13.勧誘
なんとかテストをトップで乗り切ることができて、クリスティーナはホッと胸を撫で下ろした。
クリスティーナの地頭は素晴らしく、二度目のテストとはいえ、ほぼ満点を叩き出した。
「さすがだね」
貼り出されたテスト結果を見て、シリウスが声をかけてきた。
「シリウスも3番に入ってるじゃない。ジュリアも2番だし、頑張った甲斐があったわね」
「殿下からの指令じゃあ、頑張らざる得ないよ」
「確かに。これから三年間ずっとかと思うと、ぞっとするわ」
シリウスとジュリアが難しい顔をしている。
二人とも、あの王宮での勉強会に参加していただけあって、もともとできるのだが、さすがに年上に混じって上位を取り続けるのは大変そうだ。
「何で私たちがいい成績を取ることを、ジークハルト殿下が望んでるのかしらね」
クリスティーナが小首を傾げた。
クリスティーナの心底不思議そうな様子に、ジュリアとシリウスが顔を見合わせた。
「それは…殿下から直接聞いたらどうかしら」
二人には思い当たる理由があるらしいが、直接聞いた訳ではないからと、教えてはくれなかった。
なんか碌でもない理由なのではないかと、嫌な予感がする。
だけど、成績は悪いよりはいいに越したことはないから、まぁ、いいか。
クリスティーナは考えたところで、どうにもならないので、早々に考えることを放棄した。
「私が生徒会ですか?」
話があると、談話室に呼ばれて行ってみると「生徒会に入らないか」という勧誘だった。
唐突なジークハルトの誘いにクリスティーナはキョトンとした。
「生徒会は優秀な者が入るっていうのが通例だからな。一年生からはティーナとジュリアとシリウスに入ってもらうつもりだ」
当然のようにジークハルトが生徒会長で、サイオンが副会長、レイモンドとネイトも生徒会に在籍している。
「…もしかしてですけど、テストでトップを取るように言っていたのはこの為の布石ですか」
クリスティーナは半眼でジークハルトを見た。
「まぁな」
ジークハルトは全く悪びれた様子はなく、ティーカップを手に取って、優雅に紅茶を飲んでいる。
クリスティーナはため息を吐いた。
「それは辞退できないやつですよね?」
「辞退しようとしてるのか?」
そんなことになるとは露とも思っていなさそうな顔をクリスティーナはジト目で見た。
「いえ、最初から仰って頂ければと思ってるだけですよ」
「言っていたら、ティーナは手を抜くだろう」
「え?そんなことしませんよ」
まぁ、確かに生徒会なんて面倒臭いと思ってるし、そこそこの成績で十分だと思ってるけどね。
「やっぱり。手を抜く気だったろ」
クリスティーナの考えを読んだのか、呆れたような顔をした。
「俺の婚約者な上、学園に前倒しで入って来ている以上、少なからず反感を持つ奴がいる。ちゃんと実力を見せつけておけ。じゃないと、足を掬われる」
幾分尊大な言い方だが、思ったより真面目な口調だった。
「生徒会室には基本的には生徒会役員しか入れないようになってる。何かあったらこの部屋を使うといい」
「それは一応、心配してくれているんですか?」
「当たり前だろ。俺はティーナ以外を婚約者に据える気はない」
ジークハルトの真っ直ぐな瞳に出会って、目を一つ瞬かせて、クリスティーナは言われた意味を理解すると、顔を段々と紅潮させた。
「そんなこと言ったって、婚約破棄するのはそっちだし」
そっぽを向いて、少し口を尖らせるいつになく子供っぽいクリスティーナをジークハルトは微笑ましそうに見つめていた。
甘くなった雰囲気を咳払いで誤魔化し、冷めてしまった紅茶を口にした。
「そっそれで、何で急にそんなことを言い出したんですか」
ジークハルトは苦笑して、嘆息した。
「やっぱり君は聡いな。近頃、周囲がきな臭いんだ」
「きな臭いって、何かあったんですか?」
不穏当そうな話の行方に、眉根が寄った。
「まだはっきり言えるようなことじゃないんだ。もしかしたら、例の男爵令嬢もこのことに関わっているのかもしれない」
クリスティーナの動きが止まった。
例の男爵令嬢⁉︎ローラ・パティーニ!
まだローラは学園に入学もしていないというのに、もう関わってくるの?
前回、ジークハルトとはなるべく関わらないようにしていたので、これぐらいの時期になにがあったのか全く分からない。
世間を騒がせるような大事件は起こってなかったと思うけど…
「大丈夫。ティーナはまだそこまで心配しなくていいよ。だけど、身辺は一応、気を付けておいて」
クリスティーナの瞳が不安に揺れるのを見て、ジークハルトが安心させるように穏やかに微笑んだ。
「殿下は…」
「え?」
「殿下は大丈夫なのですか?」
ジークハルトが驚いたような顔をして、その後、嬉しそうに笑った。
「俺の心配をしてくれているの?」
「当たり前でしょ。ジークハルト殿下と私は一連托生なんですから。勝手にピンチになられても困ります」
嫌そうな顔をして、プイッと横向いたクリスティーナに、ジークハルトは堪えきれなくてケラケラと笑い出した。
「分かった。勝手にピンチに陥ったりしないよ。一連托生のティーナにも何かあったら、困るからこれを身につけて欲しいんだけど」
小さな箱を取り出すと、クリスティーナに差し出した。
怪訝な顔をして箱を受け取り箱を開けると、花を模した金細工のネックレスで水色の魔石が埋め込んであった。
箱から出して、手に取ってみる。
これは、魔道具?
「お察しの通り、魔道具だよ。ティーナの作ったイヤーカフを参考にして作った。同等の守護がある」
綺麗なネックレスを見て、思わず笑みが溢れた。
「前回を含めても、手作りの物をもらったのは初めてですね」
「そうだったか?手作りって言っても、金細工の部分は専門の者に作ってもらったから、魔石に魔術を施しただけだけどな」
「それでも嬉しいです。ありがとうございます」
早速、身につけてみる。
「どうですか?」
鏡がないので、自分ではよく分からないので、ジークハルトに訊いてみる。
「よく似合ってるよ」
「ありがとうございます。大切にしますね」
クリスティーナがにっこり笑うと、ジークハルトもにっこり笑った。
「と言うことで、生徒会の方、よろしくな」
当然のようにクリスティーナ、シリウス、ジュリアの生徒会入りが決定した。