5.三度目の始まり
また婚約破棄された。
今回は全然全く悲しくないし、婚約なんてしたくもなかったけど。
折角集めていた浮気の証拠を出せないまま、目の前が真っ暗になってしまった。
今からでも役立つかしら?
目が覚めると、自分のベッドの上だった。
どれくらい倒れていたんだろう?昼くらい?
辺りを見回すと、
「あっ、目が覚められたんですね。昨日まで熱が高くて心配していたんですけど、熱も下がったみたいで安心しました」
ほっとしたように侍女のマリーが息を吐いた。
「たくさん汗をかかれましたし、まずはお水をどうぞ」
?何か違和感がある。
水の入ったコップを受け取りながら違和感の正体を探る。
まさか…
記憶より少し若いマリーとコップを持つ小さな手を見つめる。
まさか!
クリスティーナは慌てて鏡の前へ向かった。
そこには前回巻き戻った時より幼い銀髪に紫色の瞳の少女がいた。
「マリー、私っていくつだった?」
恐る恐る尋ねる。
マリーは一瞬キョトンとして、すぐに淡い笑みを浮かべた。
「まぁ、お熱を出されてご自分のお年を忘れてしまわれたのですか。8歳ですよ」
マリーはふざけていると思ったようだが、それどころじゃない。
どういうこと?なんでまたやり直しなの⁉︎
しかも8歳って、前よりも巻き戻ってるし!
「ティーナ!」
銀髪に紫色の瞳の整った顔立ちの男性、記憶より少し若いお父様が部屋に入って来た。
「熱がやっと下がったんだね。よかった」
鏡の前で呆然と立っていたクリスティーナにラグリー公爵が抱きついた。
ぎゅうぎゅう抱きしめてくる父親にギブアップを叩いて伝える。
「お父様、苦しい」
ラグリー公爵は慌てて拘束を解いて眉尻を下げた。
「ごめん、ティーナ、ついつい力が入り過ぎちゃった」
娘への溺愛は今回も健在のようだ。
軽く食事をとった後、もう少し寝ると言って部屋に篭って、今回も記憶の整理をする。
なぜ、また巻き戻ったのか?
まさか無限ループじゃないわよね。もしそうなら、恐ろし過ぎる。
初代クリスティーナがこの魔法をかけたとするなら、何が目的だったのか。
ただ、好きな人に婚約破棄されそうだからってだけでかけた魔法にしては、大掛かりな気がする。
禁忌の魔法だからそれに関する書物は多分王宮の図書館にしかないし、閲覧禁止で、どうやってその知識を得たんだろう。
前回、どうやってこの魔法を使ったのか少し気になったから、調べようとしたけど、無理だった。
私の中には、初代クリスティーナの意識は、最初の悲しいという感情以外感じたことがない。
私の意識が目覚めると共にぽっかり消えてしまったようだ。
最初は卒業パーティーの日、ジークハルトの婚約破棄宣言の直後に巻き戻った。
今回は卒業パーティーの翌日の朝、ジークハルトが婚約破棄を叫んだ後に巻き戻った。
と言うことは、ジークハルトの婚約破棄という言葉がきっかけになってる可能性が高い。
ジークハルトに婚約破棄されなければ、巻き戻らない?
でも、ジークハルトの様子がおかしかったから、ジークハルトとの仲が上手くいっていても、婚約破棄されそうだ。
感情のない人形のような瞳のジークハルトを思い出す。
ヒロインのローラか!
レイモンドが魅了の魔法らしきものを使ってるって言ってた。
ジークハルトたちが操られているのだとしたら、この国は大変なことになる。
ジークハルトは王太子だし、ほかの令息たちもこれから国の中枢を担うはずの人だ。
人を簡単に操れるとしたら、いずれは陛下も操られるかもしれない。
ゲームのヒロインだと思っていたから、攻略対象者を次々と陥落させても、そういうものだと勝手に思い込んでいたけど、違うのかもしれない。
ゲームに縛られ過ぎていたのかもしれない。
それなら、クリスティーナが嫉妬してローラを虐めたっていうのだって本当かどうかあやしい。現に何もやってない前回のクリスティーナも虐めたことになってた。
このループを止めるにはまずはジークハルトたちを操られないようにするしかない。
ローラに魅了される前に、レイモンドのように結界を張ってもらうのが、とりあえず出来そうなことなのかな?
結界を張り続けるのは結構大変だって言ってたから、レイモンドみたいに魔力が多くて魔法の扱いに長けてないと無理なのかもしれないし、何か手を考えないと。
はーっ
思わず知らずため息が出る。
避けてちゃダメだ。
彼らとは友達になって、進言を聞いてもらえるくらいの仲にならないと。
憂鬱だけど仕方ない。
無限ループなんてことになったら…
嫌だ!絶対、気が狂う!
色々考えて、頭が痛くなってきた。
とりあえず寝よう!
もう一度ベッドに潜り込んだ。