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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
六章 怒り狂いし未来へと
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第七十九ノ夢 欲した未来へと


アダムの言っていることが和夜には分からなかった。けれど、胸元で蠢く柔らかい白緑色の髪が不安を解消させてくれる。大丈夫と微笑んでくれる。思わず、髪に手を差し込み撫でれば、明石はくすぐったそうに身を捩る。嗚呼、此処にいる。アダムとラスに殺されていない。そんなこと、させやしないけれど。明石が嬉しそうに和夜を見上げて微笑むと彼はゆっくりと自らの手を見た。自分から放たれるオーラがいつもと違うのは分かっていた。あの時、他の契約者と殺し合いをした時と似た欲望。明石の、自分自身に対する欲望が具現化した。そうとしか言えなかった。背後を振り返るとそこには二つ頭の蛇がアダムにシャーッ!と牙を剥いていた。それは和夜の左胸に刻まれたシンボルマークの蛇と同じだった。蛇は瞠目する和夜を視界に捕えると二匹と共にとぐろを巻いてお辞儀をして見せた。


「明石」

「うん、多分そうだと思うよ」


刀を持った和夜の右手を明石が両手で包み込んで言う。そこにある温もりに和夜は腹が刺された時に脳裏を駆け巡った過去を思い出した。あんなに痛かった腹の痛みはまるで怪我をしていないとも云うように痛みがなかった。だが腹には確かにガラスの破片が突き刺さっており、抜けば出血多量は間違いないだろう。和夜は一瞬、破片を今抜いてやろうかと思ったが、やめた。傷つき倒れる寸前だったのに力が体の底から沸き上がってくる。それがなんとも不思議でおかしかった。


「ボクが稀だったってのもあるけど、よく考えれば力を与える可能性だってあるんだよね」

「明石がやったわけじゃないんだな」

「うん。多分()()は和夜が自分から引き出したんだよ。だからあんなにアダム(憤怒)は嬉しそうに笑うんだ」


明石の説明に和夜は首を傾げかけて納得した。つまり同化したことで力が多数使えるようになっていたローズとリーラのような状況と云うことだろう。だからこそ、全てを操る人外のようなアダムは和夜の覚醒にーー悪神・『嫉妬』の覚醒に歓喜した。ようやっと対等だと。


「(俺も化け物だってか?)」


苦笑がもれる。アダムはもはや人形であるラス同様化け物と云っても過言ではない。前回の勝者であり、人形師という異例。悪神は悪とつく神だ。だからこそ、アダムは化け物同士、殺し合いを望んでいる。「生きたいから殺す」と決めた和夜のように「化け物を殲滅させる」と意気込むアダムのように。もはやアダムの化け物が自分達のような気がしてならない。和夜はもう一度、刀を構えると明石は嬉しそうな表情から一変し申し訳なさそうに言う。


「……ごめんね」

「えっ?」

「和夜、もう戦いたくないでしょ?なのに、悪神としてのボクがいるからまたーー」

「それ以上、言わなくてもいい」


明石の言葉を遮る和夜。明石は包んでいた和夜の手が自分の手を握り返してくれていることに気づき、驚いたように目を見開いた。


()()()()()()()


その意味が分かるのは和夜と明石だけ。嗚呼、俺達は似た者同士だから。絶望と希望を履き違えるほどに依存して恨み妬み、互いを束縛して嫉妬する。それが俺達だった。和夜の言葉に明石は繋がれた手をそのままにアダムとラスを振り返ると片手に扇を出現させる。まるで和夜を掬い上げた時のような指の絡まりが二人を強く繋ぎ止めていく。とりあえず腹の異物は放置だろう。早めに決着をつけなければなるまい。その証拠に和夜の足元は少しだけふらついていた。


「なんという愛おしい光景でしょう。我が主(マスター)

「ハハ、『嫉妬』はもともとそうでしょラス」


ナイフを手首で弄びアダムが言えば、ラスは嘲笑を浮かべる。侮っているような笑みに明石がムッと顔をしかめる。


「アダム、聞いていいか?」

「どうぞ碧藤。同じ舞台に立ったんだからね、()()()()()は聞いてあげる」

「まだ分かんないでしょ!!」


噛みつくように明石が叫べば、アダムは勝利を確信しているようで瞳を細めた。


「貴方の言う望みはなんなんだ?」


『化け物を殲滅させる』、それがアダムの望みであり分からない未来。和夜にはもはやそれさえも彼の望みではないような気がしてならなかった。彼が望んでいるのは神を含めた全ての抹殺なのではないか。多大なる、強大な力が和夜の脳を錯覚させていく。和夜の言葉をどう捉えたのか、アダムは目を細めて笑った。


「僕の望み?そんなの分かってるでしょ碧藤?」

「……え?」

「僕の言葉を聞き、共犯を断った君なら分かるよ」


アダムがなにを言いたいのか、和夜にはよく分からなかった。ただ、そうただ、アダムが化け物()()()()()()ことは分かっていた。彼はなにがしたいのか?ニヤリと笑うアダムの肩にラスが甘えるように手を置けば、その手にアダムは手を重ねまるで恋人のように二人は指を絡める。まるでローズとリーラの時のように妖艶で色っぽくて……妖しかった。危険な香りが周囲を支配すれば明石がビクリと肩を震わせる。明石を守るようにかつ明石も和夜を守るように互いにアダムとラスを警戒している。一方アダムはラスの甘えに身を委ね、ゆったりと恍惚に歪んだ笑みを浮かべる。


「だって、僕は()()()()()()()()()()()()()んだから」

「……なに、言ってるの?」

「ふふ、まぁ分からないならそれまでかなぁ。誠意には誠意で返さなくちゃ。ねぇラス?」

「はい、我が主(マスター)


ラスがアダムのように笑った。途端、ガクリとアダムが膝から崩れ落ちた。ラスは主人である彼が崩れ落ちたにも関わらず、ただ肩を掴んだまま操り人形を操る糸の役割のように立っている。そこで和夜は思い出した。アダムとラスの関係を。アダムは自分自身をなんと言った?()()()と言っていた。そしてアダムはある意味人外で、魂と肉体を分けるとでもいう恐るべきことを成し遂げれる力を、悪神としての力を持っている。つまり……つまり!

腹に刺さったガラスが独りでに和夜の腹に食い込んで言ったような気がして、和夜がビクリと震えた。それにユラリと()()()()()()()()()が嗤う。


「そうだよ碧藤。僕は『化け物を殲滅させること』が願い……でも、()()()が全てじゃない」


アダムの声と口調でラスが言う。ニヤリと笑いながら、和夜の考えを肯定する。その珍妙な光景に明石も和夜と同じようにその事実に気付き、扇を握りしめる手に力を込める。ラスは糸の切れた人形のようなアダムの両手を取るとまるでダンスを踊るように立ち上がらせる。


「僕が殺りたいのは、この世界全てと神だなんて言ってノウノウと胡座をかいている奴らだよ……全て、僕とラス(ドール)の怒りを神々にぶつけ壊すために!だから、碧藤、君の誠意にも答えるよ。これが、僕達の()()()姿()


片腕でアダムを、片手でスカートをちょこんと可愛らしく摘まみながらラスーーいや、アダムが言う。無表情だったラスの表情は爛々と輝き、神々に向けた怒りに燃えている。嗚呼、それこそまさしく『憤怒』である証拠。


「まさか、人形が依り代で、中に魂が封印されてるなんて思わないでしょ?!」


明石が驚愕に叫ぶ。だが目の前の出来事が真実でしかない。ラスは片腕で意識のないアダムを()()()()()()持ちながら、スカートから手を離す。


「でもこれが真実だよ『嫉妬』。さあ、もう一度、始めましょう?真の力を見せ合ってさぁ、殺し合おう?それを神々だって、そう、()()だって望んでる!殺し合いの果ての未来なんて誰にも分かりっこないんだからさ!」


まるでダンスをせがむようにラス改めアダムが叫んだ。もう彼なのか彼女なのかさえわからない。それでも、もう一度、悪神としての力を有し自覚を得た私達で争いましょう?それが、嗚呼、殺し合いを行う理由なんだから!


「これが神々が望んだ怒りだよ、和夜」


遅くなりました!続きです!次回も…来週かな

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