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1.婚約破棄⁉︎

「クリスティーナ・ラグリー、君との婚約は破棄させてもらう」

 学園の卒業パーティーで突如始まったこの国の王太子ジークハルト・サザーリンドによる婚約破棄宣言。

 金髪碧眼の如何にも王子様な麗しい容姿を持つジークハルトの隣にはストロベリーブロンドの髪に水色の瞳の愛らしい顔立ちで庇護欲をくすぐる華奢な身体の少女が彼に寄り添うように立っていた。


 ジークハルトの前には煌めく銀髪に滑らかな白い肌、少しつり目気味の銀色の長いまつ毛に彩られた大きな紫の瞳のクリスティーナが立っていた。

 圧倒的存在感を持つ彼女の顔色は青褪めていて、形のよい唇は小刻みに震えていて言葉を発することはない。


「ローラに対して数々の嫌がらせを行っていたことは分かっている。そんな品性のない女は国母に相応しくない」

 ジークハルトの言葉はまだ続いているが、クリスティーナにはもう届いていなかった。



 婚約破棄⁉︎

 どこかで見たことのある人たちとその言葉。

 ローラにクリスティーナ…前にやっていた乙女ゲームの中にそんなキャラがいた気がする。

 ローラはヒロインでクリスティーナは敵役の悪役令嬢。


 え?なんで?私が婚約破棄を言い渡されてるの?

 私はクリスティーナなんて名前じゃなくて…あれ?私、なんて名前だった?


 混乱する頭で考えるものの、記憶が混濁していてはっきりしない。

 ただ悲しい、寂しいと心が訴えてくる。

 愛しているのに愛されない。

 胸が痛い。


 息ができない。

 苦しい。

 次の瞬間、目の前が真っ暗になった。





 目が覚めると、柔らかいベッドの中だった。

 辺りを見回すと20歳前くらいの侍女らしき女性と目が合った。

 あれ?マリー?

 こんな若かった?


「お嬢様?気が付かれたんですね。よかった」

 マリーはほっとしたように息を吐き出した。

「私、倒れたの?」

「お嬢様が王宮のお茶会で倒れてから1日経ってます。」

「王宮のお茶会?」

 私は確か学園の卒業パーティーに出てたんじゃなかったかしら?

 そこで婚約破棄されて…


 自分の手を見て、思考が停止する。

 じっと手を見つめる。

 小さい。子どもの手だ。

 私は学園に通っていて確か16歳だったはず。


「旦那様を呼んできますね」

 あまりにぼんやりしていたせいか、マリーが慌てて部屋から出て行った。


 急いで鏡の前まで行って、中を見つめた。

 子どもだ。10歳くらい?

 銀髪に紫の瞳の美少女がこちらを見ている。

 私だけど私じゃない。

 時間が巻き戻ったの?


 待って。私はクリスティーナ・ラグリー。

 公爵家の娘だ。

 でも、何故かその他の記憶が混在する。

 こことは違う世界で生きていた記憶。


「ティーナ!」

 すごい勢いで扉が開いて、銀髪に紫の瞳とクリスティーナと同じ色彩の男性が入って来た。

「よかった、丸一日目が覚めないから心配したぞ」

 その勢いのままぎゅっと抱きしめられる。

「お父様、苦しいです」

 あまりに力が強くて、バンバンと腕を叩いた。

「あぁ、すまない」

 ラグリー公爵は慌てて拘束を解いた。


「あの、ちょっと記憶が曖昧なのですが、私が倒れたのは王宮のお茶会なのですか?」

 クリスティーナはなんとか現状把握をする為、倒れる前後のことを覚えていないことにした。

 実際、覚えてないのだけれど。


 お医者様にも診てもらったが、頭を打ったことによる記憶障害だろうということだった。

 倒れた時に頭を打ったらしい。


「昨日は王宮でのお茶会で、ジークハルト殿下との顔合わせだったんだが、殿下を見たらティーナが急に倒れてしまったんだよ」

「顔合わせ…」

 それは婚約者候補としてよね。

 確かジークハルト殿下とは10歳の時に会って、その後に婚約している。


「顔合わせの時に倒れてしまったなら、もう殿下にはお会いすることはないんですよね?」

 そうであってほしいという願いを込めてラグリー公爵を見つめたものの、希望した答えは返ってこなかった。


「日を改めることになったよ」

 残念!そう簡単にはいかないか。

 いずれローラと浮気して婚約破棄されるんだから、嫌過ぎる。

 私の中で侮蔑するような目と冷たい声のジークハルトを覚えている。

 心が凍りつくような気持ちも覚えている。

 クリスティーナは本当にジークハルトを愛していた。

 拒絶された時の絶望はもう二度と味わいたくない。


 とにかく、軽い食事を取った後はまだ体調が戻っていないからと言って、部屋に一人で篭り記憶の整理をすることにした。



 前世らしき記憶。

 名前すら思い出せないけど、ここよりも明らかに科学が発達していた。

 そこでは乙女ゲームなるものがあって、自分でもやっていたことは覚えている。

 この世界とそっくりな世界観。同じ名前の登場人物。

 ゲームの世界に異世界転生ってことなのか。

 ジークハルトはメインの攻略対象者。クリスティーナの2歳年上だ。

 他にも公爵家や騎士団長や宰相や魔術師長の息子などがいたはず。

 見目麗しく家柄がよい男の子ばかりだった。

 ヒロインのローラは貧乏な男爵家の娘ながら珍しい聖魔法が使えて、健気で努力家。

 ローラの成長と恋を成就させる為のゲームだ。

 ありとあらゆる邪魔をして試練を与えるのがジークハルトの婚約者クリスティーナ。

 クリスティーナはローラがジークハルトを選んだ時点で婚約破棄される運命だ。

 殺されたりはしないものの、ローラに対する嫌がらせの罰で修道院に送られたり国外追放にされる。

 理不尽過ぎる。

 ゲームしてた時は何の疑問も抱かなかったけど、婚約者がいるのに浮気するジークハルトも婚約者がいる男性に近づくローラも悪いよね!

 なんとか婚約しない方向でいきたい。

 もし、婚約が回避できない場合、残念ながらそれ以上詳しくは思い出せないので、断罪されない為にはローラに近づかないのが一番だろう。


 この世界での記憶。

 クリスティーナは5歳の時に母親を亡くしている。

 そして、ジークハルトと婚約した後、お父様が再婚する。

 再婚相手にはクリスティーナの2歳上の息子がいて、名前はレイモンド。

 父親べったりだったクリスティーナは父親を取られたと感じていて、再婚以来家族とギクシャクしてしまう。

 寂しさを埋めるようにジークハルトに依存していき、嫉妬が度を超すようになった。

 そのことで、ジークハルトはクリスティーナを疎ましく感じていた。

 クリスティーナは実は魔力が高く聖魔法以外は大概扱えた。

 そして、禁術の魔法を使って、巻き戻りの魔法をかけた。


 記憶を整理する為に、ノートに書き連ねていて、その手が止まる。

 私が巻き戻りの魔法を使った?


 驚きの記憶を発掘したものの、残念ながら、どうやってそれを行ったのかは思い出せなかった。


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