誰かがしたためた日記
嗚呼、こんなにも、人がいなくなってしまった。いや、此処はそういう場なのだからしょうがないのだけれど。悲観的に考えて、思ってしまうのは私があの子の言う通り、偽善だからなのだろうか。自分の考えも意思も、彼らのようにありはしない。ただ、流されるように動く……嗚呼、これを偽善と言わずになんと言おう。私は相も変わらず、昔のままだ。
地上ではどれほどの時間が経っただろうか?化け物を殲滅させるために捧げられた人柱。人柱のお陰か否や、化け物は以前よりも減っているように思われる。ただの思い過ごしかもしれない。だが、人類は厄介払い出来た生け贄のその後を気にすることなんてないのだ。そう、本当に死んだかさえ気にしない。だって、これは必要な犠牲だと言わんばかりに……
そうこうしているうちに『色欲』と『暴食』が死んだ。片や愛を、片や正義と悪を求めた彼らは、幸せだったのだろうか。悪神を使役するはめとなった者達。この両者は恐らく、似ているのだろう。自らの感情のために誰かを失うことも厭わなかった。大切なもののために、不必要を蹴落とす。それを簡単に出来るのは、彼らが求めていたからだろう。
『色欲』は同化を果たしてまで彼をーーリーラ・トイズ・ローズを離すことはなかった。まるで生まれながらに二人であったように互いに寄り添っていた。だからこそ、私の宣告は彼らにとって死を与えるだけでなく、希望を与えたのだと思いたい。ローズが死んだにもかかわらず、リーラ・トイズ・ローズ……またはリーラ・トイズは彼女の死を受け入れようとはしなかった。なのに、その名に彼女を加えた。忌まわしい両親との繋がりをも持つその名に愛しい者を加えた。そうしてそれは二人の新たな結びつきとなった。リーラ・トイズは、偶然にも彼女を害そうとした両親を許すはずもなかった。だからこそ起きた不祥事。誰も語らない真実の行方。リーラ・トイズは、両親を亡き者にした張本人だ。コレにもそう記されている。両親を愛のために殺したのだ。愛しい者を陥れたとしてリーラ・トイズは自ら鉄槌を下した。そこに愛なんて最初から存在してはいない。あるのは憎しみ。両親によって増長された愛憎にも似た感情。『色欲』は認めないだろうし、リーラ・トイズも認めないだろうけれど、愛憎も両親への形だったのではないか。「子供は愛の結晶」とも言われるのだから……まぁ、なにもかも遅いか。『色欲』に与えられた愛は、愛を与えなかった両親に仇となって贈り返された……なんとも皮肉なものだ。リーラ・トイズを両親が愛せばなにか変わっていたのかと、多少は考えてしまう。でも、考えたって所詮変わらない。リーラ・トイズは悪神と恋に堕ちたのだから。求めていた愛を与えられたのだから。そんなリーラ・トイズに『色欲』は恋したのだろう。可憐な乙女である『色欲』は、リーラ・トイズを心の底から愛したーー結果が、断罪を発端とした自害。それでも二人は幸せだったのだろう。愛されない男が死んでしまった恋人を求めて起こした暴走劇にも似た愛の物語。二人の終幕には最高だろう。互いに依存する如く愛し合い、互いしか見えておらず、互いと愛する未来しか見えていなかったのだから。誰が言ったんだっけ?「愛に狂っている」と。いや、「恋は盲目」の方が合っているかもしれない。もはや、殺し合いのなかで唯一幸せだったのはこの二人しか考えられない。今も昔も。そんな二人を……一人を知っているから、二人を愛した偽善集団は声を上げなかったのだろう。それこそ、リーラ・トイズとローズが言う「偽善」ではあるまいか。
ふと、獅子玲緒ーー『暴食』ゆえに食い散らかしていたある意味肉食獣の父親が気になったのは、不思議なことではないだろう。本当に父親は不慮の事故だったのか?不慮の事故であるならば、何故、優秀であった彼女は看守へとなったのか。考えずとも分かる。離婚した正義感溢れる母親と幼い弟。母親にとっても彼女は可愛い正義の味方。そうして、生け贄になったとしても変わらない言葉。彼女自身が自分で来たようにも見え、正真正銘生け贄にされたようにも見える。神託に従ったしょうがない結果。そこに彼女が父親を精神的に殺したことを加えたら?……真相はまた闇のなかだが、コレに気になる記述がある以上、確定ではないがそう考えるしかない。だから、彼女は執拗に正義と悪を求めた。自分以外が提唱する正義と悪を知りたかった。ゆえに正義の味方として生まれ、洗脳にも近い正義への忠誠心を目の前で簡単に破棄した父親が滑稽に見え、また玩具に見えたのだろう。「犯罪者に声を上げる権利はない」そうエル帝国の乱暴な思想を組み込まれた彼女にとって、父親がまさにその象徴に見えたのだ。正義であり悪の心を知る教材。酒に酔っていた父親を彼女がどのように追い詰めたのか、それは彼女が看守へと所属が移ったことで明らかだろう。飴と鞭、まさに拷問のやり方で言葉巧みに正義と悪を喰らう。その味が恐ろしいほどに美味であれば、彼女は『暴食』へと変貌する。何処で手に入れたかわからない鞭を携えて。時にあの鞭は、誰のものだったのか。正義を欲した家庭にまるで神からの導きのように落ちていたそれ。悪神は勝手に契約を結ぶ。そう考えれば、勝手に選んで宿り主の前に出ることも可能だ。己しか考えていない思考は『憤怒』の前に最期の抵抗をした時に似ている。だからかもしれない。彼女が正義であり悪に拘ったのは、父親と同じように過ちを犯したくなかったからなのかもしれない。美味であり愉悦であり、悲惨を引き起こす、誰にとっての正義で誰にとっての悪か曖昧なものを知りたかったのかもしれない。そうすれば……決裂は起こらなかったかもしれない……そんな譫言に証拠なんてないけれど。
これはただの懺悔で、私が記す後悔の念。そこにはなんの意味もないし、結果もない。誰も語らない物語は、真実であって嘘。彼らが心に秘めている真実のみが真実。嗚呼、だから、あの時私が言った言葉も真実だと思うのだ。あの子に……**に伝えーー
「日記は続く。懺悔の言葉と皮肉な言葉を羅列の単語にしながら。まるで感情を理解していますよ?と宥めるように、慰めるように、自己暗示をかけては満足して、懺悔する。ただただ馬鹿げたことを繰り返す。あの子の言う通りに、自分を偽り正当化する。
ーーこの日記は、もう一柱の宿り主で犠牲の物語」
次回は来週!と言いたいのですが、ちょーっとリアルが忙しく来週投稿できないかもです。すみません!再来週には必ず!とりあえず来週はお休みさせていただきます!(そう言って投稿しそう)
次回は再来週です!




