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悪役令嬢は三度目の舞台を降りたい  作者: 桃田みかん


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番外編 ヒロインローラの結末

ローラ目線の顛末です。

 私が前世の記憶を思い出し、この世界が前世でやっていたゲームの世界と同じで、自分がヒロインに転生したと気づいたのは五歳の時。

 艶やかなストロベリーブロンドの髪に綺麗な水色の瞳。

 文句なしの美少女が鏡の中にいた。


 嬉しくて、毎日誰を攻略するか考えてた。

 私はゲームの攻略対象者、みんな好きで選べなかった。

 だって、それぞれみんないいところがあって、色んなタイプのイケメンだ。

 おまけに権力もお金も持ってる。

 全員に好かれたいと思うのは普通でしょ?

 だって、私は可憐なヒロインだもの。


 学園に入る前に受けた魔法の属性検査は、ゲームの設定通り、光属性で珍しい聖魔法が使えることが分かった。

 それで、益々ヒロインであることに自信をもった。


 学園が始まるまで指折り数えていた時,思ってもいなかった人物が私を訪ねて来た。

 王弟のマーマリード公爵と何故か隣国のメジリアのニコラス王子。

 表向きは稀少な聖魔法の使い手に会いに来たってことになってたけど、マーマリード公爵は何事かを企んでいる。

 だから、親切そうな顔をして魅了の魔法陣を刻んだ魔石をくれて、その魔法の使い方を私に教えたということは分かっている。

 でも、これはチャンスよね。普通なら、攻略対象者誰か一人に絞らないといけないけど、魔法を使えば誰もが私に夢中で、夢の逆ハールートが開く。

 取り敢えずは、王太子のジークハルトを選んで、他の攻略者も側に置けばいい。みんな側近なんだから、不自然じゃない。

 男爵令嬢の私が王妃になるなんて素敵よね!


 まずはジークハルトとの出会いイベント。

 街の中を歩いていると、破落戸に声をかけられる。

 きたきたきた!

 このヒロインのピンチに駆けつけるのは、お忍びで街に来ていたヒーローのジークハルトと騎士団長の息子のネイト…のはずだった。


「ちょっとあっちで話そうって言ってるだけだろ」

 薄汚い破落戸が私の手首を掴む。

「離して!」

 必死に抵抗しようするけど、男の力には敵わない。


 さぁ、ここでヒーローの登場よ!


 と思ったら、助けに入ってきたのは街の警邏。

 なんでジークハルトじゃないのよ!

 どういうこと!?


 キョロキョロと辺りを見渡すと、この騒ぎにできた人垣の中に一際輝くイケメン!

 いた!ジークハルトだ!

 やっぱりヒロインの私を助けに来たのね!


 近づこうとしたら、隣にいる女を守るように抱き寄せた。

 なんで!?その立ち位置はヒロインのものでしょ!

 どこの泥棒猫だとにらみつけたら、女が怯えたような顔をする。

 平民や下級貴族では見たことのない煌めく銀髪に紫色の瞳、悪役令嬢クリスティーナ!?


 悪役令嬢のあんたがなんで王子とここにいるのよ!


 うまくいかない出会いイベントに怒鳴りつけたい衝動をなんとか抑える。

 そうよ!こんな時こそ例の魔法を!


 ジークハルトを見ると、こちらを睨みつけてる。

 目が合った瞬間、魅了の魔法陣を刻んだ魔石に魔力を流す。


 さぁ、その女を突き飛ばして私に駆け寄るのよ!



 ……


 何も起こらない。ジークハルトは相変わらず、クリスティーナを抱き寄せてこちらを睨みつけてる。いや、益々顔が厳しくなった。


 どういうこと!?

 使用人や近所の男には効いたのに!?

 王族には効かないの?

 王弟のマーマリード公爵はそんなこと一言も言ってなかったのに!


 思っていたのと全く違う展開に呆然としているうちに、事情を聞きたいと警邏に引きずるように詰所に連れていかれた。

 試しに、この警邏に魅了の魔法をかけるが、不快そうな顔をしただけで、事情聴取が終わるまで解放されることはなかった。



 楽しみにしていた入学式のイベントも不発。

 何より、同じクラスになるはずのシリウスと悪役令嬢のクリスティーナが何故か一年前倒しで入学していて、シリウスは現在二年生、クリスティーナに至っては飛び級までしてジークハルトと同じ三年生だった。


 とにかく、攻略対象者に会うことがない。

 学年関係なく入れる食堂に来ることもないし、見かけることすら、ほぼない。


 仕方なく、同じクラスの男子に魅了の魔法をかけて、ドレスや宝石を貢がせてストレスを発散させる。


 ああ、面白くない。

 こんなモブに囲まれたって満たされない。


 やっぱりこの展開は、クリスティーナの中身は転生者で、断罪されないようにあれこれ動いているってこと?

 いえ、負けないわ。私はこの世界のヒロインなのよ!

 絶対、悪役令嬢を退場させてみせる!


 悪いのは悪役令嬢のクリスティーナ。

 クリスティーナが私を妬んで虐めてる。

 私の言うことを盲目的に信じる男子生徒たちに耳元で囁いて、クリスティーナを排除させよう。

 ジークハルトの隣はヒロインの私のものよ。



 ただでさえ面白くなかったのに、一番の貢ぎ頭、大きな商会の息子のデイビッドがある日突然学園を三日休んだかと思ったら、それ以降、私に近づかなくなった。

 魔法が解けてしまったのかと、再度魅了の魔法をかけても変化なし。


 どういうこと!?


 イライラしていたら、ひとりまたひとりと魅了の魔法が解けたのか、私の周りから男子生徒がいなくなる。


 努力しなくても、魅了の魔法さえあれば男の子がなんとかしてくれる。

 だから、碌に勉強もしてないし、成績は底辺。

 聖魔法が使えるって言っても、訓練もあまりしてないから、大した魔法は使えない。


 こんなはずじゃなかったと思うのに、魔法が解けた男子生徒には視線が合わないように遠巻きにされ、女子生徒には婚約者や恋人のいる男子生徒を魅了の魔法で侍らせてたから、嫌われている。


 ヒロインの私がどうしてこんな目に!?



 武術大会は全学年で行われる。

 攻略対象者たちと関われるチャンスがやっと巡ってきた。

 女生徒に虐められてるのを公爵家令息のレイモンドに助けられるというイベントもある。


 張り切っていたのに、魅了の魔法が効いているのか、モブの中でもあんまり役に立たない男爵家の次男や三男、それほど裕福でもない平民の男子生徒たちが私の周りにへばりついて離れない。


 その中の一人にクリスティーナを排除するように何とか言い含めた。

 でも、他の男子生徒はまだ纏わりついてる。


 これじゃあ、女子生徒に虐められるイベントが起きないじゃない!


 魅了の状態を解除したくても、やり方が分からない。

 あの王弟がちゃんとそこまで教えないから、こんなことになるのよ!


 結局、イベントは起きなかった。

 攻略対象者とは、誰とも近づくこともできなかった。

 そして、クリスティーナを排除しに行ったはずの男子生徒はそれっきり戻って来なかった。 





 なんで?どうしてこうなった!?


 学園が長期休みに入ったある日、王宮騎士団の騎士団長が部下を引き連れ、王太子に精神魔法を仕掛けた罪で私を捕まえにやって来た。


「そんなこと知らない」って言っても聞いてもらえず、取調室に連れていかれた。


 証拠品として、魅了の魔法を使う時に使っていた魔石が押収された。


 まずい!まずいわ!

 でも、ジークハルトに魅了の魔法をかけたなんて、証拠はないはず!


「これは王弟のマーマリード公爵様から頂いた物で、使ったことはありません」

 苦しい言い訳をしても、取調官たちに鼻で笑われただけ。

「こちらには精神魔法を受けると、その攻撃をした魔力を記録できる魔道具がある。もちろん、お前の魔力が記録されている」

「!?」

 そんな物があるなんて聞いてない!


「大体、ジークハルト殿下だけじゃなく、クラスメイトや教師にまで魔法を使っていたのは分かっている。それも記録が残っている」

 証拠を突きつけられて、ぐうの音も出ない。


「お前は自分が周りから何と言われているか知ってるか?」

 取調官は馬鹿にしたような笑みを浮かべている。


 どうせ悪口なんだろう。そんなの知るわけない。


「見せかけだけのハリボテ淫乱女だ」

「淫乱!?」

 可憐なこの世界のヒロインが淫乱!?


「は?意外なのか?何人もの男に精神魔法をかけて、自分の周りに置いてただろ。魔法で強制的に自分に奉仕させて楽しかったか?」

 心底侮蔑した目で見られる。


「そんな、そんなつもりなかったわ」

「馬鹿なのか?馬鹿じゃなきゃ、こんなことしないか。そんな頭でよく、ラグリー公爵令嬢を陥れようとしたな。男たちにラグリー公爵令嬢の根も葉もない悪口を吹き込んで襲わせようとしていたことも判っている」


「襲わせようなんてしてません」

 あれは私に夢中になった男たちが勝手に立てた計画だ。


「何がクリスティーナ様に嫉妬されて虐められてる、だ。ラグリー公爵令嬢は飛び級できる頭脳を持っておられて、ジークハルト殿下の最愛の婚約者なんだぞ。お前みたいなハリボテ淫乱女に嫉妬する訳ないだろう。一応言っておくが、王宮にお前の味方をするような奴はいないぞ。みんな賢くて身分に関係なく優しいラグリー公爵令嬢が大好きだからな」


 遠慮会釈ない取調官の言葉にヒロインであるプライドがズタズタだ。

 やっぱり、あいつのせいだ。

 クリスティーナがちゃんと悪役令嬢をやらないから、私がこんな目に遭う羽目になったんだ。


 不貞腐れた私の様子が気に入らないのか、取調官が大きなため息を吐いた。

 その後、何かを言おう口を開き掛けた時、突然ジークハルトが取調室に入ってきた。


 助けに来てくれたと一瞬喜んだけれど、その腐った生ごみでも見るような顔を見て、一気に失意のどん底に落とされる。


「全く反省はなさそうだな。証拠は揃ってるし、もういいだろう。牢に入れておけ。あ、パティーニ男爵は爵位剥奪だから、平民の牢でいいぞ」

 冷たく言うと、取調室を出て行った。


 爵位剥奪!?

 私、もう貴族ですらないの?


「当たり前だろ。爵位剥奪だけで済んだのを、御の字だと思えよ。普通なら男爵家全員処刑だ」

 取調官がせせら嗤うように言った。


「なんで、どうして、バッドエンド…私はヒロインなのに…逆ハーなんて目指したからダメだったの?でも、誰一人攻略できてないのに…攻略どころか、ほとんど話したことすらないじゃない。ひとつもいいことなかったのに、バッドエンドなんて嫌よ!嫌!やり直し!リセットよ!」

 折角ヒロインに転生したのに、まともに話したことすらない攻略対象者たち。

 ぐるぐるとゲームの場面が流れるけれど、実際は何一つ実現していない。

 あんなことやこんなことが体験出来ると信じていた私は現実が受け入れられず、最後には叫んで、部屋を飛び出そうとした。


「おい!押さえろ!早く牢に連れてけ!」

 屈強な騎士たちに押さえ込まれて、暗くてカビ臭い地下牢に押し込まれてしまった。




 こんなはずじゃなかった。

 こんなの認められない。

 私はこの世界のヒロインなのよ。

 その私がこんな汚くて臭いところにいなきゃいけないなんて、全部悪役令嬢のクリスティーナが悪いのよ!

 クリスティーナがシナリオ通り動かないから!


 牢にいる間中、クリスティーナに対する怨嗟を呟き続けた私は、更に要注意人物となった。


 そのせいか、一週間もしない内に、魔力を封じられて北の最果てにあるという修道院に送られることになった。




「ここの掃除が終わったら、トイレの掃除もお願いね」

 二十歳くらいのそばかすの目立つひょろっとした女が生意気にも私に指示をする。

 私の指導係になったアンという平民の女だ。

 周りには雪しかなくて、寒いし建物はボロいし、命令されるし、気分は最悪だ。


 返事をしないでいると、女が鼻を鳴らして笑う。

「ちゃんと掃除しないと、あんたが晩飯抜きになるだけだよ」

「ヒロインの私がそんなことできる訳ないでしょ!」

「は?いつまで、そんな夢見てんのよ。現実を見な。あんたは罪人で生涯こっから出れないんだよ」

「私が何したって言ってうのよ。ちょっとみんなにチヤホヤされたかっただけじゃない」


 アンは私の言葉に大きなため息を吐いた。

「あんた、いい加減認めなよ。悪いのはあんた自身なんだ」

「なんでよ。シナリオ通り動かないクリスティーナが悪いに決まってるわ」

「じゃあ、聞くけど、そのクリスティーナ様はあんたに何かしたのかい?」

「…何もしてない。だから,それが!」

「あんたはなんで何もしてない人が悪いと思うの?」

「…シナリオ通りじゃないと、私が幸せになれない」

「あのね、みんなあんたのために生きてる訳じゃない。自分や自分の大切な人のためにみんな一生懸命なんだよ。あんたが何をやったかはちょっとだけ聞いた。あんた、男にチヤホヤされたくて魔法を使ったんだろ。その男たちにだって意思はあったし、大切にしていた婚約者や恋人だっていたかもしれない。なのに、あんたが魔法を使ったせいで何人もの人が不幸になったんじゃないのか?」


 アンの諭すような言葉を少し冷静になって考える。


「もし、あんたが好きでもない男におんなじことされたらどう思う?」

「…最悪だわ」

「そうでしょう。他人の意志を勝手に曲げるなんて、その人の尊厳を踏み躙る行為だよ。あんたの邪な願望のせいで不幸になった人が何人もいるってことを理解しな」


 私は彼らが本当に好きだったわけでもなんでもない。

 ただ、みんなにチヤホヤされて、色んなプレゼントが欲しかっただけ。

 ゲームのシナリオなんてものを抜きにすれば、他人の気持ちを操った私が横暴だったという事実しか残らない。


 本来結ばれるはずの人たちの関係を壊した私は他から見れば、悪人だ。


 久しぶりに家族の顔が浮かんだ。

 かわいいかわいいって私に甘かったお父様。

 なにかと小言が多かったけれど、私の幸せを願っていてくれたお母様。

 近頃はすっかり生意気になっていたけど、小さな頃は姉様姉様って言って懐いてくれていた弟。


 私のせいで、爵位剥奪になった。

 とんでもない娘の家族として、肩身の狭い思いをしているに違いない。

 きっと恨んでるだろうな。


 涙がポロリと溢れた。


 ポロポロ泣き出した私が漸く自分の罪に向き合うことができたことが分かったのか、アンの目は優しく細められた。


「あんた、きっとかなり恨みかってるから、ここにずっといられるなんてラッキーなのよ」

 アンの言葉に、泣いているに、笑いが込み上げてくる。


「アハハ、そっか。ラッキーなんだ」

「そう、だから、感謝して働きなよ」


 その日、私は久しぶりに思い切り泣いて笑った。

 そうか、幸不幸は捉え方次第。

 ゲームのヒロインだという枷から解き放たれた今の私は不幸だけど、不幸じゃない。


 その日から、私は真面目に掃除に取り組むようになった。

 ここから一生出ることができない私には祈ることしかできない。

 私のせいで爵位剥奪された家族、魅了の魔法で心を縛って大切な人を蔑ろにしてしまった男の人たち、その家族や婚約者や恋人、やってしまったことはもう取り消せないけど、少しでも心に平安が訪れますように、彼らに幸せが訪れますように。

 今日も祈りを捧げる。

ローラも最後にはヒロインであるという思いから解き放たれて、反省しました。

賛否あるかと思いますが、反省したローラを暖かく見守って頂けると嬉しいです。


たくさんの評価やいいねをありがとうございます。

今度は元クリスティーナのその後が書けたらと思っています。

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