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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
四章 正義と悪は何処にもない
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第五十三ノ夢 破壊行為の偽造


新たな武器を手に入れたフジに玲緒は唇を舐めて舌鼓を打つ。そうして、一斉に二人が駆けた。フジが床に転がった破片を足先で蹴り上げ、片手で奪い取るように空中でキャッチ。片手に痛みが走るのも気にも止めずに握り締める。玲緒が鞭を振るう。バシンッ!という破裂音に咄嗟に左へと避けるフジ。自分の背後にいたアダムに一瞬気を取られるが、距離が自分とあることを確認し、一蹴する。大きく跳躍したフジは上段から脇差を振り下ろす。それを玲緒は片手に鞭の切っ先を持ち、ピンッと張るとそれを受け止めた。普通なら切れるであろう鞭は金属が編み込まれているせいで容易く切れてはくれやしない。腕に響いた微かな振動にフジが片手の痛みに顔を歪めれば、その隙を逃さず、玲緒がフジの脇腹に回し蹴りを放つ。受け身が取れなかったフジは真横に吹っ飛ぶが、足に力を入れて懸命に立ち止まろうとする。ズサァと埃を舞い上げながらフジは速度を落とすと慌てて玲緒を見る。顔を上げたフジの目の前にまるで襲い掛かる肉食獣のように玲緒が飛びかかる。低く体勢を整えて真横にずれれば、間一髪で玲緒の牙の如く鋭い殺気から回避する。そして、素早く彼女の背後に回り込み、片手のーー左手に食い込む刀身の破片を背中に差し込もうと腕を振り上げる。


「ふふ、遅いよ」

「っ?!」


だが、案の定、玲緒に気づかれてしまう。踊るように振り返った玲緒はフジの左手首に向けて鞭を振り切り、再び回し蹴りを放つ。カァンと金属が触れて破片が宙を舞い、再びフジが吹っ飛ぶ。破片は弧を描いて宙を舞い、寄りかかるラスの足元に落下する。カツッと靴に当たって速度を落とし、クルクルと回る破片を誰も気にも止めない。しかし、玲緒はフジを吹っ飛ばしたあと、違和感を覚えた。右脇腹に響く鈍い痛み。片手で脇腹を触れば、ヌメッとしたものが指先に付着する。嗚呼、と笑って玲緒がフジを見れば、フジもまた彼女のようにニタァと笑っていた。右手に持つ脇差の刀身には恐らく玲緒のものであろう血が付着していた。つまり、破片で攻撃すると見せかけておいて本物は脇差だったと云うことだろう。一勝一敗。互いの間に糸を張ったような緊迫とした空気が流れる。そうして、どちらともなく跳躍した。大きく振るいながら玲緒の懐に潜り込もうとする脇差がフジの手首を舞台に舞い躍り、フジの首筋を心臓を抉ろうと不敵な輝きを持つ鞭が玲緒の命により縦横無尽に駆け回る。叩いては防ぎ、叩いては防ぎ。まさに一進一退だった。だがどちらかと云うと「力が強い」と云う玲緒の方がフジを圧倒しているようでもあった。互いに傷を負っているせいで動きは何処かぎこちなくはあるが、相手を殺そうともがいていた。ふいにフジが柄を左手で握った際、攻撃の振動で呻いた。玲緒を欺くためとは云え、自ら負ってしまった傷が響くらしく、柄は左手の出血で真っ赤に染まっていた。すかさず玲緒が鞭で左手を抉るように攻撃すれば、思わなかったフジは後退してしまう。一瞬だけ離れた距離を利用する手はない。フジは素早くローブの裾を乱暴に破き左手に巻くと応急措置とし、お返しとばかりに片足を振った。分かりやすい一撃であったために玲緒もすんなりとかわそうとしたが、フジはそんな彼女を見越し、振り上げた足で右脇腹に向けて回し蹴りを放つ。クッと呻き声と共に玲緒が脇腹を押さえて横に飛んで行く。痛みに耐えながらどうにか立ち止まった玲緒は忌々しげにフジを見る。


「……凄い、でしょ?私は、君の正義()に屈しない」


強気に言い放つフジに玲緒は鞭を妖艶な動きで撫で回しながら、さながら舞台役者のように片腕を翼のように広げて言う。


「嗚呼、面白い。それでこその食事。正義も悪も肉体と精神に宿るいわば魂に刻まれた人物の本質を挫き破壊し侮辱し軽蔑しなぶり心神喪失にまで追い込む……嗚呼、嗚呼、嗚呼!!やはり此処は最高だ!」


それでこそ『暴食』。玲緒の暴走とも云える歓喜にこの儀式をさせた神様は笑っているんだろうな、とフジはなんとなく思った。それほどまでにフジから見た玲緒は殺し合いに狂っていた。フジは口で左手に巻かれた布を強く結ぶ一方で脇差を逆手持ちにして構える。そして、玲緒に真っ正面から突っ込んでいくと見せかけて右側から回り込む。玲緒もフジの思考を読み、半回転しながらフジに背後を取られないようにする。それでもフジはフェイントを使って玲緒を右側に誘い出すと一気に駆けた。脇腹を押さえながら玲緒が鞭を振る。振られた鞭をかわそうとすれば足首に鞭が蛇のように巻き付いてくる。玲緒が自らの方へ引けば、フジの足が逆さまに持ち上がってしまうがフジは脇差を振り回し辛うじて拘束から逃れ、一気に今度こそ彼女の背後に回り込む。だがやはり簡単には背後を取らせてくれず、振り返り様に鞭を振りきられてしまい、フジは敢えなく撤退。目の前を通りすぎて行った鞭を目で追いかけながらフジは後方に飛び退きつつ、片足を後方に引く。鞭が振り切られた瞬間、フジは引いた片足に力を込め跳躍。鞭を振り切り、腕によって一瞬視界が遮られた玲緒の懐に潜り込む。突然、下から睨み付けるように現れたフジに玲緒は驚き、片足を後方に引いてしまう。が、視界を一瞬でも覆っていた腕をそのまま先程の軌道をなぞるように振り回せば、玲緒の懐に潜り込もうとしていたフジの頭上もしくは顔を狙って腕と鞭が容赦なく振り切られる。けれど、腕にも鞭にも衝撃はなかった。代わりに玲緒の背筋を震え上がらせたのは背後から感じる悪寒ともいうべき殺気。その殺気に玲緒はニヤリと口角を上げて笑うとしゃがみこんだ。途端に彼女の頭上を通過して行ったのは白銀の刃。玲緒の頭を守るように鎮座する軍帽に切っ先が軽く当たり、少しだけ浮き上がれば、玲緒は後方に仰け反るようにして両手をつき片足を勢いよく高く上げる。それによって玲緒の後頭部を狙っていたフジの脇差は大きく軌道を乱してしまい、刀身が円を描くようにずれていく。玲緒は片足を振り上げた勢いを利用して空中で一回転し、フジの隣にスタッと着地する。自分の隣に現れた玲緒にフジは驚いたようだったが、すぐさま距離を取る。距離を取った先で脇差を構えれば、玲緒も鞭を構えて二人は対峙する。


フジは腰で踊るように動く鞘を片手で押さえつけ、息を整える。いつしか和夜と明石に言った「慣れない発言」が今になってフジを追い詰めていく。慣れていない、そう慣れていない。フジは自嘲気味に口角上げて笑い、その笑みをローブのなかに隠す。玲緒には一矢報いた気になっていた。だが、フジのなかの高揚は、悪神は止まらない。どちらかが死ぬまでずっと。玲緒の前では逃げることさえ叶わない。


「(さっ、て、と……どうし、よ)」


ため息にも似た吐息を漏らしながらフジはもう一度玲緒を見る。かつてラディアと共犯だった彼女。玲緒からラディアは逃れられたし、その結果、フジに殺された。つまり、彼女にはまだフジが知らない隙があると云うことだ。ならば、その隙を利用して逃げれば良い。懸念することと言えば、アダムとラスの今後か。まぁ、いっか、とフジは左手の痛みに意識を現実へと引き戻してもらうと玲緒を見据える。玲緒はフジが次にどのような行動を取るのか、ニヤニヤと笑いながら見守っていた。その笑みは愉悦に満ちていて、食事を今か今かと待ちわびる空腹に喘いでいる者の目であり、侮蔑していた。玲緒はそんなこと気づいてもいないし、無意識なのだろうが、玲緒のその瞳でフジは冷静に彼女からの逃走計画を練り出す。


「来ないのなら、こちらから行っても良いんだよ?」


玲緒を視界に納めたまま、案を練っていたフジに玲緒が容赦なく突っ込む。抉られ凸凹おうとつが目立つ床をまるで滑るように、なんの障害もない!と叫ぶように玲緒が疾走する。フジは脇差を逆手持ちにしつつ、玲緒に向かって跳躍する。そうして、二人の攻撃が正面から衝突する。二人を勢いよく振り上げ交差した武器が衝撃波となって体に痺れを与える。フジは玲緒の鞭を弾き、逆手持ちから通常の持ち方に手中で素早く回転させて変えながら玲緒の追撃を軽く受け流し、彼女の脇を通りすぎる。そうすれば、玲緒も背後を取られると考えたらしくすぐさま半回転し、前を向く。そこに容赦なくフジが脇差を振り回す。玲緒は攻撃を鞭をピンッと張り、防ぐ。顔の横を狙った一撃を防ごうとすれば、フジは予想していたと云わんばかりに口元を歪め、振り回そうとした脇差の軌道をあからさまに変更。脇差は玲緒の顔を狙って振りきられる。これには玲緒は驚いたようだが、紙一重で首を後方に傾けてかわし、後方に飛び退いた。


互いに勝敗がつかないまま、両者は再び睨み合った……かと思うと、玲緒が乙女のように頬を赤く染めて、クリムゾン色の瞳に狂喜を宿して嗤った。

ちゃんとフジが一人で戦ってるの初めてな気がします……あれ?

次回は来週です!

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