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17 おいしい



 ルウを見ると困ったような顔をしている。



あ、そうか……


「みんなごめん、あまり知らない人からのお菓子を……しかも手作りとか困るよね」


こちらを見るみんなの顔……やっぱり困っているように見える。


「で、でもね、作るときはルウも一緒だったし、最後に焼いてくれたのもルウだから……」


ほらっ、と一口食べて見せる。


「おぉっ美味しい!」


自分でも驚きの美味しさだ。


「ルウ、何か魔法をかけた?」


思わずそう聞いてしまうほど。

ルウは笑って首をふる。


お茶を一口飲んでみんなの様子を見る。


私の隣でルウが食べ始めるのを見ながらみんなもお皿に手を伸ばす。


「……おいしい」


良かった。


「石も入っていない」


……ん?


「……針も」


……え?


「腐ってもいないね」


……警戒心……強くない?

いや! これくらいの方がいいのかな。


「や……柔らかくて……甘くて……お、おいしいよぅ……」


レトが泣き出した……なんで!?

いつの間にかミアも静かに泣いている。


思っていたおやつの時間と違うけれど喜んでくれているみたいで……よかった。


「ハル、みんな喜んでいる」


ルウがちゃんと言葉にして伝えてくれた。

それなら、夕食も張り切って作ろう。

夕食は何がいいかなぁ、と考えていると


「ハル、病み上がりなのだから寝ていて欲しいのだけれど……」


ルウが心配してくれている。


「ありがとう、ルウ。でも大丈夫だよ、料理をしたい気分だし」


おやつを美味しそうに食べてくれた子供達を見ていたらまた何か作りたくなってくる。


お茶とパウンドケーキを食べた子供達はウトウトとし始める。


ベッドは狭いし仕方がないからこのままラグの上にクッションやら布団をルウと一緒に持ってきてできるだけふかふかにしてから寝かせる。


「ルウ……この子達、帰るところはあるのかな……」


「…………」


ないっていうことかな……


「もし……」


「ハル、魔族は早くから自立するものだし群れることもない。それに彼らは僕と同じくらいの大人だ」


だから大丈夫ってこと?


「でも、みんなルウと初めて会ったときみたいに子供だし痩せているし……魔力が足りない状態なんだよね」


それならせめて……


「ハル…………」


ルウがため息をつく……


「じゃぁ……それなら……ルウもここを出ていくの……?」


姿は元に戻ったし魔力も回復しているみたいだし……


怖くて聞けなかったけれど、もしかしてみんなのあの金の輪をお城に返したら子供達と一緒にルウもここから出ていくのかな……と考えていた。


「っ…………」


ルウが困っている……

私に引き留めることはできないけれど……いきなりいなくなるようなことはしないで欲しい。


ルウがため息をつく……やっぱり困らせてしまった……


「わかった。魔力が回復するまでここにいるか、後で僕からみんなに聞いてみる」


それから、と続けて


「僕はここにいる」


ここにいるよ、と優しく私の頬に触れるルウ。

手も大きくなっちゃって、私の頬がすっぽり収まる。


「うん。私はみんながいてくれたら嬉しいからいつまででもいてくれていいからね」


って言っても私も勝手に住まわせてもらっているだけだからもしかしたら結局突然出ていかないといけなくなるかもしれないけど……


そんな私の呟きを聞いたルウは……


「この家の前の持ち主は帰って来ないよ」


…………そうなの!?


「どうして……?」


なんでルウが知っているの?


「魔石が嵌め込まれた墓があった」


一人で暮らしていたであろう前の住人は自分でお墓を用意していたのだ。


鼓動が止まった瞬間、自分が身につけていた魔石に身体は吸収されお墓の魔石がその石を引き寄せ吸収するらしい。


「まぁ、だいぶ前のことのようだから魔石にはもう何も残っていない……ただの石に戻っているようだったけれど」


自然に還ったということか……

この辺りは結構歩いたつもりだけれどもお墓には気が付かなかった。


「後でその場所へ連れていってくれる?」


私が思っているお墓とは違うから気が付かなかったのかも。


「……いいけど……何しにいくの?」


会ったことはないけれど、私の命の恩人だからね。


「お墓参り、お礼を言いたいの」


ルウが首を傾げる。


「あそこには誰もいないよ」


それでも行きたいの、と言うと納得していないようだったけれどもわかったと頷いてくれた。


「さてっ、今夜はハンバーグを作ろうかな」


ハンバーグってこっちの世界でもあるのか、こっちの言い方に変換されているのかはわからないけれど、ルウにも違和感なく通じているみたい。


魔法って便利だ。


ルウも手伝ってくれるというから甘えさせてもらおう。


「明日、城にみんなのマカラ……足輪を返してくるよ」


ルウが隣で夕食作りを手伝いながら口を開く。


そういえば…………


ルウにちょっと待っていて、と言い


「ずっと言いそびれていたのだけれど」


寝室のサイドテーブルの引き出しから森で会った馬の足に嵌められていた金の輪を持ってきてルウに差し出す。


「……これは?」


ルウの表情が……曇った……?

ことの経緯を説明し終わる頃にはルウの表情も戻っていたけれど……


「これもお城のものなのかと思って……もしかしてあの馬はお城の馬だったのかな」


勝手に外してしまったのは私だし……もしかしたら怒られるかも……


「これは私が自分でお城に返してきた方よさそうだね」


明日一緒に連れていってもらわないといけないけれど

いいかな、とルウに聞いてみる。


「これは城のものではないよ。知り合いのものかもしれないから聞いてみるよ」


僕が預かってもいいかな、と……


「うん……ルウの知り合い……? 近くに住んでいるの?」


もしかしたらそのままここには……


「魔族はすぐに移動する者が多いから、どこに住んでいるかはわからないんだよ」


時間がかかるかもしれないけれど僕が持っていてもいい? と。


そっか……うん、


「ルウに任せるよ、ありがとう」


お互い安心したように微笑む。

夕食作りに手を戻してもう一つ気になることを話す。


「ルウの服、買いにいかないとね」


そう言って背の高くなったルウを見上げると


「僕の服よりも」


「あ、そうか。子供達の服も買わないと!」


寒くなるのに暖かい服が一枚も無いなんて……


「やっぱり私も明日一緒に連れていってもらえないかな。ルウがお城に行っている間に街で買い物をしてくるから」


お願いっ、と手を合わせるとルウがため息をついてわかったよ、と言ってくれた。


「その代わり、僕の頼みも聞いてくれる?」


うん、いいよ。と返事をする。


「ハル、内容も聞かずに承諾するのはどうかと思うよ」


……だってルウだし……


「じゃぁ……ルウの頼み事って……?」


ルウが顔をしかめる。


「頼み事ができたら言う」


今は無いのかっ……まぁいいか。


「それじゃぁ頼み事ができたら言ってね」


と、お喋りをしている間も手を動かしていたからもう夕食もできそう。


人数分の食器も揃わないからみんなバラバラの形と大きさのお皿になってしまうけれどとりあえず出してみる。


フォークとスプーンもどちらか一本になるけれど足りそう。


食器を準備していると子供達がいい匂い、お腹空いた、と起きてきた。


「今夜はハンバーグとサラダとスープ、それから果物もあるよ」


パンとご飯は好きなだけどうぞ、と言うと子供達の目が輝く。可愛い。


最初は恐る恐る手を伸ばしていた子供達も一口食べるとおいしいっ、と言ってたくさん食べておかわりもしてくれた。



熱を出して目が覚めたらルウが大きくなっていて可愛い子供が六人もいて……


最初は一人で住んでいたこの家がこんなに賑やかになるなんて。


食後のお茶を飲みながらお喋りをしている子供達を眺めていると


「明日……本当に街へ行くの?」


ルウがポツリと呟いた。


「病み上がりなのにみんなのためにこんなに動いて……本当は寝ていて欲しかった」


少し怒っている……?


「もう大丈夫だよ。でも……今夜は早めに休もうか」


食器を片付けている間に子供達にはお風呂に入ってもらおう。


「子供なら二人ずつ入れるよね。ルウも先に入っちゃってね」


ルウが首を傾げる。


「僕はハルと入るよ」


…………それはちょっと


「……それはちょっと……」



どうにか声がでた…………


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