かけなかったし、あの時のルウの様子も少し気になった。


「さぁ、なんだろうね。立ち寄ったお店の人は何か言っていなかったの?」


逆に聞かれてしまった。


「うーん、訓練だとか見回りだとか聞く人によって違うからどうしてかと思って」


何だろうね? とルウが少し考えて


「街は楽しかった?」


……話をそらした……?


「うん。そういえば騎士団長のイーライ様にファルのお店と街を歩いているときに会ったよ」


お城に勤めていると言っていたからルウも会ったことがあるのかな。


「騎士団長……ふぅん。何か話したの?」


知り合いなのかな。


「うーん、話したというか……少し一緒に歩いて自己紹介をしたくらいかなぁ……」


ちょっとのぼせてきたかも……立ち上がるの恥ずかしいな……


「へぇ、ハルの隣を歩いたんだ」


フフッ


「うん、歩いたよぉ……ルウは変なことを言うね」


ウフフ……


「ハル?」


なぁに? と言えたかわからないけれどルウがなんか慌てている。


手を伸ばしてルウの頭を撫でて大丈夫だよ、と言ったのは夢だったのか……


気が付いたらルウと一緒にベッドで寝ていた。

琥珀色の瞳と目が合うと


「ハル、よかった! 目が覚めたんだね」


お水を飲んで、と起こしてくれる。


「風呂でのぼせたんだよ。気が付かなくてごめん」


ルウは悪くないよ。


「私の方こそごめんね。お風呂から運ぶのは大変だったよね」


ルウが首を振る。


「それに着替えも…………着替え……? ……見た?」


怖くてききたくはないけれど、聞かずにはいられない。


「何度も見ているけれど……」


僕の裸も見ているよね? と首を傾げるルウ……そうだけれど何て言うか……なんか違うんだよ……


ま、まぁ……いいか……


「とにかく、ありがとう」


ごめんね、ともう一度言うと優しく微笑んで首を振るルウ。


「ところで街で騎士団長に会ったんだよね」


? 突然なんの話し?


「一緒に歩いたって……」


あぁ、お風呂でそんな話をしていたかな。


「うん、そうそう。イーライ様、ルウはお城で会ったことがあるの?」


イーライ……と呟いてから知らないな、と首を振るルウ。


「仕事の内容が僕とは違うし、城は広いからね」


そう言われるとそうか、


「そっか、いい人そうだったよ。イーライ様……」


そう言ってからしまった、と思った。


「ハル……もう少し警戒心を持って欲しいのだけれど」


やっぱりルウにため息をつかれた。


「まだ一度しか会ったことがないんだよね? 初対面なんていくらでも取り繕えるのだから。僕がいつも側にいられるといいのだけれど……ハルは隙だらけなのだから気を付けてもらわないと」


お説教が始まってしまった……

私だっていい大人なのに……やっぱりルウはちょっと過保護だと思う。


「お、お城ってどんなところ?」


無理矢理話を変える。


行けないのはわかっているけれど、どんなところなのか興味はあるからね。


「ハルは城に興味があるの?」


うん。


「住みたくはないけれど中には入ってみたいかな」


そう言うとルウが不思議そうな顔をする。


「住みたくないの?」


うん、だって


「だって寒そうだし無駄に広そうだし」


「寒そう……無駄……」


ブフッとルウが吹き出して肩を震わせている……

お城って暖炉のある部屋だけ暖かくて他は寒そうじゃない?


天井も高そうだし、暖炉のある部屋も暖まりにくそう。

真冬はどうやって生活しているのだろう、と不思議に思う。


「フフッ、ハル、魔道具があるから城はどこも暖かく生活がしやすいんだよ。確かに無駄に広いけれどね」


そうだったっ、元の世界の感覚で考えていた。


「それでも私はこの家の方が好きかな」


私には丁度いいよ。


「僕も、ハルがいるこの家が好きだ」


……家がだよね。


「それにしても、魔道具って凄いね。それを動かす力を持っているルウ達はもっと凄いね」


そう言うとルウが一瞬驚いたような表情をしたような気がした……それからなぜか私の頭を撫でて


「ありがとう、ハル……ありがとう」


そう言って私を抱き締めるルウがなんだか子供みたいで……私もそっとルウの背中に手を回す。


ルウは……ルウ達は私と会う前……一体どんな生活をしていたのだろう……


ルウは裸足で服も汚れていて痩せて痣だらけで倒れていた。森でしばらく彷徨っていたにしても酷い様子だった……


他の子供達はルウが連れてきたみたいだけれど痩せていた。


夜はうなされていたし……


お城で暮らしていたにしてはあまりにも……

みんな役目を終えてお城を出たと言っていたけれどまるで……



まるでお城から逃げ出したかのようだと思った……


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