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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
エピローグ 夢の始まり
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第九十ノ夢 誰かがしたためた日記


ーーまた、この日々がやってきた。

何度も、何度も繰り返した神聖とは程遠い儀式。ただただ、神々を満足させるだけのお遊び。


いつも見る、儀式の場となる会場に散らばる生贄を見回し管理者はヴェールの奥でため息をついた。そのため息が陰鬱として、彼の何処か厭世的な雰囲気を強調させていたらしく、生贄の数人が感嘆の息を吐いている。中には頰を染める者もいる。また別の生贄達の中には、この状況をわかっていないのか、あっちこっちに視線を向ける者、何処かワクワクとした玩具を目の前に与えられたように興奮する者までいる。何処までも呑気でいて、滑稽な光景に管理者は再びため息をつきたくなるのをグッと堪えると、とある本を懐の服の上から触る。角張っていた角が微かに丸びを帯びているのが服の上からでもわかるほど、何度も何度も開閉していることが分かる。それほどまでに時間が過ぎ去ったのを感じる。


何度も繰り返し書き綴った生贄達の生涯。ありふれた未来になるはずだった消え去った感情達。あの日々を管理者は今までの儀式の中で一番よく記憶している。それは決して、義妹が神々に歯向かい封印されたのをこの目で見たからだけでは、自らが『憂鬱』となったと宣言されたからだけではない。碧藤そうふじ和夜かずや、彼の存在があった。


『『傲慢』の悪神と契約し、死人であろうとも双子の兄である和夜との幸福を求めて儀式に乗り込んできた茉昼まひると、彼の過去はそう遠くないほど酷似ている。いや、違いを上げるとするならば、悪神『嫉妬』、明石めいせきがそばに寄り添っていたことだろうか。幼少期に全てを奪われ、なにもかも失った哀れな悲劇の少年。彼が正気を保っていられたのは、支えとなる彼女がいたから。彼女も彼を献身的に支え、その甲斐あって彼は乗り越えたと言っても過言ではない。こう書けば、ただの美談に聞こえただろう。しかし、それは違う。言い方を変えれば、依存先が変わっただけなのだ。ずっと一緒だと思っていた妹から、悪神という無意識下の悪意(善意)に。だが、彼にとってはそれでも良かった。支えて支え合う存在が必要だったから。暗闇で手を引いてくれる存在が必要だったから。愛しい愛しい、それこそ誰にも明石の殺生権も幸せも未来も奪われたくなかったから。自分でなければ嫌だと、子供のように駄々をこねた。まるで、もはや共にいられないとわかった妹をわかっていながら諭すように。自分達は同じ存在だとわかっていた、執着していた。それはきっと明石も同じだったのだろう。管理者ーーかつての義兄からの愛情を求め、ゆえに全てを奪ったにも関わらず、義兄からの愛情は愚か返ってきたのは殺意だけであった明石のように。今なら管理者にもわかっている。ただ明石は愛して欲しかっただけだ、愛しい人に。それを理解していながら拒否したのは自分。だからこそ自分のせいだなんて、自分勝手にも思い込んでいるのだろう。明石もそれを知っているから、許しはしない。ほんの少しだけでも返せばそれで済んだのに、と。

ともあれ、和夜と明石は似ている。それ故に、明石は自らを悪神と名乗ることもせず、例え騙されたと非難されることになろうともーー例えば、あの襲撃の最中、和夜の危険を見逃し、家族の元へ送らせることが出来ていても、手放すことなど出来やしなかった。ただ一人、そうたった一人の明石かのじょにとって、全てを擲ってでも、例え殺されようとも本人から傷つけられようとも手に入れたかった存在。それが和夜で、彼もまたそうだった。この儀式に連れて来られ、勝手に生贄にされ契約され、死ねと言われ。その元凶である悪神だと言われようとも明石を裏切ることなんて出来やしなかった。それほどまでに執着し依存し愛していた。例え、本来のその場所が妹であったならば、彼の感情はまた違っただろう。「死にたくない」その一心が、明石と共にいるからこそ成り立っていたことに、最期の最期で気づいた。明石に殺されるならば、これほどの幸福はない。明石の全ては俺のだと、ある意味神にまで嫉妬していた。


嗚呼、なんとも美しき愚かな共依存愛(アイ)だろうか。


だから、明石は己の為に、手放す覚悟が出来た。自分ではない誰かに奪われるくらいならば、と。そしてその怒りは、神聖などと嘲笑いながら愉しむ神々に向けられた。かつての悪神『憤怒』のように。そうして、圧倒的力に敗北した。神々曰く、負け犬の遠吠えを響かせて。管理者にも大きな大きな爪痕を遺して。』


はっ、と管理者は我に返った。どうやら日記に触れたせいか、些か感傷的になってしまったらしい。なにも説明もせず、ただ見下ろす為だけに突っ立っている管理者に徐々に訝しげな視線が集まっている。「コホン」とわざとらしい咳をして、管理者は事前に、いや何度も繰り返した台詞を口にする。


「此処で貴方達には殺し合いをしていただきます。神と世界を保つ神聖な儀式を」


管理者の心無い言葉に生贄達はなにも言わずに頭を垂れた。気持ち悪い、管理者はヴェールの奥で内心毒つく。今の世界は神々の意のままと言っても過言ではない。

管理者の心に大きな波乱を巻き起こしたあの殺し合い後、平和とも言えぬ彼らの世界は、神々にとっての玩具の箱庭は、神々へ生贄くもつを捧げた事によって脅威が去った。まるで最初から存在などしませんでしたよね?ね?と言わんばかりに。その結果、一時薄れていた神々への崇拝や心酔は濁流が押し寄せる勢いで一気に増し、平和になったにも関わらず毎年のように「神々へ感謝を捧げたく存じます!」と我こそはと神々への供物へと喜んで立候補する者が出る始末。そして、その心意気が神々の自尊心を刺激したのか、こうして化物がいなくなって数百年もの年月がたった今も「平和維持の為」などという偽りの大義名分(神託)を掲げて殺し合いをさせる始末だ。それをずっと、逃げられないからという理由で監視し管理している管理者も神々のことなど言えないが。


あの時は現在と違い、全員が納得して捧げられたわけでは決してなく、いつの間にか、というのが大半であった。そしてそれは「悪神と契約しているから」という迷惑極まりない、「悪神は全員殺す」という神々のわがままにも似た理由からではあったが。実際、悪神の全てが殺されたかと言えば否やだが。神々のせいで悪神が生まれ落ちると、神々が気づく気配はない。おそらく、気づかないふりをして楽しんでいるのだろう。そうとしか思えない。でなければ、『嫉妬』を封印して『憂鬱』の誕生を黙認する意味がわからない。いや、知りたくもないが。


いまだにこうべを垂れ、次なる管理者の言葉を待つ生贄達に管理者は目を向ける。死ぬと分かっていながら、神への忠誠の為にその身を捧げる。理解出来ないしたくもない。まだ「死にたくない」「愛しい人といる為に」「自分の為に」「兄と自分の人生を取り戻す為に」「神を殺す為に」勝つ、と息巻き、儚く散って行ったあの者達の方が、七つのシンボルマークに相応しい感情を持った彼らの方がまだ理解出来た。だが今はもう後の祭りだ。


「……おや」


口を開きかけ、管理者はそっと声を漏らした。小声だったので生贄達には次なる御言葉だとは思われなかったようだ。管理者の黒曜石の視線の先、そこにいたのは他と同様、こうべを垂れつつも殺気を飛ばし生への執念を燃やす双子だった。いや、遠目から見て顔立ちがそっくりに見えただけで本来は双子ではなく他人の空似の可能性もある。世界には自分にそっくりな人間が三人はいるとかいないとか、そんな話を聞いたことがある。その為、はっきりと双子とは断定出来なかったが、管理者には分かった。あの二人はーー『嫉妬』の和夜と明石だ。物に宿り自我や実体を持つ明石が姿形もまるでそっくりな人間となっている。封印されたはずだが、眠りから覚め自我を取り戻したのか。そしてかつての和夜の時と同様、実体をあらわにしているのだろう。そうして、そんな明石ーー彼女かはわからないがーーの手を強く握る和夜。いや、和夜が転生した姿と言えばいいのか、些か不明だが、もうこの手を離さないとばかりに手を握っている。嗚呼、彼らは形は違えど、未来を叶えたのだ。そう喜びに心中が満ちると共に、そんな幸せいっぱいの彼らに絶望を叩きつけるのかと、管理者はそれこそ憂鬱となった。


嗚呼、だが、これは逆らえやしないのだ。

だってこれは全知全能の神が決めた歴史なのだから。

誰にも染めることさえ許されない、神々だけが許された神々だけの、神々だけが愉しい歴史で未来。

自分にそれを覆す力などありはしないのだ。

そう、未来永劫、絶対に。

だからこそ、今日も今日とて管理者は絶望と言う悪夢を()()()()()見に行く。

病的なまでに、心酔していると言われるかのように。

それらすべてがかつて明石が言った行為だと知りながら。

だって、私は、悪神『憂鬱』。この七つの証がある限り、見て見ぬ振りをして()()()悲劇の役を演じましょう。そうすればきっと、誰かが心臓を止めてくれる。自分勝手で、他人任せな、流され性分な私にはとてもとてもお似合いでしょう?


「生贄になったことを、神々は見ております」


全員の頭上高く、それこそ神の目だと言わんばかりの空中で一人の男性が告げる。神々からの使者、神子とも呼ばれる管理者の有り難い言葉を聞きながら、彼が先程見ていた二人は指を絡ませる。そうして


「待ってて。今度こそ、ちゃんと殺してあげるから」

「神々に至るまで全て」

「この悪夢という夢から醒ましてあげる。ねぇ()()

「なぁ()()


二人の腰に触れる脇差と短刀が答えるように揺れた。



























ずっとずっと、一緒だよ。約束したから。

この想いも、運命も、未来も、ずっと一緒だよ。

例え死がボクたちをわかつとしても。

例え世界がボクたちを敵とみなしても。

例え神々がボクたちを殺しても。

ずっと、一緒。

悪夢の中でも、地獄でも、一緒だよ。













To Be continued……?

これにて『ナイトメア・シンドローム』完結でございます!此処まで読んで下さった皆様に感謝を申し上げます!

いやぁ……まぁスランプうんねんリアルうんねん意欲うんねんで約二年ほど休載してしまっていたので、矛盾点やら伏線回収やら出来ていない部分もあるかもしれません。ですが、これにて完結となります。作者的には完結ですが、他の作品のようにいつか訂正をするかもしれません……休載せずにちまちまやってたらめちゃくちゃ納得!にはなったのかと少し後悔しております……まぁしょうがないですね。一応プロット通りに出来たのでよしとしよう!うん!


さてさて、今後この物語の彼らはどうなっていくのか……管理者が見て見ぬふりを続けるのか、神々が堕ちるのか……きっとそれは彼らにしかわからないことなのでしょう。この先も……この後。


ではでは、何度も言いますが、一度こちらの都合で休載してしまった本作を最後まで読んでくださりありがとうございます。次回作の用意はすでにちまちま始めておりまして、リメイクとなります。まぁ色々付け足しに付け足しを加えまくっているので……どうなることやら?

さて、本当にありがとうございます。次回作もしくは他の作品もよろしければ……いつものようにちゃっか宣伝をしておきます(笑)


ではそろそろ、いつもの台詞で締めましょうか。

それでは、また何処かでお会いしましょう。See you!

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