6.友達
「お父様、私、年の近いお友達が欲しいです」
年の近いお友達=攻略対象者、攻略対象者の婚約者の令嬢に違いないと踏んで、お父様に強請ってみた。
クリスティーナは5歳で母親を亡くしてから引きこもった状態だったから、お父様は喜んで早速、お茶会をセッティングしてくれた。さすが娘を溺愛してるだけあって仕事が早い。
狙い通り、お茶会のメンバーは宰相の息子のサイオン・テスラー、騎士団長の息子のネイト・コーリン、魔術師長の息子シリウス・ライトニー、サイオンの婚約者になる侯爵令嬢ジュリア・モリーニだった。
王都にいて、年の近い高位貴族の子どもがそんなにたくさんいる訳ないと思ってた。
ジュリアとシリウスは同じ年だけど、サイオンとネイトはジークハルトやレイモンドと同じ二つ歳上だ。
サイオンは濃紺の髪に榛色の瞳のちょっと神経質そうな美少年。
ネイトは茶色の髪に薄灰色の瞳のやんちゃそうなカッコいい男の子。
シリウスは水色の髪に深い藍色の瞳のおとなしそうな少し線の細い綺麗な顔立ちの男の子だ。
さすが、数年後には攻略対象者になる子たちだ。みんな顔面偏差値が非常に高い。
ちなみにジュリアは栗色の髪に焦げ茶色の瞳の真面目そうな女の子だ。
お茶とお菓子を楽しんだ後は、まだまだ子どもの彼らとかくれんぼをしたり鬼ごっこをしたりしながら、親睦をはかった。
サイオンとネイトは少し年上のせいか、面倒見がいい。だから、クリスティーナが少し甘えると、可愛がってくれた。
8歳のクリスティーナの外見は天使の如く愛らしいのだ。
「サイオン様はお勉強が得意なのですね。今度教えて下さい」
にっこり微笑みながら言うと
「もちろんだよ。分からないことがあったら言ってくれ」
サイオンは少し頬を赤らめた。
さすがに人生3回目のクリスティーナの方が知識がある。ごめんね。悪いお姉さんで。
クリスティーナは内心手を合わせた。
「ネイト様は足がとても速いんですね。羨ましいです。私も少し運動したいので、また付き合ってもらえますか?」
「おぅ、もちろんいいよ」
ネイトは機嫌良さそうに軽い感じで返事をした。
「シリウス様は同じ年なのに、もう魔法がたくさん使えるって聞きました。私、魔法にとっても興味があるので、また色々教えてくださいね」
これは本当に興味ある。魅了の魔法についても調べたい。
目を輝かせて言うと
「僕に分かることなら。君も魔力が多いらしいね。一緒にできると楽しそうだよね」
シリウスも興味をひかれたのか、ニコニコと話にのってきた。
「ジュリア様は読書好きなんですよね?私も物語とか読むの大好きなんです。うちの図書室に色々あるんで、ご一緒しませんか?」
クリスティーナが水を向けると、ジュリアは目を輝かせた。
前回でジュリアがかなりの読書家だということは知っている。
「いいんですか?もちろん、ご一緒させてください」
この後、私たちは勉強、鍛錬、魔法研究、読書仲間となって、みんなで切磋琢磨し、私は彼らのお友達という地位を得た。
前回はなるべく近づかないようにしていたが、ちゃんと付き合ってみたら、なかなかいい子たちだった。
「ティーナ、今度、王宮でお茶会があるんだ」
ラグリー公爵の言葉に、クリスティーナはとうとうジークハルトに会う日がやって来たと、顔を強張らせた。
あれから2年が経ち、クリスティーナは前回目覚めた10歳になっていた。
「王妃殿下の主催のジークハルト殿下と同年代の子たちを集めてのお茶会だよ。ティーナの友達もみんな来ると思うから、緊張しなくても大丈夫だからね」
ニコニコ笑って言うお父様を呆然と見つめた。
え?
前回は確かジークハルトとの顔合わせで、すでに婚約することがほぼ決まっていたはず。
何か変わった?
よく分からないけど、婚約者候補として会うんじゃなかったら、ジークハルトとも友達になれる可能性がある?
サイオンたちはジークハルトと友人関係だって言ってたし、友達の友達は友達ってことで。
お茶会には15人程の令息、令嬢が参加していた。
みんなのお目当てはもちろんジークハルトで、王子様というのもあるが、黄金色に輝く髪に空を映したような瞳の端正な顔立ちのせいでもある。
令嬢たちは目の色を変えて、ジークハルトにまとわりついていた。
「みんな根性あるわね。私はあの中に突撃していく勇気はないわ」
クリスティーナは何とかジークハルトと友達になれないかと思っていたが、今日は難しそうだ。
「ティーナはジークハルト殿下とお近づきになりたいの?」
ちょっと残念そうにしているクリスティーナにジュリアが不思議そうに首を傾げた。
「お友達になれたらいいかなって」
肩をすくめるクリスティーナに
「友達?それならもっと早く言ってくれたらよかったのに」
サイオンは茶菓子のマカロンを飲み込んだ後、あっさりと言った。
「前に言っただろう。俺たち、ジークとは友達だって」
「ジークは俺たちがいつも一緒に色々やってるのが、羨ましかったみたいだし、きっと歓迎してくれるよ」
ネイトも笑って同意した。
しばらくすると、ジークハルトは何とか令嬢たちを振り切ったのか、友人たちの元にやって来た。
「やっと、抜け出せたよ」
笑顔を貼り付けるのに疲れたのか、ため息をつく。
「お疲れさま。ジーク、紹介するよ。一緒にいつも勉強してるクリスティーナ・ラグリー嬢とジュリア・モリーニ嬢だよ」
「ラグリー公爵の長女のクリスティーナです。よろしくお願い致します」
「モリーニ侯爵の次女のジュリアです。よろしくお願い致します」
「あぁ、君たちが。ジークハルトだ。よろしく」
ジークハルトはクリスティーナが思ったより、好意的な笑みを浮かべた。
「ティーナはジークと友達になりたいんだって」
ネイトの言葉はこれ以上ないって言うくらい直球だった。
いくらなんでも、王太子相手に直球過ぎるわ!
引き攣りそうになる笑顔を何とかキープした。
「クリスティーナ嬢は僕と友人になりたいの?」
ジークハルトは初めは少し驚いたようだが、思いの外、嬉しそうに笑った。
ジークハルトとの関わりを極限にまで減らしていた前回には見ることのなかった穏やかな笑みにクリスティーナは一瞬怯んだ。
私は前回やっぱり間違っていたのかもしれない。
「みんなで一緒に勉強などできれば嬉しく思います」
ジークハルトの笑顔を見たら、本心からそう言うことができた。
「それは嬉しいお誘いだね。じゃあ、今日から友達ってことで」
笑顔のジークハルトはキラキラと眩しい。
クリスティーナは少しドキドキして、はにかんだような笑みを浮かべた。
「よろしくお願い致します」