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追憶

 赤く染まる地面、腕の中で静かに冷たくなっていく彼女の体。ソレを抱える俺を見つめる獰猛な牙と鋼を思わせる強靭な蹄、コウモリの様な翼を持つ、約3メートル程の大きさがある俗に言う飛竜と呼ばれるものが目の前に飛翔していた。

 俺の腕の中で肩に大きな傷跡があり、今にも命がついえてしまいそうな彼女は「ましろ」俺の最愛の人だった。

 ひとつ年上の同じ陸上部の先輩、俺は上下関係が苦手で普段から「ましろ」と呼び捨てで呼び、彼女も了承していた。

 ましろとは毎週土日には一緒に近所の山へ行き、山中を冒険するのが日課となり、色々危険なこともした。互いに命をかけあって生まれた絆には愛以上のものがあったと確信している。

 だが、今となってはそれも無に返されてしまう。

 この状況を打破出来ないかと考えた中で頭の中に浮かぶのは彼女との記憶、刹那の瞬間に思い出された記憶を感じたと同時に、これは走馬灯なんだ、と理解した冷静な自分がいた。

 冷え切ってしまっている彼女の手がゆっくり俺の頬に触れ、顔をこっちに向け、言う。

「ごめんね、私の冒険はここまでみたい……。でも、貴方はまだ生きてるじゃない。そんな悲しい顔をしないで……貴方は生きなければならないわ。私が愛せた唯一の人だもの……貴方はこれからもたくさんの人を救えるはずよ。私と違ってね……。」

 そう言った彼女の顔は笑っていた。

「何言ってんだよ!お前も生きるんだよ!俺が絶対助けてやるから……絶対に……」

 彼女の手を握り返し、無理だと分かっていてもそう言わずにはいられなかった。

 そんな中、現実に無理やり引き戻したのは目の前の飛竜の咆哮だった。

 彼女身体はすでに熱を無くし力を無くし、この時、ましろの人生が終わったことを理解した。

 だが、不思議なものだ、昨日まで笑っていた彼女が今こうして俺の腕の中で亡くなっただなんて、とてもだが信じる気になれなかった。だが、信じなきゃいけないことも分かっていた。故に俺は考えることをやめ、彼女が最後に残した言葉だけが頭の中に残っていた。

 恐怖と喪失感で動かない脚を動かすべく何度も唱えた。

 生きろ!生きろ!殺せ…殺せ…奴を…俺から最愛の人を奪ったアイツを!

 ───殺らなければ、殺られる───

 ここには森の中で見つけた洞窟を抜けてやってきた。出た先は崖で下には湖が見え、高さは推定20メートル。

 崖の側面を時速100キロは出ていそうなスピードで駆け上がってきた飛竜が目の前で羽ばたき、ましろに狙いをつけ、咆哮した後に蹄を前に突き出し勢いよくましろの肩を抉った。

 そうして今に至る。

 何か得物が無いかと辺りを見渡し長さが1メートルと少しの木の棒が落ちていたのでソレを拾い

「さぁ!来いよ化け物!お前はここで死ぬんだよ!」

 と言ったがさすがに木の棒では太刀打ちできないことはわかっていた。目の前を飛ぶ飛竜の身体は硬い鱗の様なもので覆われており、木の棒なんて思い切り振りかぶったって折れてしまうだろう。なら狙う場所は鱗で覆われていない眼か口の中だ。

 俺の挑発を聞き、ましろをやったように足の蹄を振りかぶり飛んできた、ギリギリまで引きつけて攻撃を躱し背後に周り飛竜の背中に跳び乗った。飛竜は突然のことに驚き「ギィギィ」と鳴きながら暴れる。振り落とされない様に首に全力で掴まる。そしてさっき拾った木の棒を飛竜の眼に向かい思いっきり差し込んだ。

 竜は「ギィィィアァァァァ───」と叫び先程より激しく体を振った。俺は耐えきれずに落とされ、地面に転がる。

 その竜はしばらく暴れていたがやがて翼を大きく広げ遠い空へと消えていった。

 それを眺めていた俺は飛竜が立ち去り危機を回避できたことを理解した。

「はは、勝った。化け物にひと泡吹かせてやったぞ!はは、ハハハハハ!はは、は……はぁ……」

 飛竜に勝った、という達成感に一時は(よろこ)びに支配されそうになったが彼女の遺体を見てまた、とてつもない喪失感に(さいな)まれた。勉強だって運動だって平均以上に出来る。故に、自分にできないことはない!っていう自信があった。

 それがどうだろうか、目の前の女の人すら満足に守れもしない。そんな自分の無力を感じ彼女の遺体を抱き、泣いた、ひたすら泣いた。とにかく泣いた。そしてどのくらいの時間が経っただろうか、空は暮れ茜色に染まっていた。涙はとうに枯れ、彼女の体をゆっくりと離し、目元を拭い、近くに一時間ほどかけて人が入る穴を掘りそこに彼女を埋めた。

 そして、力なくフラフラと出てきた洞窟を帰っていく。

 洞窟を十数分歩いて出ると空の眩い光に目を細める。何かがおかしい、そうだ、空がまだ青いではないか。洞窟に入る前は確か夕暮れ時ではなかっただろうか。だが、そんなことを考えてる余裕は俺には無かった。

 約一時間かけて山を降りて家へと帰る、道中チンピラと肩がぶつかり、「てめぇ、どこに目をつけてやがる!」と絡まれたが光の完全に無くなった眼をみて、そのチンピラは何も言えずに立ち去った。

 そして、家に着き風呂に入り、ご飯を食べ、寝床についた。

 それまで一言も喋らなかったと家族は言っていた。

 時は2015年、7月下旬、佐藤 竜真(たつま)当時14歳。中学2年生

 これが3年前の話だ。

 2018年、現在17歳、高校2年生、彼は今、再びその大地を踏みしめ、理不尽な世界に立ち向かう。

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