7.魔術の授業
目の前では、この国で指折りの魔術の教師ゼントスがその属性の特色について説明している。
ここは王宮の一室で、ジークハルトは勿論、クリスティーナ、サイオン、ネイト、シリウス、ジュリアも参加しての魔術の授業だ。
ここまで、がっつり一緒に勉強することになるなんて思わなかったわ…
クリスティーナは自分で言い出したこととはいえ、王宮で一緒に授業を受けることになってしまって、戸惑っていた。
クリスティーナの中では、図書館で一緒に勉強するくらいの気持ちだったのだ。
この他にも語学や算術や歴史、なぜか剣術まである。
「クリスティーナさん」
ぼんやりしていたところをゼントスに呼ばれて、恐る恐る顔を上げた。
「あなたは属性の判定をもう受けてますか?」
「いえ、まだです」
この国では魔力が安定する15歳になると、属性の判定を受ける。
これまで前々回、前回と二回判定を受けてるから分かっているものの、今回はまだ受けていない為、こう言うしかない。
高位貴族の中には早くから訓練をする為に、個人的に早く判定を受ける者もいる。
クリスティーナもそろそろ判定を受けたいと思っていたところだ。
「じゃあ、今日は殿下以外のみんなに判定を受けてもらいましょう」
ジークハルトはすでに判定済みらしい。
「では、この球の上に手を置いて魔力を流してみてください」
ゼントスが頭の大きさくらいの透明の玉に手を置いた。
水色の光が眩く光った。
今は三十代半ばのゼントスは若い頃は水魔法の使い手として名を馳せた人物だ。
まずはサイオンから、玉に手を載せた。
次の瞬間、黄色い光が辺りを満たした。
「土属性ですね。さすがの魔力量です」
次はネイトだ。
ヒョイっと手を置くと、途端に緑色に光った。
「風属性ですね。サイオンさんには劣るものの、魔力量は結構多い方です」
次にシリウスが玉に触れると、赤く眩く光るが、その中に黒い斑点があった。
「シリウスさんは火属性と闇属性の二つですね。魔力量は一番多いです」
さすが魔術師長の息子だけに、属性二つ持ちに魔力量もダントツのようね。
そこまで考えて、クリスティーナは自分のことを思い返した。
え?このエリートと言われるメンバーでこんな感じなら、私って異常なんじゃない?前回は個別で判定してもらったから、他の人のことは知らなかったけど、確かに判定した人は驚いていた。
学園では目立ちたくないから、火属性の魔術しか使わなかった。だから他の生徒は知らなかったはずだ。
ヒロインのライバルなんだから特別なのねとしか思ってなかったけど、ここで判定されると異常さが際立つ気がする。
戦々恐々としている間にジュリアの判定が終わった。
「ジュリアさんは水属性で、魔力量は普通くらいです。最後はクリスティーナさんですね」
みんなの視線が一斉にクリスティーナに向いた。
やっぱりやらないなんて無理よね…
恐る恐る玉に手を置いた。
一際明るく、赤、青、緑、黄、黒が入り混じって光った。
クリスティーナが玉から手を引いて、光が収まってからも暫く沈黙が続いた。
みんなが目を見開いてクリスティーナを見つめていた。
「これは…凄いですね。光属性以外の全ての属性持ちです。魔力量も今まで一番です」
ゼントスは呆然として言った。
「えっと、それは学ぶことが多そうですね?」
なんと言っていいか分からず、どうでもいいようなことを口にした。
「クリスティーナさん」
一番最初に我に返ったのは、ゼントスだった。
「私の研究に協力してほしいんですが、お願い出来ませんか?」
ゼントスは今、魔術の研究に没頭しているらしく、魔術の家庭教師はアルバイトということのようだ。
手を取らんばかりに迫ってくるので、勢いに押されて少し後ずさる。
ゼントスは魔術に詳しい。
魅了の魔法について知っている可能性が高い。
だとしたら、彼の近くにいれば、それに対する対策も分かるかもしれない。
できれば、魔法や呪いを弾ける魔道具がほしい。
「ゼントス先生は魔道具に詳しいですか?」
クリスティーナの突然の問いに、ゼントスは目を瞬かせた。
「そうですね。まぁ、そこそこ詳しいと思いますよ」
「じゃあ、先生の研究に協力する代わりに私に魔道具の作り方を教えて下さい」
にっこり笑って交換条件を出したクリスティーナにゼントスは苦笑いをした。
「いいでしょう。交渉成立ってことで、これからよろしくお願いします」
二人の間で交渉が成立したのを見て、ジークハルトが待ったをかけた。
「二人とも、ちょっと待って。ティーナ、君ラグリー公爵にちゃんと許可取らないとダメだろう。まだ、君が多属性持ちだとも知らせていないのに」
「え?お父様なら、私がお願いすれば、大丈夫だと思いますけど」
クリスティーナが首を傾げる。
「僕も魔道具の作り方、教えてほしい」
シリウスが言い出したのを皮切りに、何故かサイオン、ネイト、ジュリアまでもが自分もと言い出した。
魔法大好きなシリウスはともかく、みんなが魔道具作りにそんなに興味があると思わなかった。
でも、これは自衛してもらういい機会になるかもしれない。
「皆さんがそんなに魔道具作りに興味をお持ちとは思いませんでしたけど、お父様に許可が取れたら、皆さんも一緒でもいいですか?」
「分かりました。皆さん、一応保護者の許可を得て下さい」
ゼントスが苦笑しながらも了承したので、今度こそ交渉成立だ。
「僕も一緒でいいかな?」
ジークハルトの言葉に、びっくりしてそちらを見ると、ちょっと恥ずかしげにしていた。
え?なんか凄いかわいいんだけど!
まだ12歳のジークハルトは普段はしっかりしているが、所々幼さが残っていて、その絶妙な感じがクリスティーナにはツボだった。
「殿下の教育係から許可が得られれば、私は構いませんよ」
クリスティーナが内心悶えている間に、ここにいるメンバー全員が参加することに決まっていた。