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【番外編①】“じゃが芋の覚悟”『男の娘は、異世界でステキな王妃様になりました!』 じゃが芋メイドと女王陛下

作者: 井上 正太郎

「男の娘は、異世界でステキな王妃様になりました!」の第二章の前に読んで頂くことを、オススメいたします。


 じゃが芋メイドのマリーネには、命を掛けてもやりたいことがある。

 なぜなら、私はマリーネ、マリーネ ツゥー ベルガーだから……

 私は、マリーネ ベルガー。

 とても貴族の名前とは思えない、ありふれた名前だ。

 実際は、マリーネ ツゥー ベルガーと名乗るべきなのだが、貴族らしからぬ貧乏くさい風貌、そばかすだらけの顔、どう見ても貴族令嬢には見えないので、そのあたりは諦めている。


 さらには、高貴さや美貌とは縁がない。


 実家は、絵に書いた貧乏男爵で、領地は寒村だけだ。

 取れる作物は、皮肉にも男爵芋。

 あとは林業が少々といったところで、働き手も若者は皆無の過疎地だ。


 そんな中、父は私の為に、王都のスクールに通わせてくれるというのだ。

 将来、良い家に嫁げるよう、無け無しのお金で、私に箔を付けてくれるというのだ。


 さらには、入学式の為、ドレスまで作ってくれた。

 有り難かった。

 大人用のドレスは初めてだ。

 豪華ではないが、粗末ではない。

 しっかりした物だ。


 このドレスを大切にしようと思った。



 王都のスクールに通い、気付いた時には、私は浮いた存在になっていた。

 貴族としては非常に貧乏。

 だからといって平民では無い。

 どちらからも、声の掛けにくい存在となっていたのだ。


「お父さま、どうしたら良いの?」

 父のくれた、たった1つのドレスを眺めて、そう言っていた。


 パーティーがあると、当然、父のくれたこのドレスで出席する。

 上級貴族の令嬢は、高そうなドレスを纏っているが、彼女達は同じスクールに通っていても別世界の人達なのだ。

 気にもしない、男爵には男爵の世界を楽しもうと思い、パーティーを楽しむことにした。


 しかし、豪商のお嬢様からすると、貧乏貴族は格好のターゲットだったかもしれない。

 上級貴族に負けないぐらい豪華なドレスを着ている。それを見せ付けんばかりに私の回りを歩いている。


「あぁ、嫌だ。上級貴族達の前でやる勇気は無いんだろうな」と、ひとつ呟いた。


 私の学園生活は、両親の期待とは裏腹に孤独なものだった。

 将来のため、良い相手と出会って欲しいと思って、王都まで出してくれた両親には申し訳ない。


 孤独には耐えられる。しかし、学園では、何も得るものは無い。

 それは、無け無しの金を払って通わせてくれる両親に、本当に申し訳ない。

 父のくれたドレスの前で、そのような事を考えていたある日のこと。


 学園に王族の方が、生徒を激励に訪れるとの話を聞いた。


「王族、雲の上の方たちですね」というのが、正直な感想だ。


 ご訪問の当日、女王陛下を間近で拝見させて頂いた。

 女王陛下とお付きのメイド、この世のものとは思えないぐらい、美しかった。


 豪商のお嬢様も上級貴族の令嬢も、あのお二人からすると、お子様ランチでも食べる幼児に感じる。

 美しい人が着飾るから素晴らしいのだと理解した。


 また、その頃、成人した弟のヨーゼフが王都の執事に合格したらしく、王宮勤務になるらしい。

 だったら、私も!?


「父上、ごめんなさい。メイドの試験を受験します。今からメイドの勉強をします。試験には間に合わせます。私を許して父上!」


 試験まで頑張った。学園の勉強などそっちのけで頑張った!


 そして、試験が終わり、私は王宮採用となり、学園は辞めて、王宮でメイドとなった。


 配置は地方の領邸でも仕方が無いと思っていたが王宮なのだ。

 実際、男爵より上の貴族も受験していたのだから、私が王宮勤めとは意外だ。

 彼女らは、アキュリア様の専属メイドが退職したので、皆、そのポストを狙っていたようだが、合格したのだろうか?



 私は、採用されてから、しばらくの間は、下働きだった。

 これでも貴族メイドなので、着替えや上級貴族の接客対応等も熟した。

 そして、夏のある日のこと、メイド長に呼ばれた。

 私ともう一人、冷たい感じのする貴族メイドが呼ばれた。


「私達、3人は明後日から、陛下と共に戦地に赴きます。

 王宮に勤める以上は、命を王国に捧げる時があります。

 実際、前任者のカロリーネ子爵夫人は戦地に陛下と共にしております。お二人にその覚悟はありますか?」


 私は心臓をハンマーで叩かれたような、衝撃を受けた。

 命を捧げる覚悟より、私が、あの陛下のお側に付いて良いのか? だとすれば、何故、私なのか?


「エリザベートメイド長、お聞きしても良いですか?」

「マリーネ、どうしましたか?」

 この質問に、隣のメイドは私が怖気づいたと思ったようだ。鼻で笑ったな、こいつめ!


「何故、私達二人なのですか? 先輩達がいるではありませんか?」

 私は、“何故、私なのですか?”と、聞こうと思ったが、隣のメイドが鼻で笑ったので、“私達”と、聞いてやった!


 メイド長の答えはこうだった。

「貴女達、お二人が先の試験で1番と2番だからですよ。優秀な人材を陛下の元にお送りするのも、私の仕事ですからね」

 わ、私が1番か2番ですって!?


 でも、隣の女が1番だったらヤダなぁ……


 その隣の女が言い放った。

「ワタクシには、王国のため女王陛下のため、命を捧げる覚悟がありますッ」


 うわー、格好良い。


「よろしい! 出発の準備をなさい。

 で、マリーネ、貴女はどうなのですか?」

「はい、私にはそのような立派な覚悟はありません」

 その瞬間、メイド長と隣の女が目を見開いた。


 隣の女は、私を馬鹿にしたかもしれない。

 しかし、私には、“まだ”すべきことがある。


「私は、ここで死ぬ訳には参りません。

 何故なら、エリザベートメイド長のように、長く陛下に、王国にお仕えして、役に立ちたいと思っております。

 そして、私には、成すべきことがあります。

 私は、“まだ”、親孝行をしておりません。


 ただ、この命が王国のため役に立ち、親孝行になるのなら、いつでもお使いください」


「マリーネ、陛下と相談します。しばらくそのままで」と言い、メイド長は、陛下の所へ行った様だった。


 隣の女と二人はキツかったが、お互い無言だった。


***


「陛下、お付きのメイドですが、二人のうち一人は『王国に命を捧げる』と言っておりますが、もう一人は『親孝行をするまでは』と申しております」

「もう一人は、『親孝行』と言ったのですか?」

「はい」

「連れて来て! 私が直接、確かめます」



***



 そして、私達はアキュリア陛下の執務室に呼ばれた。

 

 私は、この日をキッカケに、女王陛下専属のメイドへと駆け上がって行くことになるのでした。


 王国のため、女王陛下のため、何よりも無け無しのお金でドレスを買ってくれた父のため、命の限り、私は頑張る。

 私は、マリーネ ツゥー ベルガー。父上の娘なのだから。




***


追記

 男爵芋は、育てると小さい綺麗な白い花を咲かせます。

 この花は観賞用にも出来ると聞いております。

 実際、育てましたが、なかなか良いですよ。

読んで頂き、ありがとうございました。

本編ともども、よろしくお願いします。


本編でのマリーネの活躍は、74話になります。

しばらくは、出番がないのです。

すみません(+_+)

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