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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
六章 怒り狂いし未来へと
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第七十六ノ夢 最高の未来へと


「君達が人形(子供達)だけで倒れるはずがないって知ってるよ?だから、これも知ってたこと。ラス!」

「はい、我が主(マスター)


人形達の頭上を飛び越え、アダムとラスに向かって勢いよく武器を振り下ろそうとする和夜と明石。そんな二人を嘲笑うようにアダムがラスを振り返れば、彼女はスカートを両の指先で愛らしく摘まむ。次の瞬間、スカートの隙間から鋭さを持った風圧というのか衝撃波が放たれる。そしてその風を利用してラスが上空に浮かび上がり、急降下を開始する明石に勢いよく迫る。突然の衝撃波に視界を確保し、アダムの数メートル隣に着地した和夜は刀の切っ先をアダムに向けながら天井近くを見上げる。そこではラスに空中で首を掴まれた明石が腕に扇を叩きつけてもがいていた。和夜が切羽つまった声で明石を呼ぼうとすれば、明石はガッと扇を振り下ろしラスの左腕の関節球体が填まっている部位に扇を叩き込む。バキッと嫌な音と共に扇がラスの左腕の関節に飲み込まれていく。と同時に明石はラスの腹に蹴りを放ち、力が弱まった手中から脱出し、空中で爪先を揃えて笑う。その笑みが誰に送られたものなのか、分かるのは和夜だけ。明石は空中に足場があるとでも云うようにラスより高く跳躍するとその頭に踵落としを食らわせた。勢いよく落下し、床に激突するラス。だがラスは床に直撃しクレーターを作る直前に下半身を捻り、両足を広げて着地。辛うじて衝突を防いだ。だが頭の一撃は堪えたらしく、普通ならあり得ない方向に半回転した頭部を両手で掴むと、グルッと回した。ガキガキッと音を鳴らして頭がもとの位置に戻っていく。そうしてついでとばかりに左腕に突き刺さった扇を力任せに抜き、握り潰した。乱れたスカートを手早く直し、さてとラスは着地するであろう明石を探す。その時、彼女の死角から蹴りが放たれた。紙一重でかわし、上体を低くすれば足を振り上げた明石が視界に入り込む。ラスがお返しとばかりに足を刈ろうとすれば、先に明石が後方へ跳躍して回避し、手に扇を出現させる。そしてその二扇を手裏剣のようにしてラスに投げた。華を咲かす扇がラスを狙って可憐に舞う。しかしラスは


「飛び道具に頼るのは得策ではありませんよ『嫉妬』。ワタシは、我が主(マスター)の最高傑作ですから」


無表情の表情筋を動かし、笑った。その笑みは醜悪で美しいヒトのもの。明石は可笑しいと気づいたが、扇は既に彼女のもとへ飛んでいる。後戻りは出来ない。だから、もう一度扇を両手に構え、滑るように床を駆ける。扇の手裏剣をラスは人差し指と中指で挟んで止め、足元に落とす。再びスカートを持ち上げれば、突風が扇を巻き上げ明石へと勝手に攻撃してくれる。気配で扇が寝返ったのを察した明石は駆けながら扇で扇を弾き壁に突き刺させると、ラスの手前で大きく跳躍。ラスもラスでスカートを押さえながら片足を振り上げる。そうして二人の一撃が空中で火花を伴って交差する。近距離で明石が攻撃していない方の左の扇をラスに振り下ろす。と彼女は左手で扇を掴んだ。僅かな傷しかつかない手にこれ以上の接近戦は不利だと明石は瞬時に分析し、左の扇を手放し、右の扇に力を込めて振り落とす。ラスの足が下がり、代わりに先程掴んだ扇を明石に振り切る。寸でのところでかわすが左頬に走った痛みとパラリというなにかが切れる音にヤバい、と瞬時に明石は思う。慌てて顔の左側を左手で押さえるが遅かった。


「だからアナタは失ってしまうのです」


左耳でいつの間にか接近したラスが明石に囁く。多分同じ悪神で、成り立ちも構成も違う人外サマがまるで明石の奥深くまで手玉に取り、操ろうとするかの如く囁いてくる。


「うるっさいなぁ」


閉じた扇を左手に出現させ、押さえていた手を離しながらラスに振る。固い感触が左手に伝われば、明石はクスクスと小馬鹿にするように笑う。ラスはヒビ割れた左頬を指先でなぞり、フッと小さく笑った。そんな簡単にラスが倒れるはずがないことを明石は知っている。嗚呼、だからこそ粉々になるまで、アダムの最高傑作と豪語する人形を倒すのだ。もはや先程までの人形はほとんどが木片と化した。ならば、勝機はまだこちらにもあると云うことだ。


()()()はただ()()()()だけ。それに矛盾が孕んでてもね。だから、失う前に囲えば良いでしょ!」


着地し、すぐにラスに扇を振り回す明石。それらを後方にステップを踏みながらかわし、ラスは左手の扇を投げ捨てる。乱れたスカートを直し、そしてボロボロになった左腕の肘辺りを掴み、接近する明石を見る。


「確かにその通りです。失う前に、奪えば良い話ですからね」


勢いよく右手を回すと左腕に微かな隙間が現れ、その隙間から操り人形を操る糸が蜘蛛の糸の如く無数に出現し、ラスの左腕にまとまわつく。それはまるで繭のようにラスの左腕を包み、そして繭はその手中にナイフを作らせる。柔らかくも儚いナイフが強靭とは到底思えないが、明石は警戒して扇を振り回した。その攻撃をラスはナイフで受け止めながら左腕から右手へ繭を移動させると糸状にさせ、明石に放った。


「ワタシたちは、ずっと求めてきました。()()()その証拠です」


自分に巻き付く糸を粉々になるまで切り刻み、明石は愉しげに、狂喜的な笑みを浮かべた。


「ボクらだって、おんなじなんだよねぇ!」


ラスと接戦を繰り広げる明石を横目に和夜は安心したように頷くとアダムに向かう。彼は和夜に切っ先を向けられているにも関わらず、余裕綽々と言った様子で微笑み、指先の糸を漂わせている。和夜は先手必勝、と云うように飛び出し、アダムの首筋に刀を振る。するとアダムは指先をクイッと丸めると人形を操っていた糸は彼の手中へと丸まるように集まる。それはまるでラスが腕から出した繭のよう。つまり、繭さえもアダムの力なのかもしれない。ガッと振り回した一撃はアダムの手中の繭によって防がれる。と、次の瞬間、繭はガラスの破片と変化し、不気味な音を立てる。耳障りな音に和夜は顔をしかめてしまう。


「……ガラスの破片で勝てるのか?舐められたもんだなぁ?」

「ふふ、ナイフは僕よりラスが得意だからあげたんだよ」

「『憤怒』の力って……」


間近でにらみ合い、呟く和夜。やはり悪神・『色欲』のように複数ある感じだろう。魂のみの茉昼に暗示をかけれたことから輪廻転生に足を踏み入れていることは容易に分かる。つまり、人形達もその応用と見て良いだろう。繭も同じだ。問題は複数の能力が一度に使えるのかどうかだ。リーラとローズは二人で一つだったからこそ使えた。同化していたのだから当たり前だ。しかし、アダムは違う。ラスとアダム、どちらが悪神本人かわからないのだ。和夜はアダムではないかと考えているが……違う気もする。ラスは人形で、二人共に魂が関係している。嗚呼、考えたってわからないなら、動きを止めれば良い話だ!和夜はアダムのガラスの破片を大きく弾き、よろめいた彼の腹に蹴りを入れる。腹を押さえて後方に飛び退くアダムの懐に和夜は迫り、下から殴るように刀を振り上げる。後方に仰け反り、かわすとアダムはガラスの破片を自分の前にいる和夜に向けて振り回す。シュッと空を切る音と共に和夜の胸元に微かな痛みが走る。前戦の痛みが体を支配してしまい、うまく動けない気がする。和夜は片足を引き、一旦アダムから距離を取る。が、アダムは和夜を逃さないと云うように片腕を伸ばす。その手にはなにもない、が操り人形を操る糸のようなものが指先から伸びている気がして和夜はヒュッと息を飲んだ。案の定、その糸は和夜の首筋を狙って蜘蛛の糸のように伸びていた。咄嗟に刀を振るがそれよりも早く細くも丈夫な糸が和夜の首に巻き付く。ただ優しく手を添えているだけの糸は、徐々にゆっくりと和夜の首を絞めていく。じわじわと苦しめるように。首の糸を切ろうにもアダムが踊らせるように指先を動かすもんだから切れるもんも切れやしない。酸欠になりそうななか、和夜は首元から伸びる糸に刀を添えるが視界が歪み狙いが定まらない。


「ハハッ、僕はね、人形師なんだよ碧藤。だから、人形を形作るものは全て僕の武器だ。ガラスの破片なんて、欺くものでもない」

「……っ」


ギリッと容赦なく躊躇なく和夜はアダムに煽られるように、糸を片手で鷲掴みにすると手の痛みなど気にも止めれに糸に狙いを定めようやく刀で断ち切ることに成功した。スゥと喉に、体に空気が浸透する。生きていると実感する。だからこそ彼は気づかなかった。一時の苦痛から目を離してしまった。


「和夜!」


傷が痛んで、思考が停止して。全て言い訳だ。だから、和夜じぶんを抱き締めるように腹へガラスの破片を突き刺すアダムが真実なのだろう。酸欠で頭が回らないなか、アダムは和夜の懐にまんまと侵入し、腹に破片を突き刺した。和夜の顔が驚愕に歪めば、手にしていた守り刀が重力を失って落ちていく。


「だから君は、弱いんだよ『嫉妬(欲張り)』」


和夜の耳元でアダムが嗤う。悪魔の囁きの如く、ケラリケラリと。そうして、トンッと固まった和夜の肩を押せば、彼の体は重力に逆らうことなく、後方に倒れていく。腹に破片を刺したまま。そのまま床に激突する、というところで明石が滑り込み、和夜を抱き抱えた。茉昼の時とまるで逆。なんともちぐはぐで茫然とする意識を和夜は腹の痛みと共に一瞬だけ手放した。


「和夜っっっっ!!」


もう、生きていたくなかった。


続きますーそして次回作も色々……うっ、頭が……(笑)

次回も来週です!言うことないのかって感じですよねほんと

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