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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
五章 求めたのは絶対幸福な双子の運命
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第六十六ノ夢 それが私達の決別だった


茉昼が二人をーー正確には明石を狙って跳躍する。戦闘に邪魔になるであろう本棚はいつの間にか、意思を持っているかのように彼らを囲み、クローズドサークルを生み出していた。ギリッと手に持つ刀が震える。覚悟していてもすぐに実行に移せやしない。だって、大切だから。嗚呼、それでも。和夜は今一度かぶりを振り、思考をクリアにすると、自分の前に躍り出て茉昼の攻撃を受け止めようとする明石の肩を掴んだ。入れ違いで明石を後方へ、自分を前方へ投げ出せば、上段から茉昼の衝撃が落ちてきた。ガキンッ!と甲高い音を鳴らしながら痙攣が和夜の腕を襲う。かつて守り刀と崇められた二振りの刀剣は今や、命を奪うために操られる。蜂蜜色の瞳が恍惚と歪んで和夜を見ている。過去に、思い出に浸りすぎた哀れな魂、求めすぎた哀れな片割れ。その目には和夜は写っているようで写っていない。和夜は茉昼の蜂蜜色の瞳から視線を逸らすように顔を一瞬下げると、彼女の腹に膝蹴りをお見舞いする。腹の攻撃に茉昼は腹を押さえて数歩後退する。勢いを持って後退したせいで藤と獅子が寄り添うローブが大きくなびく。ローブの下に僅かに見えたのは和夜と同じ色合いの巫女服。しかしそれもすぐの見えなくなってしまった。明石が後退した茉昼に背後から扇を振り回したのだ。明確な殺意を持って首筋を狙ったその一撃は茉昼が間一髪で扇と自らの間に脇差を滑り込ませたことによって防がれる。そうして、グニャリと骨がないとで云うのか、茉昼の首が明石を捉えて回る。ヒッと明石が明らかな恐怖を抱いた途端、彼女の体は一瞬にして明石と向き合い、扇をその手から弾き出す。手首を押さえた明石だったがその場で跳躍し、体を捻りながら片手にーー左手にマジックのように扇を取り出す。そして空中に飛び出しながら茉昼に蹴りを放つ。茉昼がその蹴りを片腕でガードするのを見越し、彼女の腕を足場にもう一度蹴って跳躍。茉昼から距離を取る。距離を取った明石だったが、すぐさま茉昼が床を蹴り、滑るように跳躍してくる。速度に当てられた瞳は和夜と対峙した時とはうって代わり、爛々と輝いている。


明石は若干めんどくさそうに表情を歪めると片足を引いた。するといつの間にか柵のようになった本棚が踵に当たった。それに明石はニィと今度は楽しそうに笑うと、気配で茉昼との距離を推測し、後ろ手に本棚を探る。そして凄まじいスピードでこちらに向かってくる茉昼に向けて分厚い本を投げまくった。本が空中で開かれながら茉昼にぶつかり視界を覆い、角が体に当たって少々の痛みを与えてくる。それらの痛みと小さなちょっとだけ可愛らしい攻撃に茉昼のスピードが落ちる。次の瞬間、スピードが落ちた茉昼の真横から刀が突き刺される。急ブレーキを踏んだ茉昼が後方に仰け反りながら刀をかわし、明石と刀を突き刺してきた和夜が見えるように立つ。和夜は突き刺した刀で空を切ると切っ先を茉昼に向けたまま跳躍。切っ先が茉昼の目を狙えば、彼女は首を傾げるようにしてかわし、一撃は右耳の房飾りを撫でるように去っていく。茉昼は一撃が房飾りに触れたからか、グニャリと笑みを破顔させ一旦引いた。そうして、脇差を逆手に持ち笑みも作らない真顔で和夜を見る。真顔なのに瞳は今にも溶け落ちそうになっているのが対照的で、なんとも可笑しかった。その茉昼の表情を和夜は知っている。狂喜を内に大事に大事にし舞い込んだ、我慢している時の表情だった。幼い時と状況は明らかに違うし我慢というのも「明石を殺すこと」を我慢しているのだろう。殺し合いとのギャップというか、見ることが叶うはずもなかったかつての妹の表情を見れて、和夜の頬は我知らず笑みを浮かべる。だがその笑みを()()()()()()()()のは和夜だけだろう。


「和夜、大丈夫?」

「その大丈夫はどういう意味の大丈夫だ?明石」


トンッとまるで舞い降りるように明石が和夜の隣に着地する。両手に扇を持ったその姿は踊り子のよう、目元の包帯が妖しさを強調する。和夜の悪態のような言葉に明石は肩を竦める。その行為だけで和夜は明石がどういう意図を持って聞いたのか理解する。心配してくれているのだ。このなかで一番危ないのは和夜だ。覚悟していてもそれが壊れるきっかけは些細なものでしかない。きっとそれは暗示にかけられた茉昼も同じこと。

和夜は明石の好意を有り難く受け取ることにし、返事とばかりに同じように肩を竦める。明石はそれで和夜の言いたいことが理解出来たらしく、右の扇を口元に当てる。


「無理はしないでよ?ボクだって、一応和夜の話から茉昼フジは知ってるし、なんだかんだ勝手だけど親しみはあるんだから。茉昼フジにしろ『傲慢』にしろ」


だから、ね?と明石は和夜を見上げて笑う。扇に口元が隠されているので明石の笑みは和夜にしか見えない。それがまるで内緒話のようで、和夜はクスリと笑みを溢した。正真正銘の、心の底からの楽しげな笑み。全てを閉ざし絶望していた底から救い出された時と同じものだった。


「ありがと、明石」

「いいえ~和夜」


二人はそう言って信頼を込めた笑みを向け合い、茉昼に警戒を移す。やはりと云うべきなのか、茉昼は明石が和夜といる時は攻撃の頻度が下がっている。


「あくまでも狙いは明石ってことか」

「でも和夜の攻撃もちゃんと反応してた。暗示にかかってる弊害じゃない?多分茉昼(フジ)が殺したいのはボク。でも、それをするのは今じゃない。こうしてやり方は違うけど会えたから、そっちを優先させたい」


なのに茉昼の憎悪は明石を殺せと訴えてくる。止めてと云うように。それさえも幻聴だと思えば笑えば良い。十年の歳月を越えてようやっと生者と死者として出会えたのだから。


「で、肝心の茉昼(本人)はどうなの?」


悪戯っ子のように口角を上げてニヤニヤと笑いながら明石が脇差を逆手に構える茉昼に問う。すると真顔だった彼女の顔が徐々に絵を描くように染み渡っていく。笑顔とも愉悦を称える狂喜とも違う。茉昼は逆手に持った脇差の刃に自らの口元を写しながら、言う。


「殺す」


ただ一言、悪神へ憎悪を乗せて。それだけでもう彼女の精神状態は分かってしまう。


「うん、わかった」


明石がにっこりと笑い、口元を隠していた扇を取り払う。そして、頭上高く跳躍した。途端、そのあとを追うように茉昼も高く跳躍し、二人の武器が空中で交差し空気を震わせる。明石が左の扇を茉昼の左肩に向かって振りかざせば、彼女は素早く脇差を手中で回転させて右の扇を弾き、いましがた攻撃されそうになった扇を防ぐ。しかし、その間に弾かれた扇は素早く茉昼の死角を潜り抜け彼女の右脇腹を抉っていく。ローブで大きく広がっていたにも関わらず、正確に貫いた一撃は茉昼の表情を痛々しく歪めさせる。けれど、茉昼だってそれだけで終わるような人物ではない。かたや碧藤家の娘だ、未熟な技術は時に危険を孕むほどの脅威になりうる。茉昼が痛みに顔を歪めながら片足を大きく振り上げ、明石の扇を完全に弾く。大きく弾かれた影響で右腕が無防備にさらされた明石の右側に茉昼は左の扇を少し脇差をずらして落とすと引き抜き、勢いよく振り回した。弾かれた左手の影響か、明石は次の対応が遅れてしまい茉昼からの一撃を諸に喰らってしまう。辛うじて右肩に攻撃が来ないよう体を捻ったつまりだったが、右の胸元と脇腹に浅い線が引かれる。痛みに一瞬意識を奪われた明石に茉昼の容赦ない回し蹴りが炸裂する。勢いよく急降下していく明石。明石は空中で体勢をどうにか整えようとするが、急降下してくる茉昼に警戒が行ってしまい動けない。と、その時、茉昼が突然消えた。いや、消えたのではなく空中で死角から蹴られ柵になった本棚に落ちたのだ。その証拠に本棚が破壊された音と共に土煙が舞う。明石が着地するとその隣に和夜が不安そうな表情でやてくる。明石は大丈夫だと笑いながら二人同時に土煙のなかへ飛び出す。


「っ、え?」


跳躍しながら土煙のなか見えた光景に和夜の口から驚きの声が漏れる。土煙のなか、立つ茉昼の左肩には衝撃で破壊されたのだろう本棚の破片が突き刺さっていた。後ろから左肩を縫い付けるように一突きにされており、痛々しいを通り越してグロいほどに赤黒く変色していた。しかし、茉昼は明石に攻撃された時に呻いていた表情とはうって代わり、無表情で左肩に脇差の刃を添えると容赦なく切り落とした。ボトッと鈍い音と共に左肩のみが破片に縫い止められる。唖然とし、刀の切っ先が下を微かに向いてしまう。と、その瞬間、淡い蜂蜜色の光が茉昼の左肩を包んだかと思うと左肩から下の腕が急成長を遂げる植物のように生えたのだ。あり得ない状況に和夜が目をぱちくりと場違いだがすれば、明石が和夜の反対側から叫んだ。


「器が肉体だから、大怪我は破壊してもう一回再構築した方が早いんだよ!」

「っ、はぁ!?ってことは」

「だからほとんどの悪神関連は心臓なの!」


明石の言葉に和夜は軽く呻き、自らの迷いを投げ捨てると茉昼に向かって駆ける。そうして左腕を確認する茉昼に刀を振った。空を切る音に反応したと言わんばかりに茉昼は紙一重で脇差を振り、和夜の攻撃を受ける。そして和夜の懐へ潜るように抱きつくように接近し、蕩けた瞳を向ける。もはや喜んでいるのか笑っているのかそれとも「逃げて」と叫んでいるのかさえわからない瞳に和夜の体に金縛りが走った。遠くで明石が叫んでいるのが聞こえる。茉昼の大きく振りかぶった脇差が目に入る。咄嗟に自分の前で刀を横に構えれば勢いよく脇差が振ってきて彼の腕を震わせる。よく似た二人の剣筋が絡み合えば、ギリッと刃が擦れ火花を散らす。和夜は脇差と刀の間に僅かな隙間を作ると一歩、後方に足を引く。前のめりになった茉昼の背に明石が迫るのを見届けながら和夜は脇差と絡み合った刀を振り切った。

まーた遅くなりましたすみません!というか今日ハロウィンですね!トリック・オア・トリート!……和夜達に言ってもどうにもならぬ……おかーし!

次回は来週です!

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