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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
六章 怒り狂いし未来へと
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第八十ノ夢 願望し切望した未来へと


正直、和夜には戦い方もアダムとラスの正体もわからない。いや、理解出来ていない。それは腹に突き刺さったガラスの破片が熱く痛むからかもしれない。嗚呼、それでもローズとリーラのように明石と一心同体となったということだけは分かって。自分の周りを守るように二つ頭の蛇が「シャァー!」と声をあげている。その声さえ何処か心地好くて、そう、明石といる時のように心地好くて暖かい。それは自らも『嫉妬』だからなのかもしれない。稀である明石(自我)と能力。明石を奪われたくないという嫉妬。恨み羨ましい感情、嗚呼これが嫉妬でなくてなんだと言うのでしょう?和夜は刀を握りしめ、抜け殻となったアダムを抱き締めるラスを睨み付ける。片手で弄ばれるナイフに和夜の腹のガラスの破片が痛み出す。早急に決着をつけないといけない。腹からの出血は今まさに和夜から意識を奪おうとしている。いや、それはきっと正しくない。()()()()()()()アダムがやったのだ。和夜は腹に刻まれた一撃を指先でなぞると明石を振り返った。明石は両手に扇を展開させ、いつでも行けると準備万端だ。その首に赤い線を見なければの話だが。一瞬、沸き上がったのはアダムの言っていた怒りか。


「明石」

「なぁーに和夜。っていうか大丈夫?お腹、結構痛いでしょ?」


こんな状況ではあるが心配してくれる明石の優しさが染みる。染みた途端に奪われたくないと心中が燃える。


「今のところは。だから、どうにかさっさと決着かなにかつける」

「うん!でも先に言っちゃうけどごめんね和夜!ボク、『憤怒(アダムとラス)』の倒し方わかんない!」


ごめん!と扇を口元に当てる明石にラスの姿でアダムの口調と声をしたラスがクスクスと笑う。嘲笑っているというよりも憐れんでいるように見える。それは自分達を倒せないという自負が与えている余裕なのか、はたまた違うのか。ラスの表情に明石は青筋を立てながら目元の包帯に触れるとスルスルとほどいていくと、その包帯を和夜に渡す。なにも傷ついていない白い肌が現れる。その肌の下、瞳は開くことは決してないことを和夜は知っている。愛する人のために抉り出された眼球と二度と開かないであろう瞳、その瞳が偽りを写していたとしても和夜は嫉妬していた。目を抉らせた明石のかつての想い人(やから)に。


「和夜、応急措置だけど使って!なにもないよりはましでしょ?帯で締め付けられてるけど、抜けないし」


ね、と和夜に包帯を手渡す明石に彼は有り難く受け取り、痛む腹に包帯を巻き付ける。ギュッと帯と共に締め付ける。微かな痛みとクラリと視界が歪むが、一戦やるくらいなら問題はなさそうだ。と、目元に包帯がない明石を心配して和夜が明石を見ると明石は大丈夫と笑った。目元が優しく弧を描く。


人形師アダムの魂が人形ラスに入ってるってことは悪神関連の心臓でも死なないかもしれない。それに、二人は前回の勝者だし……」

「規格外ってか」

「うん!だからとりあえず、ラス倒そう!」

「ふふ、僕達の倒し方がわからない時点で負けなことに気づきなよ」


片腕に抱いていたアダムの体を傍らの壁に寄りかからせるとラスはナイフに繭のような物体を纏わせると、ナイフはさらに切れ味を増す。切れ味を増したナイフに和夜を守る二つ頭の蛇が唸り声をあげる。これらをどう扱うかさえ和夜には分かっていない。それでも明石のように心強いことは確かで。まるで、茉昼と読んでいた本に出て来たメデゥーサになった気分だ。そんな和夜の心情を読み取ったかのように二つ頭の蛇は藤が刻まれた刀へと巻き付いていく。締め付けるように苦しめるように巻き付くその姿は命を絡め取っているかのようで、または明石の封印された器だという守り刀を守っているようでもあった。二つ頭の蛇は藤を喰らうように刀身に刻み込まれ、切っ先にいくにつれて口を大きく開けた形で止まり、刻まれた。器に力が刻まれたのを見てラスは片方の口角を上げてニタリと嗤った。


「その心意気()()()買ってあげるよ!」


そうして、次の瞬間、アダムを寄りかからせたラスの姿が消えた。音もなく気配もなく。此処は書斎、二度目とはいえ、油断は禁物であり、また()()()()()()()()()()()アダムにも気をつけなければならない。人形(ドール)であるラスの魂が何処に行ったのかーーそもそも魂なんてあったのか些か疑問というか、わからないので不明だがーーわからない以上、アダムの体と入れ替わったと考えた方がしっくりくる。だがそうなると悪神・『憤怒』としての力がわからなくなる。嗚呼、考えていたって仕方がない。和夜は刀を握りしめると傍らの壁を横に振り払うように蹴ると一気に跳躍。続いて明石も和夜に続いて跳躍すれば、数秒後二人がいた場所に頭上から凄まじい衝撃音と破裂音が同時に響いた。途端、土煙を上げて現れたのは先程消えたラスで。ラスは乱れたスカートをサッと直すとナイフを方向転換する和夜に向かって投げた。繭というよくわからない力が付与もしくは()()()()()()()のだから、避けるしかない。和夜は振り返る要領でナイフをかわし、その背後で明石が扇を使い手ナイフを天井にぶっ刺した。これでもう使えないはず。だが、ラスは武器がなくとも戦える。瞬時に大きく跳躍し、和夜に向かって斜め上から腕を振るう。ガンッと甲高い音と共に和夜の腹に衝撃が響く。ビリリと響く痛みに顔を歪めれば、和夜の後方から目を閉じた明石が回し蹴りをラスの頭部めがけて振り回す。しかしラスはその一撃を片腕で防ぐと、両腕を一気に振り払い、二人を弾く。和夜はすぐさま刀を後方に引き、勢いよく振り払う。途端、ラスを狙って切っ先が襲いかかる。しかし、案の定ラスは二人分の攻撃を弾いた直後ですぐには腕を使えない。ならばとラスは片腕で和夜の攻撃を防いでみせる。甲高い音を響かせながら刀身がラスの腕に食い込んでいく。そのまま和夜はラスの腹に蹴りを叩き込み、その勢いで後方に撤退し明石と入れ変わる。防ぐものがなくなったラスは前のめりになりながらも片手でスカートを摘み上げ、黒と白に覆われた足元を晒すとタップダンスをするようにその場で足踏みをする。その間にも明石は扇を一扇、ラスに向けて投げ飛ばす。それをラスは仰け反ってかわしながらスカートをさらに高く持ち上げる。明石はラスの様子を訝しげに感じながら彼女のーーいや、彼?ーーの安定感のない懐に潜り込む。足を高く上げ、勢いをつけて振り下ろすのだと和夜も考え、交戦しようとする二人の背後に回り込む。腹が痛み、足元がふらつくが、問題ない。


「嗚呼、そう思ってくれたことが()()()()()()()()だよ」


ニタリとラスが笑った。その瞬間、和夜にはラスの足首に透明な糸が繋がっていることに気がついた。それは本当に目を凝らさなければ見えないほどに細く透明で、操り人形を操る糸だった。ハッと気づいた時にはラスの足は高くあげられ、懐に踏み込んだ明石が彼女の首筋に扇を宛てがい振り切ろうとしていた。明石も和夜の慌てようで気づいたみたいだが、規格外すぎてもう遅い。ピンッと張られた透明な糸はラスの足首からナイフの柄へと繋がっていた。


「明石!」

「分かってるよっ!」


首筋に差し込むつもりだった扇を急遽方向転換させ、ラスの露出した人形の足を切り落とすべく明石は振り払う。だが、それよりも早くラスの足がまるで吸い付けるように天井に向かって登っていく。それは操られている人形の如くナイフに向かい、空中でラスが身を捻れば、ナイフが空を切り裂きながら天井から抜け、明石と背後にいる和夜に襲いかかる。クルクルと回るように回転切りを放ちながらラスが同時に蹴りを放てば、和夜と明石はそれらをかわすように撤退する。だが、ナイフの切っ先が背後からラスを襲おうとした和夜を逆に襲い、瞼を軽く切っていく。途端に流れた真っ赤な色に和夜は片目をつぶりつつ、態勢を立て直そうとする。タンッと着地したラスがそんな和夜を見逃さず、片足のナイフを操りながら接近する。ナイフで明石の動きを封じ、重症の和夜から手にかけるつもりなのだろう。嗚呼、だからこそ和夜も二つ頭の蛇と藤が刻まれた刀を突き刺した。二つ頭の蛇は宿り主の意思を尊重するように刀身から放たれ、ラスの首筋に噛みつく。ラスはそんなこと気にした様子もなく和夜に足を振り上げる。と同時に明石を翻弄していたナイフが和夜を狙い、彼は刀でナイフを弾きながら顔を上げ……ラスの背後から明石が扇を振り上げているのに気づく。()()()、ラスが笑っていることにも。


「知ってる?碧藤。魔法はねぇ、種も仕掛けもないから魔法なんだよ。だからこそ……君達はまだその魔法()を使いこなせない」


嗚呼、もしかして。


「明石!」

「遅いよ碧藤。僕達は、そこまで君達を簡単に殺す気はないよ」


和夜が気づいた時には全てが遅かった。ラスの首筋に噛み付いた蛇は繭によって消え失せ、ナイフは和夜の首を狙う。そうして、明石の顔から表情が消えた。自分の背後から漂う身の毛もよだつ殺気。この殺気を自分ボクは知ってる。これは器のなかで見て感じていた、悪神・『憤怒』のもの。何度も殺され奪われた死者と戯れる権利であり、生を奪う気配!明石はニタァと笑いながら一気に後方に扇を振り返り様に振り抜く。そうすれば明石の腕に甲高い音と衝撃が響く。首筋近くにまで接近した柔らかい()()()()()刃。あり得ない硬さを持ったソレに明石はクスクスと笑い、刃を振りかざした者の腹に蹴りを入れる。ズザッと音がし、和夜はラスの一太刀を受けつつも明石の様子を伺う。ラスも足首のナイフを上空へ、和夜の後頭部を狙うように動かしながら()()()ナイフを持っていない手も動かしている。


「ハッハハ!和夜、やっぱりアダムは人形師でラスは人形だよ!悪神らしい神の御業だよ!」


興奮したように殺気立ち、怒りを露わにしながら明石が叫ぶ。明石の目の前には無表情で脱力した状態で立つアダムがいた。その両手首にはラスの足首から伸びていた糸が操り人形のように繋がれている。和夜はラスを弾き、後頭部に接近していたナイフを自分とナイフの間に刀を滑り込ませて防ぐ。ラスが一旦撤退すれば明石を狙っていたアダムもラスのもとへと戻る。両者が再び相見まえれば、ラスは笑う。


「だから僕達は()()なんだよ。神にさえなれない神である悪、それが僕達。それに言ったよね?残ったのは僕達だけ……簡単に殺しても面白くないでしょ!」

「まるでロイだな……」


感慨深いとでも云うように、顔を歪めて和夜が言えば、彼の前で足首を回しナイフを今度は手中に収めたラスは刀身を口元に当てて、「当たり前でしょう」と笑う。


「僕達は全員、悪なんだよ。所詮、カミサマに決めつけられた、ねぇ。『怠惰(ロイ・チェイサー)』も『強欲(ラディア・セルヴィ)』も『色欲(リーラとローズ)』も『傲慢(彼女)』も『暴食(獅子玲緒)』も『嫉妬()』も、そして『憤怒()』も、全員被害者で加害者なんだから!ねぇ、そうでしょう?」


嗚呼、もう意味がわからなかった。それでもきっと俺達は。和夜は刀を持つ手に力を込め明石を見る。和夜の視線に明石が力強く頷く。


「この操り人形はボクが殺る!動きを止めたら……」

「嗚呼、今度こそ……」


二人をラスと人形となったアダムは嗤う。


「だから()()()()()()()?全部、僕達がカミヘ怒りを与えるための序章に過ぎないんだよ!」

次回も来週です!なーんか自分が作る『憤怒』と『嫉妬』ってこう……こう……わかりますかね!?←

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