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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
三章 愛してました、地獄まで
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第四十一ノ夢 女神が目覚めた華の名前って


「あら」という心底驚いたと言わんばかりの声が耳元で聞こえた気がした。嗚呼、殺し合いのせいでそんな幻聴まで聞こえるようになったのか。それとも今までの苦痛が恨み辛みとなって声を荒げたか。和夜は自嘲し、刀を突き刺そうとして棺を見据え……固まった。棺の方から()()を感じる。棺の方から()()を感じる。和夜の蜂蜜色の瞳が驚愕に塗り替えられれば、香ばしい花の薫りが鼻腔を擽っていく。まるで頬に手を添えるように、まるで包み込むように。あり得ない状況。フジが見たと言っていた摩訶不思議な状況に和夜の体は金縛りにあったかのように動きを止める。嗚呼、だって、


「あら、『嫉妬』の子?」

「なん、で……!」


目の前で死んでいると思われていた、いや実際に死んでいた女性、ローズが瞳を開き愛らしい口で言葉を紡いでみせたのだから。驚く和夜の目の前でローズは愛らしく微笑み、指を振った。指揮者のように片手を振れば、棺は水となって消え失せ、足元の水面に吸収される。驚く和夜にローズは黒服の喪服姿でベビーブルー色の瞳を三日月に歪ませて笑う。途端に漂う殺気と悪寒に和夜は一瞬のうちの我に返る。そして、次の瞬間、シュンッ!と空を切る音がして和夜の髪が少しだけ空中に漂う。和夜が先程までいた場所を刃物のように尖った水が切りつけたのだ。それを間一髪でかわした和夜はローズの脇を素早く通り抜け、棺の後ろに待機するはずだったフジに手を伸ばす。フジも一度は見たが、化け物のせいで忘れていたらしく、驚きに身動きを止めていた。ローズの視線が和夜を追って後方に向き、フジを捉える。ベビーブルー色の瞳がフジを捉え、にっこりと微笑んだ。ゾワリ、フジの背筋を駆け上がる悪寒という恐怖にフジがようやっと我に返った時にはフジは和夜に抱き抱えられるようにして、ローズから距離を取っていた。和夜にしがみつきながらフジが彼を見上げれば、和夜の額から汗が滴り落ちていた。なんとかローズと距離を取り、攻撃が来ないことを確認した和夜は警戒心を強めながら慌てた様子でローズを見た。死んでいると思っていたがまさか本当にリーラの言う通り眠っていただけとでも言うのか?ローズは左の薬指にはめられたサファイアの指輪を愛おしげに撫でると、両腕を広げた。まるで黒い翼を広げたように妖艶でいて可憐な彼女に、彼女を愛して止まないリーラが抱きつく。もう離さないと言わんばかりに、強く強くローズを自分の胸に抱き締めて埋めて隠して。殺し合いをしているにも関わらず、愛おしげに口付けまでかわす。


「嗚呼、ローズ、ローズ!呪いが解けたんだねぇ!嗚呼!ローズ!」

「リーラ、私のリーラ。愛してるわ」


互いにただ相手の名前を呼び、相手に貪欲なまでに溺れる。それしか愛し方を知らないとでも言うように、二人は深く深く愛し合う。二人の腕が、手が、指が、相手の腕や手や髪を撫で絡み合うたびに足元の水面から水飛沫が舞う。見ている者全てを魅了し、洗脳させ、充満していく色気を帯びた光景に和夜はカァ!と恥ずかしくなり頬に熱が指すのを感じる。二人の絡み合いが妖艶すぎて、大胆すぎて、けれどハレンチではない。けれど、見ているこっちが恥ずかしい!和夜は抱き抱えていたフジに見えないようにフジを自らの背に隠し、二人を抵抗の一端で睨む。しかし、やはり気になる。リーラはローズのために殺そうとしてきた。なのに何故、今彼女は目覚めた?


「和夜!」

「明石……どうなって」

「私の、言った、通り!」


和夜とフジの元に明石が駆けてくる。それと同時にフジが「嘘じゃなかったでしょ!」と自らの無実を主張する。フジの主張を完全にスルーし、明石は口付けをかわし、愛しい者との逢瀬を交わす二人を振り返る。強ばった明石の表情に和夜は明石がなにか気づいたのだと察する。


「和夜、結構今回もヤバイよ」

「ヤバイ、て?」


強ばった声色で明石が告げれば、タイミングよくリーラとローズが片手を繋ぎながらこちらを振り返る。しっかりと指と指を絡め合い、瞳は悦に入っておりもはや逃げることは不可能だと教えてくれる。リーラの顔の左半分を覆うシンボルマークが黒く主張を露にすれば、ローズの顔の右半分にも今にも毒を突き刺して来そうな臨場感溢れ、妖艶に煌めくさそりシンボルマークが刻まれていく。右目を中心に、絵を描くようにローズの右半分を侵略していく。その光景は何処か神秘さを孕んではいたが、神々しくはない。不気味だった。だが、愛し合う二人にとっては不気味では決してなかった。鏡に映したように対照に刻まれた蠍にフジが短い悲鳴をあげる。二人の顔の上で蠍が嗤った。


「悪神・『色欲』自体があの棺の人だよ!」

「っ、それって?!」

「多分、和夜の思ってる通り!宿り主(リーラ)は『色欲ローズ』と同化してる!」


明石の言葉にローズが「ご名答」とにっこりと笑った。花が咲いたような笑みはまるで女神のようではあるが、リーラのように大きな痣が目立つため笑みは歪に見える。

和夜は明石の言葉に納得が言ってしまった。でなければ、どうやってリーラの能力を説明する?ローズが悪神で、悪神であるローズをリーラは愛して求めていた。ならば、二人はまさに一心同体で二人で一つ。だからこそ、あんなにも能力が使えた。あんなにも縦横無尽に扱えた。さらにリーラが毒を盛った方法も説明がつく。何故あの時、犯人であろうリーラも体調が悪くなったのか。答えは簡単だ。あれはリーラではなく、ローズがやったことなのだから。そう考えれば、どうやって毒を盛ったかという根本的な手段が判明するしなにも知らないリーラが論破されるという状況になってしまうことも分かる。毒はローズ、それをリーラは自分で自分を利用した。和夜を追い詰め、仲間割れをさせ、殺すために。同化しているならば、リーラとローズが同じように水を操るのも納得がいくし、二人の顔にシンボルマークが浮かぶのも説明がつく。


「でも……呪い……あれ?」


フジが和夜の背から顔を覗かせながら言う。そう、フジの言う通り、リーラは和夜達を殺すことでローズを目覚めさせるという願いを叶えようとした。リーラの危険に悪神が目覚めたのだろうが……そこで一瞬、場違いにもリーラとローズがまるで和夜(じぶん)明石あいぼうのように感じてしまい、和夜は小さく笑った。自我を持った明石と、宿り主を愛し同化したローズ。二人はーーもしくは二柱は似ているのかもしれない。だって、こんなにも依存して執着しているのだから。小さく和夜が笑ったことに気づいたのはフジだけで、フジは彼の笑みに微かな怒りを柄を握りしめることでどうにかして押さえる。


「多分、悪神自体が弱体化してる。だからリーラには呪われて眠っているように見えたし、ボクらには死んでいるように見えた」

「オマエにローズのなにが分かるんだよぉ。ローズは水銀を致死量飲まされたけど、こうして生きてる」


ローズの頭に頬を擦り付けてリーラが言う。水銀、リーラにとっては毒。愛しい人を死に追いやった毒を自らに使うことはあまり考えられないが、なるほど。明石の主張は言い得て妙だ。だって確かに和夜達には死んでいるように見えた。


「明石、悪神との同化っていうのは具体的には」

「ボクも詳しくはわからないけど……っていうかなったことないから一概には云えないけど、同化は悪神が弱ってる場合とかに宿り主の意識や体を奪って自分のものにすること。ローズっていうのが悪神本人、つまり『強欲』と同じ。憶測だけど、ローズが死んだ(呪われた)とリーラが思った時、起こった感情はその名の通りローズ(愛しい者)を求めた『色欲』。その時、勝手な(ちゃんとした)契約が成された。結果、弱体化していた悪神は意識を同化させた」


嗚呼、そういうことか。和夜は明石の説明に顎を引いて納得を示した。つまり、ローズは『色欲』が故にリーラと同化した。弱体化していたということを理由に。それでもリーラにとっては嬉しいのだろう。何故ってそこまでローズが自分を求めていたという証拠で、愛しているという証拠なのだから。


「ふふ、そうよ。リーラが私を愛してくれたから、私を求めてくれたからようやっと(呪い)から目覚めることが出来た」


サファイアに彩られた左手を胸元に当て、ローズは微笑む。妖艶に、可愛らしく。


「あとは……そう、あとはーー全員殺して愛するリーラとの愛を願うだけ。そのためなら私が持つ能力……与えてあげるはずのモノも私を脅かすモノも全て使いましょう」


ローズとリーラが微笑む。愛らしく、美しく。嗚呼、やはり、あれら全てローズの仕業だったのか。何処までが本当の『色欲』かはもうわからない。だって、悪神も紛いながらも()で、多くの命を宿り主としてきたのだからそれこそ多種多様に渡るだろう。


「リーラとの愛のためなら、なんだってやる」

「ローズ、オレもだよぉ」

「ふふ、相思相愛ね」


指と指を絡ませて紡ぐ二人に和夜は何処かゾッとした。互いにあれば良いという愛情、例えそれが忌みと見えても異様と見えても良い。まさに『色欲』だった。底知れぬ感情を和夜も明石も、恐らくフジも永遠に理解出来るはずはない。


「でも、許さない……」

「オマエに許されたくはねぇよぉ」


フジが刀を構え、和夜に冤罪を被せたことへの怒りを露にするがリーラは知ったことかと笑う。同化しているからこその思考なのか、それとも欲のためなのか。多分両方だ。和夜は深呼吸をし、うるさい心臓を沈めると刀を構える。それを合図に明石も包帯を染めていく血を片手で拭い、扇を構える。ただお互いの利益や欲のために殺し合いは続く。リーラとローズがそれぞれ繋いでいない方の手を掲げれば、水面の水がまるで意思を持ったかのように柱を作る。


「心臓だよ、和夜」

「嗚呼。この場合は二人共か」


和夜の問いかけに明石は小さく顎を引く。それに和夜はもはや何度目になるかわからない決意を心中で叫ぶように誓い直す。明石を一瞥すれば、明石は彼を安心させるように口元を綻ばせた。和夜は明石と同じように口元を綻ばせると、表情を引き締めた。そして、水面を弾く如く、大きく蹴り跳躍した。

相方と言う名の恋人さん、目覚めましたぁああ!

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