一話 後悔
ヒヒーン!!
「………今日で357回目ですね。」
「ああ、俺たちは何度頼み込みに行けばいいんだろうな。流石に王命には逆らえん、少々強引な手を使ってでも剣を作らせろ、とのことだ。」
「………王命、ですか……」
ガイスの工房の前に、二人の騎士がやってきた。
彼らは王命を受け、ガイスに武器を作らせるためにやってきたのだ。ガイスが全て注文を拒否するようになってからもう三年、流石に王もしびれを切らして、『どんなことをしてでも武器を作らせろ!!』
という命令を騎士にしたのだった。
「ガイスさん?いらっしゃいますか?国王より貴方への命をお伝えに来ました。」
「……………帰ってくれ。俺は二度とものを作る気はねぇ。」
「チッ………ふざけやがって!!」
ドンッ!!
騎士の一人がドアを蹴破り、工房に無理やり押し入った。
「こっちはテメェの我が儘に付き合ってる暇は無いんだ!さっさと作らねぇとひどい目に会うことになるぜ!」
「………帰ってくれ。」
ガイスは騎士に胸ぐらを捕まれても動じない。
その目には、ひどく後悔の念を感じる。
「チッ……」
騎士達は引き上げた。これ以上この男に何をいっても無駄だ、と考えたのだろう。今まで300回以上も訪問しても、追い返されてきたのだから。
「………どこで間違えちまったんだろうなぁ。」
ガイスは後悔し続けていた。それは、今から3年前の話になる………
カランカラン………
「やぁ、ガイスさん、新しい剣を新調しに来たんだが。」
「ん………?おお、ロードじゃねえか。久しぶりに見たな。王都からわざわざ来たのか?」
「やっぱりガイスさんの剣が一番しっくりくるんだ。王都のもいいけど、ガイスさんの方が、何倍もいいんだ。」
「ガハハ、おだてても値引きはしねぇぞ?」
その日も、ガイスは工房を開いていた。
もう数年ガイスの元で剣を買っている客が、わざわざ王都からやってきたのだ。
「んで、どんな剣にするんだ?店にあるのか?オーダーメイドか?」
「今回は………オーダーメイドにしようかと考えてるんだ。最近グリーンドラゴンとも戦うようになったし。」
「ほお、あのひよっ子がグリーンドラゴンをねぇ………
よし、わかった。オーダーメイドだな?どんな剣にする?」
「う~ん………ロングソードで、両手で持てるもの、素材はドラゴンの牙を使って欲しいな。それと、軽く、でお願いするよ。」
「はいはい……両手のロングで、ドラゴンの牙と軽く………ね。わかった。一週間待ってくれ。」
「ありがとう。よろしく頼むよ。」
「………あいつがグリーンドラゴンをねぇ……」
ガイスにとって、ロードは息子のような存在だ。
ロードが冒険者を始めた頃から見てきた。
ロードはいつもガイスの店に来ては、剣を買っていた。まだゴブリン程度しか倒せなかった男が、今ではグリーンドラゴンなんて狩っている。
魔物にはランクがあって、上からS、A、B、C、D、E、F、とある。ゴブリンはEランク、グリーンドラゴンはBランクだ。
「こりゃあ、いい武器を作らねぇとな。」
………そう、いつもの様に工房で働いていた、のに。
「ふう………こんなもんか?」
ガイスはファイアドラゴンの上位種、ボルケーノドラゴンの牙と鉄と、貴重だが、少しだけミスリル使った剣を作り終えていた。あの小僧が引き取りにきたら驚くだろうか?そんなことをわくわくしながら考えていたときに、だ。
ダッダッダッ
「ガイスさん!!ロードが、ロードがぁ!!」
「!?一体どうしたってんだ!?」
「ロードが、盗賊に殺された!」
「………ロードが……?」
ガイスは直ぐにロードの元へ向かった。胸を剣で一突きにされていた。……………その剣を見ると、ガイスが作った剣だった。
「あ、あぁ………」
ガイスは泣いた。
人生で一番泣いた。自分の作った剣が、ロードを殺したなんて。
………ガイスはロードの両親に詫びを入れ、ロードの葬式を終え、ロードの墓に手を合わせ、土下座をした。
そして、とぼとぼと帰ったのだった。
………それから王命が来ても、剣を二度と作らない、と決めたのだった。何度頼まれようが、どんなことをされようが、どんなに金を積まれようが、「もう二度と作らねぇ。」………と固く決意をしていた………。