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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
七章 その感情、悪神なりて
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第八十三ノ夢 歪んでいた感情の行き先は


ロイ・チェイサー。悪神・『怠惰』を使役するはめになった不老不死を求めた哀れな研究者。それは彼が彼自身に与えていた罪であり、悪神が宿ることになった愛しい人の形見を、愛しい人を求めるあまりに縋り付いた苦肉の策でもあった。自らを悔い、形見(愛しい人)を求めた『怠惰』。

ラディア・セルヴィ、本名ラディア・エアルサガ・ヴィセル。悪神・『強欲』を魂より使役する元王女。誕生より望まれ全ての欲を求めた彼女はただただ、感情豊かな(宝石)を求める無垢な少女であった。それを彼女さえ気づけずに、『強欲』として覚醒し『強欲』のままに死んだ。

リーラ・トイズ・ローズ。悪神・『色欲』と二人で一つの生贄であり宿り主。悪神を愛し欲し互いに愛し愛された彼は悪神ローズの手で死に絶えることを望んだ。悪神ローズも永遠に彼といることを望み、同化を拒んだ。それこそ二人の永遠の愛の形。神にさえ覆せない究極の愛だった。

獅子しし 玲緒れお。悪神・『暴食』を使役するはめになる以前より正義と悪を狂わせた狂人とも云える。自らの悪も正義も喰らい、自らの欲のために正義と悪を踏み躙る、貪り食らい、あとには何も遺さない。それを教えてしまったのは、()()()犠牲者であろう父親譲りの正義感だった。

フジ、またの名を碧藤そうふじ茉昼まひる。悪神・『傲慢』を肉体とし自分自身(彼女)死んだ(生きた)彼女はただただ思い込んでいた。双子の兄の不幸の原因を。自らにあるのに懸命に目を逸らして、約束に縋って、幸せを運ぼうとした。兄のために、二人のために。もはやその先にはなにもないのに、終わらせて欲しいと願っていたことにも傲慢にも目を背けて、悪いのは悪神だと決めつけた。愛しい愛しい死者は生者を求めて死に逝く。

アダム、そしてラス。悪神・『憤怒』そのものであり、原初の罪。全ての罪は神々の勝手な怒りから生まれた。自らを縛り驕り蔑んだ神々への怒りが彼と最高傑作を悪神と云う真の犯罪者へと変えた。その事実を身を以て神々に叩きつけようとした、己の感情を()()正常に保っていた人間ではない人間。きっと彼らこそ真の悪神だった。

全員、全員死んでしまった。神々が定めた神聖とは程遠い儀式によって。己のために生きた彼らは悪神であって被害者であって加害者だったのだろう。悲劇の主人公だったのだろう。世界に忘れられ、そして消え行く定めであったとしても彼らは自らの欲に、感情に酔いしれた。きっと、幸福以外の何物でもなかったのだろう。それが再び続く悲劇の引き金になることを神々は忘れている。哀れで愚かな管理者でさえ。だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。碧藤そうふじ和夜かずやも、その一人だった。


明石に抱きしめられた和夜は呆然としている明石のーー彼女の頬に力なく頬釣りする。明石の手から注がれる暖かさだけが今の和夜を引き止める糸だった。


「……俺は……明石と、幸せになりたかった……その幸せが誰かに奪われるくらいなら……明石の幸せが俺じゃない誰かに奪われるくらいなら……いっそのこと俺が奪いたいくらいに妬ましい」


開かれることのない瞳が和夜を凝視する。明石の口角は嬉しさと悲しみで溢れていた。もう最期だからはっきり言ってしまおう。俺は、真の『嫉妬』だった。


「……俺の持ってないものを持ってる奴らに嫉妬してた……でも、本当は……()()()()()()()()に嫉妬してたんだ……!」


愛しい愛しい相棒であり、友人であり、親友であり、悪神。寄り添って生きてきた。全てに嫉妬してしまうほどに愛しい存在』双子の妹との約束さえ、幸せさえ望んでいたのに上回ってしまうほどの感情。明石が与えられる幸せは自分がいい、自分でないと嫌だ。絶望も希望も悲哀も懇願も歓喜も怒りも何もかも自分でなければ、妬ましい!それが自分であっても酷く嫉妬した!まるで双子の妹が自分に向けていた無垢な愛情のように、一方通行過ぎた嫉妬だった。双子は糸を絡めた、不幸と幸せという繋がりで繋がりそうして果てた。ただ互いの幸せを望んで依存していた、いっそのこと尊い関係だった。けれど、明石は違った。依存し、そうして勘違いしてしまいそうになるくらいに愛してしまった。自らの死を委ねてしまうほどに!疲れたなんて言いわけだ。いや、疲れたのは本当だった。嗚呼、けれど、貴女の手で死を与えられるだなんてなんと喜ばしいことか!誰にも邪魔されない、奪わせない最期の命。悲しさと愛しさと歓喜で胸がはち切れそうだった。

和夜の告白に明石はゆっくり、ゆっくりと微笑んだ。その笑みは和夜がよく知る満面の笑み。いつも包帯に隠れていた見えない瞳がその瞬間、色を見せたように見えた。


「ボクもだよ……!」

「……え?」

「ボクだって和夜を誰にも取られたくない。例え死だとしても。ボクは……和夜との幸せがほしかった!」


嗚呼、正しく俺達は『嫉妬』だった。明石の言葉に和夜は大きく目を丸くすると、トロンと蜂蜜色の、琥珀に見える瞳を蕩けさせた。いつまでも俺達は一緒だった。そのことが嬉しくて堪らなかった。明石が和夜の閉じそうになる瞼に口付けを落とす。それは先程和夜がやったのと同じで、いつしか二人の手は真っ赤に染まりながらも固く繋がれていた。


「だから、嬉しいの。和夜の死をボクが与えられることが……ずっと、取られたくなかったから」


恍惚とした表情で明石が告げれば、閉じられた瞳から()()()()()()()()が和夜の頬を濡らす。それさえも暖かくて和夜は思わず、目を閉じそうになる。


「明石」

「なぁに?」

「貴女の手で、俺の命を」


ーー奪って。

その言葉が和夜の口から吐き出されることはなかった。代わりに漏れたのは、苦痛に塗れた吐息にも似た悲鳴だった。ゆっくりと和夜が虚ろになった瞳を体中を刺激する痛みの方へ向ければ、腹に刺さった破片が姿を消していた。包帯で固定されたはずの致命傷は、彼の体から消えていた。いや、消えていたのではなく、明石の力により和夜の体の中へ潜ったのだ。ゴフリと口元から血が溢れ出る。内臓を掻き乱し、思考を遮断する。体に入った異物を体が拒絶する。けれど、和夜に拒絶など出来やしない。だってこれは、彼が望んだことだったから。明石が腹にあった破片を和夜の願いと共に深く刺したのだ。その証拠に、和夜の頬に涙が当たる。


「……和夜『嫉妬(愛してた)』」


朧げになっていく明石の表情に和夜はゆっくりと手をもう一度伸ばした。

嗚呼、ようやっと分かった。『怠惰ロイ』も『強欲ラディア』も『色欲リーラ』も『暴食(玲緒)も『傲慢(茉昼)』も『憤怒(アダムとラス)』も……悪神はきっと誰よりも愛情深く愛情に飢えている獣なのだ。それを神々は理解しない、いや、絶対に理解もせずに拒絶を繰り返す。だからこその生贄であり人柱、忘れ去られる命運を持った悲しき罪人なのだろう。管理者でさえ、そうだ。明石の言うようなお人形であり、一番人間らしくて人間らしくないのだ。嗚呼、だからこそ、悪神・『嫉妬』である明石は和夜に執着し和夜も明石に執着した。愛していたから、契約で結ばれていた絆は、信頼は、愛情は、()()()()()あった。伸ばされた和夜の手を明石は両手で包むと食い込ませた腹の上に重ねた。生温い血の感触が指先に絡んで、居心地が良かった。


「……あり、がと……明石……俺、も……『嫉妬(愛してた)』……」


和夜が途切れ途切れに言葉を紡げば、歪んだ視界の中で明石が微笑んだ。その笑みは和夜が知る狂しいほどに愛おしく求め、依存していた最高の笑みであり愛おしい愛おしい相棒で友人で恩人で悪神・『嫉妬』で、たった一人、生涯たった一人だけ愛した女性の笑み。明石は和夜の額に優しく口付けを落とすと、もはや止まりかけの心臓に耳を当てた。消えかける命を誰にも奪わせなかった歓喜と絶望に耳が支配されていく。和夜は心臓に顔を寄せた明石のつむじにお返しのように口付けを落とし、静かに目を閉じた。聞こえなくなっていく、見えなくなっていく。嗚呼、まるで眠りにつくかのような……違う点を上げるとすれば、温もりと寒さがあることか。

片割れも家族も喪ったあの日から、明石は共にいてくれた。それが和夜の何よりの幸福で、命だった。だからこそ、あんなにも「死にたくない」「生きたい」と願ったのだろう。歪んだ感情に気づかないまま、生きるために人を殺めていく。嗚呼、だからこそ神々は気づかない。()()()()()の正体に。悪神が長年持ち続け、そうして『憤怒(アダムとラス)』のように真の悪を生み出す。果たして、本当の原初は誰だったのか。

和夜の脳裏をこれまでの日々が鮮明に、蘇る。それら全てが想い出で、人生だった。妹を二度手にかけた俺にはもう、貴女に殺される以外に悔いはない。嗚呼、けれど一つあげるとするならば、


「(貴女の、最愛を)」


奪ってしまうことだろうか。明石が俺なしに幸せになれないように俺ももう、『嫉妬(幸せ)』にはなれない。それが唯一の後悔という、悪神と共にいた『嫉妬』深き感情だった。

閉じた瞼が重くてもう動かない。腕もなにもかも動かない。嗚呼、もう終わりか。和夜の意識は深い深い闇に消えていく。永遠に、戻ってこない闇へと。和夜は明石の腕の中で息を静かに止めた。


最期の一人が、悪神の腕の中で幸せそうな笑みを浮かべていた、いつまでもいつまでも……時が止まったかのように、ずっと……


『**』『**』『**』『**』『**』『**』『**』


残りゼロ人


「和夜……」


遅くなりましたぁ!!最終章参ります!

次回はしばらくお待ち下さいませ!

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