22 ミリアの雑貨屋
再び歩き出して……
やっぱりリボンが気になったのでティファナが教えてくれたアクセサリーを取り扱っているお店に寄ってみることにした。
この辺かな、と思って周りを見回すと道の向こう側に看板が見えた。
ミリアの雑貨屋って書いてあるのかな。とりあえず道を渡る。
「いらっしゃいませぇ」
お店のドアを開けると、のんびりとした声が聞こえてきた。
「こんにちは」
と挨拶をすると
「ハルゥ?」
はい……ん? 会ったことはないけれど……
「ティファナとララとファルからきいてるよぉ」
そうか、みんな友達なんだ。
「ハルです、よろしくお願いします」
うん、と頷き
「私はミリア、よろしくねぇ」
と微笑むミリア。
「ティファナからお店のことを教えてもらって、商品を見てもいいかな」
ミリアは何かあったら声をかけてねぇ、と言ってくれた。
お店の中を見るとアクセサリーやお化粧品がたくさん並んでいて見ているだけで楽しくなる。
さっき通りかかった貴族も利用するお店よりも選びやすい価格帯だ。
ロゼッタとミアは二人とも髪が肩より下で余裕で結べるくらい長いからやっぱりリボンを……四本は欲しいかな。
一つにまとめるのもいいけれど二つに結んだりするのも可愛いと思う。
ちなみに私は元々長い髪がこちらの世界で更に伸びて腰くらいまである。
元の世界で使っていたゴムが伸びきって切れてしまったから、束ねたりせずそのままかこの前街に来たときにティファナからもらったリボンを時々使わせてもらっている。
そんなことを考えながら店内を見ていると、見つけた。
可愛い色のリボンがたくさん……ロゼッタとミアって何色が好きなのだろう……みんなにも聞いておけば良かった。
二人の顔を思い浮かべて悩みに悩んで金髪のミアにはパステルピンクのリボンを、銀髪のロゼッタにはパステルパープルのリボンを選んだ。
それぞれ二本ずつ手に取りミリアの元へ持っていくと
「贈り物ぉ?」
と聞かれた……なんで……
「すっごく悩んでいたからぁ」
確かにすごく悩んだ。でも……とりあえず自分用ということにしておこう、ファルのお店では一人暮らしって言っているし。
この辺りに住み始めたばかりということになっているから……
自分用だと言ってお会計をお願いすると
「ふぅーーん」
と言ってお会計をしてくれたけれど……なんだかちょっと掴み所のないコだなぁ。人に興味があるのか無いのか……
そしてなぜかリボンはそれぞれ別々の袋に入れてくれた。
「ありがとうございまぁす。また来てねぇ」
私もお礼を言ってミリアのお店を後にした。
少し変わった感じのするコだったけれどいろいろ置いていて楽しいお店だったしまた来よう。
それから食材をいろいろ買い込んでいたらお金が……
よしっ、ララのパン屋さんに行こう! リサイクルショップはまた今度ってことで!
「こんにちは」
パン屋さんのドアを開けながら声をかける。
「いらっしゃいませ、あら! ハル、また来てくれたのね」
パンのいい匂い……幸せ、たくさん買って帰ろう。
「この前買ったパン、とっても美味しかったから」
フフフッ、ありがとう、と笑うララ。
そういえば……
「ララ、街で何かあったの?」
うーん……、と少し困った顔をするララ。
「騎士団を見かけたのね、私も知らないのよ。騎士団の方はただの見廻りだと言っているらしいのだけれど、いつもは警備兵が街の見廻りをしているのに……」
まぁ、何かの訓練なのかもね、と……確かに騎士団員が街にいる以外は何も変わりはないし街の人達も普通に生活しているように見える。
何もないならいいか。
パンを数種類選ぶと人数も増えたからなかなかの量になった。
大きい袋、二つに分けてもらって両手に抱える。
「ずいぶん買ってくれたけれど食べきれるの?」
うん、
「次、いつ買い物に来られるかわからないからね、魔道具もあるから大丈夫だよ」
そう……それならいいのだけれどと言い
「しばらくは街に来られないの?」
と残念そうな顔をするララ。
どうだろう?
「またお肉と薬草を売りに来ると思うからその時はララのところにも寄らせてもらうよ」
パンもなくなるし。
「嬉しいわ、パンを買わなくても顔を見せに来てね。新作の試食もお願いしたいし」
それは嬉しい、
「私でいいのかな、街に来たときは必ずお店に寄るね」
ありがとう、とお礼を言ってお店を出る。
出るときに両手のふさがっている私に代わってララがドアを開けてくれた。
気を付けてね、と手を振るララにうん、と微笑み歩き出す。
さて、ルウはまだ来ないかな。
とりあえず、どこか人目の無いところでパンを袋に入れてしまおうと思い歩き出す。
「ハル」
私の片手の袋がなくなり軽くなる。
「あっ、ル……」
ウ……じゃなかった……
「イーライ……様……」
う……うそでしょ……本日三度目のこんにちは……
「やぁ、荷物を持つよ」
と私が持っているもう一袋に手を伸ばす。
「だっ、大丈夫。これは私が」
イーライ様の手を避ける。
避けたのにイーライ様は面白そうに笑う。
「少し一緒に歩いてもいいかな……」
遠慮がちに聞かれると断りにくい……
「……はい」
まぁ……買い物は済んでいるし少しなら……
「ララの店のパンは美味しいからな」
袋から漂うパンのいい匂い……きっとたくさん買い込んだな、と思われていそう。
「私は城の騎士団で団長をしている」
ファルのお店で聞いた。
「両親は健在で兄が二人いる。侯爵家は長男が継ぎ次男はその補佐をすることになっている。私は三男だから割りと好きにさせてもらっているかな」
なんか詳しめな自己紹介を始めた……
侯爵……家? って結構上位の爵位じゃなかった? よくわからないけれど。
「私はまだ結婚はしていないし婚約者もいない」
へぇ……だからあんなに女性が集まってきていたのか。
見上げると少し恥ずかしそうなイーライ様と目が合う。
「その……ハルのことを聞いてもいいだろうか」
そ……そういうことかっ……どうしようっ
「あのっ、普段はお城で仕事をしているのだよね。どうして今日は街へ……」
何か聞かれる前に質問を繰り出そう。
「何かあったの?」
イーライ様は少し困ったような顔をする。
きっと街の中で何度も聞かれたのだろう。
「何かあった……訳ではないのだけれど、いざというとき地図を見ているだけでは戸惑うことになりかねない。だから街も歩いておいた方がいいというだけのことだよ」
嘘……かな?
ララは今までになかったことだと言っていたし……だからこそ、なのかも知れないけれど……
でも微妙にララが聞いたという話しと違う。
それぞれの解釈とか言い方の違いなのかも知れないけれど、そういうことは統一するものではないのかな……騎士団って……まぁ、私のイメージでしかないけれども。
「……へぇーー」
騎士団の方も大変なんだね、と結局こう言うしかない。
やっぱり何かあったのかもしれない。
街ではなくて……もしかしたらお城で?
街の人達は普通に生活しているし本当にただの見廻りとか訓練なのかもしれないけれど……
私が考えても仕方がないか。
イーライ様は、そうでもないさ、と爽やかに微笑む。
どうしよう、もう聞く事がない……
当たり障りのないお城のことでも聞いてみようか……
「団長!」
と、遠くから制服姿の男性が走ってくる。
「失礼しました、お話し中でしたか」
男性が私を見てそう言う。
「ハル、すまない。少し彼と話してもいいだろうか」
それなら、と
「もうすぐ友人と会うのでもう行くね、ありがとうございました」
と手を出す。パンをください。
「しかし……」
と女性に荷物を持たせるのに抵抗があるのかためらうイーライ様。紳士か。
「大丈夫だよ、友人が手伝ってくれるから」
半ば強引にイーライ様が持っている袋を私が抱えようと近づいたときに、胸がイーライ様の手に当たった。
あ、とは思ったけれども別に気にしない。
私から動いてそうなった事だし、むしろすみませんという気持ちだったのに……
「すっ……すまないっ」
と恥ずかしそうに頬を染めるイーライ様……乙女か。
そんな風にされたら……こっちまで恥ずかしくなる……
頬が熱く……別になんとも思ってないのにっ
「あ……いえ、あの……すみませんっ。私、失礼しますっ」
絶対顔が赤い。胸がどうのというよりなんとも思っていないのに赤くなってしまった顔をみられたことが恥ずかしい。
後ろから私の名前を呼ぶイーライ様の声が聞こえた気がした。
けれども私は、早歩きでその場を離れた……