第四十ノ夢 戦った前後の戦いって
バァン!
破裂音が耳元でした。鼓膜を破らんばかりの音に和夜は片耳を片手で塞ぎながら後退した。それと同時にフジが和夜の脇を通りすぎる。跳躍したフジの靴底に和夜は回し蹴りを放ち、さらにフジを跳躍させる。バァン!バァン!と先程と同じ破裂音が連続で響き、空中に投げ出されたフジに銃弾が襲いかかる。空中で身を捩り、かわしたフジには銃弾は届かない。そのため、銃弾の矛先は和夜の足元に向かい、和夜の数歩先で火花が散る。和夜は踊るようにしてジャンプしながら後退し、刀を構え直した。空中を降下したフジがリーラに勢いよく上段から刀を振り下ろした。ガキンッと甲高い音がしてリーラがフジの刀をナイフで防ぐ。利き手が左手なのか、上段と左から切りつけられた攻撃をリーラは軽々と防ぎ、フジに至近距離で銃を発泡する。しかし、そのことにフジが気付き間一髪でリーラのナイフを弾いた。弾いた結果、銃口はあらぬ方向を向き、フジに攻撃することはなかった。だがリーラはフジに攻撃するつもりらしく、フジに突っ込もうとする。が、目の隅にリーラは攻撃を仕掛ける明石に気づいてしまった。
「明石っ!」
それに和夜も気付き、大声を上げれば明石が扇を顔に重ね脳天を狙えないようにする。さらに左手で左胸を押さえるように防げば、リーラが狙う部位は限られる。だが、明石の行動よりも早くリーラの銃口は煙を吐き出した。バァン!と先程以上に大きな破裂音が響き、共に明石が後方に仰け反るのが和夜の視界の片隅に入る。どうやら扇でカバーしたのが数秒単位で間に合わなかったらしく、明石に銃弾が命中してしまった。紅い血が明石の軌跡を示すように飛び散る。ドクリと和夜の心臓が跳ねたのは不安と心配だった。
「明石!」
「ボクは大丈夫!」
焦りを込めた心配の声を和夜が叫べば、包帯を真っ赤に染めた明石が水面に片手をつけ、受け身を取る。そしてそのままクルンッと一回転し、着地して立ち上がる。紅く染まった包帯からこめかみに銃弾がかすったのだとわかる。明石は包帯が紅くなったと感触でわかったらしく、「しょうがない」と心配を弾き飛ばすように和夜に笑いかける。そして、扇で和夜の前を指し示す。和夜が勢いよく前を向くとリーラが目の前に迫っていた。勢いよく和夜に向けて刃を振り下ろす。刀を平行にし間一髪で防げば、和夜の腕に痺れが走る。角度を変えて幾度も攻撃してくるリーラに和夜は膝蹴りを腹に放し、後方によろめかせる。そこに片足を軸に回転し回転切りを放つ。反応が遅れたリーラは銃で和夜の刀を防ぐが防御する面積が攻撃力よりなかったらしく、軌道をずらすことができなかった。よって、リーラの右腕に深い一撃が刻まれ、服を切り裂く。体勢を一瞬でもずらしたリーラを逃すわけもなく、和夜は刀を自らの方へ引き戻し、突き刺す。今度はナイフで防いだリーラだが、勢いを緩和しきれず後方に吹っ飛ぶ。足を踏ん張り、吹っ飛ぶのを防いだリーラに左右から明石とフジが襲いかかる。リーラは両腕をクロスさせ、フジに銃口を、明石にナイフの切っ先を向ける。破裂音と爆発音が響けば、回避が間に合わなかったフジのフードが微かに揺れる。明石は扇を振り払い、リーラのナイフを弾く。リーラはフジに蹴りを放ち、退けると明石と対峙する。素早く体を回転させ、前方に回り込んだリーラに明石は片手にも扇を所持すると斜めから振り回された一撃を右の扇で防ぐ。続いてリーラが追撃をする前に左の扇を振るう。血が螺旋を描き、水面に紅い水玉を作っていく。リーラが扇を首を傾げる要領でかわし、ナイフで扇を弾くと銃を明石に向ける。銃口を遮るように明石が下から扇を振り上げれば、銃口は上を向く。それでも支援には向くと思ったのかリーラが引き金を引くが、カチカチッと音がしただけだった。弾切れだ。もともとサポートするためだったのだからしょうがない。今こそ好機、と明石が一歩足を後方に引き、距離を開けた状態で扇を一気に振り下ろせば、リーラの背後にいつのまにか迫った和夜が刀を振る。リーラがその場で回転し、ナイフを振りながら跳躍する。すぐさま明石が扇を和夜の足元に素早く差し入れ、勢いよく持ち上げる。勢いを利用して高く跳躍すれば、和夜が来るのを待ってましたと言わんばかりにリーラがナイフを振るう。銃はもう諦めたのかいつの間にか懐にしまっており、両者の武器が交差する。……はずもなく。和夜は空中を滑るように移動し、リーラの右へと死角に入る。少しだけタイミングをずらしてしまい、左の脇腹に痛みが走るが無視してリーラの横っ腹に蹴りを放った。勢いを抑えきれなかったリーラは空中を急落下する。紙一重で水面に叩きつけられることなく着地したが、その背後に影のように侍っていたフジには気がつかなかった。だからフジも容赦なく刀を振った。
「……あれっ?」
だが刀を振った先にリーラはいなかった。呆気に取られるフジの持つ刀の刀身が白銀に輝いた。その時、
「フジ、後ろ!」
「残念だねぇ?」
明石の悲鳴と共にガチャリ、とフジの後頭部で引き金を引く音がした。フジの背後には銃をフジの頭に突きつけたリーラが立っていた。数秒の出来事にリーラを除く誰もが驚きを隠し切れない。なにが起きた?けれど、リーラが持つ銃はすでに弾切れ。脅威はさほどない。あるとすれば、状況が把握できない今か。
「残念?……弾、ない。でしょ?」
「頼むからフジは煽るなっ!」
ニヤリと笑ったフジと、呆れた和夜の怒号が交差する。途端、フジは片足を振り回し、斜め後ろに振り回す。一瞬の出来事であったためかリーラの手から銃が弾かれ、ポチャンと水面に落ちる。しかしリーラは驚くこともおののくこともなく、ニヤリと口角を上げて笑いーー再び姿を消した。さっきと同じ、どうなって?そう和夜が思った次の瞬間、右から刺さるような殺気に思わず刀を振ればカァン……と痺れる音がする。和夜が振り返ればそこにはナイフを持ったリーラがいた。リーラは驚く和夜を満足げに嗤うと一気に懐に迫り、刀を弾きナイフを首元に突き刺そうとする。咄嗟に和夜はしゃがみこみ、かわすとその背後から明石が扇を振り、リーラを撤退させる。トンットンッとリズミカルに明石の攻撃をかわし後方に跳躍するリーラ。リーラが跳ねるたびに右腕から垂れる血が水面に跳ね、波紋が描かれる。雫が丸い形を作って大きく跳ねれば、和夜はハッと気づく。和夜の脇をフジがリーラに向かって水飛沫を上げながら駆けていく。脇を通りすぎていくフジに小さい声で気づいたことを呟けば、辛うじて聞き取ってくれたらしく、フジがフードを小さく揺らして跳躍する。
「和夜、ソレって本当?」
和夜の隣に着地した明石が彼に問う。フジに言ったことをその凄まじい聴覚で聞き取ったようで、嬉しそうに口角を上げている。さすがだと和夜を褒めながら、他の感覚でリーラの弱点を探っている。明石の様子に和夜もさすがだと微笑みながら言う。
「嗚呼。恐らく、リーラは水を使って移動してる」
「だからさっき一瞬で移動したみたいになったってことかぁ……多くね?」
首を傾げて明石が言う。確かに多いし、もしかするとどれかが嘘の情報を掴ませるための自作自演かもしれない。足元は水に覆われている。これではリーラは移動し放題だ。だが自分達に水を覆い隠す手段はない。もはや、リーラの弱点であるローズを人質ーー死んでいるので人質かも怪しいが、取るしかないか。リーラと対峙するフジを見るとフジはリーラの攻撃を踊るようにかわしながら、反撃の隙を伺っている。だが、足元が水面のためか、足元を気にしておりまだまだ戦闘には不馴れであることを主張してくる。するとリーラがフジの顔に向けて横から殴るようにナイフを振った。それをフジは自分とナイフの間に刀を滑り込ませて防ぐと、近づいて来たリーラの腰辺りに両足を回し、上半身の力だけでくっつく。リーラが不機嫌そうに顔を歪めるのも気に求めずに上半身の力を使って背後に回り、その背を蹴って離れる。前のめりになったリーラが水面を指先でなぞれば、彼の姿は一瞬にして消え失せ、瞬きした数秒後にはフジの前に現れていた。フジは一瞬驚く素振りを見せたものも、和夜から警告されていたためめか、極めて冷静に顔の前で刀を構える。構えた途端、漂うオーラに和夜は援護に行こうとして、足が止まった。フジの構え方というよりもオーラが、違和感が和夜の中に深く爪痕を残す。そんなことなど知らないフジはさらに刀を後方に引き、まるで弓に矢をセットし矢を引いているような体勢になる。そこにリーラが フジの足元から殴る勢いでナイフを振り上げる。明石が声を荒げるよりも早く、フジの刀が勢いよく突き出され、刃と刃が交差しリーラがナイフごと弾かれる。すかさず追撃をしようとするフジから逃れ、水面を滑りリーラは後退し棺のもとまで撤退する。まるでバレリーナの如く、爪先のみを水面につけて跳ねるリーラは、水飛沫も相まって神秘的に見える。だが、そんなことどうでも良い。
「ハハッ!『傲慢』も、『嫉妬』も案外簡単だねぇ?能力もなにもかも持ってなければ、望んでもいないし使いもしない。だから簡単に殺されるんだよ」
ライラックの瞳が仄かに殺意と云う熱を帯びる。ナイフを手首の上で回転させ、リーラが前方に躍り出た明石を睨む。挑発のような、罵倒のような言葉に明石の顔が歪む。しかし、明石はそれらをどうにか聞き流し、逆に鼻で嗤ってやる。
「それはどうかなぁ?」
「はぁ?」
「キミはさぁ、『強欲』のことを瞬時に見抜いたし多分、たくさん能力も持っている。でも、ちゃんと見てないから失うのは、本望でしょ?」
ニタァと口角を上げて明石が笑う。目元が見えない故にその笑みは迫力がある。リーラが明石の言葉に違和感を覚え、棺の方を振り返れば、そこにいたのは和夜で。ガラス張りの表面と、留め具に向けて刀の切っ先を突き刺そうとしていた。能力が多く、水を操るなら、悪手を取ったって構わない。だって、
「(俺達だって、生きたいんだっ!)」
「ローズっ!!」
リーラが棺に向けて手を伸ばした。
書き溜めが大量すぎてワタワタしてます(笑)
次回は来週!多分




