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16.デート

 あと一か月でローラが学園に入学してくる。


 結界を張る魔道具はみんなの分が完成して、ジュリアを含めて勉強会の仲間全員に渡した。

 ブレスレットの形にして、それぞれの瞳の色の魔石を使った自信作だ。


 ジークハルトはひと足早くイヤーカフを渡したにも関わらず何故か、「みんなとお揃いのブレスレットが欲しい」と言い出したので、前から考えていた攻撃を受けた際に記録を残せる機能を付けたブレスレットをプレゼントした。

 前世の記憶にあるドライブレコーダー的なやつだ。

 折角なので、ついでに自分の分も用意した。


 魔道具作りも慣れてきて、趣味になりつつある。

 今は携帯電話みたいな物を作っているところだ。

 やっぱり、いつでもどこでも連絡が取れるって素晴らしい。



 クリスティーナは鏡の前でクルクルと回って、自分の格好を確認した。

「どこからどう見ても町娘ね」

 シンプルなオフホワイトのワンピースに身を包んで、満足そうに頷く主人にマリーはそっとため息を吐いた。

 服装だけは町娘の物だったが、雰囲気は完全に貴族令嬢のお忍びスタイルだ。

「お嬢様、残念ながら、完全に町娘になりきれてはいないので、くれぐれも注意して下さいね」

 クリスティーナはマリーの厳しい評価にがっくりと肩を落とした。

「完璧だと思ったのに…」


 今日はジークハルトと街を散策する予定だ。


 ジークハルトに知っていることを全て話せと詰め寄られて、前世とゲームの話をさせられたのが、三ヶ月前。

 とうとう、ローラが聖魔法の使い手だと認識されたらしく、クリスティーナが言っていたことが現実になりつつあると実感したらしい。


 ゲームにはイベントがあり、強制的に発動する可能性があると説明すると

「イベントは俺が潰すから」

 静かに闘志を秘めた目を細めてフッと笑った。


 学園に入学する前に街でヒロインのローラとジークハルトが初めて出会うイベントがある。

 ローラが街の破落戸に襲われそうになっているところを偶々お忍びで街に来ていたジークハルトが助けるというものだ。

 関わらない為に、ジークハルトがお忍びに行かないという手もあったが、強制的にどこかで出会うなら、しっかりフラグを折った方がいいと二人で話し合って決めた。

 本来なら、ネイトと出掛けるのだが、今回はクリスティーナとのデートという設定だ。


 暫くすると、ジークハルトが迎えにやって来た。

 今日のジークハルトはシンプルな白いシャツに黒のズボンで眼鏡を掛けているが、服装だけは街の若者と変わりないのに、端正な顔立ちは隠せていない。


 滅多に屋敷に訪れることのないジークハルトを出迎える為にラグリー公爵を始め、夫人、レイモンド、シオンまでもが出てきた。

「殿下、娘をくれぐれもよろしくお願いしますよ」

 ラグリー公爵はジークハルトに念押しして、苦笑いされている。

 思えばジークハルトと設定上とはいえ、デートするのは初めてで、クリスティーナはソワソワしながら今日を迎えていた。

 それを知られているようですごく気恥ずかしい。


「殿下、残念ながら貴族のお忍びにしか見えませんよ」

 色味を抑えて服装が地味な分、格好良さが引き立っていて、クリスティーナはなんだかちょっとイラっとしてしまった。

 そんなクリスティーナを見て、ジークハルトはクスリと笑った。

「ティーナも完全に貴族令嬢のお忍びにしか見えないからお互い様だな。大体、殿下はダメだ。ジークって呼んでくれ」


 確かに街中で殿下って呼べば、貴族令息どころか王子様と丸わかりだ。


「…ジーク様」

 クリスティーナは暫し逡巡した後、小さく呼んだ。

 なんだか地味に恥ずかしい。

 若干赤くなりつつ、漸く言ったのに、ジークハルトは容赦がなかった。

「敬称も無しだ」


「…ジーク、もう行くわよ!」

 クリスティーナはやけくそになって急かして屋敷を出た。


 笑いを噛み殺したジークハルトが後から出てきて、エスコートするために手を差し出した。

 家族の生温かい視線を感じつつ、ジークハルトの手を取り、馬車に乗った。


 どっと疲れを感じるけど、これからが本番。

 いよいよヒロインとの遭遇だ。

 もし、またジークハルトがローラに夢中になったらどうしたらいいのか、クリスティーナは若干の不安を抱えて窓の外を眺めていた。


「そんなに心配しなくても大丈夫だ」

 先程まで向かいに座っていたはずのジークハルトがいつの間にか隣にいて、クリスティーナの手を握っていた。

 その手首にはクリスティーナが作ったブレスレットがあった。

 耳にはイヤーカフも身につけてくれている。

 クリスティーナの胸元にはジークハルトからもらったネックレスが揺れている。


 今回は前回と違う。

「そうですね。今回こそローラの好きにはさせませんわ」

「その意気だ。でも、その口調はなんとかしろよ。敬語も無しだ。俺たちは恋人同士でデートしているんだからな」

 顔を覗き込むように悪戯っぽく笑ったジークハルトに目が逸らせない。

 今更のように握られた手が意識されて、クリスティーナはどんどん顔が熱くなっていくのを止められなかった。


 キラキラ王子様の破壊力半端ない…


 ジークハルトは真っ赤な顔で隣に座る可愛らしい少女を愛おしそうに見つめていたが、俯いていたクリスティーナがそれに気づくことはなかった。




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