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3.お兄様は味方?

 また、あの魔の卒業パーティーが近づいてきていた。

 クリスティーナの2歳年上のジークハルトやレイモンドが卒業するのだ。

 クリスティーナとローラはまだ一年生で、卒業生以外は卒業パーティーの参加は必須ではないものの、多くの生徒が参加する。


 卒業パーティーを欠席しようかと半ば本気で考えていたが、未だにジークハルトの婚約者だから、それは無理だろうなと諦めた。


 あんなにローラにべったりくっついているんだから、さっさと婚約の解消を申し出てくれればいいのに!

 王家に対してこちらから婚約の解消を申し出るのはなかなか難しいのだ。


 ローラはこの一年でジークハルトを始め、攻略対象者たちと交流を深めていた。

 彼らの婚約者たちは皆、婚約者のその変わりようを嘆き、不誠実な態度を諫めてきたが、彼らの態度が変わらないと分かると、見切りをつけたようだ。


 あんな風にあちこちの男性に媚を売り、傅かれている女に夢中になっているような男では、出世も見込めないし、当然だろう。いくら貴族社会で身分がものを言う世界とはいえ、無能で人望がなければ、没落するのは必然だ。


 お兄様は大丈夫かしら。

 クリスティーナは前世での推しだったレイモンドのことを思った。

 容姿は記憶に残るレイモンド・ラグリーそのものだった。

 しかし、ゲームの中の他人を寄せ付けない冷たいレイモンドとは違い、現実のレイモンドはクリスティーナに優しく、甘やかそうとしてくるくらいだった。

 そんなレイモンドの様子が変わり始めたのは、ローラがジークハルトと仲良く話す姿をよく見かけるようになり、その側近候補と言われる令息たちがローラに侍るようになった頃だった。

 最近は他の令息たちと同じようにローラの周辺にいることが多い。

 このままではよくないと早く気づいて欲しい。

 悪役令嬢である私が関わるのは悪手だと分かっているので、何も言えないけど…



 大体、ヒロインは誰か一人を選んで愛を育むものじゃないのか?見目麗しい高位貴族男性ばかりと仲良くする姿に違和感を覚える。

 これはもしやローラも転生者で、逆ハーを目指しているのか?でも、ゲームの世界でならまだしも、現実世界では許容されるはずがないのに…

 今は学園内の話に止まっているから、大問題にはなっていないが、卒業すればそうはいかない。

 ジークハルトもどうする気なのか?

 教育されてない男爵令嬢なんて王太子妃には迎えられないだろう。陛下も王妃殿下も許すとは思えない。


 色々モヤモヤするものの、どうすることもできなかった。明日は卒業パーティーだという日の夜、レイモンドから話があると珍しくクリスティーナの部屋を訪ねてきた。

 ここのところ、レイモンドはローラにくっついていたので、二人で話すのは久しぶりだ。


 マリーにお茶を淹れてもらい、何の話かとドキドキしながら向かい合わせのソファーに座った。

 レイモンドの表情は冴えず、どう話すか思案しているのか沈黙が続く。

「お兄様から部屋に訪ねて来るなんて、珍しいですね。何のお話ですか」

 なかなか口を開かないレイモンドに、焦れてクリスティーナから話し出した。

 すると、レイモンドは辛そうに顔を歪めると、頭を下げた。

「ごめん。ティーナ」

 何を突然謝罪されたのか分からないクリスティーナは慌てて、頭を上げるように懇願した。

「何かあったんですか?」

 顔色の悪いレイモンドのことが心配になってきた。

「ジークハルト殿下のことだ」

「ジークハルト殿下?」

 意外な名前が出てきて、クリスティーナはキョトンとしてしまった。

 レイモンドはその顔を見て、少し落ち着いたのか、ひとつ息を吐いた。

「あぁ、殿下がローラ嬢に入れ込んでいるのは、ティーナも知っているだろう。側近候補と言われている令息たちも揃ってローラを女神のように崇めてる。気味が悪いほどだ。俺はずっと自分の周りに魔法や呪いを弾く結界を張っていたんだ。側で何が起こっていて何が狙いなのか探っていた」


「え?お兄様はローラを探る為に彼女の側にいたの?てっきり、お兄様はローラのことが好きなのかと思ってたわ」

 クリスティーナは目を瞬かせた。

 結界を張っていたお兄様がローラに惹かれてないってことは、ヒロインが攻略対象者に好かれるのは、魔法や呪いのせいだってこと?

 びっくりなゲームの裏側なんだけど!


 レイモンドは心底嫌そうな顔をした。

「あんな下品な奴、好きな訳ないだろう」

 思った以上に辛辣で、顔が引き攣った。

 優しいお兄様がここまで言うなんて、ローラは一体何をしたんだろう?


「全ての目的は分からないが、あの女の目的の一つはティーナを貶めて自分がジークハルト殿下の婚約者におさまることだ」

「そうでしょうね」

 分かっていることなので、驚くこともなければ、怒りも感じない。


「ジークハルト殿下はローラの言うことを真に受け、明日の卒業パーティーでティーナを断罪して、婚約破棄する気だ」

 レイモンドは言いにくそうにしていたが、クリスティーナがあまりに落ち着いているので、拍子抜けしたようで

「大丈夫か?」

 窺うように訊いた。

「大丈夫よ。私はジークハルト殿下にも王太子妃にも興味ないわ。正直、婚約の解消ならして欲しいくらいよ。ただ、断罪って、何も悪いことはしてないんだけど」

 これがゲームの強制力なのかと、ため息を吐いた。


「それは俺も思ったよ。ローラが言っていることには証拠がひとつもない。でも、殿下たちは盲目的にローラを信じているんだ。殿下と二人の時に進言してみたんだけど、聞く耳を持たない」

 レイモンドは憂鬱そうに嘆息した。

「卒業パーティー、欠席しようかしら?殿下はエスコートする気もないから、何の連絡もないし」

 義務感で行かなきゃいけないと思ってたけど、やってもいない罪をなすりつける気のようだし、もう放棄しても良いんじゃないかしら?


「そうだな。病欠ということにするか。後のことは俺に任せておけばいい」

 頼もしいレイモンドの様子にクリスティーナは頬が熱くなり胸がドキドキし始めた。

 それを誤魔化すように俯いて早口で言った。

「ありがとう。お兄様が味方でよかった。後のことはお任せします」

「分かった。任せてくれ。ひとつ確認しておくけど、殿下との婚約は解消しても構わないんだよな」

 探るようにクリスティーナを見た、

「構いません。むしろ解消してもらいたいわ」

 きっぱり言い切ったクリスティーナにレイモンドは満足そうに頷いた。


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