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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
四章 正義と悪は何処にもない
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第四十五ノ夢 破壊行為の正義


「で、()()()()()()()()()()()かい?」


静かに、ただ静かに告げられた女性の言葉にアダムは眉を潜めた。()()()()()()?アダムの焦燥にも似た感情にラスが前で組んでいた手を微かに動かせば、女性も腰の鞭に手を掛ける。「そちらがその気なら、喜んで買おう」という挑戦的な目がラスを映す。此処でラスが危険だと判断して攻撃すれば、アダムの顔は丸潰れになり、端から見ればアダム側が殺し合いを仕掛けたということになってしまう。それは決してアダムの望んでいることではない。アダムはチラリとラスを横目で見上げると、彼女は先程の行為が嘘のように直立不動となり、漂いそうになっていた殺気さえも消えていく。女性はアダムの一瞥で防がれてしまったことに微かに苛立ちを巧妙に隠しながら、鞭から手を離す。


「どうして?」


テーブルに両肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せて可愛らしくアダムは首を傾げる。女性の云う欲しい情報は兵器の情報漏洩の件では決してない。虎視眈々と狙う瞳を細めてアダムが言えば、女性も彼と同じようにテーブルに両肘をつき組んだ手の上に顎を乗せる。まるで腹の探り合いをする会議を見ているかのよう。


「貴殿は私にエル帝国は正しいと云った。それは認めよう。話を聞く限り、貴殿は化け物を全滅させたいのだろう?だからこそ、私達帝国の思考を理解している。この世界はいわば断崖絶壁。後ろは崖、前は化け物。生き残るには一緒にいる仲間さえも見殺しにして時間を稼がないといけない」

「……そう」


なにが言いたいんだ?アダムは女性の真意を探るべく彼女を睨み付けるが、女性の真意は沼のように深いところへ隠しているらしく読み取れない。反対に、読み取れるのは手から溢れるほどの、顔から気配から溢れるほどの狂喜。彼女を見た時、全員が一同に介していたあの空間で見た時と同じ殺気と狂喜を滲ませている。


「それこそが我が帝国の思考。けれど、周囲の国々は見殺しにせず、共に死のうと手を差し出している。そして、奇跡に希望を掛けている……嗚呼、回りくどいかい?私の癖でね。よく、()()()()()にも怒られたよ」


スゥと女性の、真っ赤に燃えるクリムゾン色の瞳が開かれる。笑っているような、なにかを探っているような、そんな目。


「さて、それは本当に貴殿の正義かな?」

「意味がよく分かりません」

「貴殿には聞いてない」


狐のように細められた瞳がアダムを射ぬく。女性の発言が主人を貶していると捉えたラスが咄嗟に反論すれば、彼女から低い声が返ってくる。「これは私達の問題だ、メイド風情が干渉してくるな」と。だがこれにラスは女性を馬鹿にしたように鼻で嗤うことで反撃とした。先程の出来事、紅茶を淹れるよう頼んだ時のことを鑑みれば、彼女はこう言いたいのだ。「お前は我が主(マスター)じゃないから、お前の命令を聞く必要はない」と。女性はラスの意趣返しにピクリとこめかみを痙攣させると、話を続ける。


「ねぇ、『()()』。貴殿は私に旧式型兵器プロトタイプの話をしたね?普通なら……いや、()()()()()をしている人ならその話をした時点で顔をしかめるんだ。何故だと思う?生命体、それは()()()()()のことだよ」

「……知らないで聞いていたという説もあるんじゃないかな?僕は生命体と聞いて化け物だと思っ……」


そこまで言ってアダムはハッと口元を押さえた。途端、女性がニィと口裂け女のように口角を上げて微笑んだ。やられたっ!アダムは内心舌打ちをかましながら、もはや動揺を悟られていると考えながら一応でどうにか冷静を保つ。確かにアダムはエル帝国の云う生命体が生きた人間であることを知っていた。エル帝国は過激な思考の持ち主だ。化け物を殲滅するためなら人命さえ犠牲にする。そんな帝国の内情を聞けば、大概の人は女性の言う通り顔をしかめる。その後に本当のことを、生命体が生きた人間ーーまぁ、どういう精神状態かは云わずもながだがーーだと告げれば、爆発する。恐怖と罪悪感、エル帝国の命をなんとも思わない過激さに。だがアダムはなにも反応を示さなかった。逆に研究成果について聞いてきたのだ。此処までで普通の神経を持ったやからではないし、生命体がなんであるかを知った上で聞いていることになる。アダムの言う通り、生命体=化け物と認識していた可能性はある。しかし、女性は違うと理解している。だって、アダムは化け物を殲滅させたいのだから、だからこそ忌み嫌われるエル帝国について問うたのだ。そしてもうひとつ、エル帝国では化け物討伐の際用いられる単語のひとつである生命体は生きた人間を示す。前述にもあるが、知らなければ冷静ではいられないはずなのだ。なのに彼は冷静に情報を求めた。全ての他国民がしてきた反応をしないアダムを女性がどう見るか、考えるに等しかった。

アダムは内心自分に怒りをぶつけたくなる。油断していた。女性はアダムの仮面を剥ぎ取ったと思い込み、にこやかに笑う。


「ほら、当たりだ。さて、私はね、思うんだ。貴殿の正義は先程私が云った無慈悲に手を差し伸べる周囲の国々と同じだとね」

「……はぁ?」


もはや冷静を繕うのをやめたアダムは低い声を発して怒りを露にする。彼女の前では繕うのは愚策だとアダムは結論付ける。


「なに云ってるのかな?僕が?周囲に手を差し伸べるような善人だと思うわけ?それこそ愚問でしょ?」

「ふふ、確かに」

「だからさぁ、『暴食』にそんなこと言ったって無意味じゃないかな?ねぇ、獅子しし 玲緒れお?」


アダムの挑発的な言い分と口調に女性は一瞬キョトンと呆けた表情をした。何故アダムが自分の名前を知っているのか不思議だったのだろう。だが次の瞬間には可愛らしいとも言えた呆けた表情は消え去り、代わりに狂喜を滲ませた笑みが花開く。それこそが彼女の素で、アダムに言って欲しかったのだと云うように。

獅子しし 玲緒れお、悪神・『暴食』を使役するはめのになっている女性。紅色の、まるで血で染めたような真っ赤なショートの髪にクリムゾン色の瞳。黒い軍服に身を包み、紅い髪を隠すように軍帽を被り、黒いネクタイを少しだけ緩めている。下は長ズボンで、黒いブーツは同系色のズボンと同化してしまい何処までがブーツかは判別出来ない。ブーツの踵は少し高め。軍服の襟に飾られた勲章は弧を描く蔦のような形をし、その蔦に剣が斜めから突き刺さっている。それは彼女の所属を表し、彼女の狂喜を表している。両手に黒い手袋をはめており、腰には鞭。そして、瞳には『暴食』を示すようにライオンが宿り、アダムとラスを見つめている。


「『暴食』はその名の通り、()()()()()()()。なら、正義も悪もないんじゃないの?」

「……ふふっ」


アダムの言葉に玲緒はニタリと口角を上げて笑う。正解だと云うように。彼女の反応にアダムはティーカップを手に取り、今度は自分の番だと云うように言葉を連ねる。もはや、誰もが仮面を剥ぎ取っていた。瞳にギラギラとした殺気を称えた者しか此処にはいなかった。


「『暴食(獅子玲緒)』はエル帝国の看守でしょ?生命体(実験体)要らない者(そう)云うのも、僕を正義かと問う(そう)評価するのも全部、多種多様な人々を見てきたから。時には人柱を、時には実験体を、時には極悪人を。ねぇ」


ガタッ、とアダムは勢いよく立ち上がる。ラスがアダムの使っていた椅子を引き立たせやすくしていたようで、物音はあまり立たなかった。唐突に立ったアダムを玲緒は狂喜を込めた瞳で見上げる。そして、とうの昔に冷えた紅茶を玲緒の頭に投げるようにぶちまけた。


「全てを喰らった人が正義だか悪だか云う権利はないよね?」


バシャッと水がテーブルから茶色をした水が滴る。そこには玲緒はいない。アダムが紅茶をかけようとした瞬間、素早く立ち上がり、鞭を振るい衝撃波で自らに紅茶が飛ばないよう弾いたのだ。アダムはティーカップの取っ手に指先を引っかけ、クルクルと回して遊ぶと取っ手から指を抜いた。支えを失ったカップは床に大きな音を立てて落下し、破壊される。玲緒がバシンッと鞭を床に叩きつけ、帽子の鍔を片手で掴み被り直す。ラスが音もなくアダムの隣に侍れば、玲緒はアダムの言葉に同意を示す。


「嗚呼、そうだねぇ。貴殿の言う通り、私はエル帝国の看守。同僚が語る悪の形も、囚人が求めた正義も全て、私は知っているし喰らっている。正義も悪も肉体と精神に宿るいわば魂に刻まれた人物の本質。その本質を挫き破壊し侮辱し軽蔑しなぶり心神喪失にまで追い込むのは……嗚呼、愉しい食事だ」


うっとりと頬を乙女のように上気させ、瞳が蕩けて落ちてしまうのではないかと思ってしまうほどに悦に入る玲緒。そんな彼女を見てアダムは小さく片方の口角をあげる。彼女は、玲緒は、ある意味侵略者だ。人の精神を、全てを喰らい尽くす。嗚呼、まさに『暴食』の名に相応しい。


「悪趣味ですね。理解に苦しみます」


ポツリとアダムの隣に立つラスが呟く。悪趣味と嫌悪感を露にしていながら無感情な赤い瞳には()()()感情が宿っていた。そのことを知っているのはアダムのみで。アダムは自分のことのように口元を押さえて笑う。彼の笑みに玲緒は笑われたと勘違いしたらしく、バシンッと鞭を床に叩きつけ威嚇する。これ以上、話は無意味だと言わんばかりに。もう殺し合うしか方法がないと言うように。


「さあ、貴殿の正義も悪も、喰らわせて貰おうか。だから、私と話そうとしたんだろう?」


問いかけながら、玲緒は狂喜的な笑みを浮かべてテーブルと椅子を鞭で倒し、アダムとラスに向かって跳躍した。玲緒の悦に入った笑みが二人の目の前に迫った。

頭脳戦のはずなのに何処か脳筋が混ざってる気がしてならないです。いやまぁ、半分そうですけど。

次回は来週です!

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