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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
五章 求めたのは絶対幸福な双子の運命
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第五十七ノ夢 それが私達の疑問だった



体感は何時間も寝ていたと思うのに、本当はたったの数分だと言われて信じられるものだろうか。いや、信じられないだろう。だが、窓も時計もなく、時間の経過が曖昧なこの空間ではどちらも正解でどちらも不正解だった。


ザァ……ザァ……と水の流れる音がまるで子守唄のように耳に入って来る。頭から滴る生温い水は先程まで微睡んでいた意識を非現実的な殺し合いの現場へと引き戻してくれる。一時の眠りという休息から目を覚ました和夜かずや明石めいせきに断りを入れ、シャワーを浴びていた。血塗れになった手を、体をどうにか洗い落としたかった。実際に血が付いているわけではないし、自分の思い過ごしだと分かっている。けれど、小さな思い過ごしが水で洗い流せるならば、良かった。シャワーの蛇口をしめれば、和夜の鼠藤色の髪から水滴が落ちていく。湯冷めする前にとさっさと体を拭こうとして洗面台の鏡に目が行った。鏡に映った和夜の左胸に刻まれたシンボルマーク。まるで和夜を嘲笑うようにとぐろを巻いた蛇がこちらを鏡越しに睨み付けている。和夜は左胸のシンボルマークを右手の指先で触れると、苦笑を洩らした。当初は忌まわしいものであったはずなのに、今はこんなにも()()()()。それは、明石を悪神・『嫉妬』ときちんと認識したからなのか。それとも明石を信頼しているという表れなのか。どちらでも和夜には良かった。だからこそ、そのシンボルマークから目を逸らしてさっさと着替えを終わらせるために動き出した。

和夜がバスルームから出るとソファーに明石が毛布を体に巻き付けて座っていた。足元の近くにテーブルを引っ張って持ってきており、その上には暖かな湯気が立ち上るカップが二つ置かれている。何処から見つけて来たのか、それとも壁際の棚にあったのかティーセットを引っ張り出してきたらしい。中身はホットミルクのようでほんのりとした暖かさと甘さがバスルームから出てきた和夜の鼻を擽る。


「寒いなら貴方も入れば良かったんじゃないか?」


苦笑しながら和夜が言い、明石の隣に座ると明石は「大丈夫だよ!」と毛布からひょっこりと顔を出して笑った。その様子が猫か犬のように可愛らしくて和夜は思わず、明石の頭を優しく撫でると明石は甘えるように和夜の手に頭を擦り付けた。


「ミルク……部屋にあったっけ?」

「あ、それね!広間に行って取ってきたの」


頭を撫でていた手を下ろし、カップを覗き込んで和夜が言えば、明石が言う。途端に和夜は心配そうに顔を歪める。化け物も出現し、毒物とかなんだかあったのに、危険なのではないか?和夜のそんな不安を読み取り、明石はにっこりと笑う。


「大丈夫だよ!サッと行ってサッと戻ってきたから!腹ごしらえは必要でしょ?」

「うん、まぁ、そうだけどな?……無理はやめてくれ」

「わぁかってるよー!」


ケラケラと笑う明石に和夜もしょうがないなぁと笑いを溢し、ティーカップを手に取った。ほんのりとした暖かさがカップ越しに伝わってくる。ホットミルクを少し口に含めば、同じくほんのりとした温もりが和夜を包み込んでくれる。明石も毛布を膝にかけ、両手でティーカップを持つ。ユラユラと揺れる湯気を息で吹き飛ばし、ホットミルクを一口。二人でホッと一息ついて、和夜は何処か恐る恐ると言った様子でティーカップをソーサーに置く。休息する前に話していたことを明石と共有するために。もしかすると思い違いかもしれない。でも、その違和感は和夜に正解だと告げてくる。違和感こそ正解だと。だが、()()()()()()もわからないし、違和感だけが証拠ではどうにもならない。和夜の考え込んだ様子に明石は気配で気づくとティーカップを置いた。


「大丈夫だよ和夜」


まるで暗闇から引き上げてくれた光のように、あの時明石が和夜を救ってくれた時のように、その声は温かく優しかった。和夜は明石の言葉にゆっくりと頷くと、深呼吸をし、違和感を吐き出した。


「フジについて、なんだが……明石は正体を知っているのか?」

「それを一番、和夜が分かってるでしょ」


否定でも肯定でもない返答。いや、和夜は焦って明石によくわからない質問をしてしまっていた。和夜自身も分かっているからこそ、慌てていた。それは違和感が彼の心を暴くように暴れているからに他ならなくて。


「よーし、整理しよ!だから落ち着こう?」


はい、ホットミルク~と和夜に明石が笑いながらティーカップを渡す。それもそうかと和夜は明石に促されるままにティーカップを受け取り、もう一口。全く、明石には敵わない。クスリと和夜は落ち着きを取り戻して微笑む。そうして、明石に言われた通りに片手の人差をこめかみに当てて整理をしていく。


「フジと会ったのはラディアの時だったよな」

「そうそう、追いかけられてね~全く!迷惑だった!」

「……その時から、()()()明石を目の敵にしてたよな」

「あ~そういえば」


明石にのみ、たまに管理者がいる時には管理者にも向けられていた敵意の籠った視線と殺意。憎しみを乗せた敵意。その時は和夜も明石も気にしていなかった。単に悪神である明石と殺し合いを強制的にさせている管理者に敵意を向けていたのだろうと考えていた。だが、よくよく考えるとどうやって明石が悪神と知ることが出来るのだろうか?正式な結託はラディアとの殺し合いの後。その前から明石の正体に気づけるものなのだろうか。アダムは気づけそうなものだから除外決定。そして、和夜にのみ向けられている憎しみとは逆の感情ーー愛おしさをこめた瞳。明石といるときと同じように安心できるフジの存在に違和感を覚えないわけがなかった。その安心感を覚えられる存在は、もはやこの世には明石しかいなくなっていたのに。突然現れたもう一つの安心を与えてくれた優しい存在。真実を直視することも出来ずに、証拠もなく、和夜の中に違和感として燻り続けた。だって、あり得ないでしょう?


「なんだかんだ言って懐く前の猫みたいで可愛かったケド」

「……明石、貴方なぁ」

「だぁって、まるで九歳の時の和夜みた」

「やめろ」


ケラケラと笑いながらからかう明石を和夜がギロリと顔を真っ赤にさせながら睨み付ければ、明石は手を振って笑う。まさかの過去を引き合いに出されて恥ずかしいやらよく覚えてたなと褒めればいいのやら……もうわからない。恥ずかしさを押し込むように温くなったホットミルクを一気に飲み干す。


「そういえば、フジも刀持ってたけど、それは?」


明石はフジが持っていた刀を触っていないので鞘や鍔に傷がついていることは知らないが、抜刀や納める音などで刀とは読み取っていた。和夜はフジの持つ刀を思い出す。自分の腰に下げられた守り刀に匹敵するほどに美しく、それでいて痛々しい刀。まるで戒めだというように黒い鞘に咲いた夜桜。けれど


「明石、覚えているか?」

「ん?なにを?」

碧藤そうふじ家の守り刀の数」


和夜の問いかけに明石は一瞬キョトンとすると、空に顔を向けてティーカップを置いて空いた両手で「えっと……ボクも入れてでしょぉ……」とどうにか思い出そうとする。明石は封印されていたし、眠っていた時もあるだろうし、知らなくて当然だろう。自信なさげに明石が「二……?」と片方の指を二本立てる。その答えに和夜は「だよなぁ」とクスリと笑うと、明石が首を傾げる。


「どういうこと?和夜」

「明石は覚えてなくても知らなくても当然なんだけど、碧藤家には模造刀レプリカも合わせて三振りあるんだ」

「……三っっっ?!」


はぁ?!と叫びそうなほどに驚く明石に和夜はやっぱりなぁとクスクスと口元に手を当てて笑う。


模造刀レプリカは万が一守り刀が紛失した際にっていう救済処置的な理由からだからな」

「あと一振りは?」

「もう一振りは脇差()()()んだが……」

「らしい?」

「時々しか表に出なかったんだ。だから模造刀レプリカもないし、明石も知らなくて当然。それに化け物の襲来が原因で脇差は消息不明だからなぁ」


「嗚呼、なら、そっかぁ」という明石の納得の声に和夜も頷く。フジが使っていたのは刀。なくなった脇差でもないし、だとしたら約十年間何処にあった?となる。模造刀レプリカの方は和夜の記憶が正しければ、紅藤あかふじ家に保管されている。つまり、フジが碧藤家のモノを持っているというのは否定される。けれど、違和感を追えば追うほどフジが()()だと思えてくる。確証は、フードの下にしかない。フードを剥ぎ取った下に和夜と同じ色が出れば、双子の妹(碧藤家の者)と確定である。

「じゃあさっ?」とその時、明石が和夜の方へ軽く身を乗り出した。


()()っぽい感じはするんでしょ?だったら、何処が似ているか思い出せば良いんだよ……もちろん、和夜が無理しないならだけど」


明石の提案に和夜は我知らず、嗚呼と声を洩らしていた。気になるくらいなら過去を思い出して差異を探れば良い。だが、明石はそれが和夜にとって苦痛を催すことであると知っているからこそ、強要はせず選択させる。和夜をよく知っているからこその提案が和夜にはたまらなく嬉しかった。確かに過去を、悪夢トラウマを思い出すのは恐ろしい。けれど、いつまでも逃げていてはいられない。


「ありがと明石。俺は大丈夫だよ」

「そう?でも無理は」

「しない、だろ?」


顔を見合わせてクスクスと楽しげに笑い合えば、ほら、怖くない。まるで先程の反対だと笑いながら、和夜は、遠い昔の記憶へと思いを馳せた。

………リアルが多忙で投稿遅れるかもです。申し訳ないです……ちょっと別のも書いてて(言い訳)

とりあえず今日の分です!フジのお話!

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