3
「今、奴の具合が悪くてね……知ってる? ここで終わりってことになると奴に負担がかかるからさ……できれば“次”に行ってほしいところなんだけど」
急に私と会話する気になったらしい。
「それ、私に言っているので、合ってますよね」
そう言ってやると、理解できないという表情になった……ような気がする。それもあまりわからない、感情の弱い、そういう見た目をしている。
「……それ以外になにかある? 最近の子だね」
「理解できません……」
「とにかく、この段階で弾かれるとこっちが困るんだよね。君って、自分の人生省みたことある? この先その辺反省してもらわないと……というか今からでも反省して次行ってほしいんだけど」
この状況も、今後の展開も、まったく説明する気はないらしい。
死人が皆ここに来ているなら、実質ここは公的機関なんだろうか。クレーム入れておいたほうがいいんじゃないのか? などとどうでもいいことを考えてしまう。
「つまり……私の人生が、“よくなかった”ことを認識して、反省して、“次”はやりません、と言ったらいい……というかあなたに都合がいいんですか?」
彼が笑った。笑ったのはわかる。なぜって揺れるから。
「そうそう……そうしてくれる? その方向で進めちゃうけどいいよね?」
「いいというか意味が分かりませんけどね。結局次って何ですか?」
彼は肩を震わせて、私に言った。
「次の人生で、今のことを証明してもらうってことだよ」
彼が説明するにはこうだ。
私はここで次に進まなければ問答無用で死ぬ。もう死んでいるけれど、精神的にも、完全に“無”になって……どうなるかわからない。さっきの私みたいになるのだろうか。
そして、“次”というのも同じ試練の道であるようだ。輪廻転生―彼はこの言葉を知らないといったが―を乗り越えて、完全な存在になったとき、精神が天国に至る。その試練の道は非常に険しく、次が最後になる保証もない人生を繰り返す。完全な存在の意味も結局わからない。私という存在もこの道のりの一つのような気もするが、そのあたりには何度彼と問答しても答えが出ることはなかった。
「結局、ゴールはとにかくとして、基本的には地獄行きってことじゃないですか」
「ジゴクというのは知らないけど、最後の場所へ至るためには皆やることだよ。君らには皆やっているというと納得してくれるってマニュアルが出てるけど、君には効く?」
「今後言わないほうがいいですよ、それ」
とりあえず、この短時間で彼は喋るのが壊滅的に下手なことがよくわかった。
「あなたのいう通り、次に進んで差し上げます。もう問答はやめましょう」
「助かるね。それじゃあ……次はこれにしよう、この、ターシャという人間」
彼の手が宙をかいて、止まった。私には見えない情報の繰り方をしている。
「君はかなり甘やかされて育ったようだから、まずは甘やかされている人間で他人の人生を歩むということを学んだほうがいいだろう」
余計なお世話ですこと。
「それじゃあ、また人生の終わりに話すかもしれないね。忘れてもいいけど今言った内容はもう話すつもりないから、よろしく」
小言の一つも言ってやろうと思ったのに、彼の手元が光り、私の視界も光り、その機会は失われた。




