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18.ヒロイン入学

 先日、クリスティーナたちは無事進級を果たした。

 クリスティーナは飛び級をしたので、ジークハルトたちと同じ三年生。シリウスとジュリアは二年生だ。

 クリスティーナは二人を誘ってはみたが、飛び級をすると、成績を維持するのが大変だからとそのまま普通に進級した。


 ローラとは学年が違うなら、それほど接点はないだろうし、大丈夫だろう。多分…


 あのジークハルトの「好き」発言からクリスティーナはドキドキして意識していたのだが、ジークハルトのあまりに変わらない様子に、もしかして夢でも見ていたんじゃないかと思う今日この頃だ。


 それよりも、あのローラが学園に入学したのだ。

 脳裏に憎々しげに睨むローラの顔が目に浮かぶ。

 あの様子では諦めないだろうな。

 ヒロインは真面目なかわいい女の子だと思ってたのに、見かけだけが記憶にあるそれで中身が明らかにおかしい。


 ジークハルトとの出会いのイベントをただの目撃者としたのを始め、入学式の日の再会も徹底的に避けて、未だ再会していない。

 攻略対象者みんな学年が違うので、避けようと思えば避けられる。

 昼食は王族専用の談話室でみんなでとっている。食堂からジークハルトの侍従のキールが運んできてくれる。

 ローラを避ける為とはいえ、毎日余計な手間を掛けさせて大変申し訳ない。


 放課後は生徒会室で集まるので、ローラは入って来れない。

 避けてはいても、ローラの動向は気になるので、一年生の中で信頼できる二人を選んで生徒会に入ってもらった。

 一人は伯爵家の次男でウィリアム・ハーデン。この国によくある茶色の髪と瞳で、容姿は中肉中背で平均的なものの、頭の回転が早く、機転が効く人物だ。

 もう一人は子爵家の三女でメリル・オリエンティ。赤みを帯びた金髪に緑の瞳の小柄の可愛らしい令嬢で、ネイトの婚約者だ。人懐こい性格で、情報通なメリルは前回でクリスティーナの友人だった。

 二人にはもちろん、結界を張れる魔道具を渡している。


「ローラの様子はどう?」

 クリスティーナは生徒会活動の休憩のお供にと公爵家のシェフお手製のクッキーを鞄の中から出した。

 それを見たメリルの目が輝いた。

「お茶の用意をしますね」

 メリルはいそいそとみんなの分のお茶を淹れていく。


「ローラ様は何人もの男性に囲まれてますわ」

 メリルはお茶を淹れ終えて座ったところで、今日の報告をする。

「下位貴族や商家の御子息ばかりですが、ちょっと異様ですね」

「僕も何度目かの攻撃を受けましたよ。クリスティーナ様の魔道具には本当、感謝です」

 ウィリアムはローラにあんまり近寄らないようにしているようだが、同じクラスなだけに避けられないこともあるようだ。

「役に立ってよかったわ。何か困ったことがあったら言ってね」

「ありがとうございます。ところで、ローラ嬢にとち狂った奴らは正気に戻れるんですか?どんどん数が増えてて怖いんですけど」

 ウィリアムは微かに顔を顰めた。

「ティーナのおかげで魔法の記録が残ってるから、そこから解除方法を探ってるところだ」

 ジークハルトがお茶を飲みつつ難しい顔をしている。


 さすがに全員分の魔道具は用意できないし、どこに黒幕や仲間がいるか分からない。敵に手の内を明かす訳にはいかないということで、信用できる人にだけ魔道具が配られた。

 だから、今まで交流がなく、信頼できるかどうか分からない下位貴族や商家の息子がローラの魅了の魔法の犠牲になっている。


 どんどん増殖してくなんて、まるで吸血鬼だ。

 自分の意思を持たない男に囲まれてローラは気持ち悪くないのかしら。

 何がやりたいのか全く分からない。


「今、女生徒たちとちょっと揉めてるんですよ」

 メリルはクッキーを手に取り、ふと思い出したように言い出した。

「ローラ様に夢中になっている男子生徒の中には婚約者や恋人がいる人がいて、ローラ様の何人もの男性を侍らせるような振る舞いに、腹に据えかねているんです。そのせいでローラ様を崇める男子生徒と女生徒が対立しつつあります」


 前回も見たことのある光景だ。

 前回は王太子のジークハルトや高位貴族子息がローラの周りに侍っていたから学園中を巻き込んでもっとギスギスした状態だった。

 それはジークハルト殿下が卒業する迄続くはず。


「いつまでもは放っておけないな」

 ジークハルトがティーカップを静かに置いて、ため息を吐いた。


「確証がある訳じゃないけど…」

 今まで黙っていたレイモンドが口を開いた。

「闇属性の魅了の魔法の重ね掛けをしたら、解除できないかな?」

 ちょっと自信なさげなレイモンドをシリウスが驚いたように見つめた。

「それはいい考えかもしれないよ」

 いいことを聞いたとばかりに、目を輝かせた。

「光と闇は打ち消し合う間柄だからね。やってみる価値はあるんじゃない?」

「試してみるのはいいけど、誰がその魔法をかけるんだ。魅了の魔法自体が禁術なんだぞ」

 前のめりのシリウスにサイオンが待ったをかけた。


「それもそうか。いい考えだと思ったんだけどな」

 椅子の背もたれに体を預けて上を向いた。

「何とか特例で使えるようにできないか?闇の魅了は対象者と離れれば解けるから、いざとなれば隔離すればいいし」

 シリウスがジークハルトに問いかけた。


「闇属性の魅了か…」

 ジークハルトは暫く俯き難しい顔をして考えた後、思い切ったように、顔を上げた。

「分かった。陛下に許可を求めてみる。問題は誰がその魔法を使うかだ」

 ジークハルトがクリスティーナの方を見た。

 他のみんなもそれにつられたようにクリスティーナを見つめる。

「え?まさか私ですか?」

 突然話の矛先が自分の方に向いて、目を瞬かせた。


「禁術なんだから、おいそれと人に教えることはできない。俺の婚約者であるクリスティーナなら許可がおりる可能性が高いし、闇属性を持つ女性で学園に出入りして不自然じゃない人じゃないと」

 ジークハルトに一つずつ説明されて、これは逃げられないやつだと察する。


 ローラが何をしたいかは分からないけど、人を操るようなことをするのを許せないのは確かだ。

 また巻き戻らない為にもできることはしないと。


 クリスティーナは覚悟を決めて、ジークハルトを見た。

「分かりました。私にできるなら、やります」

「ありがとう。陛下の許可が下りたら、連絡する」

 ジークハルトは難しい顔のまま頷いた。



「本当なら、俺はティーナにそんなことさせたくないんだけどな」

 ジークハルトは小さな声でそっと自嘲した。




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