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悪役令嬢は三度目の舞台を降りたい  作者: 桃田みかん


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23/35

23.武術大会再び

 あれからクリスティーナはローラの魅了の魔法に囚われている男子生徒三人を解放した。

 心配していたクリスティーナの魔法による副作用はなく、皆正常に戻った。

 今は少しずつ、ローラの取り巻きを減らしていっているところだ。


「高価なドレスや宝石をプレゼントしてくれる人がいなくなってイラついてるみたいですよ」

 メリルはいつものようにラグリー公爵家のシェフお手製のクッキーに手を伸ばしながら、ローラの様子を報告した。

「そう言えば、デイビッドが関わらないようにしてるのに、攻撃してくるってぼやいてましたよ」

 ウィリアムはデイビッドのその時の様子が面白かったのか、ケラケラと笑った。


「思い通りにいってない分、何か仕掛けて来る可能性が高いな。特に今度の武術大会は気をつけてくれ」

 ジークハルトは難しい顔をして、お茶を飲んでいる。

「武術大会は全学年が集まるから、今まで関わりのなかった二年生や三年生も狙われますね」

 クリスティーナは折角、魅了の魔法を解いていっているのに、また犠牲者が増えていくのかと思うとげんなりした。


「魅了の件もあるが、ローラの取り巻きは善悪の区別がつかなくなってるから、何をしてくるか分からない。学園関係者以外の者も来るし、クリスティーナは絶対一人になるなよ」

 ローラの魅了の魔法のことばかり考えていたクリスティーナはジークハルトの予想以上の厳しい声音に、気圧されるように頷いた。


「ところで、今年は女生徒の参加は増えたんですか?去年みたいに魔術ショーするの嫌ですよ」

 ジュリアが眉根を寄せる。

「少しは増えたかな。今年はアーボス辺境伯の令嬢が参加するらしいし、平民の女生徒が数人だな。今年は魔術ショーはしないから安心して」

 サイオンが参加者名簿をペラペラとめくった。

「アーボス様たちが活躍されれば、来年、また増えるかもしれませんね」

 今年は魔術ショーをしなくて済みそうで、クリスティーナもホッとして、クッキーを口の中に入れた。


 クリスティーナはこの時のジークハルトの懸念をそれほど重要視していなかった。




「今年はゆっくり見学できるわね」

 クリスティーナは上機嫌で武術大会の見学席にいた。

 競技場では去年の優勝者レイモンドが三年生の男子生徒と戦っていたが、すぐに決着がついた。

 観客席に手を振るレイモンドに周りからは、女生徒たちの黄色い声援が飛んでいる。

 容姿も性格も才能も二重丸のレイモンドは大人気なのだ。

「さすがはお兄様。危なげないわね」

「レイモンドは去年の優勝者だからな。今年も優勝候補だよ」

 ところどころで仕事があるジークハルトはクリスティーナの隣で一緒に見学だ。

 生徒会の男子メンバーは皆優秀なので、順調に勝ち進んでいっている。


「そろそろ一旦、休憩だな。ちょっと行ってくる」

 ジークハルトが時計を確認すると、仕事をするべく席を立った。

「いってらっしゃい」

 呑気に手を振るクリスティーナを振り返って

「絶対に一人になるなよ」

 念押しして行く。

「いつからあんなに過保護になったのかしら」

 立ち去って行くジークハルトの背中を見ながら、小首を傾げた。

「去年、上級生の令嬢たちに絡まれてたでしょ。あれ、ジークハルト殿下、結構怒ってたのよ」

 ジュリアがクスクスと笑った。

「そうなの?」

 あの時、助けに入ってくれたのはレイモンドだったので、クリスティーナはジークハルトがどう反応したのか知らなかった。そもそも、その話をジークハルトが知っているなんて思ってなかったのだ。


「あれから、絡まれなくなったでしょ?かなりきつめに叱責したらしいわよ」


 まさか、自分の知らないところでジークハルト様がそんなことしているなんて!

 クリスティーナは目を見開いた。

「ティーナは案外鈍感よね」

「そうですね。完璧なクリスティーナ様の唯一の弱点かもしれませんね」

 クリスティーナは微笑ましそうに見つめてくるジュリアとメリルにどう答えていいか分からず、曖昧な笑みを浮かべた後、話題を変えた。


「そう言えば、アーボス様はさすが辺境伯の御令嬢ね。剣の太刀筋が素晴らしかったわ」

「そうね。三回戦で負けてしまわれたけど、来年が楽しみね」

 クリスティーナのあからさまな話題転換にも、ジュリアはにこやかに応じる。

「他の方たちも一回戦で負けてしまったけど、また来年頑張ってほしいですね」

 メリルもニコニコとその話題に乗った。

 二人の生暖かい視線にクリスティーナは若干居心地の悪さを感じたものの、余計なことを言うと藪蛇になりそうなので、気づかない振りをしておくことにした。



 休憩時間の間におトイレを済ませようと、ジュリアとメリルと一緒に競技場の傍にあるトイレへ向かっていると、クリスティーナの足元に誰かの足が差し出された。男子生徒の足だ。


 いち早くそれに気付いたクリスティーナは足をサラッと躱す。

 あまりに綺麗に躱されたので、相手は焦ったのか、もう一度足を掛けにきた。

 またサラリと躱した後、足を掛けてきた生徒を振り返って確認した。


 まさかあっさりと躱されるとは思ってなかったのか、唖然とした様子で立ち竦んでいる男子生徒と目が合った。


 ローラの魅了の魔法がかかっている男子生徒だと気づいたが、人目の多い場で魅了の魔法の解除を行うのは躊躇われたので、そっと視線を外した。

「どうしたの?」

 急に立ち止まって振り返ったクリスティーナを不審に思い、ジュリアとメリルが男子生徒を見遣る。

 二人はさりげなく、クリスティーナを背に庇うように立った。


「ラグリー公爵令嬢!貴方がローラを虐めているのは分かっている!」

 開き直ったのか、男子生徒が声を張り上げた。

 その大きな声に驚いた周りにいた人々は、何事かと男子生徒に注目した。


 あーあ、やらかしたよ。

 クリスティーナはため息が出そうになるのを何とか堪えて、事態の収拾をする為、ジュリアとメリルの前に出た。


「何を仰っているの?ローラなんて方存じ上げませんが」

 同じクラスでも同じ学年ですらないローラは知り合う機会がないのだ。知らなくても、全く不自然ではないし、本当に関わりがない。

「大体、わたくしがなぜその方を虐める必要があるのです?」


 周囲は「それもそうだよな。知り合いでもない男爵令嬢を虐める理由がないよな」と納得した雰囲気になった。

 武術大会の最中だ。これ以上騒ぎを大きくする訳にいかない。


「それは!ローラがあまりに魅力的だから、嫉妬して!」

 誰も納得できない論理を振りかざす男子生徒に、こっそりため息を吐くと、男子生徒の目を見る。

 目が合った瞬間、ポケットの中の魔石を握って闇の魔力を流した。

 男子生徒は開きかけた口をそのままに、一瞬、動きを止めた。


「そんなことはあり得ません。これ以上の言いがかりはやめて下さいね」

 瞬きを繰り返す男子生徒に静かに諭すと、正気に返ったのか、青ざめて何度も頷くと

「申し訳ございません!」

 がばっと勢いよく頭を下げた。


 クリスティーナは頭を下げたままの男子生徒を残して、ジュリアたちと共に足早にトイレに向かった。



「クリスティーナ嬢」

 トイレから出てくると、出待ちをしていた人物がいた。

 見知った顔に、クリスティーナの片眉が上がった。


「ライトニー魔術師長様?」

 シリウスの父である魔術師長がクリスティーナを呼び止めたのだ。

 クリスティーナは挨拶程度しかしたことのない人物が待っていたのに驚いて、目を丸くした。

「話したいことがあるのだが、少しだけ時間を貰えないだろうか?」

「えっ…あ、はい。分かりました」

 魔術師長がわざわざ話しかけてきたのだ。きっと大切な話があるのだろうと察して、ジュリアとメリルには先に席に戻ってもらった。


 近くにある木陰のベンチに座ると、周りに防音結界が張られた。

 さすがは魔術師長。息をするように魔法を使うのね。

 関係のないことに感心していると、ライトニー魔術師長は休憩時間が終わるのを気にしてか、早速本題に入った。

「先程のは魅了の魔法だね」

 クリスティーナの肩がピクリと反応した。

「あぁ、大丈夫。使用については許可が下りてるのは知ってるから。大体のことも聞いてる」

「そうですか」

 魅了の魔法の使用を咎められる訳ではないと分かって、ほっと息を吐いた。

「普通の人はクリスティーナ嬢が魔法を使ったのは気づいていないと思う。ただ」

「ただ?」

 中途半端に切られた言葉に不安になって、魔術師長の顔を見た。

「あまりにもはっきり効果が出たから、クリスティーナ嬢が何かをしたのだと分かってしまった可能性が高い」

「そうか、そうですね。ちょっと迂闊でした」

 失敗したな。

 クリスティーナは苦笑を浮かべた。

「そろそろ動き出す頃だし、大勢には問題ないと思うんだが、クリスティーナ嬢が狙われるんじゃないかと思って。気をつけて」

 シリウスと同じ濃紺の瞳が心配そうにクリスティーナを見つめて、首元に目を留めた。

「それは…」

 クリスティーナが自分の首元を確認して、ネックレスを摘んだ。

「これですか?」

「それは、ジークハルト殿下から?」

「ええ、以前に頂いた魔道具の一種です」

「そう。それはまた、なかなか。殿下の深い愛情を感じますね」

 クリスティーナはキョトンとした顔をして、ネックレスを見つめた。

 普段もできるようにと、装飾は最低限のシンプルな物だ。

 クリスティーナの様子を見た魔術師長はふっと笑みを浮かべた。

「これはクリスティーナ嬢を護ってくれる物です。肌身離さず持っていて下さい」

 クリスティーナはそんなに大層な物だったのかと慄きながらも、頷いた。

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