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悪役令嬢は三度目の舞台を降りたい  作者: 桃田みかん


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24.黒幕

「人がちょっと目を離した隙に何やってるんだ!」

 クリスティーナはあの後、魔術師長に観覧席まで送ってもらって、話を聞いたジークハルトにそのまま空き教室まで連行されてしまった。


 ジークハルトの剣幕にクリスティーナはびくっと肩を揺らした。

「ごっごめんなさい」

 ローラに操られていた時以外では、ジークハルトが声を荒げるのを見たことがなかったクリスティーナは思わず脊髄反射で謝った。

 がばっと頭を下げたクリスティーナを見て、若干冷静さを取り戻したのか、大きく息を一つ吐き出した。


「ごめん。ちょっと焦ってしまった」

「いっいえ、私が迂闊だったんです。私こそ、何とか場を収めなくてはと焦ってしまったみたいです」

「いずれはクリスティーナの存在が知られることは分かっていたんだ。何とか表に出る前に決着をつけたかったけど、今回の件で多分、クリスティーナが魅了の魔法を解いているのを知られてしまったと思う」

 すっかりいつもの冷静さを取り戻したジークハルトは眉間に皺を寄せた。


「クリスティーナに向こうから接触してくる可能性が高い」

「あの、向こうというのは誰を想定しているんですか?分かっていた方が気をつけられると思うんですが…」

 ジークハルトは、ずっと誰かを想定して動いていると感じていたクリスティーナは思い切って訊いてみた。


 俯いて暫く思考に耽っていたジークハルトは迷いを振り切ったように顔を上げた。

「そうだな。証拠がまだ集まってないから、ここだけの話にしてくれ」

 クリスティーナが黙って頷くと、教室に防音結界が張られた。


「ベルドリアン・マーマリード公爵」

「マーマリード公爵…」


 現国王の王弟。二人いる王弟のうち、上の方の方。

 王位継承順位がジークハルト様に次ぐ二位だったはず。

 確かにジークハルト様に何かがあれば、マーマリード公爵が次期国王。

 彼なら閲覧禁止の本も容易に読むことが可能だろう。


「想定通りか?」

 黙って考え込んでいるクリスティーナにジークハルトが苦笑した。

「そうですね。狙いがジークハルト様なら、真っ先に疑われる方ですね。ただ、なんで、ローラに魅了の魔法を使わせるなんて方法なんでしょう?」

 マーマリード公爵は内心はともかく、外面はジークハルト様の良き叔父という感じの方だった。権力欲があったにしても、そんなに権謀術数を巡らせられるような方ではなかった気がするんだけど…


「直接的なのは失敗してるからかな」

 なんてことのない顔をして肩を竦めた。

「え⁉︎そんなことがあったんですか⁉︎」

 クリスティーナは驚いて思わず、ジークハルトの腕を掴んだ。

「クリスティーナと婚約する前のことだし、証拠がある話じゃない」

 自分の腕を掴んでいるクリスティーナの手を落ち着くようにとぽんぽんと軽く叩いた。


 直接的にということは、今までに命を狙われたことがあるということで、しかしながらクリスティーナにはそんなことを感じさせたことがなかった。

 それが何故かクリスティーナには結構ショックで少し寂しいと感じていた。


 ジークハルトは心配そうに瞳を揺らせるクリスティーナをそっと抱き寄せた。

「大丈夫だ。子どもだったあの頃とは違う。身体も鍛えたし魔法の腕も磨いた。クリスティーナのお陰で精神攻撃にも強くなったからな」

 ちょっと笑ったジークハルトの鍛えられた硬い胸筋を感じて、真っ赤になって、慌ててパッと離れた。


 ジークハルトは動揺を隠せないクリスティーナを楽しそうに眺めた後、表情を引き締めた。


「彼には協力者がいて、恐らく、このシナリオを書いたのはそいつだろう」

「それは誰かは分かっているんですか?」

「隣国のメジリアの者だ。メジリアが国としてどこまで関わっているのかは分からないが」

「メジリアですか」

 メジリアは我が国サザーリンド王国の北側に位置する国。

 時折国境では小競り合いがあるものの、国交も開かれていて、それほど敵対している間柄ではないはずだ。

 メジリアがどう関わっているかによって、国としての対応の仕方が変わってくる。

 単なるジークハルト様とローラの浮気による婚約破棄騒動だと思っていた頃が懐かしい…


「なんだか話が一気に大きくなった気がするわ」

 クリスティーナは遠い目をして、思わずつぶやいた。



「とにかく、クリスティーナは自分の身の安全を最優先にしてくれ。あんまり俺に心配させるなよ」

 ジークハルトの唇がそっとクリスティーナの額に落とされた。


 え?え?え?

 今、おでこにチュッてした?


「さぁ、そろそろ戻らないと」

 ジークハルトは何があったか、気づいて、額に手を当てて耳まで赤くなっているクリスティーナの手を引いて競技場へと戻って行った。



「大丈夫?なんか顔赤いけど」

 ジュリアがクリスティーナの顔を覗き込んだ。

「だっ大丈夫よ。気にしないで」

 ジュリアとメリルは涼しい顔をしたジークハルトと落ち着かないクリスティーナを見比べて、何事かを察した。

「それより、ほら、決勝戦が始まるわよ」

 二人は誤魔化すように競技場の中央に注意を向けようとする可愛らしい友人をニヤけた顔で見ていた。


 今年もレイモンドとネイトが勝ち上がっていて、決勝戦は二人の対戦となっていた。

 魔法の腕はレイモンドが勝るが、剣の腕はネイトの方が優っていて、一進一退の戦いを続けた結果、今回はネイトに軍配が上がった。




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